プロローグ
朝のニュースを見ながら、俺は学校に行く用意をしていた。
そのニュースも一区切りついたらしく、エレクトーンを弾いているお姉さんが挨拶を始めた。
『それでは皆さん、今日も元気に愛してくださいっ』
────人を愛するのは義務なのだ。しかし、俺には好きな人がいないのだった。
それが、この世にバレてしまったら死刑レベルの罪に問われる。
人を愛することぐらい自由にさせてくれればいいじゃないかと思いたくなるんだけど、この国は愛をモットーにしており、金で愛を買うなどと発言できないようにしたのだ。
靴を履き終わると、だれもいない家に話しかける。
「いってきます」
家から学校まで徒歩15分。割と近い方だ。
「穂積ー!」
「うぉわっ!?」
後ろからいきなりタックルをかましてきた奴は学校でおそらく1番モテているだろう俺の幼馴染、香月優香だった。
「おっはよう!」
「…おはよう」
「どうしたの?テンション低いけどっ」
「別に」
うっぜぇー…でもやっぱり顏がいいから許せちゃうんだよなぁー…。
「で、今日こそ好きな人教える気になった?」
この世界では、好きな人がいることが当たり前で、いないことが非常識────というか罪なのだ。
「お前が教えてくれたらな」
優香は一瞬ビクッとうろたえた。
「え、い、いやーそれは無理だよー」
あははとわざとらしく笑う優香。
横を通って行った男子生徒が俺をすごく睨んでいた。
あー…あいつも優香が好きなのか……。俺は優香と仲がいいだけに昔から恨まれることが多々あった。
俺はべつに優香のこと好きじゃないんだけどな。




