まずは相手の環境を知ろう
そろそろ書きだめの分がなくなってきましたね
投稿頻度が下がると思われますが、できる限りクオリティを上げつつ投稿していきたいです
第十七の旅「文化の壁をぶち破れ」
ピンピが一目置くなら仲良くなっておくべきだ。
「名前、何て言うんすか?」
「ルイ」
相手は無感情に答えた。
「ルイさんって言うんですね、よろしくお願いします」
「あぁ…」
彼の返事はそれだけだった。一瞬の無言が急に人と人との壁を作りかける。
「えぇっと、歳はいくつなんすか?」
隼人がそうはさせまいと言葉を続けた。いいぞ。
「二十一だ」
「二十一歳かぁ!何か凄く先輩って感じっす!」
「そうか」
「あー、一緒に食べます?俺まだ何も食べてなくてペコペコなんですよ!」
「もう済ませた」
「そ、そっかぁ。そうですよねぇ、俺らが来るのが遅かったんですもんね」
「かもな」
隼人のコミュ力をもってしても心の壁が全く姿を隠すことがないのは恐ろしい事だ。隼人自身にも完全に焦りが見えている。
「じゃ、じゃあいただこうかな。ほら、水希お前も食えよ」
「え、へ??」
(ちょっと、何で急にご飯なんか?話の途中でしょ??)
(ばーかお前心の壁は文化の壁をぶち破ればなんとかなるんだよ。まずは相手の文化に触れてそこから仲良くなろうぜ)
(な、なるほど。たまにはちゃんとした事言うわね)
(よし、行くぞ)
隼人はとりあえず大きな骨付き肉にかじりつき味わった。
(う、うめぇ!)
「いやー、これ美味いっすね!いくらでも食べれちゃうなぁ!」
皆は現実世界でいうレタスのようなものや人参のようなものを色々切って盛り付けたのであろうサラダを口にした。
「う、うわぁー。ほんとーに美味しいなー。いくらでも食べれちゃうぞー」
水希は確かに美味しいと思っているのだろうが言葉が完全に片言棒読みになっている。
(おいおいそんなんじゃ演技丸出しだろ!!)
(そんな事言われたって演技とかしたこともないし!)
(最初の方よく可愛こぶってただろうが!あれ見せろよあれ!!)
(はぁ!?誰が可愛こぶって)
「そうか、美味いか」
「…え?」
「お?」
不毛な争いをしているとルイが自ら口を開いた。
「美味かったのならそれでいい。俺は戻る」
「え、いやちょっと」
「まだ少しお話でも…」
「俺はトレーニングルームにいる。用があるならそこに来い」
そう言って彼は宴の間を出ていった。
「と、とれーにんぐるーむ?」
「今のは、これからも仲良くねってことか?」
「かもしれない…」
隼人は次に絶対何かしらの自慢をしてくる。水希は確信した。
「うおおっしゃあ!どうだ俺の作戦は!」
ほれ見ろ、まあ少しは褒めようかな。
「たまたまの閃きのくせにやるじゃん」
「いや、たまたまじゃないんだけど」
「いやー、良かったねあんたら。ルイに気に入ってもらえるなんてさ」
「え、あれ気に入られたんですか?」
「そうだよ、トレーニングルームにいるなんて過去に二回くらいしか言ったことないわ。ていうから自分から喋ることがまずないわ」
「たった二回!?」
隼人は信じられないといった顔で怯えている。
(どんだけ無口なんだよ…。てかコミュ障ってやつか!?)
「ルイは話しての通り無口だからねぇ。自分の居場所を伝えるのが恥ずかしいのさ。でも、腕は確かだよ」
「やっぱ俺すげぇな」
「意外とぱっと見の印象とは違うんですね」
「ふふ、そういうところが面白いのさ」
ピンピの瞳は人の動きを楽しんでいた。
ある程度の自己紹介を終えたあと、二人は彼らの歌え踊れのどんちゃん騒ぎを楽しみながら、食べれるだけ食べた。色んな人とも会話をし、とりあえずはしゃいだのだっだ。
だいぶ話し疲れてきた頃に二人はピンピに了解を取りその場を抜けだした。
「はぐれるんじゃないよ」
そう言ってピンピは施設の見取り図をくれた。
第十八の旅「静かな夜と腹の音」
「それにしても正、よくこんないい場所を見つけたな」
瑛は正の功績に感心する。
「いやー、たまたま生き物が沢山寄っていく方向が 見えてさ、もしかしてって思ったらね」
「わぉ、天野くんそーゆーので分かっちゃうんだ!」
「なるほど、納得がいったよ。意外と馬鹿じゃないんだな」
多分これは瑛君なりの褒め言葉なのだろう。今日は珍しく人から褒められたり、感謝されたりする日で照れるのに忙しい一日だ。
そうこう話しているうちに、僕らはあらかた椅子替わりの石を置いたり木を組み立てることで簡易的なキャンプ地を作った。
しかし、ここまでやって一つ困った事がある。
「なにか、火を起こすものとかないかな??」
「あ…」
「火を起こすもの…」
(しまった。外はもう暗いしさっき明日見さんが試したけどネットも繋がらなかったから、火の起こし方なんて検索できないぞ)
「何かあれだよね、木の棒を縦に持ってぐるぐるするとつくんだよね!?」
「んー、その予定だけど」
「その方法は実際問題厳しいだろう、ここまで暗いんじゃ手元も覚束無いはずだ」
「た、確かに。木が手に刺さったら危なっかしいよね」
「じゃあ逆にどうしたら…」
完全に打つ手がないように思われた。元々知識もないから仕方のないことだったのだが。
「ふ、まぁそんなに絶望するなよ。良いか二人共、まずは俺の右手を見るんだ」
「右手…?」
愛は首を傾げ、正と共に瑛の右手を確認した。
「何もないけど」
「まさか、心が綺麗な人には!」
「次に俺の左手を見てみるんだ」
「今度は左手?」
再び目線を左手へと持っていくとそこには見覚えのあるものがあった。
「あ!」
「瑛君それ、今日の化学の実験で使ったマッチじゃないか!」
「その通りだ。先生の片付けの手伝いをしている時に落ちてしまってな。戻すのも億劫だったから拝借させてもらった」
「瑛君〜!!」
正は感嘆した。
「凄い!これで火が起こせるね!」
愛も喜びのあまり声が大きくなった。
「ふっ、まぁそう褒めるなよ。さぁこれでひをおこそう。ルーズリーフが何枚かあるから初めはこれに火をつけておけば問題ないはずだ」
瑛君が言ったように僕らはルーズリーフをいくつか木の山の内側に入れ、そこに火をつけて少しずつ燃やしていった。何度か調節していくうちに火は安定した。
「ふ〜、何とかなったね」
「あぁ、本当にできるもんなんだな」
「今回は導衆君のファインプレーだね!」
火を取り囲み温もりを感じると、急にお腹がすいてきた。
ぐ〜きゅるるるる〜
その音はほぼ三人同時に鳴った。
「あっちゃ〜」
「お、お腹すいた」
「だな、いま時計でいうなら二十時頃か」
「ご飯、食べてないんだよねぇ」
「多分皆そうだと思うんだが」
「そ、そっか!どうしよう、私チョコなら持ってるよ!」
明日見さんの手には有名な箱入りチョコレートがあった。
最早女子高生なら三人に一人が所持してるのではないかと思われる程の圧倒的チョコ所持率。
「あー、でも待って明日見さん。僕これを持ってるんだ」
僕は今日の夕飯と明日の朝ご飯にと思いさっきコンビニで買っておいたおにぎりを取り出した。
「わぁわぁわぁわぁ!!こ、これ食べてもいいのでしょうか」
「おぉ、コンビニのおにぎりがこんなにご馳走に見えるとは…やはり日本人なんだな」
明日見さんと瑛君の表情は完全に餌を待つ犬っころの顔だ。
「ちょうど三つあるから、三人で分けようよ。鮭と高菜と焼肉カルビ」
「私鮭で!」
「俺は高菜だな」
「お、僕は焼肉カルビが良いから丁度分かれたね」
僕らはそれぞれを手に取り包みを外した。そして、僕はそれを早速口に入れようとした。
「よし、食べよう」
「待て、天野。まだいただきますを言っていないぞ」
「え?」
「あ、本当だ」
「飯を食べる前にはどんな時でも感謝の気持ちを込めなきゃいけない。ほら、いくぞ」
「あ、はい」
(こういう所は育ちがいいんだなやっぱり瑛君って)
「それじゃあ」
「「「いただきます!」」」
それから僕らは僅かな食事を頬張った。身体を動かした後でもあったためとびきり美味く感じた。
久しく忘れていた事だ。一人暮らしをするようになって、夜に誰かと一緒にご飯を食べることも、いただきますと言うのも、いつの間にかしなくなっていた。
だからこそ今日のこの時間が、僕にはとても楽しかった。
「さて…おおかた落ち着いてきたし、本題へ入るとするか」
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ
「え、本題?」
明日見さんはまだおにぎりを食べている。
どうやら食べる迫力はあるらしいが勢いだけで食べるのは凄く遅いらしい。朝遅いのはこのせいかもしれない。
「本題っていうは?」
「決まっているだろ、これからどうするかだ」
「あ」
「あぁ!そうだよ!パパとママにも連絡つかなかったし、どどどうしよう!!うっ!」
彼女は慌てたせいで喉に詰まらせたらしい。
「ぐ、ぐるしい!」
一人で身悶えている。とりあえず素晴らしいから放っておこう。
「その事についてなんだが、時計を見てのとおりここの世界と俺達の世界とは多分時間の進みが同じなんだろう」
「え、てことはあっちも夜ってこと?」
「その通り、つまりあちらの世界では俺達は全く二十時になっても帰ってくることはなく、連絡しても繋がらない状況ということだ」
「それってつまり、あっちの世界では高校生五人が同時に行方不明になってるってことだよね」
「仮定としてはな。そしてこれが事実とするならば、向こうとしては日本中に広まるレベルの大ニュースって事だ」
「僕ら有名人…?」
この失言後の瑛君の顔を僕は思い出せばいつでも笑えるだろう。
「問題はそこじゃない。もしあの世界に戻れたとして、どう対応するかだ。まず早期に戻れたとしてもネタに飢えたマスコミが食っていくために押しかけるだろう。そこで事実を話した場合多分この綺麗な世界は人間に荒らされ、俺達は何か力が宿ったとするなら人体実験に用いられかねない。それに、嘘をついて五人で家出したなんて言えば親の立場は確実にガタ落ち、俺達も居場所はなくなるだろう」
「じゃ、じゃあ出れる方法が見つかっても、ほとぼりが冷めるかなって時まで待てば」
僕は少し口調が強くなっている気がした。
「そこまで行けば親もヒステリックに陥ってしまっているかもしれないだろう。それに、水希の父親は警察官で人望も厚い。下手すれば警察が深く関わって更に大事にされてしまう。人間ってのは事を大きくするのが好きだからな」
「それなら、一体どうすれば良いんだよ。早くても駄目遅くても駄目、程よくなんて到底考えられる状況じゃないし」
「それでも考えなくちゃいけないだろう?そもそも俺は初めからこんな所に来るつもりはなかったんだ。お前らが無理矢理」
「それを言うなら僕と明日見さんをここに連れてきたのは君じゃないか!」
「あ、あのー。それならさ、まず帰る方法見つかった後の事を考えるよりも、私は帰る方法を見つける方が先だと思うのです」
(あ、復活した)
「あっちがどうなってるかなんて分からないし、パパもママも、天野君や導衆君の親もぜった心配してると思うから。それだったら、その先の事より、まずは家族を安心させなきゃいけないなって」
「なるほど…一理あるな。怖気付いて悩んでいても仕方ないということか?」
「え、いや!悩むのはすごく大事だと思うの。でも、二人共なんか少し暗くて怖かったから、もう少し柔らかく考えて欲しいなって」
「ごめん。そういうつもりじゃ」
「すまなかった、テンパっていた訳じゃないんだがどうも不安だったらしい」
僕らは反省の意を述べた。
「ううん、大丈夫だよ!皆こんな状況になっちゃったら不安だもんね。私だって二人がいなかったら多分泣いちゃってるよ」
明日見さんの笑顔はいつも場を和ませる力を持っているのではないだろうか。
「そうだな、こんな時だからこそ焦らず知恵を合わせるべきか。天野の家は一人暮らしだからある程度問題ないだろう。それでも、俺らの家族のことを考えて早急にまずはこの世界を出る方法を探す。これがまず第一だな」
「え、天野君って一人暮らしなんだ!」
(行き道に言った気がするけどな)
「うん、そうだね。とりあえず瑛君の言ってたようにまずは都からだね。二人のこともあるし」
「あぁ、それじゃあ明日はまた長い一日になるかもしれない。疲れを取るためにも早めに寝るとするか」
「賛成です!特に私沢山寝ないと朝起きれなくて…」
「明日見さんいつも朝遅いもんね」
「うっ、バレてる…」
「ならなおさらもう寝るとしようじゃないか」
「それじゃあ私一番に寝てみせるね!おやすみー!」
「寝るのなら僕も負けないよ」
「競うレベルがおかしいだろ…」
それから僕らは鞄を枕にしたりして川沿いの岩の上に寝た。本来なら夜はまだ寒いはずの時期なのだが、とても気持ちのいい温度だった。
空に映る沢山の星を眺めながら、僕はいつの間にか眠りへとついていた。
よく異世界物では描かれている描写の少ない現実世界(偏見)
残された家族の心情やメディアの動き等も、僅かですが書いていこうと思っています




