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○○な異世界の魔女

婚約破棄された異世界の魔女

作者: 純太

久し振りに王都から少し離れた田舎にある実家に帰り、ご無沙汰だった婚約者とカフェで待ち合わせをしていたら、待ち人にとんでもない爆弾を落とされた。


「ごめん!婚約はなかった事に!彼女との間に子どもが出来たんだ!」


カフェにやって来た婚約者の彼は一人ではなく、隣りに私の事を『親友』と言って憚らなかった女を連れていた。

そして、彼女の腹へと目をやると、心なしか膨らんでいるお腹が目に入った。


このサイズ、5ヶ月は経ってるよね?


彼女のお腹が膨らむ間、私と彼は会っているし、結婚についても話もした。

その後の事だって。


その期間、ずっと浮気をしていたと?


「ごめんね?」


そう言う彼女の方を見ると、顔は確かに申し訳なさそうだが、


心では私を馬鹿にして笑ってるのが透けて見える。

声も語尾が上がって喜色が伺える。


私は小さく息を吐き、上を見て眉間を解した。

そんな私の様子を見てどう思ったのか、彼は一生懸命切々と語り始めた。


曰く、彼女の優しさに絆されたやら、僕に献身的に尽くしてくれるやら、常に寄り添ってくれるやら、男として守ってやりたくなるやら、彼女には僕しか頼りがないんだやらやらやら。


確かに、彼が述べた事柄は、私がこの数年、叶えてやれなかったことではある。


その理由が私の魔力にある。


魔力のある子どもは、すべからく王都の魔術学園へ強制的に数年通わされる。

王都の魔術学園は国内最高峰の学び舎であり、それ故、学費も割高。

平民の私は高額な学費を賄う事が出来ないため、平民層向けに設けられた、条件付きの全学費免除の特待生として入学した。

その条件と言うのが、特待生は卒業後、学費免除の対価として3年間、必ず王宮魔術師として従事するというものだ。

その後の選択はそれぞれに任されており、そのまま王宮魔術師として残るも良し、実家に戻って後を継ぐも良し、結婚の為に辞めるも良し、と進路は様々だった。


今回、私は対価を払い終えたら田舎に戻って待ってくれている婚約者と結婚をするつもりでいたのだが、この体たらく。


学生時代から社会人になった今も含めて約6年間、私達は離れていたのだ。


そりゃ、まめに帰ってきている方だったとはいえ、ずっと、献身的に尽くしてやることも、傍に居ることも出来なかった。

それに王宮魔術師となった私は、


確かに守られるようなか弱い存在じゃありませんよ!寧ろ強いですよ!


成る程。彼が語っていた好みとは、随分離れた存在になってしまったようだ。


それに、気持ちが離れるには十分な時間があったしね。


私は一頻り眉間を解し終えると、再度彼らへ視線をやる為、顔を正面へ向けようとした時、彼はぼそりと呟いた。


「それに、ニーナはやらせてくれないじゃん。」


おまっ!それが本音か!


大体、私達がまだ清い関係なのは「そういう事は、初夜まで大事に取っておこうね」って、あんたが言ったからだろうが!

今それ出す!?

あ、分かったぞ。

つまりはアレか!お前が語った今までの事は全て床での出来事なんだな!?

という事は、一夜の過ちじゃないな!何度かあるな!

だから子どもが出来たんだな!

そして浮気している間も、帰ってきた私と普通に話してたんだな!?

マジでお前、ピーピーピーピーピー(放送禁止用語)!!!


私は長めに息を吐くと、今度こそ正面へ顔を向けた。


「言いたい事は、理解した。婚約も破棄しましょう。」


その言葉を何とか吐き出した。


「本当!?僕達の事を許してくれるのか?!」

「許すも何も、子どもは授かりものだから。」

「君なら許してくれると思っていたよ!」


彼のその言葉を聞き、私は首を傾げた。


「それとこれとは話は別よ?」


その私の言葉に首を傾げたのは次は彼らの方だった。


「だって、不貞を働かれたんですもん。出すとこには出すし、精算出来るものは精算もさせるわよ?」

「ふぇ?」

「一先ず、婚約破棄の件は貴方、自分で両親にちゃんと告げてね?正直に全てを。私は挨拶には行くけど、付き添わないから。」

「え?」


え?、て、付き添わせるつもりだったのか。良い神経してるなこの男。

私はカバンから紙とペンを取り出す。

彼らにも見える様に卓に紙を広げると、ペンを走らせ上から必要事項を書いていく。


「それと、そちらの勝手な都合で破談になったのだから、式場に払っていた前金とキャンセル料は全てそちら持ちで。あと、結婚後の新居にと予定していた家の契約料、家賃、その他諸々もだし、新居用に用意した家具類と、あ、お式用のドレスと指輪も全額そっち持ちね。だってそちらの都合だからね。」

「へ?」


今までコツコツと準備していた結婚に関するあれこれの費用は、折半という形を取ってはいるが、大半は私が払ってきた。

何しろ王宮魔術師となった私は、遥かに彼より給金が良かったからだ。

どうせ家族になるんだし、将来は私は主婦になる予定だったので、金銭に関して気にしてはいなかったのだが。


今にして思えば、給料が私の方が良かったのも、彼的には不満だったのかもしれない。


その後もつらつらと私は結婚に関する費用項目を並べ紙に書いてき、結婚費用について纏めていた帳簿を取り出し見比べながら金額を書いていった。


「そうそう、結納金も全額返してもらうわね。だって、結婚しないんだもの。ああ、あと、そちらの勝手な都合で破談になった訳だから、貴方が支払った分に関しては私は私は一切払わないから。だって、そちらの勝手な都合だし。私の都合は一切入ってないわ。」


全て書きだし終えると、魔導計算機を取り出し、書き出した費用を合計して最後に書き足した。

そして体裁を整え、全体をザッと見直した。


ふむ。こんなもんかな。


「じゃ、最後にここにサインして。それと拇印もね。」


私はそう言うと彼にペンを渡し、紙の記入欄をトントンと指で叩いた。

ポカンとしていた彼は、ペンを受け取ると、無意識にサインしていた。さらにちゃっかり拇印も押していた。

それを確認して私もサインし拇印を押した後、魔術を発動させた。


契約の魔術だ。

これにより、簡易ではあるものの、契約書に書かれた事項は必ず守らなくてはならなくなった。もし、契約を破った場合はそれ相応の報いが返ってくる。それこそ、死ぬ場合もある。

魔術のかかった契約書は破く事はできず、契約の破棄は、術を施した術者本人か、それ以上の術者でなくては解く事ができない。

魔術による契約は絶対だ。

必ず彼にお金を払わせることだろう。


うん。上出来。


「それじゃあ、契約書の写しは後で送るから。」

「ちょっと待ってよ!」


ここで声を上げたのは女の方であった。

どうしたのかと契約書を仕舞いつつ顔を向けると、睨み上げてきた。


「私たちの事、許してくれたんじゃなかったの!?そう言ったじゃない!」


何を言ってるんだこの女は、とばかりに私は先ほどとは違う方向に首を傾げた。


「さっきも言ったけど、それとこれとは話は別。それに、理解したとは言ったけど、一言も許すなんて言ってないわよ。」


彼女はグッと押し黙ると、睨みを強くした。


さて、最後にトドメの置き土産を渡しますか。


私は再び深く息を吐くと気持ちを入れ替え、グッと眉間に力を入れて、黄金の右腕を振り上げた。





@@@@@@@@@






「くぅやーじぃ~~~!」


そう言いながら私は空になったジョッキを、勢い良く叩き置いた。


王都に戻った私は酒場で浴びるように酒を煽っていた。

失恋による、所謂ヤケ酒だ。

結局、結婚が破談になった為、私は退職することを止め、王宮魔術師として働き続ける事にした。

幸い、私が辞める事を今の上司は惜しんでくれているようだし。辞めないと告げると両手放しに喜んでくれた。


一緒に呑んでいた男は心得てるとばかりに、私のジョッキへと酒を注いだ。


「まあまあ落ち着いて。」

「私の何がいけなかったんですかね?顔だってあの女と似たり寄ったりですし、胸だったら私の方が絶対勝ってる。あれか、やっぱりあれなのか?給料が私の方がいいから?私の方が強いから?!ぐじょ~、男なんてシャボン玉!」

「それで?右手を上げてどうしたの?」

「その後は思いっきり殴ってやりましたよ。筋力を増し増しにして思いっきりね。そして、あとは涙を流しながら大声で「裏切り者!」や「不貞者!」や「信じてたのに!酷い!」とか「お金ばかり私に払わせて!貴方はお金と私の体が目当てだったのね!?」などを悲劇のヒロインも青ざめる程の名演で捲し立てて、周りの同情を煽って帰ってやりました。」

「タダでは起きないね。」


彼が待ち合わせに指定したカフェは、町の中では人が多く出入りしている場所で、私が大声で捲し立てた事の顛末は、その時その場にいた少なくないお客さん達にはきっちり聞かれた事だろう。

田舎の小さな町だ。

すぐにその日の出来事は町中に知れ渡り、彼らは居心地の悪い思いをする事だろう。


はっはっはっはっはー。


注ぎ終わった酒を一気に飲み干し、私はジョッキと共に卓に顔を預けた。


「本当、私の何がいけなかったのでしょう。」

「まあ、確かに男の矜持としては一緒になる女性よりは稼ぎたいだろうね。それに、竜を一捻りしちゃう君に敵う人類はそうそう居ないだろうね。」

「うー。」


貴方様は私の傷口に塩を塗りたいんですか?


彼は私のジョッキに酒を注ぎつつ、自分の酒を飲むと、些か静かになった私に問いかけました。


「そんなに彼が好きだったの?」


私はその問いかけに、すんなり答える事ができなかった。


そりゃあ、好きに決まってる。


或る日突然、私は訳の分からないまま異世界へと放り出された。

それまでの私は現代日本を生きる、普通の女子高生だった。


右も左も分からないまま彷徨い、今の両親に拾われ、何とか生きてきた。

一生懸命生きていく中で、両親の他に異世界人の私に優しく支えてくれたのが元婚約者だった。

私にとっての心の拠り所だった。

今でこそ、町の人に受け入れられるようになったが、当初は身元の分からない私は不審なものだった。


彼が優しく包んでくれたから頑張れた。

彼が勧めてくれたから魔術師になろうと思った。

彼の愛があったから離れていても大丈夫だった。


彼の事が好きだった。

こっちの世界に来てずっと一緒に居てくれた、親愛の情も多少はあったかもしれない。

それでも、彼を好きだった事実は変わらない。


確かに彼の事が好きだったのだ。


それも今となっては彼方の話なのだが。


さて!両親も王都に呼び寄せた事だし、これからは馬車馬のように働いて、国中に名を轟かせて、逃がした魚が巨大だった事を思い知らせてやるんだから!

私を蔑ろにした事を心の底から悔やむといい!


がははははは!!






@@@@@@@@@




「ニーナ?」


酒を呑んでいた男は、急に静かになった相手に首を傾げるて顔を覗き込んだ。すると、彼女は穏やかな寝息を立てていた。


「寝ちゃったのか。」


男は立ち上がると自分のコートをニーナへ掛けた。

そして、再び席に着くと手に顎をつき、彼女を眺めた。


「僕にすればよかったのに。僕なら君にこんな想いさせないのに。」


男は美しい顔を哀しげに少し歪めると、彼女の頭を静かに撫でた。


「ニーナ、早く僕に振り向いて。」


募る想いを指先に乗せ、男は彼女を撫で続けた。

それが気持ちよかったのか、ニーナは口元を少し綻ばせた。


「がははははは・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・もう少し可愛い寝言がよかったな。」


それでも、男にとっては世界で最も可愛い(ヒト)であることに変わりはなかった。










次の日、ニーナは「そうか、魔術師になる前の私って、守ってあげたくなる系だったんだ!だから好かれていたのね!」という叫びと、自分の声で響いた二日酔いの頭を抱えて目覚めるのであった。



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