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(旧)レターパッド  作者: センター失敗した受験生
第四章 ライプ・ビルクリア編
54/63

気付き

第十一の旅「見えない世界が沢山見えた」


―ライプ ピンピの部屋 風呂―


 水希はトレーニングの後、汗を流すために風呂に入っていた。


(はぁ…、今日はちょっと無理矢理戦いすぎたかなぁ。でも、隼人に言われたとおり、これが予兆なら動きはかなり慣れてきたけど。ルイさんトレーニングが終わる毎に目キラキラさせてるのよねぇ。また、レベル上がるのかなぁ)


 水希は湯船に浸かりながら、今日一日のことを思い出していく。


(でも、隼人とのチームワークも取れるようになってきた、まだトレーニング二日目だけど、これは良い成長よね。元々一年前の頃からその辺は問題なかったし!)


 一年の頃から少し伸びた髪の毛を弄りながら少し息を吐いた。


(隼人、長老様のところ行って、少し変わったなぁ。まだ数時間なんだろうけど。今日は、やっぱりちゃんと隼人と話せた気がするな。口喧嘩もなかったし、何だか笑顔も優しかったなぁ)


 隼人の変化を嬉しく思いながらも、水希はその背中がまた一歩遠ざかっていく気がして、寂しさも生まれた。だからこそ、隼人の事を思い返してみた。


(やっぱり、隼人は凄いなぁ。いつもうちより前にいて、追いつくのに精一杯。全然気付いてくれないし、恥ずかしいから強がると喧嘩ばっかだし、でもたまに優しくて実は優しくてそんな所も良いかなぁって思ってるわけだけど、でもやっぱり澄ましてるし、今日は違ったけどいつもは大人のフリした子供だもん!)


 しかしそんな風に言い聞かせても、彼女の中では今日は違った、というのが気にかかった。自分はこれからも彼の隣にいようとできるのだろうか。これまでも良く見てきたつもりで、過去の彼なら良く理解している。きっと自分だけとは言わないが、数少ない良き理解者の一人だと思っている。


 でも、隼人は前に進もうとしている、自分を変え、進化しようとしている。今の隼人の目はそういう目だ。きっと隼人はこれから、もっと人として良くなっていって、皆に理解されるのだろう。そのとき自分は、傍にいれるのだろうか。


 こんなことを思う自分はやはり、


「やっぱ…好きなんだよ、うち……」


 水希は深いため息をつくと、浴槽から上がり、髪を乾かすことにした。


 後のことはひとまず分からない。とりあえず今を必死にやってみなくちゃ。そうだよね、お父さん。





―ライプ ピンピの部屋 リビング―


 髪をある程度乾かし終え、髪を下ろしたままリビングに戻ると、そこには隼人がいた。


「おぉ、水希、髪下ろしてんのな」

「え、うん。少し…伸びたかな?」

「そうだな、いつものポニテも良いけど、そっちも似合ってんぞ」


 隼人はまた笑顔で言った。それは一年前のものに似ている。しかし、それと同じではなかった。


「ありがと。たまには色々、髪形変えてみようかな…」

「おう、つーかお前ってさ、今更だけど、よく見てみると可愛いんだな」

「へ、へ!?は、隼人、な、何言ってるの!?」

「ん、何って、事実だろ?周りからよく言われてんだから、今更驚いてんじゃねぇよ」


 隼人はそう言い、水希のおでこを突っついた。


「そ、そう言われても、今まで隼人にそんなこと言われたこと、ないし…」


 水希は赤くなる頬を必死にタオルで隠す。


「そうだな、そうかもしんねぇな」

「…隼人?」

「今日一日だけでもよ。見えない世界が沢山見えた。自分の足りない部分、必要な部分。人は見かけによらないし、見ることの出来る世界はもっと広くて、色んなもので溢れてるんだよな」

「うん、そうだよ、皆上辺だけじゃ分からないんだよ。だから、うち、隼人がアスちゃんやミークちゃんと楽しそうに笑ってるの、凄く嬉しかった。やっとね、誰かのこと、隼人が見てくれてる気がしたの」


 水希は隼人の横を通り過ぎ、ソファの上にゆっくりと座った。


「そうだな。お前の言った通り、あの二人は確かに特徴的っつーかさ、子供だから無邪気に心を見せてくれた。きっともっと皆、知ろうとしなきゃ見えない何かを持ってるんだろうな。知ろうとして、心を開いてくれれば、違うそいつが見えてくるんだろうな」

「知るの、つまらなくなさそうでしょ」

「だな」


 隼人は活き活きとした表情で話を進める。


「それに、今日のトレーニング。一回目の時は本気で、別の意味で周りが良く見えてたんだろうけど、今日は自分から見れた気がすんだよな。後はこれを自然と自分のものにしていくだけ…。だから、提案してくれて感謝してるぜ、水希」

「うちは自分でも足りない気がしたから言っただけだよ。ちゃんと見ようとしたのは隼人でしょ」


 隼人はそんな水希にヤレヤレといった手振りをつけて言葉を返す。


「あんま褒めると調子に乗っちまうぞ。よく知ってんだろ。お前はちゃんと俺のことを見てくれて、そして、知って…くれてんだからよ」

「…もしかして、自分も知ろうとしてさっき可愛いって言ったの?気付いた点その一みたいな」

「わりぃかよ。…なんつーか改めて見てみんのは、ちょい、恥ずいわ」


 そう言うと隼人は少し照れたようにそっぽを向こうとした。


「ふふ、何かこっちまで恥ずかしくなっちゃうよそれ。でもありがとう。嬉しい」


 その言葉を言う水希が隼人には、今までとは全く違って、良く分からない気分させられる顔をしているように思われた。その感情は、心臓の鼓動が早くなる、不思議なものだった。


「な、何か眠くなってきたから今日は寝るわ。よっしゃ、明日も頑張ろうぜ、うっしおやすみ!」


 そう言うと隼人は急いで寝室の方へ去っていく。


「うん、うちも頑張るよ。おやすみ隼人」


 水希は去っていく隼人の姿を見届けると、今日知ったことをノートに書き写していった。 

風呂は一人で落ち着ける場所のひとつなので大好きです

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