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(旧)レターパッド  作者: センター失敗した受験生
第三章 タテノツキ・フェスタ編
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今から一歩

踊り子いず素晴らしい

第二十六の旅「これから一歩」


−市場区 酒場−


「うぅ…、あんな大衆の前で羞恥を晒すなんて…」


 ニーナはすっかり椅子に座り塞ぎ込んでいた。晒すもなにもだ。


(というか、別に元からその格好自体露出度が高いんだから、何を今更気にしているんだこいつは)


 瑛は言っていることが見た目に反映されていない彼女をただ面倒くさいやつと認識した。


「それはニーナが悪いのです。私は本当に悲しくなって泣きそうだったのですから。冗談でも辛くなるような事はやめてください」

 レイスは顔を膨らませ腕組みをしている。彼女なりの怒った見た目なのだろうか、正直さっきの笑顔に比べたらむしろ可愛げがある。


「だ、だって普通気づくでしょ!?私何年レイスとつるんでると思ってんの!そんな筒抜けの嘘にマジになんないでよ…」

 このままじゃ二人がウダウダするだけで時間が食われそうだ。なるべく早く事を進めたい。


「まぁ、二人共そろそろ落ち着いて本題に入ろうじゃないか。こっちには時間がないんだ」

 その発言の仕方が悪かったのだろうか、ニーナは面白くない目をこちらへ向けている。


「レイス、てか何この五本入りで二十フィアのやっすいゴボウみたいな奴。拾ったの?不味そうだから捨てた方が良いよ」


(ゴ、ゴボウ…?)


「そ、そんな事を言わないでください、彼はアキラと言って私の友人です!4フィア等という安いヒト

ではありません。50フェアはします!」

(いや、それフォローになってないんだけど…)


「はぁ?友人?」

 レイスに説明されたニーナは、気味の悪いものを眺めるような目でこちらを見てきた。


「あぁ、なるほどねぇ。レイス、あんたこいつに騙されてんのよ。ちょーっと可愛いから優しくして、あわよくばイチャコラぐへへのへーとか頭で色々妄想してる童貞だって。うわーきもー」


 どうやらこいつは性格に加えて口が悪いらしい。ならば育ちの良さというものを見せつけてやろう。医者の子をなめるなよ。


「はは、嫌だなやめてくれよ。どちらかというと俺の方が彼女に騙されたみたいなものだよ。人を見た目で判断するのは分からなくもないが、決め付けるのはきっと良くないと思うよ」


 俺は慣れない口調と慣れない笑顔でとびきりの大人チックな優しさを出したつもりだ。彼女はまた突っかかってくるだろうがここも大人の優しさで対応して、立場というものを分からせてやろう。さぁこい!


「キモっ、俗物童貞とかマジ無理なんですけど。できれば話しかけないで欲しいなぁ」


(おいこのクソビッチその辺のゴロツキ共の性のはけ口にしてやろうか?いるよ?いっぱい知り合いいるよ五人くらい、お兄ちゃんたち怒らせると怖いよ?)

 瑛は昼間の奴らを引き連れて、ニーナが泣き喚く姿を醜態に晒してやったほうが、彼女のためにもなるだろうと一人うなずいた。


「俺は別に口論がしたい訳じゃないんだ、ただ誤解を解いて、先に進みたいだけなんだよ」

「ねぇレイス、こんな冴えない泥付きゴボウなんかじゃなくて、私のワン様はどこなの?あなたならあの方のような高貴な御方が絶対にあってるって」


(俺はイヌにも負けるのか。てかワン様って凄くダサいのだが、韓国俳優みたいなのだが、それ以下なのか俺は。泣いていいかな)


「ワンは今日はちょっと一緒ではないのです。そ、そんな事よりも、今回ここに来たのはニーナにお願いがあるからであって、長話をする時間も本当にないのです…」


 どうやらこのままでは初対面同士の投げやりな、けなし合いが続くことを察したのだろう。ここはニーナと長年面識のある彼女に任せるのがベストだ。俺は今は黙っておこう。


「はぁ、レイスに言われちゃしょうがないなぁ。それで、何をお願いするの?」

 ニーナも先ほどの恐怖もあってかレイスの言葉には素直に耳を傾けるようだ。


「実はですね…、ゴニョゴニョ、ゴニョゴニョゴニョヨ、ニョーゴニョニョニョニョ。(以下略)という訳なのです」

 レイスは周りに聞こえぬように作戦の概要を伝える。


「ははーん、そういうことかぁ。別に良いよ手伝ってあげても、その代わり、その指輪が報酬ね」

 あっさり承諾すると共に、ニーナはレイスの小指にはまった小さな美しい指輪を求めた。


「なっ、そんな高価なものを求めるのか……」

「はい、これで良いのなら差し上げます」

「えっ」


 レイスは悩むこともなく、そのいかにも高そうな指輪をニーナへ差し出した


「やったー!踊りにこういうワンポイントがあると映えるんだよねぇ」

「い、良いのかレイス。何か国に伝わる大事なものとかなんじゃ…」

「いえ、それはただメイドが無理矢理身だしなみにと付けるように渡してきたものです。私あまりそういうキラキラした物が好きではないと言いますか、興味もないので問題ありません」


(いや、何かそれもそれでメイドの良心が…)


「相変わらずレイスは話が早くて好きだよ♪それじゃあお仕事始めますか、貰った分はきっちりこなすからね」

「はい、では参りましょう」

(この世界の価値観がまたよく分からなくなってきたな…。友達なんだろうけど、商売相手でもあるという奴か)

「ちょっとゴボウ早くしてよ」

「アキラ、急ぎましょう」

「あ、あぁ」


 ただ一つ確かなのは、どんな場所にも噛み合わないやつがいるということだ。





-市場区 門-


 門には三人の門番がいた。俺たちは今民家の横に積み上げられた木箱の裏に身を隠し、彼らの動向を探っていた。やはり、持ち場から動く様子は見られず、三人とも退屈そうにしている。フェスタの雰囲気を壊さないためであろうか、警備は手薄のようだ。


「散々小馬鹿にしてくれたんだから失敗するなよ」

「私を舐めないでよね。これでも演技力には自身あるんだから」

「相手が純粋なのを願うのみだな」

「それで私をからかって…」

「ご、ごめんってレイス、また今度帰ってきたらちゃんと色々話しよ?ほら、旅の話でも良いしさ」

「本当ですか?」


 レイスはさっきのがよほど応えたのだろう、和解した後もなお警戒している。


「この顔は嘘ついてないでしょ、それじゃあ行ってくるね」

「頼んだぞ」


 ニーナは酒を飲み、少し顔を赤らめさせると、そのままふらついた動きをしながら三人いる門番の一人に抱きついた。


「わ、わぁ、これから何が始まるのでしょうか…」

「どうしてお前はあいつに頼んだんだ」

「ワンとドグが優秀だって…」

「それだけか?」

「はい!」

「よし、目を瞑っておけ」

「え、え?何をするのですか!?」

 瑛はその言葉と共に両手でレイスの目を隠した。

 

「ま、前が見えません!」

「見えなくて良い」


(あんな下準備をした後にすることなんて決まっている)


「お、おいおい君何をしているんだ」

「う、うらやま…、もうこんな時間なんだ家に帰りなさい」

「え、えっと、その、どうなされましたか…?」


(この男は楽勝)


 ニーナは兵士に抱きついたあと、少し甘い声色に変えて兵士に言い寄る。


「私、飲みすぎてしまいましたぁ。兵隊さん、少し風に当たりたいので付き合っていただけないですかぁ」


 そのまま少し背伸びをし、相手の首元へ息を吐き、そのまま決めの一言を口にした。


「今夜、私一人で寂しいんです」


 その言葉で男は落ちたのだろう、先ほどの真面目顔はどこかへ飛んでいき、それはもう欲望に飲まれた顔をしていた。


「ちょと待ちな嬢ちゃん、こいつには警備の仕事があるんだ。かまってる暇はないんだよ」


 もう一人のあごひげを蓄えた警備兵が落ちた男を正気に戻そうとする。しかし、ニーナは流石の腕だ、服をはだけさせながら涙ぐみ、甘えた表情で後の二人を見つめる。


「少しだけなら…三人ともお相手できますよ。私、得意なんです」


 今日フェスタで一日をろくに楽しめなかった兵士達にとってこの誘いはタブーでもあったのだろう。場の雰囲気は一気に変わり、少しくらいならという思いで彼らは持ち場を離れていく。その際にニーナはバレぬようにこちらを向いてウインクをした。


(女ってのは怖いもんだな、てか兵士あれで良いのかよ……)

 しかし今回は助けられたのが事実だ。彼女の貢献に感謝し、早々と都を出ることにした。


「あ、あの、もう終わったのでしょうか」

 今思えば目隠しをしていることを忘れていた。

「すまない、終わったぞ。作戦は成功だ、今のうちにここから出よう」

「ふふ、流石ニーナです。どんな手を使ったのでしょう」

「さぁな、魔法でも使ったんじゃないのか」


 箱入り娘に真実を告げれる気にはとてもなれなかった。しかし何故だろう、姫が脱走しているのに何故こんなにも警戒されていないのだろうか。瑛はよく分からないが不安が僅かにつのった。


 最後に門付近を確認してみると、やはり誰もいないようだ。この先は昼も通ったのでちゃんと覚えている。どうやら一安心のようだ。


「覚悟は良いか」

「自分で決めたことですから」

「じゃあいこう」


 瑛とレイスは共に足を門の外へと出し、その先にある月明かりに照らされた広大な大地へ足跡を作った。


「これが…草や土の香り、そして風の心地よさなのですね。上からしか眺めたことはありませんでしたが、こうしていざ自分の目線で見てみると、いろんな気持ちが湧き上がってきます」

「例えばどんな気持ちだ」

「そうですね、喜び、期待、不安、興奮、恐怖、希望、感動、そういったものでしょうか」


 レイスの瞳にはその全てが映っているように見える。


「じゃあこれから、お前が見たいもの、知りたい物を全部確かめに行くか」

「はい、改めてこれから仲間ですね、アキラ!」

「よろしくな、レイス!」


(やばいな、テンションが上がって思いっきりすぐ捕まるはずだったのに、あたかも何所までも行くぞというテンションになってしまった…)


 流れに身を任せたテンションを少し後悔しながらも、レイスと共にこれから歩み、色んな物を見れるのかもしれないと思うと、水希の好奇心が少し乗り移ったのか、何だかワクワクした。


 二人は大きく歩き出し、レイスはこの草原の彼方へと夢を追い求めて、彼女の旅を始めた。

 

やっと外に出ました

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