僕からの僕
正はやっぱり主人公の一人なので、しっかりと書きたいです
第九の旅「誰かからの僕」
(ここは…どこだろう。僕は…)
正は目が覚めると、どこかの部屋の中にいた。どうやら、部屋というよりテントらしいサイズは大きい。
周りを見てみると、そこには誰もいなかった。何故こんな所にいるのだろうか。
(何で、こんな所に)
正は、ここまでの経緯を思い出そうとしてみた。
(そう、僕は確か昼間、誰かに囲まれて…)
光景を思い浮かべると、正の頭の中は一瞬にして真っ赤に染まる。
(血…だ。血…はっ!?)
正は一気に昼間の記憶が呼び戻った。盗賊の一名ずつの死がどんどんと脳裏に迫る。
「あっ、あぁ…はあぁ、血、血が、血が流れて…死、死んで」
「天野君!」
「だ、誰っ!?」
視界は一気にテントの中へ戻り、声の元を見ると、そこには明日見さんがいた。
「起きたんだね!良かった…。昼間、倒れちゃったの、覚えてる?」
(昼間の事?そうだ、僕は、僕はたぶんあの光景が)
「む、無理に思い出さなくても大丈夫だよ!」
明日見さんはそう言うと、僕のベッドの横にある椅子に座った。
「明日見…さん?」
「大丈夫だよ。苦しいから、見えなくなったんだよね。天野君が倒れた時、また、泣いてた」
「ぼ、僕は、見たんだ…」
「うん、分かってるよ。全部聞いたんだ。守ってくれて、ありがとう」
「そ、そんな…」
明日見さんは少し目に涙を浮かべ、優しい瞳を僕に向けた。
違う、そうじゃないんだ。僕は、僕は君にあんな事があったなんて。
「天野君は心が、優しいんだね」
「え…?」
「今だって、自分が苦しくて、吐き出したい何かがあるはずなのに、私の事を気遣ってくれてる。天野君はきっと、自分で思ってるよりも優しくて、周りのことを大事に思ってるんだよ」
そんな事はない。それは君が人を、誰かを優しい存在として意識してしまうからだ。僕は君なんかとは違う。僕は、この世界にあってもなくても良い人間だ。でも、君は違う。君は綺麗な優しさを持っている。僕はそれを壊したくなかった。あれを君が見たら、それが壊れる気がして…、それが怖くて。
「気にしなくても良いよ。私は大丈夫だから。天野君が心に思ってる事、声に出しても良いんだよ」
「僕の思ってる事…」
「うん、自分の心だけで、終わらせちゃ駄目だよ。そうじゃないと天野君は意気地なしって、勘違いされちゃうから」
「…僕は意気地なしだよ」
そう、僕は弱いんだ。
「現に、明日見さんに、何で嘘をつこうとしたのか、その理由も言えないし、今も明日見さんが、何か言葉をかけてくれるのを待ってる。僕は卑怯で、弱虫だよ」
テントの中には、一時の沈黙が起こる。僕はそれ以上に何も言えなかった。
「……私は、天野君の事、よく知らないよ。こうして話せるようになったのもつい二日前だもん。でもね、この二日ではっきり分かる事があるんだよ」
「分かることって…。僕は何かを持っているような人間じゃ!」
「涙」
「え…?」
「今も天野君は、心で泣いてる。私の事で悩んで、臆病になってくれるように天野君は、人の言葉を、心を大事にしてくれる。自分では否定してもね、周りの人にはすぐ分かっちゃうよ」
明日見さんの小さな手が、優しく僕の手を握っていく。その手はとても温かかった。
「そ、そんな事が、どうして分かるのさ。僕の都合の良いように捉えすぎだよ…」
「私はありのままの天野君を話しただけだよ。雷陣君が天野君に心を開くのは、きっとそんな一面がちゃんとあるからだよ」
「隼人が僕に心を開いてる…?」
[そう、今は多分私の言うことなんて、こんな浅い関係じゃ信じられないと思う。でもね、いつかちゃんと、天野君がその心と向き合える日が来て欲しいって、私は思うんだ]
「心と、向き合う」
僕は、自分の胸に手を当ててみた。ここに、本当にそんな自分がいるのだろうか。意味のある自分がいるのだろうか。
「うん。ゆっくり時間をかけていけば大丈夫だよ。今日のこと、そしてこれから起こる事、私も向き合っていくから、天野君はもっとずっと苦しいと思うけど、一緒に向き合っていこうよ」
この手を握り返せば、僕はこの世界に立ち向かえるのだろうか。ここで起こる事に向き合えるのだろうか。結局は、また、彼女の優しさに甘えるだけなんじゃないだろうか。いや、それでも構わない。それが僕の意味だって彼女が言うなら。
「ありがとう明日見さん。少しだけ落ち着いたよ。出来るだけ、やってみる」
「うん、それでこそ男だよ!」
「あはは、似合わない台詞だね」
「水希ちゃんが教えてくれたんだ」
「風咲ってロマンチスト?」
「う~んとね、そうかも」
明日見さんのおかげで正気を取り戻しながら、僕は彼女とその日、もう少しだけ話しをした。昼の後、何があったのかや。他の三人はテントが違うこと。今は草原のど真ん中らしいからドグとワンが変わりばんこで見張りをしていること。よくよく考えれば、一日目の野宿は迂闊だったなぁと思わされた。
少しでも自分の心に、目の前で起きた現実に向き合う。多分今は到底無理で、また想像すれば怖くて正気でいられなくなるかもしれない。恐怖だけじゃなく、きっとまだ色んな気持ちがあるそれでも、僕はこの世界でもう少し、
自分のことを学んでみなきゃいけないんだ。
自分に対しての評価って
自分と他人じゃ大きく変わりますよね




