§7 水場の作り方その1・水源ごとに考えてみる
前述のように、水を絶やさないことを前提とするならば、なんらかの水源が必要となります。ここでは、水源ごとの注意点について考えてみましょう。
① 水道水
小さな水場の場合、一番簡単なのは水道水を人間が足すことです。
この場合、そんなもので自然といえるのか? といった疑問も湧くでしょうが、水源がないからと、雨水に任せておいては、いつまで経っても安定したビオトープは出来ません。他に水源がある場合でも、何かあった場合に備えて水をすぐに入れられるようにしておいた方がいいでしょう。
水道水はカルキ、つまり塩素剤で消毒しています。水槽で魚を飼育する際には、薬剤を入れたり、エアレーションしたりして、これを抜いてから使わなくてはならないので、ビオトープでも同じなのでは? といった質問もよく受けます。
しかし、全水量を入れ替えるのならともかく、減った分を補う程度のことであれば、そんな必要はありません。
塩素=遊離塩素は、ただ置いておくだけではなかなか抜けてはいかないものですが、実は、日光に十数分当てたり、お茶を数滴たらすだけでも、空気中に抜けていったり、反応して別のものに変わったりする不安定なものです。
屋外の、しかも様々な不純物を多く含んだビオトープならば、多少水を足す程度の場合に神経質になる必要はまったくありません。
ただ、常時掛け流しのようにする場合には、さすがに多少影響はありますので、水道水の掛け流しはやめましょう。もちろん、水道代がかさむのでそんな人はいないでしょうが。
② 雨水
雨水を降るに任せておいただけでは、大抵の場合、一番水の欲しい猛暑時に乾燥してしまう事になりかねません。
しかし、雨樋を貯水タンクに導き、そこからオーバーフローして水場に入るように作っておけば、少しの降水でも水が補給され、多量に降った場合は水が入れ替わります。溜まった水は晴天が続いたとき、底のバルブを開い水場へ供給できます。
こうした、雨樋と接続できる貯水タンクは、ホームセンターでも扱っています。
気をつけたいのは、直射日光で温められた貯水タンクの水を、いきなり水場に入れたりしない事です。夏場の高温期に日光で温められた雨水は、60~70度もの恒温になる場合がありますので、煮殺してしまう事になります。
私は酸性雨の影響を少しでも軽減するために、タンクにサンゴ石やカキ殻を入れたこともありますが、なくても大きな問題にはならないようです。
雨樋を利用したビオトープは何件か作りましたが、どれも水質、水量ともに安定していました。晴天続きには水道水を補給する事もありましたが、おおむね雨水だけでバランスがとれていました。
③ 井戸水
井戸水があると、ビオトープの生物相はガラリと変わります。
井戸水は水温が年間を通してほぼ一定で、水質も安定しているので、わずかずつでも常時掛け流しにしておけば、水は澄み、流れや低水温に住む生物も生きていけます。
夏場は水温を低く保て、冬場は凍らせずにすみますし、チッ素などの栄養分を含んでいることが少なく、そういった栄養分が池に溜まっても流してしまうので、草丈も低く保てます。そうなると、ゲンジボタルやサワガニなどの変わった生物の住むビオトープを大変楽に維持できます。
しかし、良い事ばかりではありません。
勝手に湧いてくる湧き水であればまだしも、大抵の井戸はポンプで汲み上げますから、電気代は常時掛かります。しかも、長時間停電すれば、生物たちは全滅しかねません。
また、水質の良い井戸ばかりではなく、ほとんど酸素を含んでいなかったり、逆に大量に二酸化炭素などのガスを含んでいたりして、水生生物の生存に向かない水質の井戸もあります。
よく見られるのは、鉄イオンを豊富に含む井戸水で、空気に触れると酸化して赤サビ状のもろもろした物質を作り出します。
これが直接害を及ぼすわけではないのですが、酸化するときに溶存酸素を使い切るので、いったんエアレーション、すなわちブクブクと空気を送り込んでから使用しないと水生生物は呼吸が出来ません。 また、酸化鉄のもろもろに包まれると、植物は芽を出しにくくなるようですし、生育もいまいちです。
こうした井戸水を利用する際には、高いところから水を落下させ、滝かせせらぎのようにしてやることで空気に触れさせます。こうすると、余分なガスは大気中に出て行き、足りない酸素が補われるなどして、生物の住める水になる事が多いです。
④ 農業用水等
学校や公民館、庁舎などに公共のビオトープを整備する場合には、その地域を流れる農業用水や農業廃水路の水を利用できる場合があります。
本来、水利権というのは大変シビアで、昔は水の奪い合いで殺された人までいるくらいです。ですから本来は、たかがメダカやカエルのために、おいそれと水を回してもらえるはずはないのですが、最近は農村環境整備が、農業の効率化だけでなく農村の生物多様性にまで配慮したものになるよう指導されています。このためにビオトープや水田魚道に対して補助金が出るまでになっていますから、こうした事例も増えてきています。
こうした場合には水場を作る、というよりは、水路の水をビオトープ内に導く、と言った方が相応しいかも知れません。
せせらぎや水路として導き、途中を掘り広げて池として整備するのが一般的ですが、池を作らず、せせらぎのまま蛇行させている例も見受けられます。
この場合、わざわざ放流しなくとも、もともと水路に生息していた魚類や水生生物が勝手にやって来て住み着く場合が多いのが大きなメリットです。
何も住んでいなさそうなU字溝水路から導いたせせらぎでも、いつの間にかメダカやカワムツなどが入り込んでいる事があります。
用水の源である大河川にはたくさんの魚がおり、その稚魚や卵が流されて来るのです。
増水時には、ナマズやコイのような大型魚までもやって来る場合もあり、ビオトープでの生き物調べが楽しくなります。
ただ、問題はブラックバスやブルーギル、アメリカザリガニなど、あまりありがたくない生き物もやって来てしまうことで、もしビオトープに定着してしまうとこれを排除するのは至難の業です。
もう一つの問題は、農業の年間リズムによって水量が変わることです。
農繁期である春先には大量の水が流れ込んできますが、季節によっては水量が大きく減ります。特に、農作業の少ない冬期間や、『土用干し』のある夏期には、地域によっては完全に水がストップしてしまいます。『土用干し』とは、六月~七月に水田の水を抜いて泥を乾かす、農法の事で、ほぼ全国的に水田はこうなっているようです。
こうしたことで水場が完全に涸れる事を防ぐためには、農業用水以外の水源を確保しておくか、水場の池部分を深く作っておき、一~二ヶ月水が来なくても涸れないようにしておく必要があります。
⑤ 自然水
もし、山からの谷水や湧き水などの自然水を導く事が出来れば、自然に近い水場を作り出せます。上記のような問題もクリアでき、コストも安く、容易に安定した環境を作り出せますが、こうした条件を備えた予定地は、そう多くはありません。
自然水の場合は、もともと住み着いている生物種も多く、水質も気にする必要があまりなく、デメリットと呼べるものはほとんどありません。
あえて言うならば、『自然水は予告抜きで涸れる場合がある』ことくらいでしょうかね。
水道水や井戸水を汲み上げる場合は、ポンプや蛇口のオン・オフだけです。農業用水は、農繁期に涸れたりはしませんし、雨水も天気予報である程度予測がつきます。
しかし、自然水は季節や状況を問わずに、突然涸れてしまって復活しない場合があります。そうなると、復活させるのはほぼ不可能ですので、いざという時のために別の水源を確保しておいた方が良い、というのが注意点といえるでしょう。
⑥ エアコンの水
数年ぶりに読み返していて、「あ、抜けてる」と思ったので書き足します。
エアコンの室外機から出てくる水があるのは、ご存じですよね。これは結露水で、室内の空気中にある湿度が水になったものです。要するに蒸留水ですから、妙なモノは基本的に入っていません。
ですから、沸かせば飲めないこともないでしょうし、様々な用途に水分として使用するのは問題ないはずです。ただ、ビオトープに使うのに問題となるのは、その『何も入っていなさ』といえます。
蒸留水に直接水生生物を入れると、どうしてもダメージがあります。
蒸留水は何も溶けていない分、ものを溶かす働きが強く、不安定なのです。つまり、溶かしやすいモノを一気に溶かしますから、底砂などに含まれる成分を溶かしてPHが一気に傾いたり、生物の表皮など水に触れている部分に直接影響したりします。
ですから、先に何かに触れさせてミネラルが溶け出してしまえば、問題なく使用できるはずです。
私の場合は、プラ舟ビオトープにプランターを起き、プランターの土にエアコンの水が落ちるようにして使用しています。こうすれば、土を経由してプラ舟内に水が供給されるので、蒸留水であることの問題はないようです。
エアコン水のいいところは、もっとも水の涸れやすい夏期の、もっとも暑い時期に、もっとも供給量が多くなることです。要するに、室内で涼んでいればビオトープにも水が供給されるということですね。
栄養価がほぼゼロなので、井戸水などのように水生植物が繁茂しすぎたり、藻類が出ることもありません。もちろん量が少ないので、大型のビオトープ池では足しにもなりませんが、プラ舟程度ならば、充分に使える水源となります。