まだ弱くたって良い
投稿遅れました
何故かって言うと
歌ってました
第十二の旅「考える時間」
この世界に来てもう四日目に入ります。段々と環境にも慣れてきました。今は五人で旅をしています。天野君は朝から一言も喋りません。私が話しかけると返事をしてくれるのですが、自分からは何も言わないんです。
「…まだ何も喋らねぇのかセイは」
「最初はそんなもんだろ。あんな目にあって平気な奴なんていねーっての」
「ったく、空から降ってきた野郎共は全員あんなになよっちいのかぁ?」
「まぁ、このチェック様みたいに耐性でもなきゃ、ド素人はあぁなっちまうんだよ」
チェックはまたドヤ顔で自分を褒め称えている。
「おめぇは穴に落ちてただけだろうが借金」
「え、待って、俺もう借金で定着しかけてんの?」
「全く、借金は本当に使い物になりませんね」
「ワ、ワン!?お前ってそういう事言っちゃうのかよ!?」
「後四日もこの調子になるかもな…」
「精神的に面倒な旅になりそうだね。僕はこういう空気嫌いなんだけど」
「あ、無視、うんだよねぇ。分かってたよ、あれだろ?もう俺そんなポジションなんだろ?良いよ俺慣れてるから別に良いよ」
チェックが二匹の対応に対して半べそをかいていると、彼の肩に手が置かれた。
「ん?」
「チェック様、お気になさらないでください。英雄とは孤独な物なのですから…」
その手の正体は愛であり、また迫真の演技で何かを始めたようだ。
「おぉ、アイ君、我が下僕…君だけだよ俺の事を分かってくれるのは…」
(いや、ただ単に天然的な憐れみを向けられてるだけだろうが……)
「私は、私はチェック様を、信じてますから!!」
「おぉアイ君!」
「チェック様ぁ!」
がしっ!
二人は完全にその場の雰囲気を作り上げ、悲しみを分かち合うように抱き合った。
(もうマジであの馬鹿共置いてくべきなんじゃねぇのか…?)
ドグは後先の不安を目一杯に募らせながら、正の方を見てみると、やはり一言も喋る様子も笑う様子もなく空を見上げて歩くのみだった。
(今気にかけるべきは、こっちの方か。何とかしてやるしかねぇんだろうなぁ。あの時期ってのは、色々考えちまうもんってか)
ドグは、自分が歩めなかった道をセイが進もうとしているのを感じ取り、何とも言えない気分になった。
「……」
僕は向き合うと決めた。でも、やっぱりいざ彼らの前に立つと、恐怖と不安が込み上げてくる。本当に味方なんだろうか、彼らは僕らを生かすのも殺すのも簡単なはずだ。
このまま僕が今の行動を続ければ、見捨てられるんだろうか。だってそうだよ、会って三日であんな、あんな表情見せられたら誰でも怖くなるに決まってる。
明日見さんは見ていないから、あんな態度ができるんだろうか。それとも彼女なりに、色んな部分を見つめて、もう信じられているんだろうか。
僕には無理だよ。まだ、そんなに。
「なぁ、セイ」
「…?」
「俺らが信用できねぇか?」
僕の隣には、さっきまで明日見さんとふざけ合っていたチェックさんがいた。
「チェック、さん」
「はは、ぎこちないなぁその呼び方。……まぁ無理だよな、最初はどうしてもよ。俺でも無理だ。でもそれでもよ、信じてやってくんねぇか?あの二匹のこと」
「…あなたは彼らじゃないのに、どうしてそんな事を言いに来たんですか」
「ん~、そりゃあ、空気が悪いから、だな。悪いって言うのはつまり悪って事で、悪ってことは俺が倒すべき存在だろ?」
「……馬鹿馬鹿しいですよ」
「そんなこと言ってたら何も変わらないだろ。俺だって手を汚すことがある、それには理由だってちゃんと」
「理由があれば、殺しても良いんですか!」
「おっと、こりゃ参ったな…」
チェックは少し考えた後、目つきを変え、正に言う。
「一日やるよ」
「え?」
「ゆっくり考えてみろ。時間が必要だろ、覚悟するためには。あんな即決しろって言われても、付いて行くってしか言いようがなかったもんなぁ、あの時は。もし、お前が考えて考えて、前に進む勇気を手にできたなら、改めて俺と一緒に英雄になろうぜ」
「…僕は時間があったとしても、確かな答えなんて」
「出せないって、まだ言うなよ。そのための一日だ。気負わずに考えて、もし無理だって思ったら、俺らが守ってやるよ。お前が信じようが信じまいが、俺らには正義の心がある。相手がどう思ってても、救えるならお構いなしって奴だ」
チェックはそう言うと、また無邪気な顔に戻った。
「……どうして、そんなに強くいられるんですか」
「おいおい、初めから誰でも強いと思うか?」
「…え?」
「これから強くなんだよ、少しずつ」
チェックはそのまま正の頭へ手を乗せて一言だけ、
「なっ!」
と言った。そして笑うと何も言わずに、またドグ達の元へ戻っていく。
「一日……」
時間を貰った、短いが確かな時間を。短くても長くても、行き着く答えは一緒なんだろう。なら、十分な長さだ。僕はこの先、自分の気持ちに、行動に覚悟を持たなくちゃいけないんだ。受け止めて前に進むか。拒絶して守られるか、それだけだ。
そう思いながら正は一人で、また彼らの後ろを辿って行く。ただ無言で、気持ちを抑えながら、辿って行った。




