耳を澄ましてあなたを見つめて
正達に戻りましたね
最初の方でキャラ紹介もしていきたいので場面がコロコロ変わっていきます
第五の旅「火を起こそう」
昔、じいちゃんが言っていた。
「正、もしもお前がこの先夜に道に迷ったらまずは何も見えなくなる前に明るいところへ行くんじゃ。森の中だったら暗くなる前に火を起こすと良いぞ」
「火?ねぇねぇなんでー?」
正は足をブラブラさせながら、縁側に座っていた。祖父は部屋の中で何かを作っている。互いに背を向け、言葉だけが聞こえる状況だ。
「何故かって?火ってのは凄いんじゃよ。夜動物はその燃え盛る炎を恐れ離れていき、その炎はわしらに温もりを与え、更に食い物まで焼けちまう」
「へぇ!火ってやさしいんだね!」
正は驚きで後ろを振り向く。
「ふっふっふー、まだまだこれだけじゃあないぞぉ!空に昇っていく煙ってのは自分の居場所を誰かに知らせる柱になるんじゃ」
「よく分かんないけどすごいんだね!」
「その通り、凄いのが分かってれば大丈夫じゃ」
そう言うと祖父は振り返り、正と目を合わせて笑った。
あの時の祖父の笑みは今でも覚えている。
(よし、これでいこう)
「迷ったね…」
「ここは、さっきも通ったな」
「この森って本当は迷路なのかなぁ」
僕らは先ほどから、何度も同じ道を行っているような感覚に襲われていた。もしかしたら、ただ単に森慣れしていなくて、そう思えるだけかもしれない。だって木の後に木、そしてまた木、木木木木木木木木なんだから。まぁどっちにせよ、瑛君はイライラしている。落ち着け優等生。
明日見さんを含め二人は困り果てた様子だ。僕が困ってないわけじゃないけどね。
「ねぇ、二人とも」
とは言え、案がない事もなかった。受け売りなんだけどね。
「ん?どうした」
「何ー?天野君」
二人は後ろを振り返って僕を見る。なんだか、見られると緊張って言うか、話にくいなぁ。いや、でも言わないと。勇気を振り絞れ。
「えっとね、まだ暗くならないうちに木とかを集めて、取り敢えず今日は火を起こそうよ」
「火、火ですか!」
「それもそうだな。暗くなってから明かりを欲しても間に合わなさそうだ」
二人ともすんなりと聞いてくれた、声裏返ったりしてなかったかな?少し調子に乗った僕はある事を、まぁ仕方ないけど、という感じで言ってみた。
「本当は懐中電灯があればもっと良かったんだけどね」
少し苦笑いを含んでみる。
「あぁ、欲しかったねぇ…」
明日見さんが乗ってくれた。なんか良い気分だ。僕と明日見さんは二人して瑛君を見つめてみた。
「…あの時はどうかしていたんだ」
彼は遠い空を見つめている。うん、まぁどうかしてたよね。本当に仕方ないんだ。責めるつもりはないよ。
「まぁそれは置いといて瑛君は木の枝を、明日見さんは葉っぱを沢山、僕はどこか良い場所がないか探してみるよ」
話の空気を戻そうと、正は元の話題へ戻り続けざまに言った。
「追加の分も集めないとな」
「葉っぱ拾いは好きだよー!」
二人も内容に同意してくれたらしい。なんか、リーダーっぽくて結構好きかも。
「よし、それじゃあ決まりだね」
「俺はあちらを探してくる。適度に声を掛け合って互の位置を確認しよう。戻ってくる場所はここで、じゃあ解散だ」
そう思っていたら明君にその先の指示を全てされてしまった。リーダー期間は終了してしまったらしい―――早すぎるよ。
その後すぐに僕らはそれぞれ別々の方向へと探索を始めた。
一本道の周りを散策してみると、チラホラと妖精だったり小動物の様な生き物が多くいることが分かった。それらはどれも見たことはないが、可愛いものばかりだ。モフモフした可愛いのもいた。
そんな中、一つ気になることが出来た。今日は冴えているかもしれない。
(この付近になって急に増えたってことは…)
「もしかして」
僕はその考えを試してみようと思い、声を張りあがる。
「おーい!少し先に行ってみるよ!」
うっへ、喉嗄れそう。
「分かったー!ちゃんと道覚えといてねー!」
「気を付けていけよー!」
「大丈夫だよー!」
(よし)
小動物が遊びまわる中を抜けて、草を掻き分けていくと段々と音が聞こえてきた。予想通りかもしれない。もう少し足を進めてみると開けた場所に出た。
そこには美しい滝と川、そして光る妖精達がその上を飛び交っていた。
川は透き通っていて中には魚も多くいた。
「おーい!二人とも!ここなら休めそうだよ!!」
僕は大声を出してみたつもりだが、二人の返事は聞こえなかった。
「あ、あれぇ…?」
しょうがないのでもう少し奥の滝の方へ行ってみることにした。
綺麗な空気が漂っている。
人は一人もいないのでは思われるほどに静かだった。滝の音以外は何も聞こえない。しかし、薄暗くなりそうな中夕焼けが照らす幻想的な景色の中、そこには一つの人影が見えた。
その姿はあまりにも美しかった。
第六の旅「夕焼けの元で」
その人影はこちらへはまだ気づいていないらしい。目を凝らそうとしても顔立ちが整っていることと、そのシルエットから服を着ている最中であるということくらいしか認識できなかった。多分今の所は真っ裸だ。
「き、綺麗だ…」
僕は無意識に口が動いていた。
「声?一体どこから」
僕の声に気づいてしまったらしい。一通り辺りを見回した彼女と目が合ってしまった。それにこの声色からして明らかに女の人だ。このままではまた、着替えを覗いたなどと変態の様になってしまう。
「あ、いや、そのぉ。初めまして…」
とりあえず何か言おうとしたのだが何も言葉が出てこなかった。
「貴様は何者だ…?見たことない格好をしているし、ここは民間人が簡単に立ち入れるような場所ではないはずだ。パルナの素質でもなければ不可能に近い。改めて聞こう、何者だ?」
彼女の表情は困惑に満ちていた。
しかしこちらも同じく困りものだ。まず知らない単語が出てきた気がする。英単語で一度見たことあるけどなにか思い出せない感じのやつだ。
「えーっとですね、話せば長くなるのですが」
「端的に答えてくれ」
「ごめんなさい空から降ってきました異国者です」
包み隠さず全部話したつりだ。
「…空?」
「はい、空です」
彼女の顔は完全に曇っている。どうやら少し悩んでいるようだ。そりゃそうだ。誰がこんな話を信じるものか。
「そうか、ふむ。これ以上ふざけたことを言えば貴様を我が国で拘束させてもらう。得体がしれないものは危険だ」
「え、ちょ、拘束!?いやいやちょっと待ってくださいよ!僕は別に怪しい人じゃないしむしろここがどんな場所とかも知らなくて、本当にこの世界自体何がなんやら…」
「戯言も大概にしておけ」
(ですよねぇ)
そう言って彼女は僕の方へと迫ってきた。
顔をよく見てみると黒髪に青色の瞳をしている。顔立ちも確かにハーフの様な顔立ちだが、日本語の流暢さを考えると確実に日本人に違いない。
しかし見てくれはどう考えてもまだ下着のような格好だ。ブラジャーとパンツ。うん、マントみたいなの羽織ってるけど丸見えですよ?どうしてそこだけアメリカン?―――いや、これアメリカンなのかな。とか思いながらながら、流石に僕も暗くなるのをひたすらに願った。しかし、そのまま彼女は僕の顔を両手で持ち自分の顔へと近づけてくる。
「へ、へ?ちょっと何をして」
「黙っていろ」
そう言うと彼女はいきなり口付けをしてくることも全くなく、僕の頭を念入りに調べ始めた。
「あ、あれ?」
物凄く頭をワシャワシャされている。
「あ、あのー。何してるんでしょうか」
「なるほどな。頭は打っていないようだ。貴様、自分の名前は分かるか?」
「いや僕記憶喪失でもないんですけど」
「良いから名を何と言う」
「横暴な…。正って言います。」
僕は少し疲れ気味に答えた。
「セイ?」
この世界ではおかしな名前なのだろうか。いや、まともでしょ。だからそんなにジロジロ見ないでください。本当照れるって言うか、顔が真っ赤になってしまうというか、何かが立ちかけているというか。
「そう、天野 正です」
「アマノ・セイ…変わった名前だな」
え、変わってるの?この名前??
「え、そうですか??僕は結構普通だと思ってるんですけど」
「セイなんて名は初めてだ」
彼女の目は純粋に輝いていた。
「あ、あなたは名前、何ていうんですか?」
そう言うと彼女は少し嫌そうな顔をしたように思える。
「私の名前は…ティエナ・ハートラストだ」
「え、え?ティエナ・ハートラストって言うんですか!?」
僕は心底驚いた。どう考えたってあなたの方が、おかしぃですよティエナさぁん!!なんて、某アニメの勢いで心の中で叫んでみる。
「あぁ、軽蔑したければ軽蔑するがいい。憎みたければ憎むがいい。殺したければ殺そうとすればいい」
「え、いや、そう言われましても…」
いや、待ってこの人は何を言ってるんだ?どう見たって確かに、ぶっちゃけてしまえば、今流行りのキラキラネームってやつだけど、そんなに自分を卑下しなくても…。殺したりとかしないし。
確かに僕だったら絶望で外に出たいとは思わないし、こんな森で一人で一生を終えたほうがマシだって感じるかもしれない。もしかして自殺しに来たのかな?
よし、ここは一つ気の利いたことでも、一人の少女を救うんだ。
多分こんな漢字なんだろう。
「えっと、てぃえな 心続さん。僕はあなたの名前、素晴らしいと思いますよ。きっと優しい親だったんだろうなって思える名前かなって、完全に自分の主観になっちゃいますけどね」
自然と笑みが出た。頑張れ天野 正。
「素晴らしい…名前?この名前がか?」
彼女は信じられない様な顔をしている。
「はい、僕は好きですよ。てぃえなさんの名前」
彼女は少し呆然とした後に、クスリと笑い出した。
「あはは、優しいんだなアマノは。危険と判断したら直ぐにでも気絶させるつもりだったがその心配はいらないらしい。そればかりか会って間もないのに勇気まで貰ってしまった。ありがとう。異国者というのは本当なのかもしれないな。失礼をしてすまない」
墜ちたな、手ごたえありだ。だが、何か色々危ない事言ってるし、もう一押ししよう。
「いや、僕はそんなたいそれた事はしてませんよ。それに、分かっていただけたのなら嬉しい限りです」
(こんなに紳士なんだから、気絶だけはやめてくれ)
「あぁ、良く分からないが本当に迷い込んでしまったのだろうな。たまたまパルナの素質があったようで本当に良かった。改めて、私の名はティエナ・ハートラスト。歳は十七だ」
やはりパルナという何かがあるらしい。そしてもう一つ。
「え、同い年!?話し方からして年上かと…。よ、よろしくお願いします!」
見えない、美人すぎるじゃないか。てか、滅茶苦茶可愛いのに同い年って、し、身長が彼女はそこまで高くないから、まだ隣に僕なんかでも居れそうだ。いや、かなりきついけど。
「ん、なんだ?セイも17なのか?では、普通に話しかけてくるといい。畏まる必要もないさ」
カシコカシコマリマシタカシコー。
「確かにそうかもだけど、いきなり変えるのはなぁ。そ、それじゃあそうだな。てぃえなはこの先どうする?僕はここで火を起こして寝るつもりだけど。寝る場所はあるの?」
「どうすると言われても、私はここでは寝ないぞ、ちゃんと確保している。それに、その言い方でははまるで…」
彼女の少し赤らむ表情を見て、僕は自分が自然と大変な事を言っていることに気づいた。いや、既に下着姿だけってでも大変なんだけど。
「あ、いや!その、そういう意味じゃなくて。あのあのえっと、そう!他に友達がいるんだ!そいつらと一緒に野宿するっていうか、それでこの場所を見つけたっていう…」
僕はどうにかして弁明を図った。
「あぁ、なるほど。そういう訳なら確かにここはもってこいの場所だな。ならばその友達とやらを早くここへ連れてきてやるといい。ここの空気はとても綺麗だ」
納得してくれたようだ。友達最高。
「そうだ、二人を呼ばないといけないんだった。じゃあ、僕は一旦あっちに戻るよ。てぃえなは、どうするの?」
「私か?そうだな。君はこの世界にまだいるつもりか?」
「え、はい。そのつもりです多分」
(むしろまだ一日も経ってない)
「なら大丈夫だ」
「え?」
彼女は涼しい顔の中に笑顔をのせて僕へと言った。
「生きてればまた会える。セイと会えて今日は幸せだったよ」
そう言って挨拶を交わすと彼女は闇の深い奥の森へと消えていった。
「不思議な人だな…」
数奇な出会いに感謝というか、驚くばかりであったが、また会えるのなら、それで良いだろう。何故か僕もそれを疑わなかった。
再び僕は二人を呼んでみることにした。
ついにメインヒロインのティエナちゃんの登場です!
正とティエナの絡みはまだストック溜まってる中でもここだけしかないので、これから書くのにワクワクします
主要五人の身長を人物紹介の所に追加しておきました




