情けない上に可哀想
男の子って妄想しちゃうよね★
第十七の旅「はしゃぎたいのは子供だけじゃない」
やっぱりあれなんだよね、変にね、意識っていうか、ある気がするんだよ、てかあるよね?皆あるよね?だって女の子と2人っきりだよ?いや、確かにテントでも二人きりだったんだけどさ、あの時は普通に広かったし。確かに明日見さんが入浴タイムの時は、察してくれとばかりに外でチェックさんを巻き込んで話してましたよ。じゃないと、持ちません。
それなのに、いま部屋で二人っきりなのは確かなんだけど、狭い。うん、狭いの、狭くてやばいんだ。簡単に言えば、シングルベッドがそれぞれ壁沿いに右左とあって、その間に、頭の横に小さい物置みたいなのが置かれてて、そう、ホテルみたいな感じ。見た事あるよね?
え、いや、普通のホテルだよ?そう、よく何々ランドとか、旅行に行く時のために泊まるホテル。そんな僕にそんなたいそれた度胸もありませんし、てか、これ僕今誰に喋ってるんだろう。いや、多分心を落ち着かせるためにとにかく言葉を心に作ってるだけなんだろうけど。
明日見さんの方見れない。だって、テントの二分の一位の広さだしね、仕方ないね。何で、何でこんな部屋を押し付けたんだ?あの犬っころめ、勘弁してくれ。いや、感謝してるんですけどね本当に。凄いありがたいです。
(でもなぁ…)
明日見さんが視界に入らないように周りを見渡してみると、やはりベッドの手前にそれぞれスペースがあるくらいで、それだけだ。それだけなんだ。
風呂や食事は外で取る必要があるらしい。明日見さん大丈夫かな、一人で。いや、多分僕がいないという点では何十倍も安全だろう。むしろ、僕があれは大丈夫じゃなかったんだから。夜とかもう、色んな所が元気でしたよ。うん、ごめんなさい、悪気はなかったんです。早く瑛君帰ってきてください、辛いです。この部屋だと何倍も元気になりそうで辛いです。僕にそんな気はなくとも内なる獣がっ。
「天野君」
「ひゃ、ひゃひゃい!?」
「え?」
僕がどうしようもない事を考えていると、どうやら明日見さんが話しかけようとしたらしい。僕のすっとんきょうな、情けない反応にちょっと驚いたようだ。滅茶苦茶恥ずかしいというか、穴があったら入りたい。
「あ、ご、ごめん。どうしたの?一体」
僕はなるべく平静を装った。落ち着こうよ。僕はジェントルメン、紳士なんだから。
「う、ううん。何ていうか、ずっとそっぽ向いてたから、大丈夫かな…て」
明日見さんは少し、えへへ、というような表情をして付け加えた。
「ちょっと、勘ぐりすぎたかな?」
いや、そんな事はない。明日見さんの直感というか、そういうのはいつも、まだあんまり共に過ごした日数が長いわけではないけど、大体合ってる。うん、今もあってる。もうネフィアに来て、一週間なんだから、少しは察されるかもしれない。それはまずい。純真無垢そうな少女に、僕のこんな最低っていうか、そんなに自分を貶めたい訳じゃないけど、そんな状態を見透かされてしまったら、僕は多分死を選ぶ。
「いや、大丈夫。少し疲れただけだよ、気にしないで」
僕はそんな選択に衝突するのを避けるべく、笑顔で答えを返した。うん、これならいけるはずだよ。大丈夫いけるって。
「そっか、そうだよね。色々あったもんね。私も、少し疲れちゃってるかも」
そう言うと彼女は天使の笑顔を見せた。あぁ、そりゃあやばいって、本当に、僕だって純真無垢なんだから。いや、少しは、多少は下心とかあるかもだけど、基本純粋だから。
「そそ、そうだね。明日見さんも、かなり疲れたよね。今日はお風呂…お風呂!?そう、お、お風呂に入って、皆でご飯を食べたら、す、すぐ眠ろう!!」
声は裏返りまくってた。多分顔もおかしかった。態度もあからさまに怪しかった。それでも明日見さんは、そんな僕に対して「うん」とだけ優しく言ってくれた。天使かよ、いや、女神に即位しましょうよ今すぐ。僕多分大丈夫だと思うよ、色んな人とついてくると思う。宗教的な何か、いけるよ絶対。
頭のおかしいのを自覚したため、僕はすぐさま三人を呼んで、もう一息つきましたよね!と、半ば強引に彼らと共に外に出た。
この盛り上がっている通りは、通称ハレノヒ通りというらしい。この名前は中々良いネーミングだなと、少しばかり上から目線に感心した。風呂場、というより温泉というか大浴場は、宿場から出て右、つまりは東の門とは逆方向に少し行った場所にあるらしい。僕らは迷う事なく、その大浴場へ辿り着くことができた。
しかし、何とも本当に、落ち着く良い雰囲気だ。早く身体を洗って、ご飯を食べて満喫したかった。でも、一応これは任務なわけで、そういうゆとりもないのだろうか?やっぱり…聞き込みとか?
そう肩を落としそうになっていると、大浴場フロリンの前で、チェックさんが嬉しそうに言った。
「よっしゃ、一っ風呂浴びたら、楽しもうぜ!」
「金は貸さねぇぞ借金」
それに対してドグは、はいはい、と言った感じだ。あれ、良いの、良いんですか?やった。
フロリンの中はまた、普通の銭湯みたいな感じで、本当に旅行気分になりそうだった。というかチェックさんはなってる。ドグとワンさんは、やっぱり身体のほうは毛むくじゃらみたいで、思わずワオッ声が出てしまった。
にしても、ここはそれだけじゃない、この街にはそれだけじゃない。沢山の種族がいる。これまで見てきた種族のほかにも、ちっちゃくて、本当に僕よりもちっちゃくて、髭を蓄えたおじさんや、猿みたいなんだけど二足歩行してるのとか、何か卵に手と足だけが生えているのもいた。羽化前…かな?いや、でも元気そうに歩いてたし。他にも耳が少し尖った美形の種族、うん多分エルフだ。本当に見たこともない者ばかりでいちいち驚いてしまう。
瑛君が、もし最初にタテノツキやビルクリアに落とされていたら、仮装パーティでもしていると勘違いしただろう。それかどこかのテーマパークだ。
まぁ、たわいもないことを考えるのは昔から好きだ。湯がはってある場所は二つあって、その一つに入りながら、隼人らは大丈夫かなとか、瑛君は上手くやっているだろうとか、明日見さんもお風呂に入っているのか、とか。いやいや、それは想像しちゃ駄目でしょ。せめて着替えてるところぐらいで勘弁ってそれも駄目!
あれ、というか着替えるか。そうだ、思い出した。あの川であった…ティエナ。ティエナは今頃どうしているのだろう。あそこにはパルナを持っている人しか入れないって、じゃあ彼女も発動者なのかな。また、会えると良いな。
いや、あんなに綺麗な人を下着っていうか着替えで思い出すって、やっぱ僕って最低なんじゃ…。
正は湯加減がそこまで熱くないほうのお湯に浸かりながらボーっとそんなことを考えていた。冒険者達が結構ガヤガヤやっているんじゃないかと思っていたが、彼らはとても落ち着きがあって静かだった。これまでも命のやり取りとかも含めて色んな経験をしている者だって、少なからずいるのだろう―――大人なんだなぁ。
「おい、セイ」
「っ?」
隣を見てみると、いつの間にかドグが並んで背を壁にもたれかけていた。
「何だかアホ面してるけどよ、もう大丈夫なのか?」
「え、何が…ですか?」
僕の拍子抜けた顔を見て、ドグは眉をひそめるとかじゃなく、ただ、ため息を吐いた。
「あのなぁ、もうこの世界には慣れたかってことだよ」
「あ、あぁ」
ドグの言葉を聞いて、ようやく僕は彼の意図を汲み取ることが出来た。このままじゃ隼人並の鈍感になるとこだった。いや、それはないか?
「そう、ですね。だいぶ慣れたというか落ち着いてきました。色んな光景にも、さほど驚かなくなりましたし。まぁ、血とか、何かが死ぬのとかを見ても、誰かのこと、もう責めたりできないくらい、少し慣れてしまいました」
正は、あの日の衝動的な自分を思い出して後悔するように、ただ下を向いて水面に浮かぶ自分の顔を眺めた。
「何言ってんだ、忘れかけてたもんを思い出させてくれたんだ。多少なりとも感謝してるさこっちも。でも、まぁそう思っちまったんだったら仕方ねぇ。俺達もお前がこの生活に慣れかけてきたからって、殺人鬼みたいに何かの命を奪い始めるなんて思っちゃいねぇよ」
ドグは、少し冗談交じりに笑って見せた。
「あはは、そう……ですかね?」
本当にそうだろうか、まぁ自分自身でもそんな風になってしまうなんて全く思ってもいない。
「当たり前だろうが。お前の五日間のへっぴり腰を見とけば、誰だって戦いが得意どころか、身体能力がヘッポコの駄目駄目レベルなんて分かっちまうだろ。逃げ足もおせぇし、ゴブリンに殺されかけてたからな」
「あ、あれはゴブリンが予想以上になんか凄くて、あれは、仕方ないです……」
そう返して見せると、ドグは意地悪な笑みを浮かべる。
「お前なぁ、あんくらいその辺のガキでも対処できちまうぞ、少しは男を見せろよ」
「え、本当ですか」
僕はこの言葉は聞いてだいぶショックだった。だってそれだと、僕は子供よりもしょぼい、と言うことになる。流石にそれは嫌だ。情けないを通り越して、可哀想じゃないか。
そんな僕の引きつった顔を見て、ドグは大笑いする。
「おいおい、お前冗談に決まってるだろ。ガキどころかその辺の兵士でも苦戦しちまうような相手だぞ。必死に生きてる奴に雑魚なんかいねぇよ」
「え、ちょっと、騙したんですか!?」
ドグは、そんな僕の言葉をスルーし、立ち上がると、
「ほら、もう行くぞヘナチョコ」
とだけ言い去っていってしまった。僕は少し苛立ちというか、小馬鹿にされ、胸の内に湧いた思いを片手に、絶対自分なりの方法を見つけようと思った。
自分もあがろうと思い辺りを見渡すと、冒険者は確かにずっと静かだったのだ。でも、連れの約二名がとてもうるさかった。というか、子供のように、いや、子供と暴れている。ドグがそそくさ去って行った理由が分かった。僕もすぐに立ち去ろう。
そう思い大浴場を出るときに、チェックさんは置いといて、ワンさんはそれで良いんですか?と、届くはずもない心配を二人に向けた。




