§5 水があると生き物が増える
前項で書いたように、乾燥地のビオトープもできますし、それはそれで広い意味の生態系にとって重要な存在です。
砂地を好む植物もいますし、ウスバカゲロウの幼虫であるアリジゴクや、ある種のクモ、カワラバッタやイボバッタのように、ある程度乾燥した場所でなければ生息できない連中もいます。
でも、やはり水場はないよりもあった方が、『生物多様性』はアップします。
水を全く必要としない生物は存在しません。ですから、湿地や水辺に住むわけではない生物も、水場がある、というだけで訪れるようになります。
さて、ビオトープ空間に水場を設置して、まずやって来るのは『鳥』です。
意外に思われるかも知れませんが、鳥が水飲みや水浴び出来るような、「水が綺麗で」「いつも枯れなくて」「小さくて浅い」水場は、自然界にはほとんど無いのです。
ですから水場といっても、タライ池や衣装ケースのような大きなものでなく、洗面器レベルの方が、逆に小鳥はやって来やすいです。
洗面器などに小砂利を入れて小鳥の足が立つ程度に浅くして、水を常に滴下して涸れないようにしておくと、小鳥が常にやって来る場所になります。
大きな水場の一部分に、小鳥が水浴びできるような浅瀬を作っておくのも効果的です。
水場のサイズや深さにもよりますが、次にやってくるのは大抵トンボです。
トンボは空から水面を見つけると、やってきて縄張りを作ったり、産卵行動をしたりします。とても小さな水たまりでも、ヤゴが見られたりするのはそのせいです。
周りの自然条件や、季節にもよりますが、作ったばかりのビオトープによく見られるのはシオカラトンボ、ショウジョウトンボ、イトトンボの仲間などです。
クロスジギンヤンマやウチワヤンマ、コシアキトンボなども来ますが、これらは数m四方くらいの水面にならないと、やって来ません。
広ければ良いので、シーズンの終わったプールなどにも産卵したりします。
このほかトンボには、流れにしか産卵しない種類、日陰でないと来ない種類、水面が一定以上の広さでないと産卵しない種類、水面に何かが浮かんでいたり、草が生えていたりしないと産卵しない種類もいます。
中には、薄暗い感じのせせらぎに倒木が半分水に浸かって湿っている、その部分にしか産卵しないものまでいます。
つまり、水場の状況や置き場所によって、様々なトンボの種類を見る事が出来るわけです。
こういう生き物はトンボに限りません。
水たまりだから来る生き物、せせらぎだから来る生き物、濁っているから来る生き物、澄んでいるから来る生き物、水のない湿地だから来る生き物……条件を変えた水場をいくつも作り、様々な生き物を呼ぶのもビオトープの楽しみの一つです。
ベランダや小さなタライ池にでもマメゲンゴロウ、マツモムシ、コミズムシ、ミズカマキリ、タイコウチ、ユスリカ……と様々な水生昆虫が飛来します。
メダカやフナ、ドジョウなどの魚類や、ヌマエビ、貝類など完全に水生の生物は、さすがに空を飛んでくる事は出来ませんが、タライに水と土を入れて放置するだけでも、数ヶ月でいろんな生物が現れて、充分に楽しめます。
小さなタライ池にイモリが住み着いたり、春先にはアマガエルが産卵に来たりする事もあります。
こうした小さな水場を設置する場合のコツは、最初に必ず土を入れる事と、濁りが落ち着いたらメダカやフナ、タモロコなどの魚類を入れる事です。
前者は、土の中の微生物が水質を安定させ、また土中の種子から生え出す植物がいい感じになってくれるためです。
ですから、土を取ってくる場所は油や農薬で汚染されていない事が大事ですし、園芸土のように殺菌・消毒してあっては何にもなりません。
庭土でも、ノビエやカヤツリグサなどの湿性植物が生えてくる場合がありますが、できれば河川敷や休耕田から土を取ってきてみてください。微生物が豊富なので水質の安定も早いですし、思わぬ珍しい水生植物が生えてくる場合もあります。
後者は、そうした魚類を入れておかないと、どうしても真っ先にやって来るのが「ボウフラ」すなわち「蚊の幼虫」だからです。
彼等もビオトープの仲間ではないか、と言われれば全く持ってその通りであり、彼等だけを排除するために魚類を放つなんていうのは、ビオトープの理念にもとる行為であるのは確かです。
でも、体中蚊に食われるために、わざわざベランダや庭に水場を作る必要もないでしょう。
ビオトープは、観察、鑑賞できて、人間がそれを価値としてとらえてナンボのもんです。
蚊の大量発生を招けば、家族どころかご近所から苦情が出て、殺虫剤を撒かれたり、植え込みの全撤去をさせられたりしかねません。そうなったら、これまでより生物相が貧困になってしまいます。
そう考えれば、最初に魚類を入れておく方がずっとマシだという事がお分かりかと思います。
入れる魚類は、出来れば近くから捕獲してきたいですが、それが無理な場合には買ってくるしかありません。
そのことについては後述しますが、ここではひとつだけ注意点を。
もし、買ってくるなら、クロメダカやタモロコなどの野生種ではなく、金魚かヒメダカにしましょう。
は? 逆じゃねえの?
って思われるかも知れません。
でも、逆ではないのです。
少し考えてみましょう。もしクロメダカなどの野生種の卵や稚魚が、大雨であふれたり、人にあげた水草に卵がついていたりして外に出てしまった場合、地元の野生個体と簡単には見分けがつかなくなります。
ヒメダカや金魚なら、まず間違う事はありませんから、簡単に確実に取り除けるのです。
でも何故、買ってきた野生種と、地元の野生種が混じってしまってはまずいのでしょうか?
それはまた、別項にて記述いたします。
それと、できればホームセンターなどで『水生植物』を買ってくる事も避けてください。現在、そうしたもののせいで、日本の野外でどうにも厄介なことが起きています。
種類ごとに適した環境作りのお話も別項で。




