水希、矢を放つ
逃避行ってなんかワクワクしちゃいますよね
作品ストックはここまでです、ここから更新も遅くなりますね
第十三の旅「美しき華の理由」
「はぁはぁはぁ…」
「少し、疲れたか?」
瑛は少女が息を荒げているのに気づき、足を止めた。
「少しというより…はぁはぁ…か、かなりです」
よく表情を見てみるとかなり疲れているようだ。無理もない、ノンストップで市場区から宿場区の温泉街まで来たのだから。
どこか休める所がないか辺りを見回し、旅館の二階に上がる為であろう外付けの階段の下に、少しスペースがあるのを見つけた。
「よし、あそこで呼吸が整うまで休もう。さっきのである程度距離も取れたはずだ」
「じゃ…がいも?の犠牲のおかげですね」
「いや、だから洗えば食べれるはずだから、そんなに俺の心に突き刺さる言葉を言わないでくれ…」
「こ、これは失礼しました」
瑛は少女の手を引き階段下にて腰を下ろした。
「それで?何故こんな事になっているんだ?」
「…はい?」
少女は首を傾げて不思議そうな顔をしている。
「何を言っているのかサッパリ分かりませんとかは言わないでくれよ」
「え、えぇっと、何を言っていっ」
「白は切らせない」
瑛は彼女の逃げ場を作る気はなかった。かといって追い詰める気もなかった。
「あっと、ええと、その…」
「ふっ、まぁ良い。止むに止まれぬ事情でもあるんだろう。詳しく追求する気もないさ」
「はい、その通りです!」
少女はたまたま駅にタイミング良く辿り着いた電車に駆け込み乗車出来てラッキーという人間の表情をしていた。胡散臭さにまみれている。
「…なら尚更放ってはおけないな。俺の名前は導衆 瑛だ。名前は?」
「私の名前は…」
名前を聞かれたその少女は、はっとしたかと思うと少し口元を動かしながら、答えるのを躊躇っているようだった。
「どうした?言えないのか?」
「そ、そういうわけではありません…。レ、レイスといいます」
やはり名乗る事を戸惑っていたらしい。でも何か身に覚えがあるわけでも、おかしな名前というわけでもなった。
「そうか、レイスというんだな」
瑛はあっさりとそれを受け入れた。
「そ、それだけなのですか!?」
「ん?何を言っているんだ?…あぁ、そういう事か」
すると瑛は突然右腕を彼女の前に差し出した。
「え、え?」
「握手じゃないのか?」
「は、はい!そうです…。よろしくお願いしますね。アキラ…でよろしいでしょうか?」
レイスは何かに驚いているようだったが、それも何か事情があるのだろう。
「あぁ、そっちの方が呼びやすいだろう。こちらこそ、さっきは突然腕を引っ張って悪かったな。痛くはなかったか?」
「はい、追われていた所を助けていただいて本当にありがとうございます」
座ったまま彼らは握手を交わした。
その時にレイスは家族の他に男の人の手を挨拶以外で握った事がない事に気づき、逃走中に手を握られた事が思い出され、恥ずかしさが後から付いてきた。 握手の後少しの間、瑛の顔を見る事も適わなくなってしまった。
「そろそろ落ち着いたか?」
沈黙に耐えかねたのだろう。気の利く人だ。
「はい、呼吸もとてもしやすくなりました」
「そうか。じゃあこの区画でもう少しゆっくりできそうな所を探そう。しばらく身を隠せたら後は君を家に送り届ける。それで良いか?」
「そこまでしていただくなんて、ご都合もあるでしょうしお気になさらないでください」
そう言うと瑛は少し悩んでいるようだった。
(都合か…)
ふと正達の事が頭に浮かんだが、集まる場所は決めてあるし、問題ないように思われた。
「いや、ないな」
「えっ、ないのですか!?きょ、今日はフェスタなのですよ…?」
確かに俺は若いかもしれない。だからといってそんな哀れみの目で俺を見るのはやめるんだ。
「ごほん…。良いか、俺はただ単に一人が好きなだけだ。あまり勘違いをするなよ」
「いえ、良いんです。私は分かっていますよ、大変なんですね」
「いや待て何も分かってない!絶対何か勘違いをしている!!」
どうやら出会って早々ぼっち認定をされたようだ。確かに恋人もいなければ友達と入れる人物も指で足りる。だが、そんなにそれが悪い事なのだろうか。今とても世界に訴えたいと瑛は悲願した。
そんな二人光景を先程から道行く人が視線を送ってはヒソヒソと話しているのが目立った。
「おいあれ…」
「まさか、馬鹿言ってんじゃねぇよ」
「でもおら見たことあるでげすよ」
「こんな所にいるわきゃねぇだろ」
一体何の話をしているのだろうか。
「なぁ、レイス」
「はい」
「さっきからやけに騒がしくないか?」
「あのですねアキラ」
「ん?」
「ここから今すぐに出ましょう」
笑顔だった。彼女の顔はとにかく笑顔だった。
「いや、でもここの方が安全なんじゃ…」
「いいから早く出ましょう何か誰かが近づいてきた気がしましたこれは危険だー!さぁほら早く!」
完全に棒読みとも言える無理矢理感に瑛は為す術もなく、今度は彼女に引っ張られ闘技区の方へと連れていかれた。
(何なんだよ一体…)
彼女の正体も定まらぬまま、一日限りの逃亡生活だと言い聞かせることにした。
第十四の旅「今度は私の番だから」
−ライプ−
水希は隼人と共にトレーニングルームへとやって来た。昨日同様にルイはそこにいた。
「…!」
「あ、ルイさん!こんにちは」
「ういっす、昨日はどうもでした」
どうやら彼にとっては予想外だったらしい。何だか少し嬉しそうだ。
「来たのか」
「はい、私もうワクワクしちゃって」
「やけに張り切ってるんすよ」
「そうか、じゃあハヤト、設定はどうする?」
ルイが隼人は向かって問いかけると目の前に急に水希は飛び出した。
「っ!」
「ノンノン、ルイさん。今日は隼人じゃないんですよ。今度は私の番だから」
そう言うと彼女はスーツや使える武器を漁りだした。
更衣室でスーツに着替え終え、持ちなれた弓矢タイプの武器を手に取り、設定は隼人と同じレベル1にした。ステージは…やはり平野だ。
「驚いたな…ミズキがやるのか」
隼人とルイはスーツを着た状態で観戦することにした。
「へへ、あいつをなめちゃ駄目ですよルイさん。ああ見えて弓矢の扱いは凄いんすから」
「そうか」
「相変わらずの反応ですね…」
「あぁ」
どうやら何を言っても何時も通りのようだ。
(そろそろか)
諦めて水希の方に集中する事にした。
「それじゃあ…スタート!」
水希が準備を終え、昨日の見よう見まねで始まりの合図を出すと、そこは視界一面緑で埋まっていた。
「これ、予想以上にワクワクするなぁ」
周りの景色に感動していると、地面から三体のゴブリンが現れた。どうやら何が出るかはランダムらしい。
「うえ、気持ち悪い…でも、やってあげるわよ!」
きちんとした武器へとモデルの変化した弓を持ち、いつもの動作で打ち起こしからゆっくりと肩の力を抜き引き分けて、矢を口割りに持ってゆきながら狙いを定めた。
(何か、軽い…?)
「ミズキの弓、長いな」
「え、あれが普通じゃないんすか?」
「初めて見るタイプだ」
「じゃあ何でここにあるんだ?」
「あの機械は使用者の思い描く形に変わる、それ故だろう」
「ほほー、すっげぇなそれ」
やはりこのライプ族の機械技術力は相当のものらしい。文明を所持しているなら当然ともいえるのだろうか。
それにしても水希の射形はいつ見ても美しいものだった。
(落ち着いてやれば大丈夫)
足場はあまり良くないが、バランスが取れないわけでもない。
胸当てはなくとも一応スーツを着ているし、仮想状態だから当たっても痛くはないはずだ。
一匹が狙われている事に気づき、こちらへと走ってきた。左右にブレているがむしろ的には中りやすくなった。
手を押し込むと同時に放つ。心に乱れはない故に、中らないわけがない。
見事矢はゴブリンの頭部に命中する。
「まず一匹!」
しかし、このままでは確実に距離を詰められてしまう、綺麗な形はもちろん中るが今は状況が違うのだ。
二匹は一匹が殺られたのを見ると急激にこちらへと迫ってくる。
「やばっ」
取り敢えず、走って逃げることにした。どうやらゴブリンも足は大して速くないらしい、こちらの方が少し上手だ。
「あーあ、何やってんだよ…」
「…ゴブリンと言っても普通の人間ならてこずって当然だ」
「え?」
「確かにトレーニングだけあって少し弱い。それでもハヤトとミズキは初戦闘でこの動きだ。二人とも十分に才能がある」
「そうなんすか?でも、昨日の奴らそんなに動きも早くなかったし、力もたいして無かったっていうか」
「俺には…、二人の動きが力強くて早く見える」
「俺らの動きが?」」
「あぁ」
これもパルナの予兆のせいなのだろうか、確かに水希の動きは前よりも俊敏になったように見える。
(どうしようこれ、どうしたら良いんだろう)
必死に思考を巡らせてみた。距離を詰められれば殺られる。こっちは遠距離、確実に有利ではあるが一発に時間がかかってしまう。この長い弓ではテレビのように早撃ちなんて事はもっての外だ。長い弓、形…。
(そうだ)
水希は走るのを止め急に立ち止まると、ゴブリン達の方を見てニヤりと笑った。
「形が駄目なら」
彼女は矢を射る体勢になろうとしている。
「変えちゃえばいいんでしょ」
すると水希の持っていた弓は形を変え、二周り程小さい物になっていた。矢もそれに合わせてサイズが変わっている。
「一度テキトーな体位で中ててみたかったのよね!」
彼女は胴造りや弓構え、そして形らしい打ち起こしももなしに、一気に弓を引き分けた。
「あったるっかなぁ」
狙いを合わせると彼女は力強く対象へ押し手を強めた。爽快だった。矢は真っ直ぐとゴブリンの腹部へと刺さる。
「ビンゴ、流石うちよね」
それを見ていた隼人もやはり同様に褒めたたえた。
「流石に気づきやがったか、にしてもあれで中てるなんてすげぇなおい」
「ハヤト」
「ん、何すか?」
「彼女はあのタイプの弓は初めてなのか?」
「多分初めてっすよ」
「…凄いな」
ルイは水希の予想以上のセンスに圧倒されていた。
「さぁて、ラスト一匹!…はいない!?」
さっきまでの方向に奴はいなかった。
「え、ちょっと、どこに消えたの!?」
水希が辺りを見回すと真後ろから声がした。
「ギャギャア!」
振り返るとゴブリンは既に棍棒を振り下ろしている。水希はすかさず持ち前の身体能力で弓を盾に受け止めたが、そのまま吹っ飛ばされてしまった。
「くっ、いったぁ…」
状態を見てみると弓はきちんと手に持っているが矢は散乱してしまっているらしい。
ゴブリンはチャンスとばかりにこちらへ走ってくる。
振り向くと奥に矢が一本だけ落ちていた。あそこなら間に合いそうだ。
(一か八かね)
水希は起き上がり、すぐさまその矢の元へ走り出した。
「何する気だ?」
「まさか…」
彼女はそのまま矢へとダイブし、手に掴むとゴブリンの方へ弓を構えた。しかも半分寝そべった状態でだ。
「嘘だろおい…」
「映画とかでもよくあるじゃない?」
斜めにした弓へ矢を番え、またも棍棒を振りかざそうと飛び込んでくるゴブリンへと真っ直ぐに弓を引いた。
「あったれぇ!!」
彼女の放った矢は臆することもなく、ゴブリンの首へと命中し、そのまま共に消えていった。
「やったー!!全員倒したぁ!!」
「マジかよ、規格外だろんなもん…」
隼人は水希の動きに目を見張るしかなかった。
「ハヤト」
そんな隼人にルイは深刻そうなトーンで話しかけてきた。
「な、何すか」
「ミズキと二人で毎日ここへ来てくれないか」
「え、俺らがですか?」
(一応毎日来てるんだけどな…多分明日も行くし)
「あぁ、二人を正式に訓練したい」
「え、はぁ!?」
その言葉はあまりにも予想外だった。自分達を訓練する、それが何の為とも知らせずに、話はそれだけで終わってしまった。
「あ、あのぉ」
声をかけようとするが全く聞こえていないらしい。ルイの表情はとても喜びに満ちていた。まるで友達でもできた時のような顔だ。
そしてまた水希も、何かを成し遂げた子供のように、はしゃぎ喜んでいた。
水希は天才ですよ
隼人よりスペック高いかもです
頭が良いも機転が利くのも、二人は場面が異なるようにしたいですね
人には役割がありますから




