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ラジータ様はラスコ様の信者です2

 日を改めると、殿下に報告して怒られる可能性が高いため、私とバリガは直ぐにラスコ様の執務室に向かった。

ラジータ様も同席したがったが、拗れるのが目に見えているから遠慮してもらった。

 ドアをノックして、しばらく待つと扉が五センチほど開かれた。


「今度はどう言った御用で?」


 あからさまに警戒されている。


「あ、えっとお話を」


 私がいい終わる前にドアが閉まってしまった。

 するとバリガがドンドンとドアを激しく叩いた。


「ラスコ、おーい、出てこい」


 バリガの声に、ラスコ様はまた五センチドアを開けた。


「ラスコ久しぶり」


 バリガがその隙間に向かって顔を近づける。

 ラスコ様はバリガの姿を確認すると、勢いよくドアを開いた。

 バリガはそのドアの角に思いっきりぶつかっていた。

 痛そうである。


「バリガじゃないか! 相変わらずだな」


 ラスコ様は嬉しそうにバリガを抱きしめた。

 友情のハグに青春を感じる。


「ラスコだって変わってない。いや、神々しくなったか?」


「そんなわけないだろ。こっちきて座れよ」


 楽しそうな二人に、私はお暇した方がいいかと思ったが、バリガに促されて一緒にソファーに座った。


「何でノッガー様とお前が一緒に来るんだよ」

「私は今、ユリアス様の護衛だからな」


 バリガが自慢するように胸を張ると、ラスコ様はバリガの背中をバシバシ叩いた。


「マジか! やったな」


 友人とだと、本当に下町っ子と言った雰囲気のラスコ様に親しみを感じる。


「私も驚いたぞ。ラスコが王妹と結婚したって聞いて」


 ラスコ様は少し困ったように笑った。


「僕も驚いてる」


 ラスコ様の声が一気にシュンとしてしまった。


「私が話を聞くぞ」


 バリガの優しい声に、ラスコ様はしばらく黙ると話し出した。


「家は木工芸品をメインにした商売をしていただろ? その常連にカサンドラ様が居たんだ」


 ラスコ様は大事な思い出を静かに話してくれるようだった。


「カサンドラ様は来るたびに、僕のいいと思うところを褒めてくれた」

「それは、惚れてしまうな」


 バリガの優しい顔に、ラスコ様も照れたように頷いた。


「カサンドラ様に婿に来いと言われて、僕に迷いは無かった」


 ラスコ様の声がみるみる暗くなっていくのが、私にも分かった。


「だが、カサンドラ様に第二夫ができて自信が無くなった」


 ラスコ様の寂しそうな顔を見てバリガはラスコ様の鼻をギュッと掴んだ。


「にゃにしゅるんだ」


 鼻声のラスコ様にバリガはフンッと鼻を鳴らした。


「ラスコらしくない。諦める前に努力したのか?」


 ラスコ様はムッとしたようにバリガの手を払い退けると、今度は逆にバリガの鼻を掴んだ。


「努力はしてる! 飽きられないように美容にも気を遣ってスキンケアまでバッチリすぎてたまに天使と言われるぐらいだってんだ」


 あの美貌が作れるなんて、どんなスキンケアをしているのだろうか? 詳しく教えてほしい。


「でも、カサンドラ様にとって僕は二番目らしい」


 ラスコ様はバリガの鼻から手を離すと、私達の向かいのソファーに膝を抱えて座った。


「カサンドラ様本人に聞いた」


 私は首を傾げた。


「カサンドラ様が二番目に愛していると言ったってことですか?」


 ラジータ様の話しでは、ラスコ様の方が愛されているように感じたのだが、勘違いなのだろうか?


「息子のドラドを無しで何番目に好きか聞いたら、迷わず二番目と言われた」


 ラスコ様は膝に顔を乗せて項垂れた。


「私はお前が羨ましいぞ」


 バリガの言葉に、ラスコ様が顔を上げた。


「だって、二番目とは言え好きな人と結婚できて息子までいるんだろう? 何が不満なんだ?」


 それは一番になりたいと言うことでは?

 バリガさんの言葉にラスコ様はキョトンとした。


「嫌いなわけじゃ無く、好きだって言われているなら良くないか? 第二夫との関係がよく無くて嫌われる方がよっぽど損だと私は思うが?」


 ラスコ様は目をパチパチと瞬かせた。


「損はしたくないな」


 ラスコ様は付き物が落ちたような顔になっていた。


「僕は、生意気にも思い上がっていたのかもしれない。身分もラジータ様の方が上だし神官としての地位もあるから庶民だと見下されたく無くて変な意地を出してしまっていた」


 バリガは腕を組んで頷いていたが、気になることがあったように顔に疑問を浮かべた。


「ラジータ様ってさっきユリアス様と一緒にいた?」


 私はニッコリと頷いた。


「あの人、ラスコの信者では?」


 そう言えば、ラスコ様の話は一通りしたが、ラジータ様の話はしていなかったと、その時気づいた。


「信者って何だよ?」


 ラスコ様が訝しげに聞いてきた。


「いや、あの人ラスコのこと好きすぎて嫌われたく無くて必死すぎて空回って嫌われている人って感じだったけど?」


 ラスコ様の眉間に疑問のシワがよる。


「四十枚分のファンレターを書いちゃったり」

「あれは、嫌がらせの不幸の手紙の類では?」


 ある意味、四十枚分のファンレターは愛が重くて不幸の手紙と言えなくも無い念がこもっていそうだと思う。


「不幸の手紙って、一行でも読んだのか?」

「いや、ラジータ様の想いを綴ったと言われて、あの分厚さの手紙を渡されたら、嫌がらせだと思うだろう?」

「ちゃんと話してみたらどうなんだ?」


 ラスコ様はしばらく黙ると小さく頷いた。

 

      ※


 ラスコ様の説得を終えた私達は、善は急げとラスコ様を引きずるようにしてラジータ様の前に突き出した。


「ラ、ラスコ様‼︎」


 ラジータ様は凄く驚いていたし、ラスコ様は居心地の悪そうな顔をしている。


「ラジータ様……」


 ラスコ様は謝りたいようだが、言葉が出てこないようだ。

 逆に、ラジータ様はラスコ様から名前を呼ばれただけで感動している。

 カオスと言う言葉が浮かんだが、気のせいだろう。


「ラスコ、ちゃんと言いたいこと言っといた方がいいぞ」


 バリガがすかさずアシストを送ると、ラスコ様ははにかんだように破顔した。


「うぐっ、神」


 ラジータ様の方から気持ちの悪い呟きが聞こえた気がした。


「ラジータ様、今まで大人気ない態度をとってすみませんでした」


 ラスコ様は顔を赤くしながら、頑張ってラジータ様に謝った。

 次にラジータ様に目を向けると、ラジータ様は膝から崩れ落ちたところだった。

 何が起きたのか分からず呆然とする周りをよそに、ラジータ様は口元を右手で覆って叫んだ。


「尊い‼︎」

「ラスコ、あれは変態だ。目を合わせちゃダメだ」


 バリガが友人の危険を察知したように背中にラスコ様を庇った。


「ラスコ様が謝る必要はございません。むしろ、自分が誤解されるような行動をとってしまっていたことが全て悪いのです」


 ラスコ様は不思議そうに首を傾げた。


「どうかしましたか?」


 私が聞けば、ラスコ様はハッとしたように私を見た。


「いや、ラジータ様はカサンドラ様の愛を独り占めするため、僕の存在を疎ましく思っていると聞いていたので」


 ラスコ様の話に一番腹を立てたのはラジータ様だった。


「誰ですか? そんな嘘を言ったのは‼︎ ラスコ様は人と馴染めない自分に優しく手を差し伸べてくださる慈悲深きお人。嫌われることはあっても、自分がラスコ様を嫌うことなどありません」


 ラスコ様はかなり困惑している。


「で、誰に言われてラジータ様がラスコ様を嫌いだと思ったのですか?」


 私が聞けば、ラスコ様はあっさりと言った。


「宰相殿だ」


 あの人の言うことを信じたのか?

 私はラスコ様の心が天使のように清らかなのだと理解した。


「ラスコ様を操って、ドラド様を次期国王にしてアドバイスするフリをして実権を握るつもりだったと言うことでしょうね」


 私の呟きにラスコ様はショックをうけたようだった。


「僕は権力が欲しかったわけじゃない」


 悲しそうに俯くラスコ様を見て、ラジータ様の眉間にシワがよった。


「神をも愚弄する所業、許せない」


 過激派の信者に進化をはたそうとしていることが見てとれる。


「ラスコ様はただ、カサンドラ様が好きなのですね」


 ラスコ様は耳まで赤く染まった。

 カサンドラ様はラスコ様のこう言う可愛いところが好きなのかもしれないと思った。


「ぼ、僕がどれだけカサンドラ様を好きでも、カサンドラ様からしたら流行りのバッグやアクセサリーと同じで流行りが終われば替えのきく存在だ」


 照れ隠しなのか本心か分からないが、あまり良い例えでは無い気がする。


「そんなことありません!」


 すかさずラジータ様が否定をしたが、ラスコ様は静かに首を横に振る。


「カサンドラ様と結婚して、色々な人に言われ続けた言葉だ」


 私はあんまりな言われように激怒しラスコ様に向かって指差して怒鳴りつけた。


「貴方、それでも商人ですか?」


 私の行動にラスコ様は状況が飲み込めていないのか、ポカンとした。


「商人なら、そんな言葉に流されたりしませんわ」


 流石のラスコ様もムッとしたように言い返してきた。


「なら、貴女がそう言われたらどうするのです?」


 私は胸を張って言った。


「お褒めの言葉として受け取ります」

「は?」


 その場にいる私以外の全員が、本当に理解できないと言いたそうな顔をした。


「我がノッガー伯爵家ではバッグやアクセサリーは飽きのこないデザインと丈夫さを保証しています。それは、手入れさえしっかりしていれば一生使える品だと言うこと。せっかくバッグやアクセサリーのように思われているのであれば己を磨き一生飽きのこない素晴らしい品になってやろうとは思いませんか? そんなことを言ってくる人間は流行りに流されていいものなど手にできず毎回お金を無駄にする買い物下手に決まっています! そして、そんな言葉を褒め言葉に変える力をラスコ様は身につけるべきです‼︎」


 私が力説した言葉に、ラスコ様は目をパチパチと瞬かせた。


「ノッガー様は、やはりノッガー様です」


 ラスコ様は感動したように瞳を輝かせてそういって私の手をギュッと握りしめてきた。

 言ってることの意味が分からなすぎて、私は握られた手を見つめた。


「僕が間違っていました。商人として商品に絶対の自信があるからこその褒め言葉。僕はこの有り難い言葉に恥じぬよう己を磨きます!」


 気持ちを改めてもらったのはよかったが、キラキラの瞳で見つめてくるのはやめてほしいし、手も離してほしい。


「分かっていただけて私も嬉しいです。では、早速行きましょうか?」

「?」


 キョトンとするラスコ様に私はニッコリと笑顔を向けた。


「勿論カサンドラ様のところに、ラスコ様が二番なら一番は誰なのか聞き出さなくては! 敵を知らずして、何を磨けましょうか?」


 ラスコ様は徐々に顔色を青く変えていった。


「僕に現実を突きつけるおつもりですか?」

「現実を見てみれば大したことの無いことかもしれませんよ?」


 ラスコ様は椅子から立ち上がると部屋の中をウロウロし始めた。

 明らかな動揺を感じる。


「ラスコ様、ご安心ください! カサンドラ様の中で自分が一番なんてことはあり得ませんから‼︎」


 ラジータ様の励ましの言葉を、ひと睨みしてからラスコ様はウロウロを再開する。


「ルチャルさん」


 私が護衛に声をかければ、ルチャルさんは心得たと言わんばかりにラスコ様を担いだ。

 いつ見ても驚くのだが、ルチャルさんは小柄で可愛い見た目とは裏腹に怪力である。

 大の大人の男性を担げるようには見えないせいで見ているラジータ様もかつがれているラスコ様も何が起きたのか理解できていないようでフリーズしてしまった。

 今がチャンスだと思ったのか、ルチャルは軽い足取りでドアの前に立った。


「ユリアス様〜どこに運べばいいですか?」

「カサンドラ様は何処に居るかしら?」


 私の呟きに、バリガが手をスッと上げた。


「この時間なら、執務室にお出でだと思います。ここから一時間後には演習場だと昨日伺っています」

「何でバリガさんがカサンドラ様のスケジュールを?」


 あまりにも意外で驚いた。


「カサンドラ様と手合わせしたくて昨日伺いました」


 何だか照れたように報告され、バリガらしいと考えを改めた。


「では、カサンドラ様の執務室まで、ラジータ様ご案内をお願いいたします」

「あ、はい」


 私の迫力に思わず頷いたラジータ様を裏切り者を見るような目でラスコ様が見ていたことは気づかなかったことにした。


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