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(旧)レターパッド  作者: センター失敗した受験生
第四章 ライプ・ビルクリア編
56/63

繰り返される過ちのために 2/8内容改変

投稿遅れてすみません

ちょっとイカの甲子園が…

第十三の旅「自分が決める今とこの先」


 気付けば、もう四日目の夜。今ビルクリアまでは、半分よりちょっと前くらいの道のりだそうです。


 今日はとても幸運な日で、悪い人達には合わずに休めれそうな場所に来れました。


 そこにテントを二つと、何故か昨日と同じく犬小屋をカプセルから出して設置し、後は色々くつろぎながら一日を終えます。


 ご飯は、ドグさんが作ってくれるらしいです。昨日は、少し慌てる部分や、落ち着けない部分があってレトルトの食べ物になっちゃったので、私は凄く楽しみです。


 少し手伝おうとチェック様と共に野菜を切ろうとしたら、愛はここはいいからお皿などを用意してくれと言われました。


 何故だかは分かりません。でも、皆の役に立てて私は嬉しかったです。


 天野君は、ドグさんが話があるとかでご飯を持って外で食べるそうで、私達は今三人で談笑しながら、出来上がったシチューみたいなのを食べようとしています。


 とても美味しそうです。





―テント外―


 目の前には温められた食べ物が置いてある。石がまばらに散り張り、手ごろな岩にドグと正は座っていた。


「食えよ」

「……」

「冷めちまうぞ」

「何のつもりですか」


 何を話す様子もなく、食事を勧めるドグに正はただ不審な目を向ける。そんな正の対応を分かっていたのだろうか、

「まぁ、そんなふてくされんなよ。旅ってのは気分が保てねぇとやってけねぇもんだ」

 と、慰めのようなものに近い言葉をドグは言い放つ。正にとってそれは、何だか気に食わないというか、そういうわけじゃないという気分になった。

「……ふてくされてる訳じゃありません。そんなことも、分かっているつもりです」


 正はドグの目を見ることもなく、ただ下を向き続ける。声のトーンはやけに暗い。


「じゃあ一体、俺らの何が気に食わねぇんだよ」

 ドグは水を少し口に入れた。

「……気に食わないわけじゃありません。納得いかないんですよ」

「納得?」

「…どうして、どうして殺したんですか」

 正の言葉には、何だか黒いというか、やるせない感情がこもっている。

「…昨日の奴らか?」

 意外そうな顔をドグはしている。一体何が意外なんだ。


「ドグさん達なら、殺さなくても何とかできたんじゃないんですか」


 …少し怖い。ドグが怖いって言うよりも、自分の感情を露わにするのが怖い。苦しくて、泣きそうで、言葉が出てこようとしない。でも、駄目だ、僕は話さなくちゃいけない。じゃないと、多分この先もっときつい。


「確かに、仕方ないだとか、生き残るためだとか、下手をすれば自分達が殺されていたんだって、納得しようと思えば理由はいくらでも作れるかもしれません」


 なんと言うか、もう泣いてるんじゃないかってくらい、声が、か細くなって、顔も下を向いているのが分かる。でも、でも。


「……でも、それじゃ駄目って事か」

 ドグは僕のほうを何だか、申し訳なさそうな表情で見つめている。でも、その目は、僕には直視できない。僕には、その資格は多分ない。

「すみません。何も出来ずに、ただ見ていただけのクセに、こんな、子供みたいなこと言ってしまって」


 何だかもう、胸が張り裂けそうだ。何だよこれ、何なんだよ。浮かんでくる、あの景色が、浮かんでくる。確かに彼らは僕らを助けてくれたんだ、助けてくれたんじゃないか。


 迷い顔を覆う正に何と言葉をかけるべきか、ドグは悩んでいたようだが、口を開いた。

「子供…か。言いたいことがあるなら、それが正しいとか間違いであるとか、そんな事を気にする前にまず発言しちまうのが一番だ。それが間違いだったとしたら、誰かがちゃんと正してくれる。正解なら、上出来だ。分からず屋の権力に飲まれない限りな。だから、別にお前が子供っていうわけじゃ、決してねぇよ」


 そう、なのだろうか。僕は、今正しいことをしているのだろうか。慰めか?いや、そういう訳では決してないだろう。自分の意見を誰かに言ったのは久しぶりだから、なんだか、どういう態度を取れば良いのか分からない。


「…ありがとうございます」

 

 あぁ、何でこんな事しかいえないんだろう。情けないなぁ…。


「当たり前であるべきことを俺は言っただけだ」

「当たり前……ですか」

「あぁ、ちゃんとしようとして、難しいのが当たり前だ」

「ドグさんは、できていますよね、僕よりは確実に…」

「どうだかな」

 その言葉には、多分謙遜が十分に含まれているだろう。


 そうだよ、ドグは強い、強いんだよ。僕は弱い、情けない、あれぐらいで失神してしまった。認めてくれただけでも、良いじゃないか。言葉に耳を貸してくれた。もう、十分じゃないか。自分勝手でウザいだけの僕の話を、聞いてくれただけでも、もう……。



「そうだなぁ、しいて言うなら、救い方を知らなかったのかもしれねぇ」

「…え?」

 正は不意を突かれた様にキョトンとした。ドグは、自分の作った料理を口にし満足げな表情をすると、話を始めたのだ。

 

「俺達みたいな拾われ者はな、物心ってやつが付いた頃から、こんな生き方しかしてこなかった。幸せな暮らしってのを求めてもよ、到底叶うもんじゃなかった。元々その頃には、この力も発動されててよ。まぁ親も死んで身寄りのねぇ俺達には、この力は唯一の救いだった」

「そんな歳から、力を…」


 意外だ、僕ならそんな強すぎる力、幼い頃に受け取っても、多分自分のものにできないし、何より怖いだろう。今でも怖いかもしれない。


「まぁな。ガキの時は必死でよ。ただ毎日を生きるだけでやっとだった。力を使って殺して奪って、そこから逃げて。またそんな日々の繰り返しだ。あの頃、レイスのお付きとして拾われてなかったら、俺達はまだそんな人生を歩んでいたかも知れねぇ」

「…救われたんですね、その人に」


 そんなに大切な人のために、今彼らは、いや、僕らは旅をしているのか。……無責任だなぁ、本当僕って。


「まぁな。確かに心は救われたさ。あいつの笑顔や、身分に関係ねぇ優しい振る舞いに、全うな心ってもんを貰ったさ。でもそれでもよ、すでに慣れちまってたのかもしんねぇなぁ。色んな事を、理由付けして奪っていくことによ」


 どうしてだ?何故、また奪わなくちゃいけないんだ?それに、


「……何でですか、正しい心が帰ってきたなら、殺すことに葛藤や疑問がまた生まれるのが普通なんじゃ」

「正しい心だけじゃ、これまで流した血ってもんは濃すぎて消えやしねぇ。それに加えて俺達は、タテノツキの政府から見りゃあ、手頃な生物兵器だ。殺しの世界からは到底逃げれやしなかったさ」


 

 生物兵器、その言葉に正の表情は青ざめていた。

「生物兵器だなんて。そんな…おかしいじゃないですかそんなの、まるで生物を道具みたいな呼びかたして。その上兵器だなんて。もう、十分じゃないですか。これ以上、どうして奪っていく必要が!」


 動揺している正の言葉に対し、彼は仕方ないといった表情で返事をした。


「これから奪われるかもしれねぇ奴らのためだ」

「これから…?」


 これからって、未来?


「戦争を逃げ道にするつもりはねぇがよ、恐らく俺達と同じ生き方をしている奴らは、もう後戻りも出来なければ、救われることもねぇ。こんな時代に、祝福を十分に受けられなかった奴らってのは、幸運に出会うか、死ぬしかねぇんだよ」

 そう言うとドグは、ポケットから何かを取り出した。赤色の宝石が埋め込まれた(かんざし)だ。とても綺麗に光っている。それを寂しそうに眺めながら、ドグは言葉を続ける。

「あいつらの身体を見たか?あの細さじゃ、後二日も持たず餓死だ。どちらにしろ死ぬならよ、さっさとくたばっちまうしかねぇんだよ」


 そんなに細かいところまでは見れていなかった。でも、でも…。自分の考えは甘いのは分かってる。声も震えるけど、言わなきゃ始まらない。


「それは、それはただの極論です!もしかしたら、希望だって僅かにあったかもしれない。あの人たちが思っていなくても、生きていれば可能性なんていくらでも。例えば僕らが食料を分け与えれば、それこそ幸運に出会えたことにっ」


 そんな正の甘過ぎる考えを見透かしていたかのように、ドグはすぐに答えを返してくれた。


「良いか、セイ。一瞬の幸運ほど、絶望が訪れた時にその効果は強くなる。そんなもんに頼れるほど、この世界は甘くねぇ。あいつらだってそんな事は百も承知だ」


 分かっていた、いや、本当は分かっていなかったのかもしれない。じゃないと、こんな事は言わなかっただろう。希望にすがろうとしたんだ。


「……悲しすぎます。こんな事、誰も望まないはずなのに」


「あぁ、あっちゃいけねぇ、想像もしたくねぇ事だ。そう理解していたからこそ、俺達は少しずつ前に進めていたはずだった。過去の戦争の(ひず)みが徐々に戻ってきて、平和な世界が訪れることを信じてよ。それは敵国のツルギノマヒも同じのはずだ。新たな王の政策により、戦争の根源になった貧しさは解消されていき、良い国になってたはずだってのによ」


 戦争が起こったのは二十年前、先代の王同士で争っていたらしい。戦いは五年前まで続いていた。そうダスさんは言っていたんだ。だからこそ、おかしい。


「なのにまた戦争が、どうして、悲しみの上に更なる悲しみを…?」


「歴史ってのは繰り返すもんでよ、傷ってのはそう簡単には埋まらない。戦争が終わった後も、小さな紛争や殺し合いはいくらでもあったさ。それでも、互いに手を取り合おうとしていた。だからこそ、今回の戦争に関しては、タテノツキにもツルギノマヒにも納得してねぇ奴が多い」


 それならなおさらじゃないか。納得していないのなら、


「だったら、止めれば良いじゃないですか。疑問に思っているならなおさらこんな事」


「そうしてぇがよ。一度始まった戦いってのは、どちらかが死に絶えるまで終わらねぇ。そこにあるのは無数の感情だ。その感情を引っ張って行けるのは、勝利っつう希望か、敗北っつう絶望しかねぇ」

「ど、どうして、王様なら、王様同士なら止める事だって出来るんじゃないんですか!?一度戦争が終わって、平和に進もうと互いに思っていたのなら、また和解する事だって!」


「……王ってのはな、民の総意だ。総意でねぇ限り、それは独断といっても良い。そして、王が暴君になっちまえば、その国はいずれ自滅する」


 少しずつ、正の中で嫌な予感というものが湧き上がっていた。

「じゃ、じゃあまさか、この戦争を始めたのは…」

 そして、その予想は当たってしまったのだ。


「…あぁ、ツルギノマヒの現王だ」


「な、何で、そんな国を復興させれるほど賢くて、優しい方が、どうしてこんな過ちを……」


「俺だって知りてぇさ。知りてぇから戦って、救うんだよ。そのために命をかけて皆戦う。俺達のような存在を増やさないためにな。もし、この戦争の果てに、ツルギノマヒが崩壊し俺達の救いがただのエゴに変わっても、俺達は自分達の行動に後悔はしねぇ。隣国を滅ぼした罪ある国と(うた)われようとも、それを背負って、この先また同じ過ちが起こらぬように、前を向き続けるだけだ。この先の未来を生きる者達の為に、それが、今生きている者たちの義務だ」


 未来のものに託すための義務。ドグは、僕と同い年のはずだ。それなのに、いやドグだけじゃない。色んな人が自分の命の上に、新たな命を芽生えさせようとしている。恐怖や悲しみを超えて、新しく生まれる子供たちのために。それは、良い事なのかもしれない。でも、喜びと同じように、大きな悲しみが見えている。


「……」


「セイ、お前…」


「ごめん、な、さい。本当に、僕は、勝手、ばっかりで。でも、でも、止まら、ないんです…」


 正は、自分の感情が何を思っているかも分からぬままに、目から何度も何度も涙を流していた。ドグは、低いながらも、優しい声で語りかける。


「…なぁ、セイ。だいぶ話がそれちまったけどよ。俺がお前に伝えたい事は、戦う必要はないって事だ。お前は兵士じゃねぇ、俺でもねぇ。何かを感じて、涙を流しちまってるその情けない顔が、何よりの証明だ」

「……はい」


「殺すことを躊躇えない俺達が信じられねぇなら、それでも構わない。それも俺達の覚悟だ。前に進むってのはな、戦うだけじゃない。お前なりの覚悟って物を、見つけるだけで良いんだよ」

「僕、だ、けの」


 僕だけの覚悟、一体、どこに。


「あぁ、お前のその感じる心が、優しさが辿り着ける場所を見つけろ。見つけちまえば、お前の心がそれを、迷いの果てにきっと掴む」


 そう言うとドグは立ち上がり、まだ涙の止まりそうにない正の前で、自分の胸に手を置いた。


「自分の人生の決断ってのは、どんな言葉を貰っても、どんな絶望に出会っても、どんな希望に会っても、結局はここが決めるもんだ」


「ドグ、さん?」


「自分を信じろ。誰かが信じて欲しいと口にしたなら、それに対するお前の思考を、その気持ちを信じるんだ。自分との向き合い方は、もう分かるだろ」


 ……あぁ、そうじゃないか。僕はその言葉を、もう既に彼女からも言われている。



―いつかちゃんと、天野君がその心と向き合える日が来て欲しいって、私は思うんだ―



 僕は既に、二度救われているんだ。無駄にしちゃいけないんだ。少しずつでも、僕は。


「…はい!」

「よし」


 そう言うと、ドグはついであった料理のうち正の分を手に取り、正へ差し出した。


「分かったんなら、飯にするぞ。料理は熱が命だ」

「…いただきます」


 正はその料理を手に取り、一口、二口と夢中になって食べる。少し冷めてしまっていたが、味は驚くほど美味く、安心する味だった。


「美味いだろ?」

「はい、とても昨日あんな事をしたドグさんが作ったなんて、信じられません」

「おいおい、まだ引きずんのか?」

「納得したわけじゃありませんから、それでも、もう大丈夫です。このスースーしちゃう目が、受け止めてくれました。悲しみも、憎しみも、疑問も、全部。だから、大丈夫です」

「そうか、危なっかしい大丈夫だが、俺達はそんなお前でも守るだけだ」

「はい、ありがとうございます」

「…おかわり、いるか?」


 ドグは正の空になった器を見ると、お玉を手に取る。


「あはは、お願いします」

「やっと笑ったな。おら、どんどん食えよ」


 そう言うとドグは山盛りに注ぎ、正へ手渡していく。


「そんなに食べれませんよ」

「食え、だからちっせぇんだよ」

「う、痛いところを…」

「はは、図星だな」


 ドグと正は食事をたらふく食べ終えると、それぞれの寝床へと戻っていった。愛は正に何を言うかあたふたしていたが、その不安に対して正は笑顔を見せ、気の遣い合う雰囲気はその場で完全に無くなった。


 いざ寝る時になり、正は落ち着いた気持ちでよく状況を考えてみると、女の子と一つ屋根の下という状況に気づき、一睡も出来なかったというのは、陽の昇りが伝える事となった。

実際は、中身を書くのに、時間がかかりました

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