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(旧)レターパッド  作者: センター失敗した受験生
第四章 ライプ・ビルクリア編
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間違い

第十六の旅「食い違い」


 陽はもう沈みかけ、夕焼けが、起伏のなくなり穏やかになった平野を照らしている。野に咲く花も、見たとはないが色鮮やかなピンク色の花びらを付けており、それは何故か回っている。何で回っているのかは不明だ。とても綺麗で、風車だったっけな、そんなものを思い出した。うん、昔爺ちゃんと作ったんだ。


 僕にとっては、ゴツゴツした岩の沢山ある場所を抜けたり、近道のために軽い林を抜けたりと結構疲れる旅なのだが、ようやく街が見えてきた。まぁ、まだまだ先は長いらしいけど、ひとまずは落ち着けるみたいだ。


 安らぎの街、ビルクリア。ここはタテノツキからはさほど離れた場所ではなく、比較的安全な街だ。規模も丁度良く、色んな品物も揃っているらしい。


 付近の草原には弱いモンスター等しかいない事から、冒険者には始まりの街と言われている。何だかゲームみたいだ。まぁ、僕が昔から、ゲームとか本ばっかり読んでたから、そう思うだけかもしれないんだけどね。


 その街の最大の特徴は一切高い建物がないという事。(やぐら)や偵察用の高台がある防衛環境が整った街ではない。かと言って時計台や教会等の目立つ建物があるような、由緒ある場所でもない。更には、なにかシンボルのような物がある観光都市でもないようだ。じゃあ何なのかと言うと、本当に空がよく街からでも見えるのが取り柄の安全な街、だそうだ。


 もちろん屋台や宿、盛り場など市場が発達した部分もあり、冒険用の道具から日用品まである程度備わっているため、栄えてるといえば栄えてる。決して錆びたり風化したり、またはみすぼらしい場所ではないというのが確かだ。


 そんな街が確かにあるのに、出発初日に僕らを襲ったような人々が、本当にネフィアにはゴロゴロといるのだろうか。正には未だに疑問に感じられた。この目で真実を見るまでは納得も理解も難しいのだろう。甘いにも程があると自分でも何度も思っていた。


 そんなこんなで、例の街、ビルクリアが正達の視界には、はっきりと見えてきた。門番はもう夜になりそうであるのに気楽そうで、あまり強くなさそうだ。街全体は軽い塀で囲まれている位で、警戒心等は微塵も感じられない。入口も一つとかじゃなく、あちらこちらにあるはずなのに、正規の入口以外はほったらかしであった。


 まさに平和、を象徴しているのかもしれない。王都に近いというのは、戦時であってもこんなに有利なのかと、少し理不尽に正には感じられた。


 門番は止めるわけもなくあっさりと中へ入れてくれる。中に入ってみると、家が建ち並ぶ通りが、そのまま一直線に伸びている。


 その大きな道の左右に大体等間隔でまた別の道がいくつかあって、なるほど本当に普通の街のようだ。しかし、そんな中でも二つ目の右にある曲がり角の先に広がる道の周辺だけは、とても賑やかでここが商業の中心らしい。話に聞いた通り賑わっていた。


 服屋に食料売り場、野菜売り場に食事処、更には装備品や装飾品等も沢山ある店もあった。鍛冶屋?も大盛況なのか、カンッカンッと音が聞こえてくる。入ってきた所が南とするなら、この街の東の出入り口には宿場があったり酒場があったり、このような市場があったり、この通りに今夜寝泊まる場所があるのだろう。正は愛の顔を少し眺めてみると、何だかホッとしたような顔をしていた。


 確かに、昨日のフェスタのように騒がしくもなければ、静かすぎもしない。何人か冒険者のような者達が飲んで騒いでおり、それが軽いスパイスのようになっていて妙に雰囲気が出ていた。うん、良い街だ。灯りも程々にあるし、ヒトだけではもちろんないが、ヒトの数が圧倒的に多いから、揉め事とかも多分起きないだろう―――起きないよね?


 そんな心配をしている間に、早くも今夜の宿についたようだ。名前は…ヤッドー?と書いてある。何だそのストレートなネーミングは、そうやってツッコミたくもなったが、何しろ多少なりとも価値観は違うはずだ。こういうのがこの世界ではオシャレなのかもしれない。


「ワン、ここでいいんだよな?」

 ドグはワンの方を向いて確認を取る。ワンはただ頷いた。

「何の捻りもねぇ名前だな」


「だよね」

 ワンは少し頭を搔く素振りで困りをひょうげんする。

「正直僕もドグ並にダサいと思うよ」


(あ、やっぱダサいんだ。良かった僕は間違ってないよね。うん、間違ってない)

 正は何故かとりあえず一安心した。


「黙れシロシロリンが。おら、おめぇらも入るぞ」

 そう言うとドグはヤッドーのドアへ手を伸ばして、開けるとそのまま中へ入ろうとする。正達はそれに返事をして、宿の中へ足を踏み入れていった。


 ヤッドーの中は、とても一般的な宿舎という感じだった。入ってみると一階はエントランスになっているようで、受付けのカウンターとくつろぐ用のソファ、そして観葉植物がちらほら、と言ったところだ。


 事前に予約していた、というのもあってか僕らはすぐに二階の部屋へと上がれた。質素とも豪華ともいえない雰囲気を醸し出すこの空間はとても居心地が良かった。いや、昨日のお城が良くなかったわけではないが、なんというか身の丈に合わなかった。うん、そういうことにしておこう。


 部屋は二部屋とってあるらしく、一部屋は僕と明日見さん。もう一部屋は残りの三人らしい。いや、ちょっと待ってよ。なんで僕は明日見さんとセットみたいになっているんだ?あくまでも彼女は女の子であって、そう、僕は男だ。というか、彼女は彼女ではないのだ。そう、そういう関係ではない。なのに何故いつも一緒なんだ?明日見さんは嫌ではないのか??


 あの~、明日見さんは嫌じゃないの?とか、ぼ、僕も男なんですよねぇ。とか、いや、連れてきてもらっている身だし、もう部屋もとってあるのだから絶対に言えない、言えるわけない。む、むしろこういうのは、このネフィアでは普通なのかもしれない。うん、きっとそうだ、そうなんだよ。


 そんなことを考えていると、

「なぁ、セイとアイ、いっつも思うんだけどよ、一緒にしてても良いのか?男女なんだしよ」

 なんて、チェックさんは不思議そうな表情でドグとワンさんに尋ねた―――いや、やっぱそうですよね、間違ってますよね、おかしいですよね!?


「んあ?」

 ドグはいつもより間抜けそうな表情でこちらを見る。

「なんか問題あんのか?」

「はて、私は皆目検討つきませんが…?」

 それに加えてワンさんも同じような表情だった。


 あ、駄目だ。やっと理解した。多分誰も間違っていない。この二人、いや、二匹の文化がそうなのだ。ただの食い違いだ。…仕方ないにしても、うわぁ……。


「んーっと、、つまりだ。アイは平気なのか?」

 チェックさんはあっさりと決めポーズらしきものをとりながら、事の根幹に触れる――え、まじで?聞いちゃうんですか、そこ。返答次第では僕だいぶ辛いんですけど。


 「へ、へ?」

 話を振られた当の本人はかなりキョドっているようだ。いや、無理もないよね。

「わ、私は…天野君は優しいから、ダイジョブデス!!」


(いや、何故に片言?地味に心にくるんだけど、でも…)

「そっか、んならオーケーどころじゃねぇな。二人は愛の地平線を行くことはない、つまり、俺と共にアイ君は冒険の果てに添い遂げれるって事だ。そうだろ?」

 またもチェックさんは決めポーズをしている―――え、というか添い遂げるって、チェックさん言葉の使い方間違ってません?それってただのプロポーズなんじゃ…!?


「へ、え、え!?い、いや私、チェ、チェック様の事は尊敬していますが、そ、そんな、しょんなぁ!」

 あ、噛んだ。というか、予想以上に明日見さんは慌てふためいている。いや、それもそうだ。黙ってればイケメンに堂々と告白されたのだから。顔は真っ赤になっている。というか、チェックさんも気づいたらしい。


「え、えへぇ!?」

 声が裏返りまくっている、というか決めポーズが崩れている。

「アアア、アイ君!違うよ、違うからね!?これ、これミスなんでほら、ぼぼ僕はそんなつもりはなくて、ほら、一緒にれっつガンバロミタイナァ!?」

 一人称や喋りが滅茶苦茶になるほどに、チェックさんは動揺していた。てかこの人意外と()()っていうか、純情なんだな…。


 そんな照れ合っている二人を見て呆れたのだろう。ドグはへんちくりんな汗をかいているチェックさん

を無理矢理部屋にしまいこみ、僕らにヤッドーの外には単独で出るなよと忠告してくれた。僕も、少しため息をついて、性には合わないが頑張るしかないと言い聞かせ、部屋へと入ることにした。

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