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南の島国に

 ランフア様に会いに行くのだから、たくさんのプレゼントを用意した。

 大量のプレゼントは私所有の船に積み込んだ。

 普通の船なら片道一週間の船旅だが、風の魔法の使えるバハル船長の船ならもっと早く目的の国に辿り着ける。

 殿下もいてくれたらもっと早く移動できるが、国の仕事に大忙しの彼に頼むわけにもいかない。

 通信機で毎晩連絡をする約束をしたのだが、毎日連絡するなんて初めてだ。

 声だけ聞いたら会いたくなってしまいそうで、少し不安だ。


「姫様、荷物積み込み終わったぜ」


 バハル船長の声に小さく頷き私も船に乗り込んだ。

 やはり、殿下から離れるのは寂しい。

 そんなことを思った瞬間、目の前に金色に輝く鳥が現れ目の前で消えた。

 消えた鳥の姿を探して船の周りを見ると、港に見慣れた人が居た。

 殿下だ。

 忙しいのに見送りに来てくれたのだと分かって、心臓がギュッと苦しくなる。

 旅立つ前から帰りたくなってしまう。

 殿下は軽い足取りで船に近づくと、風の魔法を使い一気に私の横まで飛んで来た。

 驚く私を気にした様子もなく見下ろす殿下。


「見送りに来た」


 短い一言にまた胸が苦しくなる。


「……はい」


 そんな言葉しか返せない自分が嫌になる。


「君は本当に男心が解っていない」


 そう呟いた殿下は私の腕を掴み引き寄せた。


「何かあれば直ぐに連絡しろよ」


 心配してくれているのが、凄く嬉しい。


「先ほどの光る鳥は、殿下の魔法ですか?」

「ああ」

「イベントなどの使い道がありそうな魔法ですわね」


 照れ隠しでいった言葉だったが、殿下は長いため息をついた。


「君は本当にブレないな」


 殿下は呆れたように笑ってくれた。


「大丈夫よ。私達がちゃんと無事にユリアスちゃんの護衛をしちゃうからね!」


 聞き慣れた妖艶な声に私と殿下はビクッと肩を跳ねさせた。

 そこに居たのは、殿下に加護を与えたドラゴンのリーレン様と、一言も発さずリーレン様を抱える番のドラゴンであるハイス様だった。


「何故お二人が?」


 困惑した顔の殿下に、ハイス様の手から離れたリーレン様が下町のオバチャンの様に背中をバシバシ叩きながら言った。


「何心配してるのよ! 楽しそうだから着いて行くだけじゃない」


 ハイス様は表情筋を動かす事なくコクコクと頷いていた。

 そんなドラゴン二人に、殿下は頭を抱えた。


「さぁ、ユリちゃん出発しましょう!」


 マイペースなリーレン様が右の拳を天に突き上げるとハイス様も感情の分からない顔で右の拳を天に突き上げた。

 並々ならぬ気合いを感じた。


「ユリアス、やはり旅立つのは止めないか?」


 殿下の絞り出すような声に私は苦笑いを浮かべるしかなかった。


        



 心配していることを全身で表す殿下に見送られて、私達の船は出港した。

 長い船旅に一早く飽きてしまったのは、やはりドラゴンのお二人だった。


「ねえユリちゃん、船も飽きたし私のブレスで海を凍らせて歩くのなんてどう?」


 リーレン様の言葉に私は笑顔を向けた。


「歩くのも、ブレスを吐き続けるのも直ぐに疲れてしまいますよ」


 私がそう言えば、リーレン様は口を尖らせて不満そうな顔をした。


「いっそのこと、私がユリちゃんを乗せてエウルカ王国まで飛んで行くのはどう?」

「それじゃあ船に乗せている物資を置いて行くことになってしまいます」


 リーレン様はフーっと息を吐きながら左手を頬に当てた。


「じゃあ、ハイスにドラゴンの姿になってもらって船を引っ張ってもらうのは?」


 私はしばらく腕組みをして考えた。


「それ、船が壊れませんか?」

「……」


 リーレン様は、私から視線を逸らすと遠くを見つめた。


「木製の船って柔で嫌だわ」


 壊れる未来を予期できてしまったようだ。


「もし退屈でしたらお二人で先にエウルカ王国に飛んでいかれては?」

「私達は今回ユリちゃんの護衛なのよ!」


 リーレン様は可愛くムッとした顔をした。


「ですが、船の上では大した敵も居ませんし、海賊などに襲われても襲い返せるぐらいに強い乗組員しか居ませんし、私にはバリガとルチャルと言う護衛が元々ついてくれていますから」

「それでも私達には勝てないわ」


 ドラゴンに勝てるなんて伝説の勇者でもなければ無理だろう。

 しかも、伝説の勇者だって更に伝説級のドラゴンを二頭も相手にするのは無理な話だと思う。


「勿論、リーレン様達が最強であり私とご一緒してくださるから、殿下も私が国を離れることを許してくれたに違いありませんもの。強さを疑ったりはしていません」


 リーレン様はそれでも不満そうである。


「では、退屈しのぎにゲームでもしませんか?」

「ゲーム?」


 私は小さく頷き、開発中のボードゲームを取り出し、リーレン様の前に広げた。


「こちら、『勇者クエスト完全版』です。ルールは簡単! プレイヤーが新米勇者となり、ダイスを振って、ボードの上に描かれたマスを進み魔王を倒すと言うものです! 誰が真の勇者になれるのか」


 リーレン様もハイス様もキラキラとした瞳でボードゲームを凝視している。


「実際にやってみますか?」


 二人はコクコクと頷いてくれた。

 ドラゴンにも愛されるボードゲームとなれば確実に売れる。


「勇者の他にも『愛され令嬢クエスト版』と『農民から国王になれ天下統一編』などもありますので暫くは楽しめるはずです」


 リーレン様はニコニコ笑いながら私に飴を一つ渡してくれた。


「もう本当に素敵! 飴ちゃんあげちゃう」


 美味しい飴を口に入れ私達はボードゲームを楽しんだ。



 海洋魔獣などの襲撃も無く海賊などにも会うことなく、平和な船旅をすることができた。


「魔獣はドラゴン二人に怯えて出てこないのは理解できますが、海賊の一船ぐらい出てきても良さそうなものではないですか?」


 私の独り言にバハル船長が呆れたようなため息を吐いた。


「姫様、この船は誰の船だと思ってんだ?」

「バハル船長の船です」


 私が即答すれば更に呆れた顔をされた。


「この船の見張り台の天辺に飾らせているのは何の旗だ?」

「ノッガー伯爵家の家紋の旗です」

「そうだ。ってことはこの船はノッガー家の船だってことだ」


 貴族を襲わない海賊なんてことはないだろう。

 私が無言で腕組みをすると、バハル船長は信じられない者を見るような視線を向けてきた。


「どの国に行ったってノッガー家は有名だろ?」

「まあ、どの国でも事業をしてますからね」

「ノッガー家に助けられた奴も居れば慰謝料むしり取られた奴も居るってことだろ? そんなノッガー家に喧嘩売ろうなんて勇敢な奴が居るとでも思ってんのか?」


 それは勇敢なのだろうか?


「それに、海賊なんか出てきたら俺らは容赦しない」


 そっちの方が理由として理解できる。


「言っとくが、ノッガー家の存在の方がでかいからな」


 バハル船長は私の表情が気に入らないようで、念を押すようにそう言った。

 納得してしまったら自意識過剰ではないだろうか? とも思ったが、バハル船長の迫力に苦笑いを浮かべて誤魔化すことしか出来なかった。

 まだ訝しげな顔をしていたバハル船長だったが、ふとあるものに気がついたように船の向かう先を指差した。


「ほれ、まだ遠いがエウルカ王国が見えてきたぞ」


 バハル船長の指差す方向にはうっすらと大陸が見えた。


「ランフア様はお元気かしら?」

「あのお姫様は元気に決まってるんじゃないか?」


 ランフア様のお姫様然とした美しい姿を思い出しながら、私とバハル船長は静かに笑った。

 そうだ、ランフア様は自分を幸せにするためには努力を惜しまない人なのだ。

 元気に決まっている。

 その時の私はそう信じて疑わなかったのだった。


        



 エウルカ王国は温暖な気候で暑いし乾燥している。

 日陰は比較的涼しいが、とにかく暑い。


「姫様、日焼けしないように日傘忘れんなよ」


 バハル船長の気遣いにお兄ちゃんと言いたい。

 言われた通りに日傘をさして船を降りると、港はたくさんの露店が並び賑わっていた。


「あらあらまあまあ! 素敵な街ね」

 リーレン様の楽しそうな声にハイス様も優しく頷いている。

「お二人はこの後どうなさいますか?」


 私が聞くと、二人はお互いに視線を合わせた。


「街をぶらぶらしようかしら?」


 ハイス様はやはり頷くだけである。


「私は荷物の整理や宿のチェックインなど、雑務をこなさなければいけないので」

「あら、直ぐにお友達に会いに行かなくていいの?」

「到着の連絡をする際に、明日謁見できないかを伺う予定です」


 流石に友人だからと言って、国王の妻になった方に謁見の許可も無い状態で会うことはできないだろう。

 礼儀は大事だし、エウルカ王国の流行りもリサーチしたい。

 とりあえず宿屋の確保をしてから急いでランフア様に手紙を書いた。

 手紙は外交官として送ったから、直ぐにランフア様の元に届くはずである。

 ひとまず、しなくてはいけないことを手早く済ませたので、私もドラゴン二人のように自由時間を楽しむことにした。

 私は街に繰り出すために、動きやすく貴族に見えない服装に着替えた。

 護衛騎士のバリガとルチャルにも楽な格好になってもらうことにしている。

 バリガが商人の子息なため、知り合いがエウルカ王国に多いらしく女装してもらうのは諦めた。

 護衛の二人は美しい見た目だから、女装してもらって私のお店『アリアド』の広告塔をしてほしいのだが、家族の仕事でのお得意様に見られて悪影響を及ぼす恐れがあるのなら無茶は言えない。

 勿論、スタイルがいいのは変わらないから『アリアド』の数少ないメンズ服を着てもらっているから広告塔であることには変わらないが、それはあえて二人に言っていない。

 中性的な美しさが素晴らしい。

 街に出て、すれちがう人々が護衛二人に目を奪われているのが分かる。


「ユリアス様が美しいから皆見ていますね」


 何故か嬉しそうにルチャルが呟いた。


「ユリアス様が美しいのは当たり前だ」


 バリガも誇らし気に胸を張る。

 いやいや、私では無く貴方達が見られているのだと言いたい。


「ユリアス様、あそこが薬草屋でこちらが生地屋であの路地の奥に魔法石屋があります」


 知り合いが居ると言っていただけあってバリガはエウルカ王国の地理に詳しいようで、楽しそうに案内を始めた。

 しかも、私の気に入りそうな店ばかりを選んでくれているので、かなり優秀であると言える。


「バリガさんありがとうございます」


 案内された店に一軒ずつ入ってめぼしい物を物色していく。

 たくさんの荷物を文句一つ言わずに持ってくれるルチャルさんも、いつもの可愛さと違って逞しく見える。

 こうして護衛二人と街を歩いていると、頭の中に〝こんな時殿下だったら〟と言う気持ちが湧き上がる。

 二人には凄く失礼だと分かっている。

 でも、いつも側に居てくれた殿下と比べてしまうのは寂しさからだと理解してほしい。

 布一つ選ぶのでも殿下に似合うのではないか? と一番最初に思ってしまうなんて、私の殿下に対する恋心が重症である。

 大量の戦利品をとりあえず宿屋の部屋に持ち帰ると、すでに王宮からの使者が私がランフア様に送った手紙の返事を持って待っていた。

 便箋五枚分で、要約すると『今直ぐに王宮に来るんじゃ駄目なの? 貴女に話したいことがたくさんあるのよ! 明日、朝一に会いに来なさい』と言った内容だ。

 ランフア様らしい手紙に、私はクスクス笑ってしまった。


「ランフア様に、お土産をたくさん持参したとお伝えください」


 使者に言伝を頼み帰す。

 これで明日、ランフア様に会える。

 明日は気合いを入れて臨み、他国にも我が『アリアド』の名前を轟かせるのだ。

「ふは、あははははは」

 私の不穏な笑い声にツッコミを入れてくれる人は、その場に存在していなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 書籍6巻も最高でした!特に番外編のマチルダさんの本の話が凄く気になります。ただ、親同士が仲良いから本当にランファの娘、ユリアスの息子なら親を通して出会っていそうな気も? [一言] マリカが…
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