たまには良いよね!
戦闘回
第十の旅「行くぞ」
「よし、レベルを上げるぞ」
「うっす!」
「任せてください」
隼人と水希は、まだ三日目ではあったがもうレベル4までこなせるようになっていた。レベル4は普通の者なら一ヶ月はかかるレベルであり、二人の成長速度は異常だった。
「二人は身体能力がとても高い。それに任せてテクニックを厳かにするな。では、砂漠レベル5、スタート」
ルイの声と共に視界は変わり、隼人と水希は砂漠の中にいた。隼人はナックルを、水希は弓を装備として持つ。
「うわっ、暑さまで再現かよ…」
「ただでさえこのスーツピチピチでちょっときっついのに、この暑さは…うぅ」
「まぁ、しゃあねぇだろ。砂漠の空も悪くねぇ。雲ないしな」
「確かに、景色は最高ね。あんなのがいなかったらだけど」
一面に広がる砂漠には、何体かの巨大なサソリに加え、土からミミズのような、でも大きな口のあるモンスターが数体顔を出している。
「何だあの面構え」
「あれはワームとデザソリよ。うぅ、気持ち悪い」
「ちんちくりんな名前だな、それぞれ四体くらいか。俺が突っ込むから援護頼むぞ」
「はいはい、分かってるわよ」
「じゃあ行くか!」
隼人が駆け出すと、ワームは皆土の中へ潜り、デザソリも同様に三体視界から消えた。
「え、ちょ、そういうのあり?」
「隼人、下から来るわよ、気をつけて!」
「んなもん分かってってうぉっ!?」
急に隼人の立つ場所の少し横から、砂埃を立てつつワームAが現れる。口でそのまま隼人を丸呑みにしようとしたが、水希が即座に矢を放ち、ワームAに攻撃を仕掛けた。
水希の攻撃でワームAに矢が刺さり、怯んだところをすかさず隼人は殴り飛ばす。ワームAはそのまま光の粒となり消え去った。
「あっぶねぇ。サンキュー水希」
「今までどおりのレベルとはまた違うんだから、気をつけてよね!」
「今のでちゃんと分かったよ!」
会話をろくにする間もなく、土の中から、身体を回転させデザソリBが攻撃してくる。しかし隼人はその回転の速度を見切り、鋭利な爪に当たらぬようタイミングを見計らってデザソリBの頭部を上へと蹴り上げる。
それだけで終わることなく、驚異の速度で隼人は、未だ宙に滞在するデザソリBをナックルで勢いをつけ飛びかかった。
一方で、デザソリBに夢中になっている隼人をワームBやデザソリAが狙おうとするも、水希が放つ矢により二体は動けず、必死に矢を避ける。
デザソリBが消えると、隼人は水希が足止めする二体にすぐに応戦し、軽く片付けた。
「くっそまだ四体か?」
「もう四体でしょ、ほら来るわよ」
そう言うと水希は矢を後ろに放ち、背後から迫るワームCの急所へそれを命中させた。
ワームDも同様に、砂漠での動きに慣れた隼人は、その巨大な口に恐れる事なく近付き、一気にフックで殴る。そしてワームDの動きが遅くなった瞬間一気に回し蹴りをきめた。
「おっ!決まるもんだな!」
「相変わらず力任せっていうか、攻撃手段は変わってるけどワンパターンよ。最初の頃はもっと考えてたんじゃない?」
「ん、確かにお前のサポートありきかもなぁ」
「いや、そういう意味じゃなくて、芸がないの。てことで最後の一体はそれぞれ各自で仕留めよ。うちも練習したいし」
「うーん。はいよ、それもそうだな。ちょっと考えてみるわ」
「うん!」
隼人がデザソリCの方を向くと、デザソリCは口の中に大量の砂を含んでいる。
「げっ、何かするつもりかよ…」
隼人がそうはさせまいと近づいてくると、デザソリCは一気に口から砂を放出し、それが隼人の視界に舞う。
「そういうのありかよ、見えねぇっつーの!ん、てかこれ俺が最初にリザードマンにした事と同じか。だったら」
考えろ、正面か地中か。いや、俺だったらその二択をまず相手は警戒すると思うだろう。こいつらだって知能はある。そう甘くはないはずだ。そしてさっきまでの戦いをこいつがきちんと見ていたのなら…。
隼人は自分の考えにかけ敵の姿が見える前に大きく横へ飛び込んだ。受身をとり、自分のいた方を向くと、そこには地面をハサミで突き刺すデザソリCがいる。
(あっぶねぇ、やっぱ後ろかよ)
しかし、避けたは良いものの、地面に手と足を着けている隼人の状態を見逃す事もなく、デザソリCはハサミで何度も隼人を狙う。突きからの尻尾による振り払いにより隼人は吹き飛ばされた。
「っぐ!?」
砂漠の上を身体が転がっていく。
(いってええええ。うお!?)
しかし、止まることもなくデサソリCすぐさまこちらへ向かい、攻撃は続いた。回避一択の状況に追い込まれ、隼人は何ができるか思考を巡らせる。
(こいつが地面を刺す瞬間、砂埃がだいぶ舞ってんな。尻尾も機械的に上下させてる。そんでもって俺がこいつを背後から攻撃するなんて、普通に考えれば不可能…)
「だったら…」
隼人は前のゴブリンに使った時のようにデザソリCを挑発した。するとやはりイラついたようで、さっきよりも突き刺す速度が早くなる。
(かかったか。こっからだな)
その攻撃を交わしつつ、隼人は逃げ回るのではなく、位置を決めて攻撃をかわしていた。砂埃が段々と隼人とその周辺を包み込んでいく。
しかし、デザソリCも流石に隼人の動きのパターンが読めたのであろう。行動を先読みし、そこへ攻撃を加えていった。
(うぉ、あっぶね!でも、準備完了っぽいな。砂埃きっちぃ…)
隼人はあえてデザソリCの懐付近から飛び出し、全力で背後へ回り込む。しかし、何度も突き刺し続けたために隼人の姿を結果的に見失っていたデザソリCはそれに気付くことはなかった。
(いける…)
隼人はそのまま背後へ辿り着くと、上下に動く尻尾の、先端部分にある少し広い部分へタイミング良く思いっきりジャンプした。
見事そこでの足場を確保し、そのまま上に上がる勢いに合わせ隼人も跳ぶ。デザソリCが背後に気付いた頃には隼人はすでに上空へいた。
「この手は読めなかったろハサミ野郎があああああ」
そのまま隼人は叩き潰すように上からパンチをきめた。その衝撃で周囲に砂埃が舞い、その中心に隼人は立っている。どうやら仕留めたようだ。
「っしゃああああああ片付けたああああああ!!おおおい水希いいいいい、い?」
隼人は喜びのあまり歓声を上げながら水希のほうを見ると、どうやらまだ戦っているらしい。デサソリDの尻尾からは針のようなものが発射され、それを回避するだけで精一杯のようだ。
(んもぉ、何なのよこいつ、しつこい!)
水希が行く所全てに針は絶え間なく発射され、水希はやわ放つタイミングを作れない。かろうじて隙を見つけ放っても、それは尻尾ではじき返されてしまった。
(やっぱ隼人いないとうちもきっついなぁ…)
水希は強行手段をとるべきか悩んでいた。それをしてしまえば隼人と同じな気がする。でも、いつもは考えた動きだし、たまにはいっか!
水希は覚悟を決めると矢を取り出し、手に持つと一気にデサソリDの方へ走り出した。柔軟な身のこなしで左右に動きながら綺麗に針を回避していき、少しずつ距離を詰める。
後ほんの少しの位置までたどり着くと、水希の足元をデサソリDが狙うのを利用し一気にジャンプしながら回転することで動揺させ、そのまま一気に頭部へ矢を突き刺す。
デサソリDが痛みにより、もがいているのを機に、水希は着地するとそのまま短剣を取り出して切り上げた。
「これでやっと狙えるわ!近遠両方、うちの勝ちってことで♪」
そう言うと矢を弓につがえ、ゼロ距離で矢を放つ。それによりデサソリDは絶命し、光となって消えていった。
「ふぅ、終わったぁ…」
「お疲れだな」
水希の方へ砂などでボロボロになった隼人が駆け寄る。
「クスクス、ちょっと隼人ってばボロボロじゃん。大丈夫?」
「こんくらい余裕に決まってんだろ。なかなか良かったぜ今の」
「あらら、見られてた?」
「ばっちりとな」
「い、いつもはあんな戦い方じゃないんだよ!?」
水希は強引な部分を見られてしまった気がして慌てふためいた。その反応を見て隼人は笑顔になって答える。
「分かってるっての。ほら、一旦休もうぜ」
「え、う、うん」
「行くぞ」
そういうと隼人はヘルムを外し部屋を後にしようとする。水希はそれに、三歩離れてただ付いて行った。




