何年回も繰り返す景色
いやー、夕焼けって素晴らしいですよね
心の中に寂しさを感じさせる貴重な存在です
第二十一の旅「目に入るは男の夢なり」
「ほら、早く掴めよ」
「はい、ちょっと待ってくださいね。足が上手く乗らなくて」
レイスと瑛は今、ある家の屋根に登ろうとしてた。
住宅区へ着くとすぐに彼女は家に向かうのではなく、俺にお礼がしたいと言ってきた。何やらこれからカーニバルとかいうのが始まるらしく、それが良く見える特等席があるのだという。
それは大きな湖の右側に建つ、少し大きな家らしい。屋根が平らだから登っても落ないだとかなんとか。昔から家族と一緒に来ていたらしいが、どう考えても常識的にアウトだろそれは。人様の家を何だと思っている。
そんな事を思いながらも、先程から気になる至近距離でお願いされては了承せざるを得ない。自然体でも恐ろしい女だ。
瑛はレイスと天野が同じタイプなのではと少しビクビクしていた。
湖の近くではここぞとばかりに荒稼ぎをしようと屋台を営む輩もいて、ご苦労様だった。
目的地に着くと、どうやら一人じゃ登れない高さのようらしく、先に瑛が登ってレイスに手を貸すということになったのだが。
「おかしいです、いつもはきちんと登れるのに!」
レイスは何度も登ることに失敗していた。窓の下にある出っ張りに足を乗せるだけで良いのだが。
「あ!登れました!」
「やっとか…」
やっとのこさで足を乗せレイスは瑛へと手を伸ばす。
瑛もそれを一生懸命に引き上げると六割ほどレイスの身体はもう屋根上へと姿を見せていた。しかしその割合は失敗だったのだ。
(!?!?)
レイスの服は質素な物で胸元も開いているわけではないのだが、走り回った事で少しクタクタになり、更に前かがみという状況から、彼女の谷間が瑛の瞳に映ってしまったのだ。
(な、何をしているんだああああああ!早く隠せ!そんな物は見せてはならないものだ!!ほら上がれよ早く!!)
そんな瑛の気持ちをよそに、レイスは未だに後少しが登れず、そのままへばりかけていた。
「き、きつい。アキラ、もう少し引っ張ってそのまま私の身体を抱えてくれませんか?」
「は、はぁ!?身体を抱える!?ななな何を言ってるんだお前は!!」
「何を言っているわけでもありません、このままじゃまた落ちてしまいます。お願いします」
レイスは泣きそうな顔で瑛を見つめてきた。
(この箱入り娘がああああああああ)
瑛は目を閉じたまま思いっきりレイスを引き上げ、そのまま自分の方へと抱き抱えた。はずなのだが、引く勢いが思った以上に強く、瑛はレイスに押し倒される形になってしまった。
「いったいなぁ」
状況が把握できず瑛が目を開けるとすぐ顔の前に絶世の美少女が笑顔を向けている。
「アキラ、ありがとうございます。おかげでまた今年もこの景色が見れます」
(……ぴょげええええええええぇ!?!?)
遂に思考回路がショートしてしまい、自分が何を喋っていいかも瑛は分からなくなった。
「あ、えと、はい、そだね、うん、俺もそう思う」
そんな彼の状態を気にせずに、レイスは瑛から離れ、きちんと屋根の上に座り瑛へ手を差し伸べる。
「さぁ、起きてください。もうすぐ始まりますよ、夢の時間が」
レイスの顔が遠ざかることで少し冷静さを取り戻した瑛は、伸ばされた手を掴み身体を起こした。
レイス自身はこの時自分がした事をまだ何も実感していなかった。
「すっかり夕日も落ちる頃だな。暗くなってきた」
「はい、あの夕日が落ちた時、開始の合図です」
目に映る暖かさはどんどん地平線の向こう側へ消えていく、毎日見ている景色が、この時間だけは違う物に見えた。
午後七時を告げる鐘が鳴った時、その夕日は姿を消し、湖の中心では七色の光が生まれた。
瑛君はヘンタイジャナイヨ




