宰相閣下も友人です
風強い。
桜散りそう。
「これは何ですか?」
「予言書です」
私は隠しておいた小説を宰相閣下に手渡した。
宰相閣下の反応は正常だ。
「それを忠実に再現して俺を落とそうとしているのがさっきの女だ」
殿下の言葉に宰相閣下はパラパラとページをめくった。
「なるほど、そのストーリーを再現すれば王妃になれるということか…」
宰相閣下は一人言のようにしみじみとそう言った。
「いや、王妃にはなれない」
「なぜです?」
「その予言書では最後、あの女はラモールをえらぶ」
「ラモール?」
お父様は宰相閣下から予言書を奪い取ると速読し始めた。
お父様、それどうやったら出来るんですか?
教えてほしいです。
「なるほど。ラモールはこの話の通りにあの女に落とされた。っと言うことか」
「ですね」
お父様は真顔で小説をパラパラとめくった。
「その予言書のお陰で私はラモール様と婚約破棄出来るんです」
「………ユリアスがモデルの伯爵令嬢はこれ以降出てこないのかい?」
私が黙るとお父様は手を私に向かって差し出した。
「続きも寄越しなさい」
「お父様」
「さっきの台詞が出てくるやつを頼むよ」
嫌だな。
「発売前です」
「じゃあ、原本はあるんだね」
ああ、嫌だな。
「家にあります」
「解った。今夜時間を作ろう」
「お父様」
「なんだい?」
「予言書とは言っていますが私と殿下が恋仲だとか思わないでくださいね」
「何故?」
私はため息をつくと言った。
「王妃って面倒臭いじゃありませんか!城から出られないなら、異国で買い付けもできない。王妃って……なんて退屈な職業なんでしょう」
私の言葉にお父様はクスクスと笑い宰相閣下は苦笑い。
殿下は、ため息をついていた。
「殿下、案外良い友人かも知れませんね」
「だろ」
宰相閣下はどうやら私を認めてくれたようだ。
「宰相様」
「なんでしょうか?」
「認めてくださりありがとうございます。まさか宰相様まで友人になってくださるなんて、ありがたいですわ」
「………友人になると言ったつもりは…」
「良い友人だと言ってくださいましたよね?ねぇ、お父様」
「そうだな。宰相殿ありがとうございます」
宰相閣下の顔がひきつったのが解った。
「大丈夫です。私、歯車は大事にするたちなので」
「ユリアス、友人と言うべきところを歯車と言ってるぞ」
「あら、ついうっかり」
私が笑うと殿下は深いため息をついた。
「宰相、諦めて友人になっておけ」
「ですが、殿下」
「ノッガーの一族は味方にしておいた方が得だ。敵になんかしたら考えただけでも恐ろしい」
殿下も宰相閣下を説得するのを手伝ってくれた。
「………解りました。友人になりましょう」
私は宰相閣下に笑顔を向けた。
「宰相様が裏切らないかぎり私は貴方を貶めることはしないと誓います」
「ユリアス、俺にもその誓いをたててくれ」
「………面倒」
「聞こえてる」
殿下は私が舌打ちするのをみてため息をついた。
「舌打ちしすぎだ」
「ついです殿下」
「直そうと少しは思ってくれ」
「殿下にしかしません」
「問題ありだユリアス」
私が首をかしげると、殿下はまた深いため息をつくのだった。
八重桜見ると桜餅がなっているみたいに見えるの私だけ?