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のぞみ

作者: 赤馬研

新大阪発21:00のぞみ62号東京行き、東京には23:32着で最終の一本前の毎日運行されている便だ。


仕事が予定から遅れに遅れ、新大阪駅に着いたのは20:40を過ぎた頃だった。心斎橋から地下鉄に乗ってようやくたどり着いた。お腹がペコペコだった。ゆっくりお好み焼きでも食べて帰ろうと思っていたのにそんな思惑は全て吹っ飛んでしまった。

結局、駅弁を買ってサクッと乗車前に食べてしまおうと思い弁当屋に向かった。

何故か牛タン弁当に目が行き、お店のおばちゃんに伝えた。


「ごめんなさい、売り切れました」


俺のひとり前のおっちゃんが今さっき買ったのが最後の一つだったってわけか、「何て日だ」

やばい、大阪にかぶれてる。

仕方なく牛肉じゅうじゅう弁当にした。10分とかからずに平らげた、そして缶のウイスキー水割りを二つ買ってホームに駆け上がった。


世界に誇る我らが新幹線がこれまた定刻通りにホームに滑り込んで来た。

ホームは大阪での仕事を無事終え、一杯引っ掛けた感じのオヤジたちでいっぱいだった。


大阪を出発し直ぐにさっき買い込んだ水割りを開けてメールのチェックを始めた。


あっ、気がつくと新横浜にもうすぐ着くとのアナウンスが流れていた。どうやら二時間位寝てしまっていたようだ。

新横浜でかなりのオヤジたちが降りて行った。そしてのぞみ62号は23:15分ごろ新横浜駅を出発した。

「おや」

東京までの乗客もまばらとなった車内で誰かのイヤホンが少し大きめの音を発していた。多分その音源の主

は寝てしまっているのだろう。かなり大きめの音がのぞみの車内に流れていた。よく聞くとその音の正体は浜田省吾の'もう一つの土曜日'と言う歌だった。


「覚えていた」


多分他のオヤジたちにもその歌は聞こえていたはずである。

その歌は、ちょうど同じ車両に乗り合わせていた50前後のオヤジたちの青春時代にながれていた切ないナンバーであった。

多分この歌にまつわるようなエピソードをそこに乗り合わせた各オヤジたちが持っていたはずだ。その瞬間各オヤジたちがそれぞれのエビソードを思い出していた。


のぞみの車内が妙な雰囲気に包まれた。

今では汚いと言われてそうなオヤジたちが、かつて輝いていた瞬間をそれぞれに思い出し、かけがえのない時間で有ったことを懐かしく思い出していたのである。


そうこうしているうちにのぞみは品川駅を通過していた。程なく終点の東京だ。音源の誰かも目を覚まし日常に帰っていくのだろう。ただ、そこに居合わせたオヤジたちにかつての甘く切ない思い出を思い起こさせたまま。


でも、そこにいた大半の汚いオヤジたちはみんな思っていた、悪くはない時間だったと。


事実、オヤジ達の顔が少し優しくなっていた。


昼間の戦う顔とは違って・・・。



ちょうど車内の掲示板にテロップが流れていた。


「いろんな想いも運びます JR東海」


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