馴れ染め
隼人と水希、そして瑛の過去の一部が明かされますね
馴れ染めですが、少しずつ三人がなぜ仲良くなったのかも掘り下げていきたいと思います
第十三の旅「そそっかしくない」
「えっと、改めまして雷陣 隼人って言います。隼人って呼んでください」
「オーケー、ミズキとハヤトね。旅人なんて久しぶりだから嬉しくなっちゃうねぇ。これからよろしく」
「はい、そそっかしい奴とセットですがよろしくお願いします」
隼人は目覚めて直ぐにピンピと挨拶を交わした。
「はぁ!?うちそそっかしくないし隼人より冷静だと思うんだけど」
「はぁ?んなわけねーだろ全く、これだから周りが見えない奴は」
「それはどっちのセリフよ!さっきだってあんたのおっちょこちょいで酷い目あったんだからね!」
「ぐっ、あれは仕方なかったんだよ。ピンピさんが何も言ってくれないから…」
「人のせいにする気!?最低!変態!ばーかばーか!!」
二人はピンピの目の前で子供のような言い合いを始めた。
「ははは、ほらほらお二人さん。痴話喧嘩はやめて私に付いてきな。これから施設と仲間を紹介してあげるからさ」
「は!きゅ、急にすみません!またお恥ずかしいところを…。ほら!隼人も謝んなよ!」
「分かってるって。すみませんでした」
「良いってことよ、私は若いのが大好きだからねぇ」
「わ、若いのが好きって…?」
(ま、まさか隼人が気に入ったとか!?ピンピさん凄く綺麗だしどどどどうしよう)
根拠のない考えを浮かべてみていると、急にピンピさんは大笑いをした。
「ミズキってば本当面白いわねぇ。大丈夫だって、私にはちゃんと夫もいるんだ取ったりしないさ」
「へ、へ!?いや、別に私そんなこと思ってないんてないですしますしお寿司」
「?どーしたんだお前。良いからさっさと案内してもらうぜ」
「あ、うん!そうしよ!!ほら、ピンピさん早くお願いします夜になっちゃいますよ」
(いや、もう夜だろ普通に)
「そうだね、皆も楽しみにしてるからねぇ」
「皆ってのは家族のことですか?」
「まぁ、広く言えばそうなるわね」
「会うのがすっげー楽しみっす」
「あんたいい顔するじゃないか、ミズキもイチコロって訳だ」
そう言うとピンピは水希の方へにやけ顔を送った。
「ひ、ひぇ!?」
水希は怯えた小動物のような顔をしている。
「イチコロ?いや、むしろ俺がボコボコにされまくってんすけど」
事実を口に出すと途端に水希は、
「わ、私ちょっとおトイレ借りてきますね!!」
と急に取り乱してトイレへと駆け込んでいった。
「何だあいつ、ずっと我慢してたのか?」
「ハヤトも罪な男よねぇ」
「いや、俺の人間性は優しさに溢れてますよ」
隼人は渾身のキメ顔を披露した。
「あんたって…馬鹿?」
第十四の旅「よろしく」
(何でバレた何でバレた何でバレた!?
ずっとずっと誰にも話してない筈なのにこんなの絶対おかしいわよ!!)
水希は他人のトイレにこもり声にもならない音で喉を鳴らしていた。
碓かあれは1年生の四月が終わろうとしていた頃だろう。クラスの皆がそこそこに仲良くなり、グループのようなものが出来始めたときだ。
誰々が少しうざいだとか、あの人が意外とかっこいいとか。趣味の話で意気投合したり、類は友を呼ぶで親しくなっていったり、そんな会話が飛び交う日々。
そして何より男女の交流が少しずつ増えていっていた。
自分だって女子高生になったのだから色のある恋の一つや二つはしてみたかったし、誰がかっこいいとか言うのにも興味があった。
そんなまだ始まって間もない学校生活の中で、成績の関係上何故か委員長をやらされていた。
正直驚いたが元々人との交流やその場の空気を仕切るのは得意だったし、基本こなせない仕事はなかったため断る理由はなかった。
そして副委員長は同じクラスで必然的に成績上位者の瑛になり、彼は顔色一つ変えずそれを当たり前のように受け入れていた。
委員長になってからはクラスの皆を把握するためにとことん会話をした。相手の事を知らないと友達になるなんて不可能だったからだ。
その中には隼人もいた。
(えーっと、女子は全員コンプリートしたから…次は男子だよね!だ、誰から話かけようかな。皆ちょっと怖そうだし…、とりあえずよく喋る人が良いな)
「ねぇねぇ、雷陣君。やっぱこの学校で一番じゃない?」
「分かる、苗字変わってるけど似合ってるよねぇ」
「身長どのくらいなのかな?凄く私に似合いそうじゃない?」
「ばーか、冗談は顔だけにしときなって。雷陣くんは誰も狙わないし狙えないでしょあれ」
「見合う人がいないもんねぇ。あ、でもさ」
少女の一人が考え事をしている水希の方を見る。
「水希ならいけるんじゃない?」
「あー、確かに。凄い可愛いもんね」
「っでも、私あの子嫌いかな。馴れ馴れしいしずけずけとさ」
「そ、それは委員長だからであって水希がそうしてるわけじゃ」
「そうかなぁ、皆言ってるよ?実は男遊び激しくて男子に近づくためだとか」
「もう、やめなよ皐月。水希が可哀想だよ」
「ふふ、今に見てなさい由梨。化けの皮が剥がれるわよ」
「そんな事…」
(よし、決めた)
彼女は立ち上がり、隼人の元へと向かった。
「ほーらね?」
「え、嘘」
隼人はどうやら小テストのやり直しをしているらしい。頭はそこまで良くないのだろうか。
「えーっと、雷陣君…だよね?」
最初は自分が呼ばれてるとは思っていなかったらしい。少し間が空き返事が返ってきた。
「ん?えーっと俺?」
「そ、そう!雷陣君に話しかけました」
「あー、うん。風咲っしょ?頑張ってんよね〜委員長」
(い、いきなり呼び捨て!?さ、流石フレンドリーね。女の子にもこの対応なんて)
「ちゃんと、委員長って認識してくれてるんだ」
「そりゃそうっしょ。いつも放課後遅くまで仕事して偉いなって思うよ。お疲れさん」
彼が自分の事をある程度見ていることに緊張した。
「ありがとう。今ね、私」
「あー、分かってるよ。友達作りってわけじゃないだろうけど、皆と仲良くなってってんだろ?俺雷陣君とか呼ばれるけど、呼びにくいっしょ。隼人でいいよ」
(な、な!?いきなり呼び捨てにさせるのってありなの??この人金髪だしもしかして遊びまくってるんじゃ…)
表情に驚きと警戒が現れていたのだろう。彼はくすりと笑った。
「ちょっとそんな警戒すんなって。別にあんたにつけ込もうとかもないし素直に言いにくいでしょって話。俺そもそも恋愛とかそーゆーのに興味ねぇから安心しなって」
「え!?いや、ごめんなさい。私そういうつもりじゃ」
「はは、風咲って中々面白いんだな。それとその喋り方も疲れるっしょ?いつも通りで大丈夫だって」
「へ?うち…じゃなくて私無理なんか」
「ほーらしてる。ためなんだしクラスメートなんだから遠慮すんなよ」
「あ、ありがとう雷陣君…じゃなくて、じゃあ隼人?」
「そうそうそんな感じ、これからよろしくな」
彼の笑顔は何故か普通とは違うように見えた。
「うん、よろしく!良かったー怖い人じゃなくて…」
「やっぱ少し話しかけるの戸惑うよなこの色だと。これガキの頃に友達に似合いそうって言われてな、高校で試してみようって」
「そうだったんだ!似合ってると思うよ。うぅうちもこのポニテ、高校からだし」
「お、マジで?なんか風咲に言われると自身湧くかも。そのポニテ俺好きだよ」
「本当?なんか、嬉しいな。容姿で褒められたの初めてだよ」
「え、嘘。中学の頃相当地味だったのかもな」
確かに中学時代はショートカットで眼鏡をかけて勉強一筋だった。
「そうかも、勉強ばっかだったし」
「本当その見た目だったら意外って感じだよその性格」
「お互い様って感じね」
「あぁ、そうだな」
二人の会話の光景はクラスなほぼ全員が注目していた。
「ね、言ったでしょ由梨」
「これは。雷陣君が優しいだけで水希は何も」
「甘いわね、ああいう女は上辺だけは良いのよ」
「皐月…、過去に一体何あったのさ」
それから水希と隼人はすぐに親しくなった。そしてこれを期に水希はほかの男子全てとも会話をし、全員のことを把握した。
しかし、それと同時に彼女は、周りの反感を少しだけ買ってしまった。たわいもないことなのかもしれないが、まだ中学を卒業したてで若い私達は些細な事が重要だった。
たとえ一瞬目立つ行動をしたとしても、それは何かを起こすには十分な火種になれた。
彼女が隼人に恋をしたのは、それがきっかけだった。
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