絶望の世界
「うっ!うっ!」
意識が覚醒し自分が気絶していたのを思い出す。
頭がクラクラする。地震がおさまったのか。
俺は周りにいるはずの愛ちゃんを探しいた。
俺みたいに無事だといいけど・・・
「愛ちゃん?どこかにいる?」
少し大きな声で部屋に叫んでも返事は返ってこない。
俺みたいに気絶してるのかもしれない。
俺はまだ若干重い体を無理やり起こし部屋を探し回った。
いない。
結論からいうと愛ちゃんは976号室の部屋のどこにもいなかった。
「今は5時か」
俺は腕時計を見て気絶してからどのくらい経ったかを見てみた。
この部屋に来たのが2時くらいだから3時間は気絶していたことになる。
その3時間の間に愛ちゃんはどこか別の場所に避難したのかもしれない。
そうなると・・・
「俺置いていかれたのかなぁ」
愛ちゃんに見捨てられたかもしれない事実に俺は心に寂しさを感じていた。
「はは」
何を思ってるんだか。出会ってまだ、1時間の女の子だぞ!そんな女の子が俺なんかの命を気にしてられるほどの状況のわけがないだろ。
俺は乾いた笑いをしながらそういえば今外はどんな状態なのだろうかと思い愛ちゃんに紹介された窓から景色を眺めた。
「はっは。嘘だろこれ」
俺の笑いは一層乾いたものになる。
それもそうだろう。
なぜなら外の景色は、海一色になっていたのだから。
地震による津波のせいなのだろうか水がこの土地を包み込み水位がホテルの4階くらいまできている。
すべての一軒家は海に沈みこのホテルや高層ビルくらいの先端の高い部分だけが沈んでいないだけだった。
俺は急いでテレビのリモコンに手に取りテレビをつけようとする。何かしら情報が欲しかったのだ。
「つかないか」
ということは電気を使うもの全般は使えないと思った方がいいだろう。
俺はリモコンをベットの上にそっと置き絶望した気持ちで事実を知るように再び外の景色を見た。
「人?」
ホテルから200メートルくらい離れたところに人が死んで浮かんでいた。
男性だろうか?死んだ理由はわからないがおそらく津波に飲み込まれ息ができずになくなったのだろう。
俺はボッーとしながらその死体を見ていた。
すると・・・
なんだ?あの黒い影は?
黒い影の魚らしきものが死んだ男性の近くに寄ってきた。
そして男性を
がぶっ!!
その黒い影の正体はサメだった。
かなりの大きさで男性の死体の3倍はあるサメだ。
「うっ!」
思わず俺はその場で吐きそうになる。
サメに食われた男性から血が流れてきて海の水を青から赤に変えていた。
その生々しさに俺は耐えきれなくなり窓から遠ざかった。
これが現実これがリアル。
脳ではわかっていたつもりだったが俺は体が反応してしまうことにより現実味を改めて感じていた。
30分くらいベットに顔を伏せていたと思う。
やっと吐き気も収まり俺はホテルの環境を確認することにした。
エレベーターは使わず階段を使い各フロアを見た。
俺の思った通り4〜5階をつなぐ階段のところまで水が上がってきておりそれ以上、下には降りれなさそうだ。
俺が一通り確認した結果はこうだ。
1. 1階、2階、3階、4階は、水で沈んでいるため使えない。
2. 5階には、コンビニのようなものがありそこで一定の食料と水は確保できる。さらに、服や道具用品店もいくつかあり利用できるものが多そうだ。
3. 6階は、風呂場と屋内プールがあり何かに使えるかもしれない。
4. 7階、8階は、特に何もなく強いて言えばあちこちに自動販売機があるくらい。
5. どうやらこのホテルには俺以外誰もいないようだ。おそらく愛ちゃんのようにみんなどこかしらに避難でもしたのだろう。
6. 電気は使えない。1階にブレーカーがあってそれが水に浸かったのかもしれない。
7. 水道水も使えない。電気が使えないから水道水も出てこないのは当然といえば当然だろう。
8. なぜかすべての部屋は開いていた。鍵もドアの近くに捨ててあるものが多かったしこれはこれでありがたい。
9. 外に出るための手段は今の所ないこと。ボートなども今の所見つかってないのでこのホテルからは出られなさそうだ。
10. 俺の買ったゲームは無事なこと。
よし、このくらいだな。
俺は976号室にあったボールペンと紙を使いこのことを書くと自然とテンションが上がってきた。
だって、1人なんだ。このホテル俺ひとりで自由に使っていいんだ。
ここから俺のサバイバル生活が始まるのか。
〜〜一清の時間から2週間後。豪華客船アルティメット号。〜〜
「本当にすまない」
私の前でこの船の船長が頭を下げている。
年は50くらいだろうかヒゲを生やしいかに海の男といった感じである。
「しょうがないですよ」
そう言ったのは私こと祖父江 美樹。
高校1年生で1年3組に所属している。
あの津波の時、高校にいた私は助からないと思っていたが運が良かった。まだ、生きていて海に浮かんでいた私をこの船の船長は拾ってくれた。
それだけでも感謝すべきことなのだ。
だから、ここで甘えてはいけない。
それは私にもわかる。
「小型ボートには2日分の食料と水は入っている」
「はい」
「本当に君にはすまないことをした。私がみんなを説得していれば」
「いいんです。いずれはこうなるかもしれないと思っていましたし」
私はこの船長に助けてもらった・・・がそれを乗っていた乗客は許さなかった。
小娘1人この船に増えるだけでどれだけの食料と水が減るのかとそう船長を非難したのだ。
船長は必死に私を守ってくれたが船員までもが乗客側に賛同し船長を非難したため私は自らこの船を降りることを決心した。
船を降りるにあたり私に与えられたのは緊急用の小さなボートと少しばかりの食料。
多分2日後には私は死ぬんだろうな。
人生に悔いはないといったら大嘘になる。
まだ、学校生活は始まったばっかだったし友達ともっとおしゃべりしていっぱい遊びたかった。恋だってしたかもしれない。
けれどもこれも1つの運命なんだろう。
私は船長の元から去りボートに乗ろうとする。
「祖父江さん!!」
「愛ちゃん!」
野川 愛。この船で船長と愛ちゃんだけは私と仲良くしてくれた。
本当に本当に短い間だったけど愛ちゃんと会えたのは私の人生最後の幸運だった。
「行っちゃうんですか?」
「うん。ごめんね」
「そんな。なんで?なんで?」
これ以上愛ちゃんの悲しむ姿を見たくなかった私はボートに付いている紐に手を伸ばしそれを引き私共々ボートを海へと落とした。
「祖父江さん!!祖父江さん!」
今愛ちゃんの言葉に返事をしてしまえば私は泣いてしまう。
それだけは避けたかった私は何の返事もせずに船がボートから遠くなるのを待ち続けた。
あーあ、これでまた愛ちゃんともう1度会いたいという悔いが新しく増えてしまった。
真っ暗な夜。私は前さえ見えない暗闇に何の希望も見いだせないまま進んでいた。