隼人、いざ戦う
今回は久々の本当に久々の戦闘シーン的なものがありますね
これで一応一日目の異世界は終わりといった形です
中々時間の流れが遅いですが、なんとかなるでしょうきっと
第十九の旅「なら始めよう」
−ライプにて−
「今からどうするの?寝るまでに時間ちょっとあると思うけど」
「あー、風呂入る前にトレーニングルームってとこ早速行ってみるわ」
「え、いきなり??」
「あぁ、服は借りれても明日でどうせ今日まで結局制服だけど、もし運動できるなら風呂前にやっときたいだろ」
「んー、確かに。それじゃあ行ってみよっか。左行って直ぐの右手のドアの中らしいしね」
二人は施設内の廊下を歩いていた。
「お、近いんだな」
「そうね、迷う必要もなさそう」
二人で地図通りに歩いてみると、トレーニングルームと書かれた部屋の前に着いた。
「あ、開けてみるよ!」
「そうしろよ」
ドアを思い切りよく開けるとそこは筋トレの機械があるというわけでもなく、狭い部屋があるだけであった。右側には多くのロッカーが、左には巨大な装置、そして前方には大きなガラスとその横に新たなドアがある。部屋全体は黒で染められているが、床と天井にはそれぞれ青く光る大きな丸い物が埋め込まれていた。
「何か、雰囲気かっこいいね」
「でも思ってたのとは違うな」
二人が想像していたのは普通に一般的なジムのような施設だった。
「良い意味で裏切られた感じか」
二人はルイに会いに来たという当初の目的を忘れ部屋を散策し始めた。
「ねぇ、このロッカーの中身、何かスーツっぽいけど」
「トレーニングウェアか何かか?こっちの装置の方は小難しくてよく分かんねーわ」
「隼人が馬鹿なんじゃない?それよりガラスの方は見た?」
「まだ」
「じゃあ一緒に見ますか」
「あぁ」
中を覗いてみると二人は一瞬でルイを見つける事ができた。しかし、先ほどとは違って彼は機械的なヘルメットを被り、スーツを身に付け見事な剣さばきで空を斬っていた。
「何してんだ?あれ」
「さぁ、分かんない」
(何かいる様子でもないしな…)
「あ、見て。終わったみたいだよ」
もう一度ガラスの奥を見てみると部屋の中は黒から白へと変わり、真っさらな中にルイが一人立っていた。
ヘルメットを外すとどうやらこっちに気づいたようだ。真っ直ぐにドアの方へ向かってくる。
「あ、こっち来るね」
ドアは横開きの自動ドアのようでルイがそこから現れた。
「来たのか」
「へへ、来ちゃいました」
「隼人が行こうって…」
「予想より早かったな。二日三日先と思っていたが」
「え、そうなんすか?」
「あぁ」
彼はその言葉だけを話すとまたもや三人の間に無言の空間が築かれた。しかし、この沈黙を破ったのは意外にもルイだった。
「ハヤト、ミズキ」
「ん?」
「は、はい!」
「運動は好きか?」
「大好きっす」
「苦手じゃないです!」
「そうか、なら始めよう」
それは彼が二人に見せた初めての笑顔だった。
言われるがままにスーツを着て、武器を選べと言われたので無難に片手でも扱えそうな物を選んだのだが、一体何を始めるのだろうか。
水希は風呂に入ったばかりなので今回は遠慮するらしい。遠くで壁にもたれながら体操座りをしている。
「剣を扱ったことはあるな?」
幼い頃よくチャンバラをしていた。
「あるっちゃあ、あるのかな」
「なら大丈夫だな」
「?」
「平野レベル1、スタート」
ルイの呟きと共に隼人の視界は一変した。そこには広大な緑に染まる平野が広がっており、気持ちの良い風が吹いていた。手に握っていた木刀は鋭い剣へと変わっており、さっきよりも重くなっていた。
「あのー、ルイさん。これは一体?」
「シミュレーションシステム。ライプの一族は元々機械が扱える数少ない民族だ。この施設も資金こそはタテノツキが払ったが内部の構造は全部家族で考えた」
「うわぉ、すっげーなマジでそれって。てか、王国は機械は扱えないんすか?」
「あぁ、文明を大幅に進めかねない可能性のある道具やシステムは、昔から民族や村が所有している」
「え、何でっすか?」
「世界の均衡を守るためらしい。昔からの古い習わしだ。そろそろ来るぞ」
「世界の均衡…。てか来るって何が」
ルイはただ無言で後ろを指さした。
そこには二体の得体の知れないモンスターが近づいてきている。
「え、ちょルイさん!?これは一体」
「ここの名前はトレーニングルームだ。実力を見る」
「実力って!?うおあ!」
言い終わる前に隼人に対して、耳が大きくとんがり、歪な鼻を持つモンスターが襲いかかる。剣は大きく上から振り下ろされた為、なんとかこちらも防ぐことができた。
「くそっ、コイツなんなんだよ!」
「ゴブリンだ」
「はぁ!ゴブリン!?」
「その辺にいる」
ゴブリンと言えばよくゲームなので出てくる初心者御用達のモンスターだ。正がやっているゲームでもよく出てきた。何にせよ何故そんなものが目の前にいるのかが理解できなかった。
とりあえず拮抗状況にある剣の重なり合いを打開すべく、ゴブリンの腹部と思われる場所へ蹴りを入れた。
「ぐべぁ!」
ゴブリンは悲鳴を上げる。だがしかしまだまだ元気なようだ。再び斬りかかってきた。
(剣なんてぶっちゃけろくに使ったことねぇよ!)
ギリギリで剣をよけながら取り敢えず間合いを取ることしかできない。当たったら痛みを感じるのだろうか。ゴブリンの攻撃から身を守るだけで精一杯な状況の中、隼人は一つの事実に気がついた。
(何か、身体軽くね?てか、イメージ通りにいつもより動けるな)
力がどうのこうのと言われ若干変わった気がしなくもなかったが、確信を得たのはこの瞬間だった。思ったように身体が動き、相手の動きも良く見える。それ以上に早さや力まで何らかの変化があったように思われた。
(こんなに動けるなら)
隼人は大きく一歩引きゴブリンを挑発してみた。すると相手はムカついたのだろう。良く分からない言葉を発して思いっきり間合いを詰め剣を突き刺そうとしてきた。
(単純だな)
次の瞬間、隼人は足でその腕を蹴りあげゴブリンの武器を遠くへ飛ばした。
「こんなもんか」
そのまま彼は無防備なゴブリンの頭へ一撃を加えると、そのゴブリンは一瞬で消滅した。
「ふー、やれるもんなんだな」
「え、何?何??何かしたの隼人」
水希はヘルメットを被っていないため状況がさっぱりらしい。
(未熟だが、悪くはないな)
ルイは無言でその光景を見つめていた。
「敵を倒しただけ」
「敵??空切ってただけじゃ…」
「はぁ、全く分かってねぇなぁ」
「な、何よそのため息!あんただって最初はキョトンとしてたじゃない!」
「うるせぇ、今は違うんだよ」
「ハヤト、次の相手が待っている」
「え、あーすみませんルイさん。ちゃっちゃと片付けちゃいます!」
「うちは無視なの!?」
「良いから座っとけって。お前も明日やってみればわかるよ」
「ぐぬぬぬ…」
気を取り直しもう一体をよく観察してみた。どうやら人型のトカゲみたいだ。体中の腹部等以外には、硬そうな鱗を張り巡らしている。
「こいつってもしかして、リザードマンっすか?」
「あぁ」
「まじかぁ…」
(結構ごついんだけど…)
躊躇っているとあちら側から動き出してきた。動きはゴブリンよりも遥かに早く、予測しづらい軌道を描いて近づいてくる。武器は棍棒のようなものだ。
「どわっと、いきなり迫ってくんのかよ!」
横振りの攻撃をギリギリ剣で抑え、とりあえず弾いた。しかし相手もそんなに一度で終わるほど優しくないらしい。左右上下ゴブリンとは桁違いの戦闘技術だ。
(だったら)
大きく振り回してきた棍棒をしゃがんで避け、左足を軸に右足を回し相手の足を蹴たぐり、体勢が緩んだ所へ斬りかかる事でようやくかすり傷を与えられた。
「ちっ、今のでそれかよ」
先の攻撃で警戒心が増したのか、下からの強烈な打ち上げが来た。防いではみたものの、完全に吹っ飛ばされるほどだった。
「ぐわぁっ!んだよ今のは!」
何とか足をつき体制を立て直した。どうやらリザードマンはまだ全然元気らしい、休むまもなく猛攻を続けてくる。
「厄介だな…」
個人的な打つ手を見失ってしまい、辺りをとりあえず見渡してみた。
そういえばここは平野だったのだ、土がある。
考えている間にも攻撃が止む気配はない。おかげで結構な隙がある事にも気づけた。
自分自身の中で条件が揃うのを感じた。
「だったらよ、これならどーよ」
もう一度しゃがむ、すると予想通りリザードマンは足元に注意を払う。その隙に地面の土を手に取り、相手の目へと放り投げる。
「ギャアォ!」
見事命中、リザードマンは目を抑え苦しんでいる。
「楽になれよ」
そのまま剣を上へと振り上げると、剣先が首元へ触れた時、リザードマンは光となり消えた。
「ふぅ〜。終わりましたよ、ルイさん」
(無傷か)
「ああ、そうだな」
「そ、それだけっすか…、俺結構いい線いってた気がしがしたんすけど」
「?上出来だったぞ」
「うお!まじすか!やったぜ!!」
隼人は盛大に喜んだ。
「まだやるか?」
「いや〜流石にきついっすわ。水希も動く俺ばっか見てても眠そうだし、ほら、なんかうっとーりって感じに眠そうな目っしょ?」
言われた通り水希の方を見てみると、確かにちょっと違う目をしていた。
「なら、終わりにしよう。明日も来るか?」
「へへ、もちろんっす。今度はあいつにもやらせますよ」
「分かった。ゆっくり休めよ」
「ういーっす。おーい水希、部屋戻んぞ」
隼人が声をかけると水希はようやく我に帰った。
「え!?あ、はい!戻ります!」
水希は大急ぎで立ち上がり、隼人と共にトレーニングルームを出た。
第二十の旅「お、おやすみ」
−ピンピの部屋−
「本当に二人なの…?」
「他に部屋も布団もないらしいし、仕方ねぇだろ」
「は、隼人は良いの!?」
「んー?いや、別に良いだろ」
「良いの!?な、なら別にうちだって全然の全然に大丈夫だけど」
水希は自分でも声がうろたえてるのが分かった。
「どーしたお前、何か具合でも悪いのか?」
隼人は水希へ近づこうとする。
「うるさい!あっちいけ!もう電気消すわよほら!寝るの寝るの寝るの!!」
水希は隼人を蹴飛ばし、そのままの勢いで電気を消した。
「いった、お前何すんだよ!」
「しーっ、もう寝る!おやすみ!!」
「蹴られ損かよ…」
「喋るの禁止だからね!」
「はいはい」
水希の調子はいつもと大して変わらなかった為、隼人も大人しく布団へと入った。
一方水希は全く寝れる気配など微塵もなかった。
(何でこんなことになるのよ!ピンピさんの馬鹿!確信犯!!愉快犯!!!)
水希は嬉しいのか恥ずかしいのか何とも言えない気持ちで布団に潜っていた。
三十分前
「ピンピさん、私達寝る部屋はどこにすれば良いんですか?」
「んー?あぁそこの部屋だよ。二人が寝るところは」
「こっちですね、ありがとうございます。…ん?二人?」
「そーよ、ミズキとハヤトの部屋」
「んんん?二人で寝ろと…?」
「えぇ、そーよ」
ピンピは当然のような顔をしているが、絶対内心笑ってる。
「むむむ無理ですよそんなこと!私は一応こんなんでも女子で、隼人はだ、男子なんですよ!?」
「どーしたんすか?何か水希がうっさいですけど」
動揺する水希の後ろから、風呂上がりの隼人が現れた。
(わ、わぁ!)
「ピンピさんが、私達は今晩同じ部屋って、隼人は嫌だよね!うちなんかと同じとか居心地悪いよね!!」
「どうなんだい?ハヤト」
隼人は迷う様子はなかった。
「いやー、別にいいんじゃね?部屋も空いてないんすよね。なら仕方ないっすよ」
「隼人おおおおおお!?」
「はは、決まりだね」
(え、ちょ、え!?)
「は、はい…」
拒む選択肢は消されてしまった。
(だ、大丈夫よね、男子って言っても隼人だし。おおおお襲われたりなんてそんなことはあははは)
そんな事を考えているうちに無言が五分続いた。しかし、何も起こる様子はなく、少し悔しさを感じてしまった。女として見られているのかと。
「…」
「隼人」
「…」
「何か喋ってよ」
「何だこいつマジで」
「だ、だって、先に寝息とか聞こえたら寂しいし…」
「惜しげもないワガママだな本当」
「ご、ごめん」
普段皆がいる時ではありえない事で、水希が少しばかりしゅんとなるのも微妙な空気になってしまう。まるでこっちが虐めてるみたいだ。
「怒っちゃいねぇよ。そんなことよりさ、俺ここに来て分かったことがあるんだけどよ」
「分かったこと…?」
「あぁ、何か兎と亀にされただろ、その件について」
「なるほど、なんか変化あったっけ?」
「結構あるぞ?まず第一に体温が常に丁度いい。雪山でも普通に制服で何とかなってたし」
「あ、確かに」
(兎さん、本当は優しかったのかな…?)
「第二に、多分動体視力と身体能力が変わってる。全体的に上昇してるんだ」
「え?そうなの??」
「これはさっきのトレーニングで気づいた」
「どんな感じだったの?」
「身体が軽くなってイメージ通り動ける感じ」
「隼人できないっけ?」
「わりぃ、説明が悪かったわ。とりあえずそんな感じで多分変化があったと思う」
「へぇー、そうなんだ。どうなんだろうねそれって」
「さぁ、分かんねーけど不便ではないだろ」
「まぁねぇ」
(もうちょっと可愛くなるとかそんな効果はないかなぁ)
「そろそろ寝るか、今日はもう疲れた」
「そうね、寝よっかな。明日に備えて!」
「何するかも知らないけどな」
「まぁ、良いじゃん。それじゃあお、おやすみ隼人!!」
「おー、おやすみー 」
二人は互いに壁際を向き、背中を向けあって静かに眠った。
正確に言うと水希は、眠れなかった。
まさかの一時タイトルを間違えていました
かなりショックで後書きもそれに合わせていたので何がなんやら
個人的に水希は結構好きなキャラです




