うるさくて、清々しい
超、エキサイティイイイイング!!!
はい、今回は隼人の日々相手に対して思っている素直な気持ちのほうを多く書いたつもりです。では、お楽しみください
第十五の旅「前言撤回」
―ライプ 休息室―
「明日から…か」
隼人は今、ライプにある休息室という所に来ていた。この部屋はとりわけ何か綺麗だとか凄いという要素はなかったけど、天井がガラスになっていて空が良く見える。
部屋の広さは大して広くない。ある物も横に腰掛け付きの長いソファが二つほどで、この部屋に来るライプの者は殆んどいない。
なぜ作られたのか、何の為に使うのか、そんな事は分からなかったが、隼人は星が綺麗だからという理由でここに訪れた。
水希は今風呂に入っていて、彼女は風呂がとても長い。一時間以上は入っている。男の隼人にはその感覚は意味が分からなかった。
(全身ふやけちまうんじゃねぇのか?)
そんなこんなで、隼人は実質今一人である。ピンピは多忙なのだろう、あまり自分の部屋にいた事もないため、その分隼人達はピンピの部屋で過ごしやすかった。
本日で一週間、この日は何かの節目のような気もしなくもなかった。隼人はこの一週間で、少しだけ、前に進めた気がしていた。それを実感するためのこの時間、隼人はそれをじっくりと噛み締める。
「思えば事の始まりっつうのは、遡っちまえば十二年前になんのか。なげぇな。三人で植えた小さな種がでっけぇ木になって、終いにはそん中に落っこちてこの世界に来ちまったとか、どんなゲームだよそれ」
隼人は自分でそんなことを呟きながら一人苦笑する。
全く、マジでここに来て色んな事ありすぎだわ。良く分からない民族に拾われて、宴して、トレーニングで聞いた事あるようなモンスターと戦いだして。
まだ三日目だったってのに、変態爺に見透かされて説教されるわ、水希にもあっさりバレて恥ずかしい思いさせられるわ、散々だったなぁ。
…でも、なんつーか、ここに来てから久しぶりに笑ったなぁ。笑い疲れたわ。それに、あの双子から教わって、マルさんとシュートスからも教わった。ルイさんだって色々と教えてくれた。全部全部俺の知らねぇことばっかしだ。
当然か、この世界自体知らねぇんだし。いや、そうじゃねぇだろ。現実でも知っておくべき事ばっかだった。俺はそれを知らなかっただけだろ。って、一人で自分にツッコミ入れてんなよ俺。正みたいじゃねぇか。
隼人は共にこの世界に来たはずの友のことを思い出し、これまでの現実のことと、ネフィアでのことを思い返していくことで、何かが心を満たしていく気がした。それはとても、心地良かった。
「充実感って、こんな気持ちの事、言うのかもしんねぇなぁ…」
そう言うと隼人は自分の胸に手を置き、少し深呼吸をして空を見上げた。雲一つない、灯りにかき消される事のない満天の星空は、とても美しかった。
この世界でも陽は昇り沈む。そして月が現れる。それだけで何故か少し、隼人はホッとする気分になった。正直言って、この世界で不安を感じたことはまだなかった。それを感じれる余裕が心に無かったからだろう。現実にいた頃からずっとここに至るまで必死が続いていたから。
だから、今こうしてここにいることを考えると、やはり自分は運が良いのだと隼人は思った。下手したら今頃雪山でのたれ死んでいたかもしれない。何故助かったか聞いてみると、丁度見回りをしていたガントルが彼らを助けたのだ―――じゃあ、俺はあんなうるせぇのに助けられちまったのか。何か自分が悲しくなってくんな。でも、
隼人は自分がガントルともまだろくに話していないことに気づいた。それだけじゃない、まだ双子以外にもここには沢山子供がいて、しょっちゅうイタズラをしては叱られている。マルさん以外にも大人は沢山いるし、やっぱり自分は、存在していることは分かっていても、それを知ろうとする余裕が無いのだと痛感させられた。
(っつっても、ここに長居するわけにはいかねぇよなぁ)
そう、自分達はあくまで今生活させてもらっているだけであって、ここにずっと居れる訳じゃない。現実に戻る方法を考えないと、手段を探さないといけない。隼人はそんなことは百も承知だった。だが、ここを離れてどうなるのだろうか、ここならもっと学べることがまだあるんじゃないだろうか。それが前に進むことを閉ざしているように隼人は思った。
そんなことを考えていると、突然横から大声が飛び込んできた。
「ん~?おお、ハヤト…だったよな!ああそうだ!そうに違いないさ!!あはははは!!」
「っ!?」
隼人は考え事をしていたせいで全く気が付かなかったが、休息室のドアは開いていて、そこにはガントルが立ち往生していた。どうやらいつもいない場所に人がいて驚いているらしい。
「どうするべきだ、いつもはここに人はいないから、一人で静かにいびきをかけて寝れるんだ!!ここじゃないと大胆に寝るのはうるさくて敵わんとマルが言うからな!!あはははは!!!」
「は、はぁ」
(いや、あははははじゃねぇだろそれ。マルさん超可哀想なんだけど。何かいっつも耳栓してそう、つーか胃が痛くなってそう)
少し引き目を感じていた隼人から何かを感じ取ったのだろうか、ドグは大声でピンと来たように隼人の隣に大きな音を立てて座ってきた。ソファの弾力で少し飛び跳ねる。
「っちょ」
「何だ先に言えばよかったじゃないかハヤト!!お前さんもいびきがうるさくて、あの美人なミズキにおいだされたんだな!!いやぁ、男ってもんは辛い、辛いさ!だが、それこそが男じゃぁなく、漢の道だ!!!さぁ、一緒に寝て思いっきりいびきをかいちまおう!あっはっはっはっは!!!」
う、うるせぇ。うぜぇとはまた別もんだ。つーかうぜぇは基本ムカつくだけで、これはむしろ清々しいだけじゃねぇか。や、やり辛ぇ…。つーか漢の道って何だよ。あんたと一緒にいたら未知の領域に行きそうだっつぅの。あぁもう…。
「いや、俺別にいびきかかないっす。つーか、何となく落ち着こうと思ってここ来ただけなんで。だから、そんなテンション上げ上げはきついっすわ…」
隼人は少し目を逸らし、頬を人差し指でなぞりながら、顔を少し歪ませた。気持ちははっきり示したが、態度は更に少し大袈裟にしたつもりだ。これなら、大体の人は察する。隼人はそれに賭けた。
「ん!?なぁにを遠慮しとるんだ!大丈夫俺はハヤトと家族、つまりいびき仲間であり家族ってやつだ!!」
「いや、それ結局家族なんで家族止まりにしてくんないすか?」
その言葉を聞くとガントルは、何かにショックを受けたような顔をして、急に顔を抑えた―――は?もしかして今の不味かったのか?そりゃあねぇだろメンタル弱すぎだっつうの……。しかし、ガントルの口から出たものは全く違った。
「ハヤトォ」
(何でイントネーション最後に持ってきてんだよ)
「良い奴だなぁ、良い奴だ!そこまで俺に気を遣ってくれるなんてなぁ!俺は、感動した、感動したぞおおおお!!!」
(あ~、これ駄目な奴だわ、話し通じねぇわこれ。お願~い、水希でもピンピさんでも良いから来て、俺を救ってくれ。いや、救ってくださいマジで)
隼人は妹以上の面倒臭さを覚え、直ちにその場を退散することを決意した。そうすべきだと自分が言ったのだ。ならそうするしかない。
「い、いやマジ違うんで。つーか俺そろそろ出ようと思ってたし、邪魔にならないように退散しますわ。ごゆっくりいびきかいてくださいガントルさん」
そう言うとガントルはきょとんとした顔になりこちらに不思議そうな眼差しを向けてきた―――んだよその目線は、やめろ、なんかすんげぇ罪悪感くるから。やめてください。
「あ、そうだったのか?なら先に言ってくれよ!あはははは!!分かった、安心してミズキと乳繰り合ってこい!それもまた漢への道だ!!!」
(いや、何回も言っただろ。つーかやっぱ未知に誘ってんだろそれ、何に安心すんだよ。やかましいわ)
隼人は呆れて黙って帰ってしまおうとも思ったが、あまりに失礼だと思ったので、得意の愛想笑いを作り、その場をそそくさと離れることにした。長引くのはごめんだったからだ。でも、これもある意味失礼な気がしなくもなかった。
「そういう関係じゃないんで、またあいつ怒っちゃいますよ。それじゃ」
「おう!!おやすみ!!!」
それだけ言うと隼人は廊下に出て部屋に帰ろうと思った。水希が風呂から上がって誰もいなかったら、多分寂しがる。最近気づいたけど、湧希さんしかもういないから、強く生きるために甘えることもしてこなっかたんだろうな。だから少し強がりで人に頼らない。もしかしたら水希にとって、俺と瑛は、ワガママでいれる唯一の場所なんじゃねぇかって。
見ないと気づけなかった、気づいても今まで通りにするだけだけど、少しはそのワガママも許してやれる気がした。あいつが俺を受け入れてくれたように、俺も受け入れてやりてぇ。もちろん面倒くせぇ所もあるけど、良い奴なんだからな。俺だって素直っつーか、繕わないでいれる。俺も成長したもんだな。
そこまで考えると、隼人は足を止めた。気づいたのだ。さっき自分はガントルから逃げたことに、面倒臭いから逃げたのだ。
「前言撤回、まだまだこれからだわ俺…」
とほほ、と言った足取りで、隼人は自分の情けなさを実感し、水希の元へ帰っていった。
隼人はちなみに、水希の気持ちをまだ理解していません。あくまで誰かのことを良く見ていて、良い奴という認識です
雷陣家は皆こぞって鈍感で、誠なんかは告白の付き合ってくださいを、どこか行くのに、や、勉強に、などの意味と勘違いしたりします
あくまで彼らは自分の恵まれた容姿を理解していないのです
ありがちですけど、そんな設定大好きです




