これが…愛!
第八の旅「助け合う」
「ななな何を言ってるのアスちゃん!誰にそんな事吹き込まれたのぉ!?ピ、ピンピさん?それともポンピさんかなぁ!?」
(いや、ポンピって誰だよ)
「ううん、そんなのじゃないよ!あのねあのね、まだ三日目なんだけど、アス的にはね、ハヤトとミズキおねぇちゃんは二人っきりでここまで来たんでしょ!それでそれで二人はとっても仲が良くて、何だか良い雰囲気だから、もしかしてそうなのかなぁって!」
「そ、そんな、う、うちらは普通の仲っ」
「恋…人……」
「へ、ミークちゃん?」
アスの根拠のない言い分に加え、リビングの近くにある暗い部屋からは、どこにいたのであろうミークがひょっこりと顔を出していた。その目はアス同様輝いている。まさか。
「あ、ミーク起きたんだね!ほら、こっちこっち!」
「とっとっ。アス。引っ張らないで。寝起きだから、こける」
アスは全く感情のこもっていない声でこちらにやってきた。まぁアスが連れて来たんだけど。
「ミークとアスはね、色々正反対なんだけど、恋バナだけは好きなの!!」
「お話…好き」
そのミークのモジモジとした表情にハートを射抜かれたのだろう。追い詰められていることも忘れ、水希は幸せそうな顔で身体をクネクネさせている。どんだけ子供が好きなんだよ。
「ま、まぁアス。そんな話は置いといて、俺はミークとも何か話してみてぇなぁ」
このままじゃ色々面倒くさくなりそうだ。ここは一気に話を変えていくしかねぇ。
「ひゅっ、ミ、ミークと。恋バナ?」
ミークは少し顔が赤くなっている。何故だ?
「い、いや、そうじゃなくて、そうだ、ミークが好きなことって何だ?」
「隼人、何のつもりなの?」
「何のって、普通に交流でも深めようかなって思ってよ」
「…隼人が?」
「ん、何かおかしいか?」
「いや、別に」
(隼人が、誰かに興味持つなんて…やっぱり。いや、でもミークちゃんが可愛いからという可能性も!!)
「…?」
「ま、負けないから」
「負けない…?」
きょとんとする眠そうな顔のミークを見る水希の目は、いつの間にか対抗心に燃えていた。
「好きなことする。部屋、来て」
「お、ありがとな」
ミークは隼人の手を引っ張り、寝室とはまた違う部屋へ隼人を案内しようとする。
(い、いきなり部屋なの!?そ、それに好きな事ってまさか…、ミ、ミークちゃんは、うちより、うちなんかより全然大人!?)
水希が少女漫画等で見た事のある、少し大人な光景をひたすら思い浮かべ赤面しながらも、アスが平然と付いていくのに便乗して三人の後ろを歩く。
部屋の中に入り、電気がつくと、そこには人型のロボットと思われる物が中央に一体。その周りにも沢山の小型ロボがいる。四足だったり二足だったり、全て見た目も違うが、どれも本物だ。
「おいおい、んだよこれ…」
「ロ、ロボット…?」
「ふふふー、これはね、全部ミークが作ったんだよ!」
「へ!?ミークちゃんが…?」
「これ、全部か?」
「うん。作った」
そういえばこのライプは機械の文明があると、ルイさんが言っていた。しかし、こんな小さい子がこんなものを作れるなんて…。
隼人は目の前の景色が信じられなかった。
「人は見かけによらないって、こういうときがピッタリなのかもな」
「そうね、皮肉っぽい感じより、こっちがあってるかも」
「ふふー、ミークとアスはね、将来沢山のロボットを作って、一緒に暮らすのが目標なの!アスは全然作れないから、全部ミークが作るんだけどね。でも、アスはこの子達の操作が得意なの!だから、ミークが作って、アスが動かすんだ!」
「へぇ、これまた二人共仲良しって感じだな」
「ミークちゃんの方が、操縦も得意そうに見えるのにね」
「したいけど、ミーク。操縦、できない。だから、アスがいる」
そう言うとミークはスタスタと中央のロボットのほうへ歩き出し、その胸の部位に優しく手を当てた。
「この子の名前、アーク。二人の名前、ちょっとずつ」
「へぇ、良い名前だね」
「でしょ、二人で考えたんだよ!」
「うん、きっとこの子も喜んでるよ」
水希はアークの目の部分を静かに見つめる。
「にしても、お互いにどっちかを補えるってのは、良い事だな」
「オギナウ…?」
「ハヤト、それどういう意味なのー?」
「ん、あぁ、補うっていうのは、う~ん。助け合うってことだな」
そう言うと二人は感心したような顔をする。
「助け合う。長老様も言ってた」
「ん、クソジっ、長老がか?」
「うん!アスとミークは二人でいれば完璧だって。どんなヒトもね、一人じゃ生きれなくて、誰も完璧じゃないから、助け合って足りない部分を助け合うことで、優しく生きていけるんだって!」
「そうだね。助け合う心って必要だよね。人だけじゃなくて生物は、一人じゃ弱いから、相手のことをきちんと知って、分かり合って、助け合って、育っていくもの。でしょ?隼人」
水希は二人の言葉を繋ぐと、こちらへ笑顔で答えを求めた。
「水希…お前」
「これから、知っていくんでしょ」
「んだよ、全部分かってたのか?」
「ふふ、女の勘ってやつ」
水希はこういう時だけ察しが良い。
「ね、ねぇミーク。これは、どういうものなのかな」
「意思疎通。これが…愛!」
二人の意味ありげな会話を、意味も分からず聞く二人の幼女は、顔を見合わせながら、最終的に勘違いの結論を出すことで、納得の笑顔を見せ合った。
―ライプ 廊下―
「いつからだよ」
「言い合いが酷くならなかった瞬間から」
「人がわりぃなぁお前も」
水希は少し上下に隣を歩く。何で嬉しそうなんだよ。
「一歩前の隼人を思えば、うちなんて可愛いもんでしょ」
「あはは、反論できねぇ」
「まぁ、無理する必要はないと思うよ」
「無理しなきゃ駄目だから、俺はお説教食らったんだろ」
「駄目って言うよりも、そっちの方が楽しいからじゃない?」
「楽しい…?」
楽しいとは、一体なんだろうか。
「うん、楽しい。二人と話してるときの隼人、笑顔だったよ。作ってなかった」
「作ってるって…、そんなにバレバレかよ俺の表情」
「ううん、隼人は、演技も上手だよ。勉強以外なら何でもセンスあるしさ」
「勉強できなくて悪かったな。つーか、じゃあ何でそんなに分かんだよ」
「うーん、いつも見てるからかな」
「ん?」
水希はこちらを見つめると、また笑顔で言った。
「うちはどんな隼人でも、いつも見てるよ。隼人が本当は必死なのも、うちは分かるよ」
「俺を…お前が」
「うん、うちは……ううん、うちらは友達、でしょ?」
「え、あぁそうだな。ありがとな、水希」
「ううん、うちは何もしてないよ。それより行こ、遅くなっちゃうと、ルイさん拗ねちゃうよ」
そういうと彼女は廊下を少し駆け足で進みだす。その彼女の後姿を、俺は大して知らないのかもしれない。でも、彼女は俺の背中を、表情を、心を知っている。
俺が知ろうとすれば、あの二人のように、足りないものを助け合えるのだろうか。世界が、広がるのだろうか。
分からないが今はとにかく、一歩前へ踏み出すべきなのだろう。
隼人は水希の背を追いかけるように、トレーニングルームへと足を早めた。
物語の展開が相変わらず遅い受験生




