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(旧)レターパッド  作者: センター失敗した受験生
第四章 ライプ・ビルクリア編
49/63

どうして平気でいるんだろうか

第六の旅「見た事のない生命」


 僕らは歩き続けている。まずはビルクリアを目指して。初めは草原を歩くのも良いものだと思っていたけど、それはきっと昨日と状況が違いからであって、結局のところ疲れてきたら、だんだん嫌になってきた。


「ここから先は、タテノツキの防衛圏外だ。盗賊やモンスターなんざ幾らでもいる。気をつけろよ」

 

 ドグはそれだけ言うと、また黙々と歩いて行く。モンスター、それは一体どんなものの事を言うんだろうか。ダスさんだって、下手したらモンスターになるんじゃないだろうか。何だかよく分からない。


「なぁドグ、ビルクリアにはどんくらいで着くんだよ」


 チェックは少しへばっているように見える。本当に冒険家なのかな?


「まぁ、四日、五日だろうな」

「えっ、そんなにかかっちゃうんですか!?私大丈夫かなぁ」

「おいおい、威勢よく付いて来るっていったんだから、泣き言は言うんじゃねぇぞ。チェックもな」

「おいおい待てよドグ、このチェック様が疲れるわきゃねぇだろ。ほら、ちゃっちゃと行こうぜぇ!」


 そう言うとチェックは走り出す。絶対後でへばる。


「おい、いきなり走ってんじゃねぇ、この辺は危険ってさっきも言っただろうが!」

「へへ~ん、大丈夫だっての、俺様は最強だかっ、うをぁ!?」


 前を走っていたチェックの姿が突然消える。


「え、チェックさん?」

「おい、チェック!」

「んだよこれ、落とし穴か!?」


 何が起こったのだろうか、ワンとドグはすぐに僕らを守るような状態に入った。


「ドグ、僕が後ろを見るから、前を頼んだよ」

「しくじんじゃねぇぞ、ワン」

「安心しなよ」

「来るぞ」

「セイ、アイを守ってあげて」

「へ?」


 すると、何かを放つ音がし、それは真っ直ぐと僕のほうへ飛んだきた。


「ちょっ!?」

「あわわ!」


 正は咄嗟に愛を地に伏せ、自分もそれに続く。放たれた矢はどうやらワンが弾いたらしい。


「これ、本物なの!?」

「す、凄ーい…。一杯いるよ!皆、何しに来たんだろう」


 周りを見渡してみると、約十人ほどの、武器を持った者たちが囲んでいた。多分ゴブリンにヒト、オーク、後はリザードマン一体に大きな巨人だ。その巨人の皮膚の色は赤く、肉体も恐ろしく強靭に見え、大きな棍棒を持っている。明日見さんはこの状況が理解できていないらしい。そもそも、矢が目に入っていなかったのだろう。


「うわ、タイタンもいるんだ。骨が折れそうだね」

「ありゃぁお前に任せてやんよ」

「ちょっ、ドグそれ本気?」

「あたりめぇだろ」


 賊は皆準備が整ったらしい。ドグとワンもそれぞれ使い込まれた大きいアックスと、美しいレイピアを手に構える。


「ミナゴロシ、カイシ」


 タイタンが命令を下すと、やつらは一気にこちらへ迫ってきた。


 ヒトAが弓を再び放ち、ワンがそれを見事に右手のレイピアで弾くスキに、ゴブリン二体は姿勢を低くし突きを繰り出そうとする。しかし、ワンは左手に持ったレイピアを素早く逆手持ちにすることで、その内の一体の首元へとそれを刺す。もう一方はドグがアックスで切り飛ばしカバーした。


 もちろんゴブリンだって生きているわけで、切られた時にあふれた血が僕の顔に少しかかった。


「血…?」


 このときはまだよく理解できていなかったが、僕は意識せずに明日見さんの頭を、この光景が見えないように強く抑えていた。


「ちょ、ちょっと天野君、少し痛いよ」

「見ちゃ駄目だ」

「え?」

「見ちゃ駄目なんだ」


 豚顔のオーク三体のうち、二体とヒトBが間髪いれずに迫ってくる。オークAのメイスをドグはアックスで受け止め、オークBのクナイをワンが手ごと切り捨てる。そしてそのままドグのほうを向き、オークAの背中へレイピアを突き刺した。


 オークAの生気が消えていくのを確認すると、ドグはメイスを弾き飛ばし、ワンの横をそのまま越えてアックスをオークAへ振り下ろす。


 やはりドグの武器が大きいのもあるのだろう。オークAからは血が噴き出し、その返り血をドグは冷淡な表情で浴びていた。


「ちきしょおおおお!!」


 ヒトBがロングソードを振り回し威嚇する。それに気を取られていると、背後からまたオークCとゴブリンCが切りかかろうとする。しかし、それも全て見えていたのだろうか、ドグはアックスを後ろへ大きく振り、二体を軽々吹き飛ばす。


 そんな理解できないような光景に呆気に取られていたヒトBを、目視できるか分からない早さで、ワンが斬り殺した。


「あ、がっ、クソッタ…レ……」


 その言葉だけ残すと、ヒトBは地面へと倒れる。


 一瞬だった、一瞬で賊は残り三体のみになった。


 ヒトAは呆然と立ち尽くし、リザードマンのみが戦闘状態になっている。


「ワン、ちゃんとあのデカブツ潰せよ」

「ドグこそ、あんまり草原を汚さないようにね」

「そいつは無理かもしんねぇなぁ」


 そう言うと二匹は一斉にそれぞれの対象へ向かっていく。


「おぉらよおぉ!」


 ドグのが、ジャンプし勢いをつけた大振りを素早くリザードマンは回避し、臆することなく切りかかる。また、ドグは無駄なくその攻撃をよけながら、隙を見て相手の剣をアックスで受け止めたのち、片手でリザードマンの顔面にパンチを決めた。リザードマンは大きくよろけながらも体勢を立て直す。


 ドグは先程から、アックスを最小限動かすことなく刃のない方を地面に軽く引きずりながら戦っている。防御もアックスの巨大さを利用し、それを地面に突き立てることで防ぎながら、自分は自由に動けるようにいているようだ。凡人には到底出来ない動きが洗練されているように見える。事実そうなのだろう。


 しかし、リザードマンも負けてはいない。剣で突くような動作を重ねることででフェイントをかけ、ドグがひるんだ所をすかさず盾を前に構え突撃する。だが、その動きに驚きながらも、ドグは盾の構えられていない側の腹部へ蹴りを入れ、そのままアックスを振ってリザードマンを吹き飛ばした。地面に飛ばされたリザードマンはその後動くことも無く息絶える。


 一方ワンの方は、タイタンの大きな棍棒をひょいひょいと避け、腕と身体の間に空いた広い空間に入り込み、両足を深く斬り込む。タイタンはその位置から動くことが出来なくなり、雄叫びを上げるも、その視界にはワンはいなかった。ワンはすでに、約五メートルとも言えるタイタンの頭上に跳んでいる。


 それを知るとタイタンはすぐさま棍棒で空中にいるワンを叩き落そうとするも、ワンは宙を何度も蹴り、まるで空中を駆けるように軌道を変えながらタイタンの目前までたどり着くと、躊躇うことなく喉元を斬った。


 流石にワンも返り血を浴び、真っ白だった姿の半分位は、真っ赤に染まっていた。そのまま何事も無かったように彼は陸へと降りる。


「ふぅ、服が汚れちゃったなぁ。あとでアオに洗ってもらわないと」

「そうだな、まぁこれで全部か」

「まだいるでしょ」


 そういうとワンは動きの止まっていたヒトAの方へとレイピアを投げる。それは真っ直ぐと飛んでいき、ヒトAの心臓部位に刺さった。ヒトAは何が起こったのかよく分からぬままに、死んでいった。


「はい、これで全部」

「あのくらい、見逃してやってもよかったんじゃねぇか?」

「ありえないよ。あいつはセイに向かって矢を放ったんだから」

「敵に回したくねぇなぁお前はよ」

「ドグよりマシじゃない?」


 そう言いながらワンとドグは僕らの方へ寄ってきた。


「セイ、伏せていてくれた事でとても動きやすかったです。ありがとう」

「え、あ、はい…」

「何つー顔してんだよ。おら、行くぞ」


 それだけ言うと再び彼らは前に進む。


「ね、ねぇ天野君。もう終わったの?わ、私そろそろこの体勢苦しいな…」

「え、あ、ごめん…。もう少し待ってって言うか、ちょっと目を閉じながら行こうよ」

「え、え?今何が起こったの?何か、悲鳴とか聞こえた気が…」

「い、いやそんな事無いよ!ほらほら、僕がちゃんと誘導するから、こっちこっち」

「う、うん」


 ワンとドグを追うとそこにはウンザリとした表情のチェックと、すっかり見た目の綺麗になった彼らがいた。


「遅いぞ、セイ、そして我が下僕…ってあれ?何で目隠しなんてしてんだ」

「え、あ、明日見さん。もう良いよ」

「は、はい!」


 僕が手をどけると、明日見さんは目を開け、周りをキョロキョロし始めた。


「あ、あれれ、やっぱり何もない、さっきの人達もだ。おかしいなぁ…?」

「あはは、おかしくなんかないよ。あの人達は挨拶しにきただけで、も、もうどっかに行っちゃったんだ」

「本当?」

「ほ、本当だよ!」

「そっかぁ…」


 明日見さんはそう言うと僕の顔を見てただ一言、言ってしまった。


「じゃあ伏せる必要なかった気がするけど…。あ、あれ、天野君?顔に…血?ついて…るけど……」


 その瞬間に僕はやっと認識した。


 目の前で起きた出来事を。


 そう、生き物が十も死んだんだ。あんなにも簡単に、あっさりと。


 その中にはヒトだっていた。そう、ヒトがいたんだ。僕らと同じ見た目の何かから血が出て、動かなくなっていった。


 明日見さんはそれを知らない。

 

 でも、目の前の二匹はそれは知ってる。いや、知ってるんじゃない。だって彼らが殺したんだ。


 彼らがヒトを、生物を…殺したんだ。


 なのになんで、何でそんなに、平気な顔をしているんだ?それが当然のことみたいな顔を…。


 沢山、命が、死んだのに。


「あ、天野君?顔、何ていうか、怖いよ、ううん、怖いって言うより、青ざめて…」


 そんな彼女の言葉が全て聞こえる前に、機構としなかったかのように、僕の意識は、どこかへと飛んでいった。

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