俺の心の探し方
水希を登場させる時が一番書いてて楽しい気がしてます
第五の旅「冗談返しだよ」
―ライプ 長老の部屋―
「良いんですか、あんなにこっぴどく言っちゃって。それこそ、ハヤトなりに頑張ってきたんだろうにさ」
ピンピは長老と共にお茶をしていた。隼人と彼の会話を聞いたが故に、長老の真意が知りたかったのだ。
「なぁに、あやつはあの歳で大人になろうとしすぎておる。あの時期に大切な自分の心を隠していたんじゃ。あれじゃあ将来、あいつの見てきた輩のように、代償を背負うだけのヒトになってしまうだろう」
「それは理由の半分、でしょう?」
ピンピはしらばっくれようとする長老を逃すつもりはなかった。
「流石に勘が鋭いのう。お主がパルナを持っていれば、発動予兆の者を見つけるのも容易そうじゃ」
「とか言って、長老様も勘が鋭いから気付けるんじゃないですか」
「わしのには経験もプラスされておる。とても四十代以下の若造には気付けぬものよ」
そういうと、長老はお茶をすすった。
「そういうものかねぇ。それでどっちなんですか、ハヤトとミズキ!」
「それがのう、どっちもなんじゃよ」
長老は困ったように、無い髪の毛をいじる仕草をする。
「え、どっちも!?それってどんな確率…」
「こんな事は初めてじゃよ。本当にな」
「だから、発動の条件を示したんですねぇ」
「教えたのは一つにすぎんがのぅ」
「相変わらずもったいぶっちゃって」
「簡単に全て手に入るなら、先人の知恵という物のありがたみは今頃無いに等しいじゃろうよ」
「ウルフェルさんにも全部教えてませんもんね」
ピンピはキヒヒと笑う。
「あくまで全て憶測にすぎんからのう。あやつもいつか自分で見つけていくじゃろ」
「まぁ、そうでしょうねぇ」
ピンピはお茶を飲み干し、少しライプの状況について長老に報告すると、部屋から出て行った。
「全く、女という者はどうしてあんなに鋭いんじゃろうなぁ」
長老は自分の髪の毛が無いことに改めて気付くと、今度は自分の長い髭をいじり始めた。
―ライプ 廊下―
「悪いなぁ全部任せちまって」
「別に良いわよ、これくらい。それより何の話だったの?凄く長かった気がするけど」
水希は隣で腰を引き、見上げるようにして尋ねてきた。
「うーんとな、俺の生き方の話」
隼人はニッと笑う。
「何それ、意味分かんないんだけど。長老様と変態の道を行く約束でもしたの?不潔ぅ」
「はっ、んな訳ねぇだろ。お前の話とか、そういうの興味ねぇっての!」
隼人は予想外の疑いに少し取り乱す。多分さっきの話で中々に感情が表に出てきてしまったのだろう。いつもより大げさなリアクションが無意識に出てしまっていた。
「あれあれ~?いつもより反応がおっきいわねぇ。それに変態って話なのにどうしてうちの名前が出てくるんだろうなぁ?」
「いや、その、これは何つーか、間違えただけだよ。そう、間違えただけ!」
「そうなんだ~、じゃあ一体どんな女の子の事話してたのかなぁ?」
隼人の反応がいつもと違うことに面白みを感じた水希は、いつもより語尾を伸ばし、憎たらしくも可愛らしい声で隼人をいじった。
「お、お前には関係ねぇよ。関係ねぇっての!」
「あはは、冗談だって。何か今日の隼人変だよ。ただ言い合いしてるだけなのに、いつもより楽しそうっていうか、ちゃんと感情あるって言うか。何だかうち今、ちゃんと隼人と話してる気がする」
水希はお腹を抱えながら笑って言った。
(俺と、話してる気がする…?)
何となく隼人は、その水希の笑顔にそっぽを向きたくなった
「何言ってんだよ、いつも俺はお前と話してるっての」
「もう、こっち向いてよ。分かってるってごめんごめん。少し嬉しかっただけ」
「んだよそれ、意味分かんねーっての」
「ふふ、分かんなくて良いの」
「はぁ、お前が変なだけだろそれ」
「ちょっ、それは酷いでしょ!」
「はは、冗談返しだよ」
二人は笑いながら、どこに行くわけでもなく廊下を歩いた。ふと、隼人の頭にさっきの言葉が思い出される。
―双子に会いに行け―
その言葉は、自分に運良く与えられたチャンスだ。
(行ってみっか)
隼人は水希に聞いてみた。
「なぁ、水希」
「ん、何隼人」
「ちょっと双子のところ行かねーか」
「アスちゃんとミークちゃんの所?良いね、うちも行ってみたいかも」
「サンキュー、それじゃあ行くか」
「うん」
二人は足取りを双子の部屋へ向ける。
隼人はそれが、自分が変われるための一歩なのかもしれないと思い、希望にはまだ程遠い、微かな期待を持って、前に進もうとしていた。
パルナの謎はまだまだありますよ




