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(旧)レターパッド  作者: センター失敗した受験生
第四章 ライプ・ビルクリア編
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飛び出した光

こういう作戦会議、好きです

第二の旅「戻る場所を手にするために」


―タテノツキ―


 朝になると、城内で大きな音がし、それによって僕は目が覚めた。メイドさんに尋ねてみると、昨日のパレードに出てきた赤髪の人が天井を破壊してしまったらしい。何したらそうなるんだろう。


 そして、ゆっくりする間もなく朝食や身支度を済ませると、僕と明日見さんは軍事室という所に呼ばれた。駆け足で案内されると、その部屋には数名がいる。


「おぉ、ようやく来たな。それじゃあ説明を始めるとしよう」


 ドグがそこそこ大きなテーブルを囲む者たちの真ん中で話を始める。


「早朝に呼んだのは他でもねぇ。レイス脱走に関してだ。今このタテノツキはツルギノマヒと戦争中にある事は分かっているな。よってレイスの失踪は敵国に気付かれてはならないトップシークレット。うちの兵士の誰にも漏らせない事だ。よってここにいる者と、現王と王妃、そして最高指揮官であるクレイズィアのみが知る事実だ」

「そういう事なので皆さん、くれぐれも漏えいしないでくださいね」


 ワンは笑顔でそう言いながら、巨大な地図を机上に広げる。他にも小さい地図が人数分置かれた。


「今ここにいるのはウィルアさんにリヒナ、んでもってチェック。後はワンと俺とそこのお二人だ」


 ドグは僕と明日見さんの方へ目をやる。


「このチェック様を呼び捨てかよ…、年上だぞ?」

「天井壊しは弁償金として昨日のパレードの報酬は全て剥奪。それでも足りないから仕方なく捜索隊として雇ってやるんだ、食いっぱぐれねぇ事に感謝しろ」

「ありがたき幸せ、今後共々よろしくお願いいたします」


 チェックはドグにより突きつけられた現実を知ると、腰を引きドグへひざまずいた。変わり身が早いというか、何ともお調子者だ。


「分かったんなら問題はねぇ。レイスと共にいる男に関してだが、あれは多分レイスに騙されてあんな行動を取ったんだろう」

「俺の妹が何ともすまない…」

「しょうがないですよ王子。あなたはリヒナと都内の巡回警備にあたっていたのですから」

「確かにそうではあるんだが、何ともなぁ…」


(実際何も知らずにリヒナと買い食いしまくってたしな…)


「まぁ副隊長が職務放棄だったり肝心な時にいないのはいつもの事ですし、今は話を進めることに方が先ですよ」

「今日ばかりは何ともいえないな…」


 リヒナはフォローするつもりだったのだろうが結果的にウィルアへ更に追い討ちをかけている。


「まぁレイスが戻ってきたら叱るまでです。今回俺たちは二つの作戦を展開する。まずはこの地図を見てくれ」


 そういうとドグは地図を指差しながら場所の説明を始めた。


「今主に戦闘が激しいのは、タテノツキから北西に位置するツルギノマヒから少し離れた場所にある二つの地方、ガストロとウィットだ。西のガストロにはエースの隊長であるウルフェルさんとマリー姉さんが指揮している。北北西に位置するウィットは今リフエが保っているが少し戦況が厳しいらしい。ここには時期フォースさんとエメさんが到着する」

「つまり戦争のことは任せて大丈夫ということだな。ロックはタテノツキの警備ということか」

「えぇ、その通りですウィルアさん。俺たちが戦争のことを気にする必要はない」


 次にドグはマーカーで地図に線を引き始める。


「多分レイス達は今、まだタテノツキの周辺であろうがだいぶ遠くまで離れているだろう。まさかのん気にテントでも張って休もうなんて事はしないはずだ。正気ならな」


(本当にそうだろうか、瑛君はもっと何ていうか、違う気がする)


「だから多分追いつくことは不可能と思われる。そこで俺たちが使うのは神頼みだ」

「神頼み、もしかして守り神に会いに行くつもり?」

「確かに守り神に会いに行くことは危険かもしんねぇ。だがリヒナ、この広大な世界であいつら二人を探し出すなんて事はまず無理だ。だったらこちらの方が可能性が高いだろ」

「あ、確かにそうかも」


(守り神ってなんだろう。ここは口に出さないほうが良いかもしれない)


「あの、守り神って、な、何でしょうか!」


 うん、やっぱ明日見さんは聞いちゃうよね。


「そう言えばお二人はこの世界には疎いのでしたね。分かりました、私がご説明いたします」

「ちょっと、ワン。この世界に疎いってどういう事?」

「おや、そういえばリヒナや皆さんに話は行き届いていませんでしたね。二人はセイとアイ。空から降ってきた異世界の方々です」

「は、異世界だぁ?空からって、天界人とかかよ、かっけぇなぁおい!」

「チェックは黙っといて、どういうことなの、アイ」

「だから俺年上…」


 リヒナは明日見さんの元へ近づくと質問攻めをはじめた。


「あっ、えっと」


 明日見さんは僕のほうを向いてくる、良いのかな、という合図だろう。僕は黙ってうなずいた。


「実は…」


 信じてもらえるかは分からなかったが、僕らはここに来た経緯等を全て皆に話した。もちろん信じられないといった表情をワンさん以外はしている。それもそうだ、別に世界があるなんて皆思いもしないだろう。


「なるほどな…、そいつは予想外だ」

「通りであのひょろっちい奴の見た目もおかしかった訳だぜ」

「その珍しい髪色もそういうことかぁ。良いなぁ黒。先輩交換しましょうよ」

「このチェック様でも言ったことない場所があるなんてな、こりゃあビックリだぜ」


「あはは…」

「そういうことですね」


 何だか信じてはもらえたようだ。


「こちらも守り神について話したいのは山々だが、今は時間がない。すまねぇが先に説明をさせてくれ」

「は、はい分かりました!」

「まずウィルアさんとリヒナはライプへ向かって欲しい。これはウルフェルさんからの頼みだ」


 ドグが指をさす、タテノツキ南南西には、ライプと書かれた六角形のマークが山と思われる場所に記されている。


「隊長が、何故なんだ?」

「長老様の助けが必要になるかもしれないんだとよ」


 ウィルアは少し下をうつむいた後、何かをこらえる様にしてまた前を向き答える。


「分かった。リヒナ、至急出発の準備だ」

「分かりました副隊長、生活道具のほうは私が用意しておくので、馬車の手配などお願いします」

「頼んだぞ、こっちは任せておけドグ」

「くれぐれもやらかさないでくださいよウィルアさん」

「あぁ、分かっているさ」


 ウィルアとリヒナは小さな地図を部屋から持ち出すと、勢い良く飛び出していった。しかしその矢先、部屋の中にも響く大声が聞こえてくる。


「いった!リヒナ今足踏んだだろ!!」

「副隊長こそ私の行く手を阻まないでください」

「阻んでいるわけじゃない、ほら早く道を開けろ遅れるぞ!」

「そうやって先に行こうとしたって無駄ですからねって…ひゃあっ!」

「そんな事してなっ、うわとっと!?」


 二人のよく分からない小競り合いの後に大きな音が聞こえた。何かにぶつかった音だろうか。


「いたた、って何覆いかぶさってるんですか副隊長!セクハラですよ変態ですよ幻滅ですよ!!」

「い、いや待て!俺はそんなつもりじゃ!!」

「問答無用です、バーサーカー!!」

「それはやめっ、ああああああああああ」


 ドグはそれを聞いて失敗したような顔をしていた」


「なんか、不安がつのってくんだけどよぉ」

「リヒナがいるから大丈夫さ」

「いや、この状況でよくそんな事言えんなぁお前…」


 ワンは何事もなかったようにまた地図を見始める。 


「それで、僕らはどこの守り神に会いに行くんだい?」

「ん、あぁ。俺たちが行くのはここから北にある流星の丘だ。その為には真っ直ぐに行けば獣の聖域に入っちまうからな。初めにすぐ西のエマージェンス地方にあるビルクリアに向かう。そこから回るようにして嫌われの谷を通り流星の丘へ行くつもりだ」

「まぁそっちのほうが確実だろうね、その辺りはまだ戦争地域にはなっていないし安全か」

「あぁ、少し長旅にはなるが問題ないだろ」

「んーとさ、俺とドグとワンが行く事は分かったよ。んでもこの二人はどうすんのさ」


 そういうとチェックは僕らのほうを見つめた。


「…付いて来るか?」


 ドグは僕らへ来るか来ないかを尋ねてきた。


「え、えぇっと僕は…」


 どうしようか、ここで待っているべきだろうか。そもそも瑛君は僕らを危険な目にあわせないようにこの国に僕らの保護を頼んだんだ。その僕らがノコノコと外へ出て何かあったら、瑛君の意志はどうなるんだろうか。僕が行くと言えば明日見さんは絶対に行くって言う。もし明日見さんにまで危険が及んだら僕は…。もう少し考える時間が欲しい。


「あの」

「行きます、連れて行ってください!」

「えっ」


 明日見さんは自分から答えを出した、足は少し震えている。


「おいおい、怖くねぇのか?これはお遊戯じゃねぇ。俺たちはお前らの安全まで保障できるわけじゃねぇぞ」

「そ、それでも、初めは三人でこの世界で色々と探していくつもりだったんです。導衆君に全部任せて、私たちだけここに留まるなんてそんな卑怯な事、したくありません。天野君は今、私がいるから選択を悩んでる。自分が行くって言って、私に危険が及んだらどうしようって。だから、私が行くって決断するんです。探しに行くんです。怖くても、進まなきゃどこにも戻れないから!」

「明日見さん…」

「良いね、良いねその答え、気に入ったよ。俺はそういう心が大好きだ。おい男、お前も答えを出せよ」


 チェックが嬉しそうにしている。


「ぼ、僕は…」


 もし外の世界に出れば、様々な危険があるかもしれない。でも瑛君とはぐれたのも、明日見さんが今震えているのも、風咲や隼人と離れ離れになったのも、全部全部僕が始まりなんだ。待っていればいつか会えるなんて思っちゃ駄目なんだ。怖いけど、怖いけど、自分から行かなきゃ、つまらないけど幸せだったあの時間には戻れない。だから、僕は。


「行きます、行かせてください!!自分の身は、自分で守ります」

「百点満点だぜ男、俺の名前はチェック・フレンズ。将来、(ヒー)(ロー)になる男だ。チェック様って呼んでくれて良いぜよろしくな!」

「…はい!」


 チェックは腰を上げると地図を取り、ニヤリと笑った。


「決まりだドグ、行こうぜ、守り神に会いによ」

「はぁ、なんで借金野郎が仕切ってんだよ」

「でも、セイのこころを引き出したのはチェックだよ」

「ったく、しゃーねぇなぁ。よし、出発は九時だ。一時間で支度しろ、それじゃあ解散だ」


 皆が地図を取っていく。部屋を出ようとする僕らへチェックが話しかけてきた。


「良い威勢だぜ二人とも、その気持ちがあるだけで、いつだってお前らは英雄だ」

「はい、ありがとうございます」

「頑張りましょね、チェックさん」


 明日見さんが飛び切りの笑顔をチェックへ向ける


「お、おう、そうだな。い、いつでも守ってやるさ」

 

 そう言って部屋を出て行くチェックの頬は少し照れていた。


「ありがとう、明日見さん」

「ううん、いつまでも天野君の優しさに甘えてちゃ駄目だもん」

「あはは、そうなのかもね」


 違うよ明日見さん、違うんだ。優しさに甘えているのは僕のほうだよ。君は他人に優しすぎる。もっと自分を…。


「あっ」


 僕は今、瑛君の言っていた言葉の意味が、少しだけ分かった気がした。

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