§16 都会のビオトープガーデン2(都会にも自然はある)
さて、前項ではやらない方がいいこと、を中心に解説しました。
そして、どんな生き物のいる庭にしたいか、目標を立てましょう、というお話しをしました。でも、どうやってその目標を立てたらいいのでしょう?
そして、目標を達成するには、具体的にどうしたらいいのでしょう?
そのへんを、この項ではお話したいと思います。
STEP1 周囲を散歩してみる。
まずは、ビオトープガーデン予定地の周辺を、徒歩で散策してみましょう。
早朝でも夕方でも、ぶらぶらと一時間くらい散歩してみるのです。すると、いろんなモノが見えてきます。
どんなに都会でも、ちょっとした自然は残されているものです。
線路際、公園、小さな田畑、河川敷、屋敷林、社寺林……水路があったら、たとえそれが三面護岸の下水路でも、とにかく覗き込んでみましょう。そんな場所でも、アシやガマなどの水生植物が生えていることはありますし、魚影があるかも知れません。少なくとも、全く何もない、ということはないはずです。
公園では、チョウやトンボに出会うかも知れません。
また、街路樹の植え込みの中に、鳥のフンから芽生えた樹木の実生が見つかる場合もあります。街路樹や公園樹に食草があれば、それを求めてチョウが来ていたりもします。
それらを大体把握していくと、周辺に生息しそうな生き物の姿が見えてきます。
STEP2 地図と照らし合わせてみる。
最近は便利な世の中になりました。
グーグルマップとかで、ご近所を歩かなくても、歩いたような画像が見られますからね。
でも、STEP1に書いた「お散歩」は、ネットの中だけでは無理です。
季節の変化や生き物の存在を、肌で感じる必要があるからです。
でも、このSTEP2は大丈夫。ネットのマップ機能やナビを利用してください。そして、周囲の緑地や河川、丘など、ちょっと歩いただけでは分からない、周囲の地形を俯瞰します。そうした大きな面積の緑地や水面は、そこからの生態的回廊を仮想することで、さらにビオトープの生態的機能をアップさせられます。
街路樹、水路、空き地などがどこまでつながっているか。昆虫のように飛翔するものなら、どの程度まで飛べそうか。地図上で構想して、散歩で見つけた生物のうち、やって来られそうなものを選び出します。
STEP3 選んだ生物を「目標種」に設定する。
目標種として相応しい種には、いくつか条件があります。
まず、あなたの庭の範囲内で、その種が必要とするものを提供できるものでないといけません。もちろん、その生物がビオトープガーデンの中だけで一生を繰り返せれば言うことはありませんが、そこまでしなくても、その生物の一生の一時期だけでも、立ち寄れる、立ち寄りたくなる状況を作り出してやれなくては、「呼ぶ」事は出来ないわけです。
例えば、カブトムシが産卵に来るような堆肥場は小さな庭でも簡単に作れますが、樹液の出るような木を新たに植えるのは、かなりコストが掛かります。
ハグロトンボの成虫が羽を休めたくなる木陰は、作り出すのはそう難しくはないですが、彼等の幼虫が住むような、せせらぎを作るのは、個人の庭ではかなり困難でしょう。
このように、目標種の要求する環境が一部でも提供できれば、目標種にしても構いません。周囲にそれを補完する環境があれば、の話ですが。
でも、その一部も提供できないようであれば、目標種として設定するのは無理があることになります。
例えば、せせらぎのない庭にゲンジボタルは呼べませんし、いくらプラ舟池を設置しても、そんな狭い水面には、オニヤンマやギンヤンマが産卵に来ることはないでしょう。
そうした感覚でもう一度、庭=ビオトープガーデン予定地を見つめ直してみて下さい。そこに住めそうな生き物がぼんやりと見えてきます。
STEP4 目標種が住めそうな状況を作り出す。
ここでようやく、目標種が好む環境の設定に入ります。
前項でも書きましたが、カブトムシなら幼虫の好む堆肥場を作ります。チョウなら食草や吸蜜源を作ります。カエルなら水場や隠れ家。小鳥なら水飲み場や、餌の実のなる木を植える、巣箱を掛けるなど、様々な工夫を凝らします。
もちろん、やって来やすいように、周囲の緑地にまで「生態的回廊」をつなぐことも一つの手段です。
STEP5 観察を繰り返し、目標種が来ない理由を考える
目標種がいきなり来ることも多いですが、なかなかやって来ないこともままあります。すぐ近くに生息地があるのに、何で? と思うこともよくあります。
でも、焦る必要はありません。条件さえ整えば、大抵の生き物は庭にやって来てくれます。ただ、ほんの一つでも悪い条件があれば、生き物はやって来たくてもやって来られないのです。
それを取り除けば良いだけです。
それが何なのか? それを考えるのが、ビオトープガーデンの楽しみ方の一つだと思います。
また、もし思惑通り目標種が来たら、次の目標種を設定し、また環境整備をしていくのです。そうしているうちに、思いも寄らない生き物が訪れてくれることもあります。
目標とした一種だけが来るなんて事の方が、難しいですからね。季節によっても、訪れてくれる生き物は変わります。春はチョウ、夏はカブトムシ、秋はトンボ、そして、冬には小鳥たちの訪れる庭を作ることも、そう難しくはありません。
STEP6 維持管理
目標に到達してしまうと、放ったらかしになってしまうことが多いのが、人間ってものです。でも、前にも書きましたが、池は放置しておくと埋まりますし、草むらは樹林へ変わります。これは庭園でも同じ事。
しかも厄介なことに、庭を荒れ放題にしておくと周囲から色々とうるさいことを言われます。お節介な人は勝手に除草してくれたり、殺虫剤を撒いたりしてくれます。
ですから、どうしても自分の手で維持管理が必要となります。
まず、覚えておきたいのが『選択的除草』というテクニックです。
生えていると「貧乏臭く見える草」ってのがあります。
その大半は外来植物で、種がよく飛んでくるタイプ。ですから、そういったものを選択して、除草していくわけです。
そういうのを全滅させなくても、減らすだけでも、見よい庭になるものです。
ブタクサ、オオブタクサ、セイタカアワダチソウ、ヒメムカシヨモギ、オオアレチノギク、ベニバナボロギク、ヨモギなどの、キク科で背の高くなる草。
チガヤ、エノコログサ、メヒシバ、カモジグサなどの、穂の長く伸びるイネ科植物などが、「貧乏臭く見える草」の筆頭です。
この他にもブタナ、ワルナスビ、ツユクサ、ヤブガラシ、アカメガシワなど、様々な「貧乏くさく見える植物」がありますが、中には食草や吸蜜源として優秀なものもあります。
また、イネ科植物はバッタ類には重要な食料ですし、セセリチョウなどの食草でもありますから、全滅させるかどうかは、よく考えて判断してください。
池の管理については、他項で説明しましたように、泥上げによるリセットを定期的に行うことと、ボウフラがわかないようにメダカを常に入れておくことくらいでしょう。
とにかく、ビオトープガーデンを長く維持するコツは、第三者が見た際に、見苦しくないように管理することに尽きます。
家族やご近所から苦情が出てしまっては、どんなに貴重な生物の住むビオトープガーデンでも、続けていくことは出来ないのですから。