即答で否定した後に肯定すると多分相手は嬉しがる
物語をどう進めるか、少し悩んできました
第十三の旅「それだけはありえねぇ」
「つっかれたああああ」
「 もう無理、うん無理。身体中痛い」
隼人と水希は四日目の夜、ようやくトレーニングを終えピンピの部屋で倒れ込んだ。
「なんだい二人共、若いってのに情けないねぇ」
ピンピは二人の状態に呆れたような表情を見せる。
「いや、これは無理ですよぉ。まだ三日目なのにレベル6って…。明日はもっとレベルが上がるって」
「絶対ルイさん、あれ誰かと一緒に訓練した事ねぇよ…。完全に自分のペースだってマジで」
「あはは、相当しごかれてるみたいだねぇ。でもレベル6なんてまだ可愛いもんさ。ルイは一人でレベル11までクリアできるんだからね」
「レベル…11?」
「化けもんかよそれ……」
「まぁ、あんた達がそこまでなる必要はないよ。レベル7がクリアできれば優秀な兵士だよ」
ピンピはそう言って二人に飲み物を渡した。
「ありがとうございます」
「優秀な…兵士か」
こんな世界にも、兵士という概念はあるんだな。いや、むしろ余計に意味が重いのかもしれない。
この世界、マルさんによるとネフィアって名前らしいが、ルイさんの言っていたように文明が限られているからあまり科学的な進歩はない世界らしい。
国自体も西に広がるツルギノマヒ、東に広がるヨロヒホシくらいしか未だ判明してなくて、その先や、北の丘の先には未開拓の地が広がっているんだと。つまり、意外と浅いわけだ。
誰が何のために文明を制限しているかなんてもんは不明だけど、元の世界に戻っちまえば結局ネフィアとの関わりは無くなっちまうわけだから、まぁ気にすることでもないだろ。
「ねぇ、隼人」
「んぁ?」
「良いでしょ、ちょっと付き合ってよ。ピンピさんからのお願い」
水希は頼み込むようなポーズをして隼人の目の前にいる。何言ってんだこいつ?
ピンピの方を見て隼人は何のことか確認を取る事にした。
「ん~と、どーゆーことっすか?」
「あんたまさか聞いてなかったのかい?ミズキの魅力的なボディを見つめるのも良いけど、ちゃんと人の話は聞きなよ」
「へ、へ?隼人!?」
「いやいや、待てって俺はんなもん見ねぇよ!!」
「あ、そ、そうだよね…」
「いや、なんでちょっと悲しそうにすんだよ」
「え、う、うちそんな顔してないし!」
「あれだぞ、別にお前に魅力がないとかそういうわけじゃ」
「駄目!その先もう禁止、ほら行くよ説明は後でするから!」
水希は隼人の口を手で塞ぎ一度喋りを止めさせると、彼の手を取りその場から退散していった。
「全く、本当若いってのは可愛くて羨ましいねぇ。頑張りなよミズキ」
ピンピは二人の会話を聞いて気分上々になると、ソファへ座り何かの資料を読み始めた。
―ライプ 厨房―
「てことで、料理を作るよ~」
「は?」
「は~い!!」
隼人と水希は、宴の際に使う大きな厨房にやって来ていた。水希とシュートス、そしてマルはエプロンに三角巾を付け張りきっている。他にも何人か見た事はある顔ぶれがいた。
「なぁ水希、俺結局何も説明されてねぇんだけど」
「ん?あぁ、明日の宴のために今のうちから料理の下準備とかをしとくんだって。かなり量が多くなっちゃうらしいからね」
「いや、そうじゃなくて、何で俺らが?」
「お世話になってるんだから、手伝える事は手伝うのが当然でしょ。苦手だからって嫌がってちゃ駄目だって」
「その辺はやっぱ真面目なんだな。てか俺お前に料理苦手とかいった覚えねぇんだけど」
「うちは全部真面目です。前に調理実習のとき、ホットケーキ真っ黒にしてたの、うち見てたよ。誰にも気づかれないようにこそこそと食べてたやつ」
「な、うっそだろ!?見られてたのかよ…」
「ふふ、うちホットケーキで失敗する人初めて見たよ。片面ならまだ分かるけど、両面って」
水希は必死に笑いをこらえながら、道具を準備していく。
「し、仕方ねぇだろ。料理は、女がするもんだ」
「それ隼人が嫌いな常識ってやつじゃないのぉ?」
「この野郎、昨日からおちょくりやがって…」
「でも前より楽しんでるでしょ?ほら、準備も出来たし、うちが教えるからやってみようよ。手先器用なんだからできるって!」
「…ちゃんと教えろよ」
「もちろん、うち料理は得意なんだから」
そう言うと水希は隼人に包丁を持たせ、野菜を切る練習をさせた。程よい太さといたのに、テキトーに野菜をぶった切っていく隼人の実力を見かね、水希は横から隼人の手の上に自分の手を置いた。
「ほら、こうして切っていくんだよ?ぞんざいに扱っちゃ駄目なんだから」
「こ、こうか?」
隼人は水希の手の動きに合わせながら、少しずつ丁寧に、均等に切っていく。残りの野菜も全てゆっくりと切り終えると、隼人は大いに喜んだ。
「おお、俺ちゃんと切れたぞ!」
「まぁうちのサポートがあればこんな感じよ」
「サンキューなマジで、いやぁ意外と楽しいもんだな、こういうのも」
「でしょ?割に合ってるか合ってないかとか、興味あるないとか考える前に、ちゃんとやり方を知って挑戦してみると、案外面白いこともあるんだよ」
「そうだな、何も知らない状態でやっても、そりゃできねぇか」
「そうそう、隼人は馬鹿じゃないんだから、うちもこんな感じで教えてあげるし。これを機に勉強の方も」
「それだけはありえねぇ」
「何で即答!?」
(くぅ、由梨の言ってた放課後勉強に誘って良い青春ムード作っちゃおう作戦が……)
水希は、人の気も知らずに切り終えた野菜を何度も眺める隼人を見て、まぁ、別に良いかという気持ちになった。
(料理は楽しそうにしてくれてるしね)
「お、二人も手伝ってくれてるんだね」
「あ、マルさん」
「へへ、見てくださいよこれ。全部俺が切ったんすから」
隼人はエプロン姿の良く似合うマルへ、切った野菜を見せびらかした。子供か。
「へぇ、良く出来てるね。これなら皆も喜ぶよ」
「マジすか。へへ、マルさんはもう終わったんすか?」
「ん?あぁ、そんな所かな」
「お疲れ様です」
「ありがとう。ミズキもお疲れ様」
「ほうほうどれどれ」
隼人はマルのいた台の所に行くと、そこには隼人の切ったと思われる野菜の数よりも、三倍くらいの量が載せてあり、その形はどれも見事だった。
更に、変人シュートスの方を見てみると、彼はまだ凄い早さで正確に大量の野菜を切ったり、それだけでなく肉の下処理やスープのだし取りなどを同時並行で進めていた。
「す、すっげぇ……」
「シュートス、彼はここの料理人で、いつもはのほほんとしてるけど、料理のときだけは凄いオーラがあるんだ」
「凄く楽しそうですね。うちはあんなに沢山あると捌くのに精一杯になっちゃいそうです」
「あんなに雰囲気変わるもんなのか」
隼人はシュートスの包丁捌きや動作の一つ一つを見てただ驚く。
「誰でも好きな事になれば、雰囲気は一変するよ。活き活きとし始めるんだ。やらされるよりも、やってみようって自分で思って、それで楽しめれば、それだけで充実感が生まれるからね」
「なるほど、食わず嫌いよりもちゃんとそれを食って噛み締めてから、それでも合わないならそれで良いってことっすか」
「うん、それで自分に合ってるって思えたなら、それだけで自分の個性や特技、武器が増えて、見える世界も広がってくるよ」
「広がる…」
「広げられるんだよ」
「なるほど…」
少しずつ見えてきた気がする。視野の広げ方。
「そういうこと、だから隼人、一緒に勉強しっ」
「それだけはありえねぇ」
「だから、なんで即答!?」
「はは、冗談だよ、あの町に帰ったらな」
「え?良いの?」
「頼むぞ」
「う、うん。うん!!任せて!!!」
水希は歓喜のあまり踊り出しそうな胸をこの場で静かに収める。
「マルさん、何かありがとうございました」
「え、うん。よく分からないけど、どういたしまして」
その言葉だけ交わすと、隼人は切り終えた野菜を、特殊な保存機の中に入れ水希と共に厨房を出る。
「ちょっと、隼人、一応疲れてるんだからそんなに早く行かないでよ」
「なぁ、水希」
「は、はい」
「帰ろうな、一緒に。そんでもってここで学んだこと、とことんあっちで試すからよ」
「え、う、うん。そうだね、頑張ろ!」
そう言うと隼人は冷静になったのか、水希に歩調を合わせてくれた。
料理って凄く楽しいですよね
何より相手が嬉しいって言ってくれた時、心からの幸せです




