友達から始めましょう
二日ぶりの投稿ですね
瑛はレイスと関わることでどんな成長をするのでしょうか
第十五の旅「私があなたの友達です!」
二人は疲れていたが、多く休む事もなくルートを探した。というのも、レイスのせいなのだが。
瑛に居場所を確認してもらいながら、温泉街のざわめきを抜け、次は闘技区の方へと向かおうとしていた。
区と区の境界辺りになってくると、雰囲気が一変していくのが良く分かる。宿場区の華やかさとは違い、荒れ果てた建物が多く、ヒビが入り今にも壊れそうなものも多い。
路上には身体の必ずどこかには傷がありそうな者がわんさかといる。こんな所には確かに誰も住めないだろう。住宅区の必要性をレイスはよく理解した。
道の所々に苔などが生えており、手入れをしてくれる人もいないようで、それらの放ったらかし具合が荒くれ者には気に入られているのだろう。
ストリートチルドレン等といったような悲惨な現状にまでは行き着かなくても、他の区とは暮らしが違うことは明らかだった。
そもそもこの区に入り出してから先程とは別の意味で見られている気がする。瑛もあからさまに警戒を強めているようだった。
こんな所が住宅区の隣にあるの?危なくはないの?と何度も思ったが、ここの衛兵はフォースが安心できると名言するほど折り紙付きの優秀な人材が揃っているらしい。頼もしい限りだ。
そんなこんなで瑛には家は住宅区にあると嘘をつき、レイスは闘技区のど真ん中を近道という理由もあって通っていた。何より路上にいるより人目に付く所の方がまだ安全という瑛の意見を参考にしたまでに過ぎなかった。
(全く、普通にこんな美人を連れて狭い細路地なんて行ったら襲われるに決まっているだろ…)
そんな事を思いながら、さっき地図を見た自分の記憶を頼りに瑛はレイスの自宅へと向かっていた。
(…本当に人形みたいな顔をしているな。普通にそこらの女優の何倍もレベルが高いじゃないか。しくじったな…)
瑛は見るもの全てを新鮮とはしゃぐレイスを片目に、いつもと違う状況に少し困惑していた。
瑛は元々人とあまり話せるという訳ではない。性格も冷静できっぱりと物事を言うため友達も多くはない。おまけに教師以外利益に関係のない相手に対してはタメ語で話してしまう。
そんな影のある部分故に、もちろん女友達なんてものもいなかったし恋愛にも興味はなかった。
だがある日、水希や隼人と出会い、彼の人との付き合い方も一通り変わった。そして、誰かと話す事の楽しみを得て、一般の感情にも興味を持ち始めていたのだ。
(水希は確かに可愛いのかもしれない。むしろ学年でトップレベルだろう。テレビに出ている奴より上だ。それでも女として見る事などなかったし、そもそも性格が理想でなければどんな奴でも受け付けないのが俺だ。しかし…これは別格過ぎる、出来過ぎているんだよ!)
そう、彼は心の底からレイスを綺麗だと思ってしまったのだ。もちろんその程度の浅はかな考えで自分が恋に落ちるはずもないと分かってはいたが、やはり接し方と見合わなさに窮屈な思いをしてしまうのが当然の反応だった。
吸い込まれそうな瞳から完璧なボディライン。振る舞いの上品さに加え、それでいて未だ幼いハツラツさを水面下に残している。少しだけ興味が湧いてしまった。
「…どうなさったのですか?」
そんな彼女が突然、景色から自分の方へとピントを合わせ話しかけてきた。
見ていたのがバレたのだろうか。
「あ、いや別に俺はそんなつもりでは!!」
少しテンパり目の位置が定まらなかった。
「ふふ、アキラもそんな顔をしてくれるのですね」
「えっ」
「先程から話す事と言えば逃げる事に関してばかりで、街の賑わいには無関心に見えてしまったんです。表情も一貫して冷たかったと言うのでしょうか」
「冷たかった…」
瑛は自分自身の表情など確認した事もなかったが、この世界にもある程度慣れ、何時も通りの雰囲気に戻っていたのだろう。やはり人には良く分かるらしい。
「…はっ!私すみません!いきなり失礼な事を…。違うんです、冷たいのではなくて何と言うか寂しいというか、あぁ!これも駄目ですよね、すみません!えぇと、えぇっと…」
「良いんだ」
レイスは必死に弁解をしようと言葉を選んでいたが、見つからない事を見抜かれてしまった気がした。
「良い…とは?」
「分かっているんだよ、自分でも。俺は元々空っぽで冷たくて、退屈な男なんだ。昔から反応も薄い、慣れたら無表情をきめて、だから友人も少ないし面白い話も出来なければ気の利いた事も言えない。誰かみたいに周りに合わせられないんだ」
「…」
「すまないな、見た感じレイスは話すのが好きそうなのにな。こんな奴とじゃ気まづいだろう、乗る船を間違えたな」
「いえ、そんな事は…。それに、アキラはそんな人ではありません!」
「逢ってほんの僅かだろ、無理するなよ」
瑛はそれだけ言うと足を早めようとした。
「無理なんてしていません!」
そんな彼の前に、彼女は両手を広げ立ちはだかった。その声は大きく、周りの人々の目を引いた。
「なっ、こんな所で大声なんて」
「僅かでも分かるんです。アキラは本当は温かい人です。だって見ず知らずの私を助けてくれたのですから」
レイスの瞳と立ち姿に躊躇いはなかった。
「……。あれは気の迷いだ。目が合っていなかったら無視していた」
「でも助けてくれたのでしょう?だから私達は今ここにいるのです」
「それだけじゃ何の根拠にもならないさ」
「それなら、アキラは空っぽではありません!とても賢いです。空っぽな人はそれを役に立てる機会もなければ、何も持っていないんです。その言葉は本当に空っぽな人に失礼です!」
「いつ俺がこの頭を役立てたって言うんだよ」
「私を助けるためです。それだけではありません。アキラはきっと無意識に人を助けている筈です」
レイスの声は次第に感情がこもり、瑛の方へと自身の距離を狭めていった。
(ち、近い…くっ)
「それも根拠が薄いじゃないか!第一退屈なのは本当だ、現に友達はいない。見ての通り一人だよ、もう気にしないでくれ!!」
瑛も無意識に声が強くなっていた。
そのままレイスの横を行き、無理矢理進もうとしたが、その一言は彼の動きを止めた。
「…あなたは一人ではありません」
昔、誰かに同じ事を言われた気がする。
「何が言いたい」
「私があなたの友達です!」
少し昔、同じ事を言ってくれたどうしようもない二人がいた気がする。
「はぁ?冗談は良してくれ、貴族の出が庶民と友達なんて笑わせるな。家に着いたらおさらばだよ」
「そうはいきません、アキラは自分に嘘をついています。そうやって現実から逃げようとしています。アキラはもっと器用に生きれる筈です。だから私は友達になります、そして本当の生き方を一緒に見つけましょう!」
そして、初めての言葉を言ってくれた人が今目の前にいる。
「…。物事を壮大するやつだな。俺一人のためにそんな事を言ってくれたのはお前が初めてだよ。分かった折れたよ、俺達は友達だ」
そう言うとレイスはとても嬉しそうにしてくれた。
「はい、私達は友達なんです!」
そんな彼女が瑛には眩しく見えた。
しかし、何かが一件落着したように思えたのだが、やはり大きな声を出し過ぎたらしい。
行く手には六人のゴロツキが苛立ちを顕にした顔でこちらを睨んでいた。
大切な友達からの言葉は胸に響きますよね




