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宮殿はエキゾチック

 翌朝、目が覚めると清楚で清潔感のある服装にし、メイクも控えめにした。

 通気性の良いドレスもこの日のために準備した最新作のドレスである。

 準備が終わった時には、すでにランフア様に怒られそうなぐらい日が昇っていた。

 ランフア様の性格であれば、服装が清楚系なのに何故そんなに時間がかかるのだと言われてしまうだろう。

 私はできるだけ急いで宮殿へ向かった。


 宮殿の前には昨日ランフア様の手紙を持ってきてくれた使者が待っていてくれた。


「遅くなってしまい申し訳ございません」


 私が申し訳なく思っている気持ちを伝えると、使者はニコニコしながら気にしなくて良いと言われた。

 だが、私はランフア様の性格を良く知っている。

 約束したのだから、怒られなくても注意は確実にされる。

 そんな私の焦りを、我関せずといった様子で宮殿のガイドをしながら、連れて行かれた。


「この先が謁見の間になります」


 私はフーっと息を一つついてから覚悟を決めて白壁の廊下を進んだ。

 たどり着いた扉も白く繊細な彫刻をほどここされていて、前に立っただけで扉が開く。

 私が来たのを気づき開けてくれたようだ。

 扉の先には豪華な玉座に褐色の肌に引き締まった体型の、光に当たる部分が紫に見える黒い短髪で、白くゆったりとした服に似合っている姿は、話に聞いていたエウルカ国王の特徴そのものだった。

 それに意志の強そうな金色の瞳が横に座っているランフア様を愛しげに見つめている。


「パラシオ国より使者としてまいりました。ユリアス・ノッガーと申します」


 私は恭しく頭を下げてあいさつをした。


「ノッガー令嬢、頭を上げてくれ。其方は我が愛しの妃を仲介してくれた恩人の上に、妃の親友でもあるのだろ。堅苦しいのは止めにしよう」


 頭を上げると、ランフア様に慈愛に満ちた視線を向けられ、私は寒気を感じた。

 私の知っているランフア様は礼儀に厳しい人だ。

 だからこそ、朝では無く昼に近い今の時間にきたことをまず怒られると覚悟していた。

 けれど、ランフア様が怒っている気配はない。


「ご無沙汰しておりますランフア様」

「ええ。よく来てくれましたわね。ユリアス」


 あ、これは、違う。

 穏やかなランフア様の顔からは感じ取れないが、声の端々から怒気を感じる。

 怒っているのにそれを表に出せない何かがあるのだろうか?


「この度は御懐妊おめでとうございます。僭越ながら、お祝いの品を持参いたしました」


 私の言葉に、今まで気づかなかったが謁見の間の隅にいた数人の従者から吹き出すような小さな笑い声が聞こえた。

 その中でも焦茶の服を着た小太りな男が、クスクスと笑いながら前に出てきた。


「パラシオ国の凄腕商人と名高いノッガー家には悪いとは思いますが、ベビーベッドやお包み、オモチャにしても既にたくさん贈り物をいただいているので、お祝いの品も高が知れていると言うものですな」

「宰相、言葉がすぎるぞ」


 どうやら小太りな男はこの国の宰相様のようだ。

 国王様から睨まれ、少し慌てたようにオロオロと弁明を言おうとしている彼を見れば凄い力のある宰相様に見えなかった。


「うちの宰相が失礼をした。決してパラシオ国に喧嘩を売った訳ではないと理解してくれると信じている。それに、そう言った類の物はいくらあっても困ることは無いから、気になどせずにいてくれると助かる」


 さすがは国王である。

 パラシオ国の使者としてやってきたと先に言った私の立場にきちんと理解してくれたのだ。


「国王様、気になどしていませんのでご安心ください。それに、私はそう言った類の品を持参したわけではございません」


 私は手に持っていたお祝いの品が記載された書状を献上した。

 荷物が多いので目録だけ、品物は今頃宮殿に運び込まれていることだろう。


「私がお持ちしたのは、マタニティードレスにリラックスクッション、妊婦の方に必要な栄養の取れる健康茶に妊娠線を防ぐ保湿クリームや命名占い本『素晴らしい人生を送れる字画を一挙解明読本完全版』などなどのランフア様のストレスを少しでも軽減してくれるアイテムを取り揃えました」


 出産祝いのプレゼントは生まれてくる子どもの物を贈りがちだが、妊婦の時にしか使わない物の方がプレゼントされると嬉しいと聞いたことがあった。

 子どもの物を買うのは親の楽しみでもあるが、自分の物は後回しにしたり必要ない理由を探してしまうが、プレゼントでもらえると自分を大事にしようと思えるだろう。


「ああ、さすがノッガー家と言うしかない。ランフアは本当によい友人を持ったな」


 国王様がランフア様に優しい笑顔を向け、その甘い空気にランフア様も照れたように笑顔を返している姿は仲睦まじ過ぎて眩しい。


「ユリアス、お礼も兼ねてお話もしたいし私の部屋でお茶しませんこと?」


 にこやかなランフア様の拒否を許さない声色に私は頷くことしかできなかった。


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