箱庭からの脱出
ドグは苦労人ですよ
とても可哀想だと思うけど凄く好きなキャラです
第十一の旅「何でそんなこと言い切れるのよ」
−ライプ−
「お昼まで、まだ時間あるよね隼人」
「ん?あぁそうだな」
隼人は空返事をした。こうされると水希は面白くない。
「さっきから何してるの?」
「考えてんだよ」
何故自分がいるのに一緒に考えようとしないんだ。水希は暇の二文字の囲まれているが故に、その答えが気にいらなかった。だからいつも余計な事も言ってしまう。
「そんな器用なことできたんだ」
「殴るぞ…」
その自分の幼さがこんな感じのやり取りが絶えない理由だろう。隼人はよっぽど大人だ。
二人は寝室でのんびりしていた。
なにか手伝おうにもここの暮らしになれていないため、最初のうちは迷惑になるだろうと判断したのだ。
そんな中隼人はずっと胡座をかき、目を瞑っていた。水希はずっと通学用の鞄に入っていた小説を眺めている事以外時間を潰す手段もなかった。
「で、一体何を考えてるの?あの非人道的な兎が言ってたこと?」
(兎に人の道理も糞もねぇだろ)
「あぁ、俺らが受け取ったってやつ、あれは多分パルナだ」
「へ?何でそんなこと言い切れるのよ」
唐突の発言に水希はたじろいだ。
「お前勉強はできてもこういう系苦手なのか?」
「そ、そういうわけじゃないわよ!」
「じゃあ分かんだろ。昨日言ってた四つの条件は覚えてるか?」
(昨日の条件…確か)
「えぇ、予兆として身体能力等の向上、目の色の瞬間的な変化、固有能力、魔法…よね?」
「そう、引っかかるのは固有って言葉だが、多分元来って意味には俺らの場合は引っかかんねぇだろうな」
(良かった当たってた!)
「そもそもうちらは別世界から来てるしね、ありえるとしたら授かったぐらいかな…。つまりあの時に?」
「あぁ、お前は気づかなかったというか、機会が少なかったと思うが、身体能力は確実に上がってる。現に制服だけであの雪山にいれた事と、昨日の戦闘演習が証明だ」
「確かに、そう言われれば当てはまるわね。てことはまだ予兆、発動条件が分かればうちらも色々使えるようになるってこと?」
「だろうな。だが多分発動条件は不明なんだろう」
「そうよね、分かっていればきちんと昨日説明されていたはず」
「今はとりあえずこの身体に慣れていくのが近道かもな」
「ねぇねぇ!じゃあさじゃあさ!」
水希の目に何かがいる気がする。これはまずい、絶対どこかに連れていかれる。好奇心という魔物に。
「トレーニングルーム行こうよ!」
ほら、やっぱりな。
「あそこなら身体も慣らせるじゃない!」
「昨日見てるだけでずっとワクワクしてたんだろ?」
「えへへ、正解です」
「分かったよ、ほら行こうぜ」
「うちが先にやるんだからね!」
「人数制限ないだろあれ…」
二人はピンピに行き先を告げ、弾む足取りでトレーニングルームへと向かった。
第十二の旅「怖い見た目は皆きっと悪い」
「やっほー!」
「フェスタ!お祭り!最高だね瑛君!」
「はしゃいで迷子になるなよ。背が低いんだからな」
「な、低いわけじゃないよ、平均が高いんだ!」
「そーだそーだ!」
「はは、アキラ。子守はしっかりしてやれよ」
「いや、うんざりだ」
市場区で子供のようにはしゃぐ二人を見て、瑛はまだ隼人と水希の方がマシだったのかもしれないと思った。異世界にいるという自覚がまるでないように思えて仕方なかったのだ。
いろんな食べ物や服などをあさり、市場区の中心地にある噴水付近でのショーを見ながら時間を潰していた。
目の前で行われる淡々とした披露を呆然と見ていると、視界から三人いなくなっていることに気づいた。そう、ダスも天野も明日見もいないのだ。
「…は?」
瑛ははぐれたというよりも、見失ってしまったという事実に気づいた。
(不味いな、はぐれたら城に集合とは言っておいたがこんなにも早くに別行動になるとは…)
予想外れの現状に嫌々ながらも足を動かしていると、大通りの奥の方がやけに騒がしかった。
(…何だ?喧嘩でも起きているのか?)
「す、すみません、おどきになってください!あぁ、悪気はなかったんです!ごめんね冷たいお菓子…。きゃあ!そういうつもりじゃなかったんです!ごめんなさい!」
どうやら騒がしいのは一人の少女のせいらしい。こちらの方へ群衆を掻き分けて必死に通り抜けようとしているのが分かる。
(忙しい奴だな)
瑛はその場を立ち去ろうとした。しかしその刹那、はた迷惑な少女が人と人の間からスポンっと出てくるのが見えた。
髪の長さは長く銀髪で、瞳の色は綺麗な青色をしていた。顔立ちは美少女と呼ばれるものであろう。質素な服を着ているが、育ちの良さが溢れていた。
「あ!」
その少女と目が合った、合ってしまったのだ。すると彼女は叫んだ。
「見つけました!変な物をつけている人ですね!」
「…は?」
(また眼鏡のことか?)
「おおおい待てええええお前そこで止まれええええええ」
そんな彼女の後ろから、大声が富んでくるのが聞こえた。
奥を見てみると、また群衆を掻き分けて今度は顔に眼帯をつけ、あちこちに傷がある黒色の犬が走ってきていた。ワンの白さを見たせいでより黒く見える。あの気品とは大違いの荒くれ感だ。
「ふっ、そう言う事か」
瑛は察した。少女はどこかの御令嬢か何かであり、金欲しさの外道によって誘拐されそうになっている寸前なのだと。確かに今日はフェスタで皆の警戒も薄れる。色んな人が陰で狙われやすいのだろう。
「おおい、そこの辺な奴、そいつを捕まえといてくれ!」
荒くれ者は走りながらも声を張り上げた。
「そ、そんな…やっと出会えましたのに」
目の前にはもう少女がいる。
ならばやるべきことは一つだ。
「あぁ、了解した…。逃げるぞ、こっちだ!」
瑛はすぐさま少女の手を取り、宿場区の方へと逃げ出した。
「は、はぁ!?誰だよお前はよおおおおお」
荒くれ者は大急ぎでまたも追いかけてきた。
「あ、あなたは私を知っているのですか?この都の出なのですか?」
「今は答えている余裕はない。だがさっき地図を見たからこの都の構造は全部覚えている。あいつを撒いたら詳しい話をしよう」
「地図を見ただけでお覚えに…?」
「あぁ、そうだが。何か変な事を言ったか?」
瑛はそのまま少女を連れ、市場区の外れまで走り続けた。色んな野菜を売っているらしい店がチラホラとと見える。その中は殆どが見覚えのあるものばかりだった。そして路地は狭い、ならば。
「じゃがいもは」
「へ?」
瑛は丁度良い位置取りの店を見つけた。
「おおおい、だから待てって言ってるだろうがぁ!」
「地面に落ちても洗えば食える!」
瑛は野菜売り場の定員に謝りながらじゃがいもを詰めた多くの箱を根こそぎ後ろの地面へと放った。もちろん路地はじゃがいもだらけだ。
「なっ!?ふ、踏めねええええ」
ドグは料理に使う彼らを踏み行くなんて事は出来なかった。一つ一つ拾い箱の中へまたはこの中へ入れていく。
(…?予想外に足止めできたな)
「た、食べ物が…」
「あれは洗って調理すれば何個でも食べられる、心配するな。今は走って前を見る事だけに集中しろ」
「は、はい!分かりました」
瑛は少女を連れ冒険者の集う温泉街の中へと姿を消した。
ついにレイスと瑛が出会いましたね!
姫様が主人公と出会う?ノンノン
この物語は多くの主人公で溢れていますよ( ̄▽ ̄)




