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I need you.  作者: ひとばしら
1/7

幸せと幸福の福音

初めまして、初めての投稿になります。その他サイトさんにも投稿していないので本当にネット投稿が初めてです。雑誌や本にも載ったことがないので無名です。

普段はネットの暴言が怖いのでネット投稿せずに新人賞に応募しているのですが、やはりいろんな人からの感想が頂きたいと思いネット投稿することにしました。感想を付けてくれる方はお手柔らかにお願いします……


全七話の内、この一話だけでも綺麗に完結したと思えるはずですので、この一話だけでも読んで頂けると幸いです。





 プロローグ


 あの馬鹿みたいに暑いだけだった夏休みが終わり、秋学期が始まってから早一ヶ月。僕は既に今期の学校習慣が身に付き始めていた。大学も慣れれば今までの学生生活と何ら変わらない。友達が多いわけじゃないけど、少ないわけでもない。辛いこともあるけど、楽しいことがないわけでもない。言わば、普通だ。学力も普通だし、最近どこでも重視されるコミュニケーション能力もいたって普通。彼女がいない点を見ても、きっと多数派に入るだろう。

 そんな生活慣れと普通は、惰性と化した学生生活を、糠をすり潰すように無意味に無価値に無駄に時間を潰していく。だからって別にこれを打開しようとは思わない。僕は別に、どこかの物語の主人公みたいにいつもの日常とやらを飽きていないし、銃弾や魔法が飛び交う非日常を望んでいるわけでもない。ただ川が流れてくみたいに、その時その時を食い潰していく。漠然と広がる将来を特別何か考えているわけでもなかった。

 そう、彼女に会うまでは。

 講義が終わり、友達と帰っている途中だった。

 栗色のロングヘアーに黒緑色のコート。今時の大学生といった風貌の彼女は、背景に溶け込む通行人のように当たり前に僕の隣を通り過ぎていく。前から歩いてきた彼女と僕がすれ違った時間を換算するならば、一秒にも満たない僅かな時間だろう。でも、そんな僅かな隙間の時間に、僕の目は彼女を見つめ、彼女の目もまた、僕のことを見つめていた。

 「なぁ、今の女の人、俺のこと見てなかった?」

 隣の学友、藤田がそう言った。彼女が僕を見つめていたのは気のせいだったのかもしれない。振り向いて彼女を見たが、当然の如く歩を進め、振り向くような素振りは一切なかった。

 「そんなわけないだろ」

 「ですよねー。……なぁ、(まこと)は彼女ほしいとか思わないの?」

 「僕? まぁ、いらなくはないわな」

 彼女が欲しい面を考慮しても、僕は至ってそこら辺にいる大学生だ。



 1


 水曜は午後から講義だ。判を押した水曜の動きをする。十一時起床、トイレ、テレビ、朝食兼昼飯、身支度をして十二時四十分に家を出る。メモを見なくても行動出来る。

 お昼のニュースをBGMに食事の準備を始めた。

 「……三人が軽傷を負い、通り魔は現在も逃亡中です。監視カメラに通り魔が映った時の映像です」

 通り魔が現れたのか、どうでもいいけど。

 ニュースの話は右から左へ流れてく。殺人事件、異物混入、大きな事故、メディアで騒がれる話はどれもフィクションにしか聞こえない。現実に起きていることなのは理解しているけど、どれも自分には関係ない話だからだ。今まで何の目立った事件事故病気もなく、今日までのうのうと生きてきた。自分がそんなものに巻き込まれたり、当事者になったり何て考えもつかない。小さい頃に道路に飛び出して轢かれそうになったことがあると親に聞かされたことがあるけど、物心がつく前の出来事なんて覚えているはずがない。だから僕はそれをカウントしない。

 チン、と軽快なレンジの音が昨日タッパーに入れて保存した野菜炒めを温め終えたことを教えてくれた。器を用意して、レンジを開ける。そして温めたものを取り出す。

 ほかほかに温まった分厚い本が、僕の手に掴まれていた。

 「はい!?」

 本を放り捨てて、レンジの中を覗く。そこには野菜炒めなんて存在していなかった。

 「野菜炒めちゃんどこ!?」

 「ツッコむとこ他にあるよね!?」

 自分以外の声が部屋に響いた。驚く。声のした方を咄嗟に振り向くと、そこにはサングラスを掛けた猿顔の人が立っていた。左頬には切ったような傷跡がある。

 「ちょ、誰ですか!?」

 思わずすぐそこにあったフライパンを両手で掴み、猿顔に差し向けた。

 「普通フライパンじゃなくて包丁じゃない?」

 「ああ、そうか」

 相手の言葉にならい、フライパンを元の場所に戻す。戸棚から包丁を取り出すと、改めて差し向けた。

 「ちょ、誰ですか!?」

 「やり直すんかーーーい」

 高いトーンでツッコミを入れてくる。どこをどう思い返しても、この人が部屋入ってくる場面なんて存在しない。窓とドアは閉まっている。昨日学校から帰って来てから一度も窓もドアも開けてないし、狭い独り暮らしのスペースに今まで部屋の主に気付かれることなく隠れられるスペースもない。こいつはどうやってここに侵入した?

 「んー、本をチンしちゃうっていう高度なボケから始まったボケの連発で話が進まなくなってますねー。ここは一旦落ち着きましょう」

 猿顔がそういうと、再びレンジが軽快な音を上げた。猿顔はここまで予定調和と言いたげにレンジを当たり前に開けた。そこからなかったはずの野菜炒めを取り出す。テーブルの上にそれを置き、テーブルの一端に猿顔は座った。

 「どうぞ」

 部屋の主が客に席を促すようにテーブルの反対側を指差した。完全に相手のペースに巻き込まれていると思いつつも、敵意はないようなのでここは大人しく従うことにする。

 「とりあえず、おめでとうございまーす」

 座るや否や、猿顔が適当に手を叩き出した。

 「え?」

 「この度、全世界六十三億人から一人、厳選なる抽選の結果、見事あなたが選ばれましたー。やったね!」

 「はい? 話に全然ついていけないんだが」

 主語をくれ。よかったら述語と、ついでに副詞も付けてくれ。

 「もぅ、今回の主人は飲み込みが遅いなー。よく言われない? だから彼女が出来ないんだよって」

 「うっせ、大きなお世話だ。いいから説明してくれよ」

 「とにかく、はいこちら、賞品の《魔人の書》になりまーす」

 そういって出してきたのはさっき僕が放り投げたホカホカの分厚い本だった。何故か本を開いて、紙の面を下にして置かれている。表紙面には《魔人の書》と溢れ出る手書き臭で書かれたタイトルが書いてあった。

 「なにこれ」

 「魔人の書ですよ」

 「いや、それは見れば分かるよ。その魔人の書はいったい何のことかってことを聞いてるの」

 「やだなー決まってるじゃないですか。願いを三つまで叶えられるんですよ」

 「初めて知ったわ! で、その願いを三つまで叶えるって?」

 「もう、ほんとに飲み込み悪いなー。しょうがない、一から十まで全部教えてあげますよ」

 最初からそうしてくれ。猿顔が立ち上がる。

 「my ネーム is 魔人。Your ネーム is 城島(きじま)誠」

 「魔人?」

 「ノンノン、Don’t スピーク」

 片言の英語が混じるのに違和感を覚えつつ「ああ、ごめん」と言おうとした瞬間、魔人と名乗った猿顔がお口チャックのジェスチャーをした。途端、僕の口はチャックで締め付けられたように全く開けなくなってしまった。

 どうしたんだ僕の口。手を使って開けようとしても全く開く気配を見せない。そんな僕をほっといて、魔人は魔人の書をひっくり返し、指をパチンと鳴らした。すると「るーる」と本に書かれたこれまた手書き臭のする文字が紙から離れ、文字だけが宙に浮き始めた。

 え、なにこれ、どうなってんの!?

 口が開けないので目だけが驚く。宙に浮いた文字は映画でよく見るホログラムのようだ。

 「音読」

 魔人がそう言うと口が開くようになった。普通じゃありえない現象の数々に翻弄されつつも、現状についていこうと魔人に言われるがままに文字を音読することにする。

 「るーるその一、無から有を」

 「無から有を作り出すことは出来ない」

 「お前が読むんかい!」

 「るーるその二、人の気持ちを動かすことは出来ない。るーるその三、魔人が現れていられるのは本が開いている時だけ。るー」

 僕は本を閉じた。魔人が消えた。また本を開いた。魔人が現れた。

 「四、三つの願いを」

 僕はまた本を閉じた。魔人が消えた。本を開いた。魔人が現れた。

 「本の所有者が移動する。るーるその」

 僕は本を……

 「やめなさい! 魔人で遊ばないの!」

 魔人に本を取り上げられた。にしても凄い、ホントに魔人が消える。

 「るーるその五! 魔人で遊ばない!」

 「あ、そのルール今作ったろ!」

 「元からありましたー。 るーるその六。魔人に口答えしない」

 「それも今作ったろ!」

 「ブブーるーるその六違反ー!」

 くっそ、めんどくさい奴!

 「違反したら何かあるのかよ」

 「いや、特には」

 「ないんかい! もういい、お前が音読すると勝手なルールが増える。俺に読ませろ」

 「しょうがないなー、なら最初からそうしろってー」

 先に割って入ってきたのはそっちだろ、とツッコミたい気持ちを我慢する。

 「るーるその五。願いを増やせと言う願いは受け付けない。以上……ってやっぱり付け足したんじゃねぇか!」

 「まぁまぁ、怒りなさんなって。ほれ、本の一番後ろ開いて、著者のありがたい言葉が書かれてるから」

 本の最終ページを開くと、偉人が残した名台詞のように偉そうな文が書かれていた。

 「幸福と幸せは違う。幸福は結果であり、幸せは過程である。幸せを望むのならば、幸福を願うな」

 随分と哲学的なことを言う偉人だ。初めて聞いたこの台詞、一体誰が書き遺したものなのか。台詞の感じ、ヨーロッパ辺りの偉人が言ってそうな台詞である。ページの左端を見る。

 『著者 魔人』

 「お前かーーーい!」

 「うん、我ながら惚れぼれする良い台詞だ。すまないがもう一度読んでくれないか?」

 「読まねぇよ!」

 魔人が両手を叩き「はい、るーる説明終ー了―」とここまでの区切りをつけた。

 「大体分かったっしょ?」

 「いや全く」

 「だ、か、ら! 人類の中から偶然youがこの本の所有者に選ばれて、この本は三つの願いを叶えてくる魔法のランプのようなもので、五つの制約はあって、meはこの本に取り付く精霊的なものってこと!」

 「最初からそう言えよ」

 つい十分前まではいつもの変わらない日常だったはずなのに、たった十分でそれは変わってしまった。魔法とかオカルトな力は信じないが、魔人が急に現れたことだったり、野菜炒めの件だったり、口が開かなくなったり、文字が浮かび出したり、普通じゃありえないことが短時間に目の前でそれが当たり前なことのように起きた。ここまできて信じられないと言うことは出来なくなっていた。

 「ささ、旦那。早速一つ目の願いをどうぞ」

 「一つ目の願い?」

 突然欲しいものは何か? と言われてこれと言った物は思い浮かばない。そこで数日前の藤田の台詞を思い出す。『……なぁ、誠は彼女ほしいとか思わないの?』正直彼女は欲しいのだが、好きな子は現在いない。彼女と聞いて思い出すのは、高校時代に好きだったバドミント部のクラスメイトのことだ。でも結局、その子には告白することなく高校生活は終わってしまった。告白しなかった理由は単純だ。その子には彼氏がいたのだ。そんなやる前から分かっている負け戦に誰が挑むというのだ。少なくとも僕は挑まなかった。しかし、彼女が笑う度、跳ねる度、体がぶつかる度、僕は彼氏を妬ましく思った。それを独占出来たら一体どれほどまでに幸せなのだろうと胃袋を締め付けた。

 「んー、強いて言うなら……幸せ?」

 「もっと具体的にしてください」

 出来る限りの下心を隠すフィルターを通して出てきた言葉だった。彼女が欲しいと言っても、瞬時に頭に思い浮かぶ相手がいない。さらにんー、と頭を悩ませること十数秒。脳裏に数日前にすれ違った女性を思い出した。

 「僕、彼女が」

 「あ、無理。諦めな」

 「早いよ! まだ言い切ってないよ!」

 「そこまで言えば大体分かるわ。何、それとも『僕、彼女が欲しいですが、富士山の頂上に行きたいです』的な大どんでん返しでも言うつもりだった?」

 「いや……」

 「るーるその二、人の気持ちを動かすことは出来ない」

 そうだった。忘れていた。

 「んんんんんー……」

 眉を曲げた僕を見かねてか、魔人は「まぁ旦那の願いを一蹴するのは悪いわな」とテーブルの上に置いてあった野菜炒めを自分の手元に引き寄せた。両手を野菜炒めの上に掲げ、空気を撫でるように手を動かし始める。

 「何してんの?」

 「旦那が言うその彼女にしたいっていう女子を見ようとしているんですよ」

 「それで見えるの?」

 「はい、バッチリ見えますよ、所謂、水晶代わりの野菜炒めってやつですね」

 「そんなこと言わねーよ……」

 魔人が野菜炒めを見続けると「あーなるほど…… じゃあこの女性とカップルになるのが一つ目の願いでいいんですか?」

 「え! まじ、いけんの!?」

 「言っときますけど、幸福を願っても幸せにはなれませんよ?」

 「幸福と幸せなんて一緒だろ。よっしゃ、魔人一つ目の願いだ。俺と彼女をカップルにして、俺を幸せにしてくれ!」



  2

 

  場所は所変わって大学構内。魔人に言われるがままに学館外の曲がり角にきた。午後の講義は既に始まっているが、特別気にしてはいない。

 「それでどうすんだよ魔人」

 部屋に本を開きっぱなしで置いてきた。別に本は持ち歩かなくてもいいらしい。

 「ここはクールジャパンの文化を見習っていきましょう」

 魔人が指鳴らすと、魔人の掌に食パンが召喚された。

 「はいこれくわえて」

 「え、なんで」

 「いいからくわえる!」

 これからの作戦の説明もなく、無理やり口に食パンを詰め込まれる。そのままされるがままに、曲がり角に体を向けさせられた。

 「歯食いしばって! はい、走って!」

 「?」

 「いいから行けって!」

 魔人に突き飛ばされ、曲がり角に身が投げ出される。その瞬間「きゃっ!」と甲高い悲鳴が上がり、僕は角から出てきた人とぶつかった。二枚の食パンが宙を飛ぶ。額に走る鈍い痛みと共に、宙を舞った二枚の食パンに僕は疑問を持った。

 あれ、何で二枚?

 尻餅を着き「いってー」と声が漏れる。それはぶつかった人も同じのようだった。魔人の奴いったい何がしたかったんだよ。と目を開けたその時、頭に走る痛みはどこかに駆け抜けていってしまっていた。

 黒髪が混じる茶髪。大学生といった風貌。同じく尻餅を着いていた人は、あの時すれ違った彼女であった。

 「あ、あの……だ、大丈夫ですか……?」

 緊張の余り、声が上擦っているのが分かる。手汗がヤバい。ここは手を差し伸べればいいのか?

 予想外の事態に何をすればいいのか分からずにいると、彼女は「あぁ! モッタイナーイ……」と地面に落ちた食パンを見つめてぼやいた。

 え、食パンが二枚ある理由ってもしかして……

 「もしかしてあなたも食パンくわえてたんですか?」

 彼女の台詞に「え、あ、うん」としか返事が出来なかった。

 「一緒ですね!」

 ここは普通食パンの話題じゃなくて、ぶつかったことの話題なのでは?

 返答に困り果てて魔人に助けを求めようと首を曲げると、建物の影からスケッチブックに『食パンの弁償をさせてもらえ!』と書かれたカンペを見せてきていた。

 自分で考えてもいい案は思い浮かばない。言うだけ言ってみるか。

 「すみません、自分が飛び出したせいですから、食パンの弁償させてもらえますか」

 「え、いいんですか! じゃあお願いします!」

 そうして僕はまだ名前も知らない彼女と構内のコンビニへと歩き出した。

 

 

 

 「それじゃあ今日はありがとう! またね!」

 「うん、また」

 僕は浜井(はまい)さんと別れると、携帯を握り緊めて喜びを噛みしめた。浜井さんがいなくなったのを確認してか、魔人が物陰から現れ近づいてきた。彼女の名前と連絡先を手に入れたのはあの時魔人が背中を押してくれたからだ。

 「まじーーーん!」

 僕は両手を広げ、抱きつかんばかりの勢いで魔人の元へと走った。魔人も理解したのかそれを受け入れるように両手を広げる。

 「旦那ーーー!」

 そして僕は思いっ切り、拳を振り下ろした。

 「てっんめぇ、押すなら押すって言え、ぶつかるならぶつかるって前もって言っとけや」

 「はい……すみません……」

 

 

 

 その日の夜。僕が風呂から上がると当然のように魔人は僕のベッドを占拠していた。

 それはまぁ許すとしよう。しかし、許せない点が一つある。

 「魔人、人の携帯で何してんの?」

 「メール」

 「誰と」

 「浜井さんと」

 「携帯返せ!」

 魔人に飛びかかると瞬間移動して逃げやがった。僕の後ろに立った魔人は「カップルになるのが願いなんだろーだから俺がやったるって」

 「いいから! 携帯返せ!」

 確かに願ったけど、魔法を使える奴がここまでアナログな方法を取るとは思わなかった。

 「あとちょっとだから待ちいやー」

 追い駆けっこをしても魔人には勝てない。そこで僕は魔人の書を手に取った。

 「あ、お前それズルいぞ!」

 「お前に言われたくねーよ!」

 本を閉じると魔人は消え、僕の携帯だけが残った。ようやく携帯を取り返すことに成功し、心配だった浜井さんとのメールを確認する。だが、僕の心配は空振りに終わった。何故なら、既に僕の心配の更なる向こうの発言をしていたのだったからだ。

 『僕と付き合って下さい』

 頭皮から冷や汗が噴き出すのが分かる。魔人の書を開く。魔人は現れるや否や逃げ出そうとした。

 「てっんめぇ、何勝手やってるんじゃあ!」

 「ごめん、ごめんって!」

 「絶対反省してないだろ!」

 「ごめんって!まぁ反省はしてないけど……ごめんって!」

 「反省しろやあああああ」

 魔人の胸倉を掴んで揺さぶっていると、それを止めてと言うように携帯が鳴った。メールの通知音だ。僕は揺さぶるのを止め、魔人と顔を見合わせる。魔人を離して携帯を手に取った。

 ようやく今日の昼間に知り合えたのに、もう振られるというのか。嫌な予感が頭を駆けめぐり、胃を締め付ける。今まで告白したことがないわけじゃない。だけど僕の彼女いない歴は毎年更新されていく。何回やっても慣れないものだ。

 携帯のロックを解除する。差出人名には浜井愛海(まなみ)とある。ゆっくりと視線を動かし、文面に目をやる。

 顔文字も絵文字もない冷たさを感じる文には『私でよければ』と書かれていた。

 これはつまり、オッケーって意味なのか……?

 魔人が横から顔を覗かせ、携帯の画面を見ると「やったじゃねぇかブラザー!」と背中を叩いてきた。

 人生で初めて彼女が出来た瞬間だった。隣で外国人並みに喜ぶ魔人に対して、僕は今この瞬間が信じられなくて、呆然としていた。何を考えればいいのかも分からない。真っ白な頭には魔人の歓声も聞こえてこない。まるでフィクションのことのように感じた。

 

 

 3

 

 「お前、何か最近楽しそうだな」

 「そんなことないよ!」

 構内のテラスで僕と藤田は座っていた。藤田は目を細め「その元気そうな声を楽しそうだなって言ってんだよ……」

 正直な所、ここ最近は毎日が楽しくてしょうがなかった。浜井さんと付き合い出してから、ほぼ毎日会っている。付き合ってから一ヶ月は経っただろうか。世間で言う御暑い時期というやつだ。顔を合わせてない時間が心苦しいほど、今の僕は浜井さんに夢中になっていた。

 「じゃあそんなことないって言うなら、今日学校終わったら久しぶりにカラオケでも行こうぜ」

 「ごめん、今日用事があるんだ!」

 「今日もかよー…… お前最近付き合い悪くね?」

 「かもね! ごめん!」

 「何でそんな爽やかに謝るんだよ……」

 「それじゃあ僕はもう行くね!」

 「行け行け、どこへでも行っちまえ」

 藤田の粘々した視線と声を諸共せず、僕は今日も浜井さんとの約束した場所へと向かう。空になったペットボトルをゴミ箱へ投げるが、外してしまう。

 何か嫌な予感。

 そんな一抹の不安を感じて、改めてペットボトルをゴミ箱へ入れた。小さな不安を感じるのも、僕に彼女がいるからかもしれない。

 彼女がいないのが当たり前、惰性の学生生活が当たり前、それが当たり前だった僕の生活は、ここ一ヶ月で大分変っていた。放課後の彼女との寄り道、休日の彼女とのデート、魔人とのくだらない会話、どれもが新鮮で、今までの僕にとったらどれもが非日常だった。きっといつか非日常と感じる今が、あくびが出るほどの当たり前の日常に変わるのだろう。それもいい、この日常がテンプレートになってもいい、僕はそれほど今の生活が好きになっていた。

 「遅い!」

 「まだ待ち合わせ時間前じゃん!」

 少し他人とはズレた浜井さん。きっとその他人とズレた所も僕が惹かれている一面でもあるんだろう。普遍的に生きてきた僕は、普遍的な人にはきっと惹かれないだろう。浜井さんの容姿だからこそ、浜井さんの性格だからこそ、浜井さんを構成する全てが浜井さんに詰め込まれているからこそ、僕は浜井さんに恋しているのだろう。

 僕と浜井さんは江戸川の土手を歩いていた。午前の講義が終わって、会おうとなったのだが、特に行く場所がないため土手を散歩しようとここにやってきたのだ。

 「そうだ、そろそろ浜井さんって苗字にさん付けで呼ぶのやめてくれる?」

 「え、あぁ、そうだね、じゃあ何て呼べばいい?」

 「それはそっちが決めてよー」

 そっちから言い出したくせにこっちが決めるのかよ、と藤田なら苛立ちのツッコミを入れているだろう。しかし僕はしない。生意気な言動にも苛立ちは微塵も感じないのだ。

 「じゃあ……浜井?」

 まだ不満があるらしく顔を膨らめる。そこでかねてよりずっと呼びたいと思っていた名前を口にすることにする。

 「……じゃあ愛海とか?」

 「城島くんがそれでいいんなら」

 元からそれを望んでいたようで彼女は喜んだ。それが嬉しく、高揚していく気持ちが抑えきれなくなる。一瞬だけ自制心を(たが)が外れた僕は「愛海こそ苗字にくん付けはやめてよ」と普段は言わない積極的な発言をしていた。

 「えぇー……誠くん……とか?」

 照れくさそうに彼女が笑う。

 「何あのカップル。超殴りてーーー」

 土手の坂に腰掛けていた魔人が川に向かって石を投げているのが見えた。

 「そういや愛海の誕生日っていつ?」

 「いつだと思うー?」

 んなもん分かるわけないだろ、と藤田なら苛立ちのツッコミを入れているだろう。しかし僕はしない。

 「んー今日とか?」

 「凄い! 正解!」

 「え」

 冗談のつもりだったのにまさかの正解。しかも今日ときた。何もプレゼントも用意してないぞ!?

 「私前に言ったっけ?」

 「え、あ、うん、言ってたよ」

 全力の作り笑いで返事をする。そして無意識に肯定してしまったのを瞬時に全力で後悔した。素直に冗談が当たったことを告白して入ればプレゼントは後日で済んだものを、肯定してしまったせいで愛海はきっと、僕が今日プレゼントを用意していると思ったに違いない。唐突に誕生日の話を振ったのが知っていたかのような口振りになってしまった。

 これはまずいぞ。久しぶりに焦る。バックの中にはプレゼント出来るようなものは存在しない。どうする、どうする、どうする。土手にあるのは雑草と石ころだけ。はいプレゼント、と誕生日プレゼントに目の前で拾った雑草と石ころをあげて喜ぶのは世界広しと言えど、どこにもいないだろう。どうする、どうする、どうする。周りを見渡す。

 「あのカップル爆発四散して土に還らないかなー」

 いた。丁度良い所に、都合良く、丁度良い奴がいた。暇そうに川に向かって石を投げている。

 「ごめん、ちょっとここで待ってて、三分で帰ってくるから」

 僕は愛海の返事も聞かずに魔人の元へと駆け寄り、滑り込むように隣に座った。

 「よぉ魔人」

 「あ、死ね。……よぉ旦那、どうしたんだい?」

 「え、何今の、何なかったかのように話進めようとしてんの? 聞き流すとでも思った?」

 「まぁまぁ、今はそんな場合じゃないでしょ?」

 「そうだった。二つ目の願いだ、彼女の誕生日プレゼントを今すぐ用意してくれ」

 「そんなことでいいんですか? もっと自分のためになることにした方が」

 「そんなこととはなんだ。俺は愛海の喜ぶ顔が見たいだけで」

 「死ね」

 「え」

 「それで何をプレゼントしましょう」

 「いやだから、何しれっと話進めてんだっての。おい、全部聞こえてるからな?」

 「薔薇の花束とかネックレスとかどうでしょう」

 「……まぁいい。薔薇とかネックレスとか初めてのプレゼントで重過ぎない?」

 「ついこないだまで恋愛童貞だった奴がよく言いますね。だったら指輪とかでいいんじゃないでしょうか」

 「指輪ー?」

 「無知な素人の旦那には丁度いい初めてのプレゼントですよ。こんぐらい重い方が、初々しさが出るってもんです」

 「さり気なく馬鹿にされてるような……まぁいい、じゃあそれで頼む」

 魔人は御得意の指パッチンをする。軽快な音と共に指輪を出現させた。装飾がほとんどないシンプルなシルバーリングだ。その指輪を乱暴に僕に向かって放り投げると「早く行ってやれ」と肩を突いた。

 「彼女が待ってるんだろ?」

 「魔人……お前……………………あとで覚えてとけよ」

 「え」

 僕は立ち上がり、遊歩道に駆け上がる。振り向いて、もう一度魔人を呼ぶ。

 「まじーん!」

 「ん?」

 「あとで覚えとけよ」

 「何故二回言ったし……」

 そう簡単に許すはずなかろうに。あとで小一時間程どっちが主なのかを説教しなければならない。

 遊歩道を駆け、再び愛海の元へと向かう。

 「ごめんごめん」

 「誰と話してたの?」

 「いや誰とも」

 (いぶか)しげに見てくる愛海の視線が痛い。逃れるように僕は話を戻した。

 「そう、さっきの話、誕生日」

 「うん」

 「はいこれ」

 僕はポケットに閉まっていたついさっき魔人から貰ったばかりの指輪を見せた。しまった、何かに包んだ方が良かっただろうか。そんな一瞬の僕の不安を他所に、彼女は固まって僕の広げた掌を見つめ、ゆっくりと顔をあげると僕の顔を見つめた。

 やっぱり、初めてのプレゼントで指輪は重すぎただろうか。

 「これ高くなかった?」

 「え……いや、それは秘密」

 すみません、値段は僕にも分かりません。

 「これを……私に?」

 「そう」

 この反応はやっちまった系か!? やばいどうしよう。

 心の中で緊急警報が鳴り止まない。そんな中、彼女は僕の掌から指輪を取ると、右手の薬指に指輪を嵌めた。

 「嘘、信じられない! 凄い嬉しい!」

 バブルが弾けていくように愛海は喜び始めた。欲しかったオモチャを買ってもらえた時の子供のようのようだ。

 「私、一度でいいから好きな人から指輪をもらってみたかったの!」

 あんまり嬉しそうにする愛海の姿に、僕は声が出なかった。嬉しさが心を一杯に埋め尽くしていくのが分かる。心から溢れ出しそうになる。こんな喜び、生まれて初めて感じた。僕の頭の中が愛海のことだけで一杯になっていく。僕にはもう、君しか見えない。

 「誠くん、私ね」

 愛海が僕の名前を呼び、振り向いた時だった。彼女の体が傾いた。不自然に、横に。片脚が土手の階段を踏み外してしまっている。突然の出来事に僕の体は動かなかった。でも彼女の体は傾いていく。僕は彼女の目をただ見つめることしか出来なくて、彼女の目もまた、僕を見つめていた。そしてそのまま、彼女は僕の視界から消えて行った。視界の外からドタドタと音が聞こえた。

 「……え?」

 音が止んだ頃、僕の体はようやく制御下に戻って来ていた。動きを忘れてしまったかのように、ぎこちなく体が動く。こんなことがあるはずない。今の出来事は夢だ、幻だ、フィクションだ、現実のはずがない。

 恐る恐る階段の下を覗いた。階段の一番下にはうつ伏せになって動かない彼女がいた。

 「……愛海?」

 ピクリとも動かない。階段を下りて、もう一度名前を呼ぶ。しかし動かない。彼女の体を揺さぶるが、やはり返事がなかった。

 彼女を揺らした右手が痙攣しているのに気が付いたのは、病院に着いた時だった。

 

 

  4

 

 僕の目の前には彼女だったものがいた。乱れがほとんどない白いベッド。彼女の顔には白い布が乗せられていた。輝きを放っていたはずの眩しい風景が、今じゃ色を失い、僕の目には白黒に映っていた。世界はここまでくすんでいただろうか。

 椅子に腰かけ、項垂れる僕に魔人が声を掛けてくる。

 「旦那、たまには寝た方がいいんじゃないですか?」

 「魔人、頼むよ。彼女を生き返らせてくれ……」

 魔人の話を聞いてないわけじゃない。何度も掛けられた問いに答える気がなかったのだ。

 「……だから何度も言ってるでしょう。ルールその一、無から有を生み出すことは出来ない。浜井さんの魂はもうないんだ」

 「魔人、頼むよ。彼女を生き返らせてくれ……」

 魔人は肩を竦ませた。僕は何度も同じ台詞言う。駄々を捏ねる子供のように、魔人が僕の願いを叶えてくれるまで言うつもりだった。

 彼女を殺したのは僕だ。僕があの時手を伸ばせば、僕があの時指輪を渡さなければ、僕が土手に誘わなければ、思い返すだけで後悔の灰が積もっていく。僕のせいにも関わらず、愛海の家族も、警察も、誰も僕を責めようとはしなかった。「まなちゃんの不注意がいけない、仕方がない事故だった」泣きながら彼女の母親っぽい人は、僕にそう言った。

 僕はこの世の理不尽さを知っている。はずだった。小さい頃から人が死んだ話はよくニュースで聞いていた。遺族の涙もテレビで散々見たはずだった。でもまさか、理解していると思っていたものが、実際はこんなにも辛いものだとは知らなかった。

 僕には死人を生き返らせる魔法が使えない。死人を生き返させる奇跡が起こさせるはずもない。だけど、死人を生き返らせることが出来る可能性を持つ者を知っている。だから僕は何度でもそいつに頼み続ける。それが僕に出来る精一杯のこと。

 「魔人、頼むよ。彼女を生き返らせてくれ……」

 しばしの無言の後、魔人は(せき)を切ったように喋り出した。

 「……薦めはしませんけど、助ける方法なら一つだけありますよ」

 僕は顔を上げ、魔人を見つめた。唾を飲み、魔人の次の言葉を待つ。

 「戻ればいいんですよ。時間を遡ることは出来ない、なんてルールはありませんからね」

 「戻れる……のか?」

 「薦めはしませんけどね……」

 藁にも縋る思いで、僕は「戻る」と返事をした。

 「いいですか、時間を遡るのは記憶と意識だけです。戻ったら最後、もう二度とこの時間に来ることは出来ません。後悔はありませんね?」

 「後悔なら、もうしてる」

 「分かりました……それじゃあ、分かってますね?」

 「あぁ……魔人三つ目の願いだ。僕をあの日に戻してくれ」

 

 

 

 ハッとした時、僕の目の前には彼女の姿があった。色を失っていない、彼女の姿が。彼女の指には既に指輪が嵌められている。鮮明に覚えているこの情景。脳裏に焼きついたあの光景。

 「誠くん、私ね」

 その瞬間、僕は手を伸ばした。傾く彼女。僕の手は彼女の腕を掴み、引き寄せた。彼女の足が遊歩道へと戻ってくる。

 「あ、ありがと」

 彼女は軽い気持ちで言ったのだろう。だが、彼女が死んだ世界を経験した僕にとってそのお礼の言葉は、心の底から救われるほどの重い台詞として胸に響いた。

 「痛いんだけど」

 「え、あ、ごめん」

 無意識にかなり強く腕を掴んでいたようだった。手を離すと彼女は反対の手で掴まれていた部分をさすった。

 「どうしたの? 元気ないの?」

 「違うよ、逆。嬉し過ぎて」

 顔を俯ける僕の姿は愛海を心配させてしまったようだ。でも、今、ボロボロに崩れた顔を愛海に見せるのは恥ずかしかった。

 「今日はさ、もう帰ろ」

 「いいけど、ホントにどうしたの? 体調悪い?」

 「違うんだ。また明日。また明日に君に会いたいんだ」

 明日も彼女に会えるという実感がほしかった。だから僕は強引に彼女の左手を掴むと、駅に向かって歩き出した。この手を離せば、また彼女がいなくなってしまう。そんな気がして、それがとてつもなく怖くて、彼女を握る手が強くなった。

 彼女の手を引いて、足早に歩を進める。すぐ先の踏切の鐘が鳴った。一刻でも早く駅に彼女を送りたかった僕は、青信号が点滅し出した時の感覚で小走りになった。閉まりそうになる踏切を潜り抜ける。

 「あっ」

 僕はもっと強くしっかりと、彼女を握り緊めていればと後悔する。

 指からすり抜けた指輪を追い駆け、彼女の手が僕の手からすり抜ける。振り向こうとした時、鈍い音と電車特有の風を突き破る二つの音が僕の耳を(つんざ)いた。振り向くと、目の前には時速九十キロで走り抜ける電車があった。

 ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン。

 電車が走り抜けたその時、彼女の姿はそこにはなかった。

 

 

 

 ハッとした時、彼女の姿が目の前にあった。彼女の指には既に指輪が嵌められている。

 「誠くん、私ね」

 僕の手は既に彼女の腕を掴んでいた。

 もう離さない。二度と離すものか。

 彼女の体は階段を踏み外すこともなく、傾きもしなかった。

 「誠くん……?」

 不思議そうに僕の顔を覗いてくる。僕はやっぱり俯けた顔を上げることが出来なかった。

 「今日はさ、僕の家に泊まっていきなよ……」

 やましい気持ちなど一切なかった。手を離すことも、踏切を渡ることも、どっちも怖かったのだ。

 「…………うん……分かった」

 彼女はきっと違う意味に聞こえているだろう。でもそれでいい、彼女には自分が死ぬかもしれない何て心配をしてほしくはない。僕ただ、彼女の身が心配でとった行動なのだ。駅とは反対方向の僕の家に行くまでには、踏切も横断歩道も存在しない。大丈夫、きっと大丈夫。僕は自分に何度も言い聞かせた。

 辺りに細心の注意を払い、指輪が抜けることを防ぐために彼女の右手を握って家へと向かった。僕の部屋はマンションの六階にある。エレベーターは何か嫌な予感がする。僕は階段を使って部屋に戻ることにした。

 二階、三階と上る。三階の通路には深くフードを被った人が外の景色を眺めていた。

 何をしているんだこの人は。横顔しか見えないが、どこかで見たような気がする。普通に考えればマンションの住人か。同じマンションに住んでいれば一度や二度すれ違っていてもおかしくはない。

 そうしてすぐに疑問を自己解決させると、すぐさま僕はまた階段を上った。四階、五階と上る。もうすぐで僕の部屋だ。エレベーターが動いている音がした。でもそんな普通のことに疑問を持つはずがなかった。六階に到着。僕の部屋がある階だ。僕の部屋は階段のすぐ目の前。彼女が階段から落ちるような事さえなければ、もう大丈夫だ。

 部屋の鍵を取り出すほんの僅かな時間さえも念を入れ、愛海を上り階段の方へやる。

 それが失敗だった。彼女は通路奥へと押し込めばよかった。

 足音に気付いて振り向くと、七階から人が降りて来ていた。三階にいたフードを深く被った人だった。

 何で上から? あぁ、エレベーターで上ったのか。でも、何故階段で降りてきた?

 角度的に正面からフードの人を見上げる形になった。男と目が合う。そこでようやく僕はこの男が誰だったのかを思い出した。

 『……三人が軽傷を負い、通り魔は現在も逃亡中です。監視カメラに通り魔が映った時の映像です』以前ニュースで見た、通り魔の男だった。

 男がポケットからナイフを取り出す。僕が気付いた時にはもう遅かった。愛海は腹部をナイフで刺され、床に沈んでいく最中だった。

 「愛海!」

 男は駆け出し、階段を素早く降りて行く。僕に追い駆ける気力はなかった。

 「何で……どうして……!!」

 両手を床に叩きつける。何で愛海は何度も死ななければいけないんだ。どうして僕は彼女を救えないんだ。

 愛海は(うずくま)ったまま、動かなくなっていた。

 後悔と罪悪が腹の底に溜まっていく。

 僕の部屋のドアを開けると、そこには魔人が立っていた。

 「またもう一度戻るって言うんですか?」

 「ああ」

 「戻れば戻るほど、あなたと他人の時間はどんどんズレていく。あなたはそんな孤独に耐えられるんですか?」

 「そんなものはどうでもいい。いいから戻せ魔人。これは、三つ目の願いだぞ」

 ハッとした時、僕はベッドの上で横になっていた。今回戻ってきたのは愛海に指輪をあげた直後ではない。指輪をあげることになる日の朝だ。だからまだ願いは二つ残っている。

 僕はテーブルの上に乗った開きっぱなしの魔人の書のそのページに《3》と殴り書きをした。

 何度でも繰り返してやる。愛海が救えるその時まで。

 僕の心は復讐鬼の如く、燃え盛っていた。

 

 

  5

 

 僕はただ、幸せを願っただけのはずだ。彼女がいる日常を望んだだけのはずだ。それなのに彼女はどうしようもなく僕から離れようとしていく。時にはバラバラに、時には綺麗に、時には見る影もなくなるほど。

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も繰り返した。

 何度繰り返そうが、何度その手を掴もうが、その手をいくら強く握ろうが、彼女は僕から離れていく。いったいどうすれば彼女が救えるのか。試行錯誤は全て試したつもりだ。指輪を渡さなかったり、指輪以外を渡したり、土手に行かなかったり、彼女の身代わりになろうとしたり、どんな選択を選んでも世界は僕を生かして彼女を殺す。どうやっても結果を変えることが出来ない。

 そうして僕は百五十九回、彼女を殺した。

 僕の心は壊れかけていた。突然笑ったり、突然踊りだしたりするような壊れるという意味ではない。『彼女が死んだらまた戻ればいい』そう考えるようになっていたという意味だ。百五十九回の彼女の死が原因かもしれない、百五十九回のループが原因かもしれない。僕は彼女の死に何も感じなくなり始めていた。

 「お前、今日は顔色悪いな。昨日までニヤニヤしてたのに」

 五十回目辺りから藤田が僕にそう言うようになった。

 「その台詞、飽きたよ」と言い返すのも飽きてきた。僕は藤田を無視してテラスを後にした。空になったペットボトルはもう、ゴミ箱を見ずにとも入れることが出来る。

 百六十回目の今回ループで僕が試すのは、ただ家に引き籠ることだ。あと試していない方法は、今回の二つ目の願いを使わないことだけしかない。

 ふらふらと帰路に着く僕の足取りには、魔人の書に《3》と書いた頃の熱はなくなっていた。考えてみれば、僕はもう何日寝ていないのだろう。愛海が死ぬ度に繰り返しているから肉体疲労はほとんどないが、精神疲労はその比ではない。

 たまには寝よう。休息は必要だ。

 家に着いた僕は現実から逃げるようにベッドに逃げ込んだ。

 そうだ、これは夢かもしれない。目を開けたら愛海が生きているのが当たり前のあの日常に戻っているかもしれない。きっとそうだ、そうに違いない。人が死ぬなんてありえない。ましてや僕の彼女が死ぬなんてあるはずないじゃないか。

 そうして夢だったことを願って目を再び開けた時、彼女はまた死んでいた。藤田から『やべぇ、見ちゃった。この前すれ違った女の人がダンプに跳ねられる瞬間見ちゃった』とメールが入っていたのだ。藤田にとって愛海とすれ違ったのは数日前のことだ。

 膝を抱えて小さくなる。もう彼女を救う方法はなんてこれっぽっちも思い浮かばなかった。愛海を救える唯一の可能性を持つのは、魔人だけ。僕は部屋のどこかにいるであろう魔人に声を掛けた。喉から絞り出された生気のない声は、絞り切った雑巾から水を絞り出したような声色をしていた。

 「なぁ魔人……どうすれば愛海を救えるんだ……」

 「それは二つ目の願いですか?」

 「…………」

 「……なら、答えられませんね」

 「じゃあ二つ目の願いだ」

 冗談が通じなかったかのように魔人はお手上げのポーズをする。戻してくれと頼む以外で魔人と会話するのは久しぶりな気がする。

 「魔人の書の最後のページ、覚えてますかね?」

 「幸福がどうたらってことしか覚えてない」

 「幸福と幸せは違う。幸福は結果であり、幸せは過程である。幸せを望むのならば、幸福を願うな……私がこれを書いたのは、あなたのような人がいつかまた現れると思ったからです」

 「僕みたいな人って?」

 「以前の主の話です。前の旦那も好きな人が死んで、何度も時間を遡って、それでも救えなくて、どんどんやつれてって……」

 「その人はどうしたんだ?」

 「死んだんですよ、彼女と一緒に。『この世界は俺を生かして彼女だけを殺す』そう言った前の旦那は三つ目の願いで『俺を殺してくれ』って願ったんですよ」

 僕と同じ境遇の人がいた。その人の話ならば愛海を救う答えがあると思った。しかし、その人は因果に勝てずに死を選んだ。僕もそうなってしまうのか。

 魔人が言葉を続ける。

 「正直自分にも愛海さんを救う答えは分かりません。でもせめて、ヒントになればと思って魔人の書の最後のページに言葉を書いたんです。魔人の書は、結果の幸福を実現することは出来ても、過程にある幸せを実現することは出来ません。望んだものを手に入れる過程をすっ飛ばして手に入れるのが魔人の書なんですよ」

 「言ってる意味が分からない……」

 「旦那は幸せを望んだ。でも魔人の書は幸福になれても、幸せになることは出来ないんですよ」

 「幸福も幸せも一緒だろ……理屈っぽいこと並べてそれっぽいこと言ったつもりだろうが、結局は愛海を助けられない言い訳だろ!」

 「……旦那」

 「魔人、三つ目の願いだ……戻してくれ……僕と愛海が、出会う前に」

 「え……」

 「魔人!」

 ハッとした時、僕は大学構内にいた。隣には藤田がいる。

 「んぁ? どうした誠?」

 「あ、いや、ごめん、何でもない」

 作り笑顔で謝ると、僕は藤田の横を歩き始めた。藤田が教師の愚痴を言っている。歩いている方向的に帰る途中なのだろう。学館を出て、正門に向かう。顔を上げたとき、彼女がこちらに向かって歩いて来ていた。前にも見たことのある光景。初めて彼女を見た時のシーンだ。

 僕は歩くスピードを変えない。彼女の歩くスピードも変わらない。そうして僕と彼女はもう一度すれ違う。今回の僕は彼女から目を逸らした。逃げたと言ってもいいかもしれない。

 「なぁ、今の女の人。俺のこと見てなかった?」

 藤田の台詞に「かもな」と僕は相槌をうった。

 これでいい。僕と彼女が出会わなければ、きっと彼女が死ぬことはないだろう。

 僕はもう、疲れた。

 

 

  6

 

 あれから一ヶ月が経った。結論から言うと、愛海が死ぬことはなかった。何故かは分からない。僕はというと振り出しに戻ったかのように、惰性と化した学生生活で時間を無駄にしている。前回と同じで愛海とすれ違った数日後の水曜日に魔人の書は僕の食卓に現れた。だが、ループの記憶を保持している魔人は何も言わずに僕の生活に以前と同様に溶け込んだ。魔人の書があると言っても一つも願いは使っていない。

 もう愛海とは出会わない、彼女のことは忘れよう。そう何度も誓った。それでも、すれ違う瞬間、遠くに見えた瞬間、僕の視線はどうしても彼女を追ってしまっていた。

 講義が終わり、次の講義への空き時間を持て余した僕は、構内のテラスへと腰つけた。

 「おい、誠」

 後ろから掛けられた声に僕はすぐに声の主が藤田だと分かった。彼との付き合いも僕の惰性と化した学生生活を埋める一部分でしかない。

 「よぉ、藤田」と僕は気怠く振り向いた。そして僕は虚をつかれた。

 藤田の横には、浜井愛海が立っていた。驚く僕の姿が面白いのか、藤田はニヤリと笑い「紹介するよ、俺の彼女」と更に僕を驚愕させた。驚きのあまり思考が追いつかない。

 「おいおい、そんな驚くなってー」

 藤田が僕の目の前に座る。

 「お前も座れって」

 そういって藤田は彼女を僕との間の席に座らせた。

 思考が少しずつ戻ってきた僕がようやく言えた一言が情けない声での「どうゆうこと?」だった。

 「学館の角曲がったら走ってきたこいつにぶつかってね、それがきっかけ」

 自慢話のように鼻を高くして藤田が言う。藤田の出会い方は、僕の時と全く一緒だった。

 「いやー彼女結構人とズレててねー」

 「そんなことないよ!」

 「普通の人はコップの水をレンゲで飲まないよ」

 「そんなことないよ!」

 「いや、飲まねぇって」

 愛海と藤田が楽しそうに雑談を始めた。その姿が前の僕と重なって見えた。僕と愛海の二人だけの思い出のはずが、僕だけの記憶になっていた。

 『戻れば戻るほど、あなたと他人の時間はどんどんズレていく。あなたはそんな孤独に耐えられるんですか?』

 魔人の台詞を思い出した。魔人の言った孤独とはこういうことだったのか。

 共有の出来ない寂しさ、愛海は僕のことを知らない悲しさ、藤田への嫉妬、行き場のない気持ちが一つの鉛となって僕の胸を押し潰す。溢れ出しそうになる感情を拳で握り絞めた。

 これが僕の選んだ道の結果だ。受け入れるしかない。

 「あ、すまん、ちょっと俺トイレ」

 藤田は愛海を置いて、席を外した。残された愛海と僕。僕は愛海のことを知っているが、愛海は僕のことを知らない。再熱しそうになる愛海への気持ちを静めるため、僕は愛海から視線を逸らした。友達の彼女と初対面の彼氏の友達という気まずい空気が流れ出す。そんな重い空気が僕から愛海を遠ざけてくれそうでありがたかった。

 「誠くんって言ったっけ?」

 愛海の方から話し掛けてきた。予想外の出来事に僕は顔を向けた。

 「何で名前」知ってるの?とは声が出なかった。もしかして覚えているのかと、希望を持ってしまう。

 「藤田くんがさっきそう呼んでたから」

 「あぁ……」

 そうだった。愛海は人とはズレている。だからこの空気を感じ取れず、普通に僕に話し掛けたのだ。高くまで上がった気持ちがスカイダイビングのよう急速に落ちる。

 「でね誠くん聞いてよ。藤田くんね、私のこと『お前』とか『こいつ』って言うの。まだ一ヶ月ぐらいしか経ってないのに」

 「へぇー、そうなんだ」

 気のない相槌をうつ。好きだった人の好きな人の愚痴テイストの惚気話を真剣に聞くほど僕は大人ではない。にしても初対面の相手にいきなり愚痴を溢すとは相変わらずのズレっぷりだ。

 「まだ手だって繋いだころもないんだよ?」

 手。その単語に一ヶ月前の何度も繰り返したことを思い出した。繰り返す度に僕は必死になって愛海の手を掴んでいた。愛海の手の感触が染みついたはずの右手を見る。今ではもう感触を思い出すことも出来ない。藤田はまだあの感触を知らないのかと思うと、心のどこかが安堵した。

 「藤田くん俺様って感じで最近ちょっとなーって感じるんだよね」

 これは惚気じゃなくて、本当に愚痴なのか?

 愛海は藤田のことをあまり良くないと思っている。この事実を僕は嬉しく思ってしまう。冷めつつあった愛海への気持ちがどんどん膨れ上がってきてしまう。これ以上彼女と会話しては駄目だ。また戻ってしまう。頭の中でけたたましいサイレンが鳴り響く。

 そして、彼女はトドメとばかりにあの台詞を口にした。

 「誠くん、私ね」

 何度も聞いたこのフレーズ。指輪に喜んだ彼女が振り返りながら言った言葉。思い返せば、一度も続きを聞いたことがなかった。想像もつかない台詞の続きを、僕は聞いちゃ駄目だと頭で理解しつつも、心の底で今か今かと待っていた。

 『誠くん、私ね……君に、一目惚れしてたんだよ」

 その瞬間、僕の脳裏に愛海と過ごした幾つもの記憶がフラッシュバックした。

 僕は立ち上がる。

 「ごめん、浜井さん。僕行かないと行けない場所があるから」

 「え」

 「また後で」

 僕は走り出す。

 「誠くん!」

 僕は振り返らず、ただひたすらに走った。

 僕は何をしていたんだ。彼女を助けるために、ただひたすらやり直したあの日々を無駄にする気だったのか。僕の日常を変えてくれたのは愛海じゃないか。他人とは少しズレてて、感情表現が真っ直ぐで、空気が読めない彼女。僕はそんな彼女が助けたくて、ここまで来たんじゃないのか。考えればすぐに分かることだった。彼女を助ける方法は最初から目の前に提示されていじゃないか。

『幸福と幸せは違う。幸福は結果であり、幸せは過程である。幸せを望むのならば、幸福を願うな』

 僕は彼女と付き合う幸福を望んだ。それがそもそもの間違いだったんだ。今回は彼女と付き合う幸福を望まなかった、だから彼女が死ぬことがなかった。

 幸福は幸せが積み重なって、最後に結果として残るもの。僕はその過程にある幸せを望んでいながら、過程を飛ばして願いを叶える魔人の書に頼ってしまった。

 僕が本当に望むのは、彼女を喜ばす自己満足の幸福じゃない。彼女の救う幸福でもない。僕が望むのは、彼女と一緒に生きる、幸せだ。

 勢いよく僕の部屋のドアを開ける。短い廊下を走り抜け、閉じた魔人の書を開いた。テーブルを挟んだ向こう側に魔人が姿を現した。

 「お呼びですか旦那」

 「魔人、俺に勇気をくれ!」

 「勇気? 何言ってるんすか。それに忘れたんですか? ルールその二、人の気持ちを動かすことは……」

 魔人はそこまで言うと僕の真剣な眼差しに全てを悟ったようだった。

 「あぁ……そうか、ようやく分かったんすね」

 「うん、魔人の言いたいことに気付くまでに大分遠回りをしちゃったけどね」

 「いいんすよー。前の主が気付けなかったことに、旦那は気付いてくれましたから」

 「……ありがとう」

 「やめてくださいよー、水臭い」

 きっとこれが魔人との最後の会話になる。どこかでそんな予感がした。

 「それじゃあ魔人、最後の願いだ」

 「おう!」

 「俺に、勇気をくれ!」

 「ああ! 行って来い、相棒!」

 そうして僕は魔人と拳をぶつけ合った。

 ハッとした時、僕は大学構内にいた。隣には藤田がいる。

 「んぁ? どうした誠?」

 「あ、いや、ごめん、何でもない」

 作り笑顔で謝ると、僕は藤田の横を歩き始めた。藤田が教師の愚痴を言っている。歩いている方向的に帰る途中なのだろう。学館を出て、正門に向かう。すると、彼女がこちらに向かって歩いて来ていた。初めて見た時と同じ光景。

 僕は歩くスピードを変えない。彼女の歩くスピードも変わらない。彼女との距離縮まっていく。そうして僕と彼女はもう一度すれ違う。一秒にも満たない僅かな時間。そんな僅かな隙間の時間に、僕の目は彼女を見つめ、彼女の目もまた、僕のことを見つめていた。

 「なぁ、今の女の人。俺のこと見てなかった?」

 「そんなわけないだろ」

 そう、そんなわけない。愛海は藤田なんかを見ていない。すれ違った時、彼女は間違いなく僕のことを見ていた。

 『誠くん、私ね……君に、一目惚れしてたんだよ』

 僕は踵を返す。

 僕達の出会いに、食パンなんて必要ない。幸福とかいう大それた願いも必要ない。どんな願いも三つまで叶えられる本も必要ない。必要なのはほんの小さな、声を掛けるという、勇気だけ。

 「あの、すみません……!」

 僕は、彼女へと手を伸ばす。

 

 

 エピローグ

 

 彼女と土手を歩く。

 魔人の書は未だに僕の元へとはやってきていない。きっと今頃また別の人とコントでもやっているのだろう。

 「どうしたの?」

 無言で歩く僕を気にしてか、愛海は顔を覗いてきた。

 「そういや、今日って愛海の誕生日だよね」

 「え、私誕生日教えたっけ!?」

 「うん、だいぶ前に聞いたよ」

 愛海は知らない。僕だけが過ごした時の中で、忘れるはずのない日々が始まるその日に。

 「はいこれ、誕生日おめでとう」

 装飾のないシンプルなシルバーリングを彼女へと渡す。

 「嘘、信じられない! 凄い嬉しい!」

 外国人のように喜び出す。

 「私、一度でいいから好きな人から指輪をもらってみたかったの!」

 愛海は指輪を右手の薬指に嵌めると、嬉しさを体で表現する動物ように動きだす。

 「誠くん、私ね」

 愛海が僕の名前を呼んで振り返る。その瞬間、愛海の体が傾きだす。片脚が土手の階段を踏み外している。僕の心臓が止まりそうになった。

 「ま……」

 また彼女は死んでしまうのか。焦った僕は手を伸ばす。しかし、彼女の足は焦った僕をあざ笑うかのように、しっかり階段を踏み、バランスを取り戻した。

 「うわ、焦ったー」

 そうだ、前とは違うのだ。あの繰り返した日々ではないのだ。ようやく辿り着いたこの瞬間に僕は目頭が熱くなるのを感じた。

 「え、ちょっと何泣いてんの」

 「泣いてないよ」

 「嘘! 顔真っ赤じゃん!」

 「だから違うって!」

 顔を隠そうとする僕をからかうように愛海は僕の顔を覗こうとしてくる。

 以前とは違う、鮮やかに写るこの光景を僕はいつまでも見ていたいと思う。

 僕が望んだ幸せというこの非日常が、日常に変わるまでには、そう時間も掛からないだろう。


後書きを先に読むような方はいないと思うので、ここで謝辞を述べさせてもらいます。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

「まあまあだった」とか「ぼちぼちだった」とか、一言でも感想を頂けると嬉しいです。

一話を読んで、続きが気になった方や暇な方、少しでも興味をもった方は、全ての文を悩んで精一杯に書いているので是非二話以降も読んで頂けると嬉しいです。


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