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§15 都会のビオトープガーデン


 まず、『ビオトープガーデン』ってやつについて簡単にご説明します。

 ここまで書いてきたように、本来の『ビオトープ』ってのは、かなり堅苦しいと感じる人もいるでしょう。

 結局人間が作るものであるにも関わらず、外来種や人為的な要素を極力排して、その地域本来の生態系を維持する空間、とでもいうのでしょうか。

 それなのに、里山里地なんてのは、農業などの生産活動があってこそ維持されるものだってんですから、正直ワケが分からないだろうと思います。

 そもそも、熱帯産のイネをアフリカ起源の人間が育てているのが水田ですから、水田自体が外来種みたいなもんなんですけどね。

 正直、専門家によっても基準がまちまちだったりして、それで混乱する方も多いです。

 まあ、その辺のことについては、また別項でお話しするとして。


 『ビオトープガーデン』は、そういう堅苦しい制約は基本的に一切ありません。

 平たく言えば『生態系を意識しちゃあいるけど、人間に気持ちよく作られた、何でもアリのビオトープっぽいもの』が『ビオトープガーデン』ですから、それこそ、何を植えようが、何を買ってこようが、オールOK。

 しかし、上手く作ろうとすると、それなりの知識が必要ですし、何でもアリだからって好き勝手やると、周囲に思わぬ問題を引き起こしたりもします。

 ルール無用に庭に花の種を撒きまくって、めちゃくちゃに木を植えて、池を作って、自分は満足でも、何のこだわりもない庭造りをしていたのでは、端から見るとそれが何なのやら、サッパリ分からない、ってことにもなりますからね。


 さて、『ビオトープガーデン』作りで、まず、最初に気をつけたいのが、目標を決めて始める、ということです。


 目標といってもよく分からないかも知れませんが、自分が植えた植物や放した生き物だけの庭は、屋外飼育と変わらないわけで、やはり、それなりに自然界からの訪問者を期待して始めるのが、ビオトープガーデンの楽しみ方の基本、といえるでしょう。

つまり「鳴く虫がたくさんいる庭にしたい」でも、「花にチョウが戯れる庭にしたい」でも、「トンボが池で自然繁殖する庭にしたい」でも何でも構いません。

「どんな生き物に来て欲しいか、いて欲しいか」を考えるわけです。

でも、ただ漠然と「生き物がいっぱいいる庭にしたい」というのはダメです。

生き物によって、好む環境が違いますから、ありとあらゆる環境条件を詰め込まなくてはいけなくなります。そうすると、何がしたいのか、結局焦点がボケてしまいます。

もし、何ヘクタールもある広大な庭なら何でも出来ますが、ほとんどの方のお庭は大きくても十数m四方。大抵の場合は数m四方でしょう。

そんな場所で、何もかも呼びたい、といっても無理に決まっていますからね。

 で、どんな生き物を呼びたいか、どんな生き物に住んで欲しいか、を考えて設計すると、目指す完成形が見えてくるのです。


 東京都心などにお住まいの方でも、ご心配なく。

 東京のど真ん中にでもカブトムシやクワガタ、トンボ、チョウはいますし、それなりに環境を整えてやればそれらがやって来ます。

工夫次第では、もっと様々な生き物を呼ぶことも出来ます。

 しかしまあ、周囲は人工の環境が多いですから、やって来る生き物も完全な自然の生き物ではなく、外来種や園芸種の割合が高くなるのは仕方ありません。


 さて、目標を決めたら、エリアを決めて、その場所の環境を整え始めます。

 例えばチョウを呼ぶなら、なるべく花期が長い、蜜の多い植物を選んで植えます。

 カブトムシを呼びたいなら、落ち葉や刈草を集めて堆肥場を作ります。

 水生生物のいる場所を作りたいなら、池を掘るかプラ舟を置き、水を張って植物や水生生物を導入します。

 ただ、法律に違反しない限り、べつにやっちゃいけないことは何も無いんですが、やらない方がいいことは、結構あります。

 この項では、まずその辺を書いておきましょう。


1.植えない方が無難な植物

 売られている絶滅危惧種

 デンジソウ、ミクリ、ミズアオイ、スブタ、サンショウモなど、様々な絶滅危惧種指定された水生植物が、ホームセンターでは、ポット苗で売られていますね。

 絶滅危惧、っていうと食指をそそるのは分かりますし、まあ、自分の家で楽しむ分には仕方ない面もあるんですが、これ、殖えすぎたときに困るんです。

 もったいぶって『絶滅危惧種』なんつっても、もともとは『水田雑草』だの『強害草』だのとレッテルを貼られていた連中ばかり。

 条件が合えば、爆発的に殖えます。

 で、せっかく殖えた絶滅危惧種。買ってきたモンでもあるし、もったいないと思うのが人情ですわな。

 人にあげまくっているうちはいいんですが、地味なんであんまし喜ばれません。

 そのうち、在来種だしまあいいか、ってんで、その辺の湿地に植えちゃったりする人がいるわけです。

 ところが、この絶滅危惧種、どこが元ネタか分からない種苗です。

 同じ地域のものなら良いですが、そうでないものを生やしてしまうことになります。

 地域の同じ種が、完全に絶滅していればまだ良いんですが、意外に生き残っている場合もあって、交雑して問題が起きたりもします。

イヤ絶滅してるから大丈夫、って思っても「埋土種子」ってやつがあります。

 「埋土種子」は、すぐには発芽しないで土に埋もれた種子のこと。

種子の寿命は、数年から数十年。ヘタすると数百年から数千年前の種子が発芽したりします。

 工事なんかで掘り返されて、条件がそろうと発芽しますから、絶滅したかどうかなんて、専門家でも分からないのです。

また、中には、見た目そっくりの別種やミナミデンジソウのように、同種だけど国産じゃない種苗まであります。

 そんなことになるのは面倒なので、私は「ビオトープガーデン」にするなら、最初から「国産種は買ってこない」方針が良いと思います。

 国産種は採ってくる、もしくは、生えてきたものを育てる、という方法に限定しておけば、このような心配はありません。


 クスノキ

 公園樹や街路樹でもよく見られる木。赤い実を蒔くと簡単に生え、周囲に勝手に生えてきたりもします。

 アオスジアゲハの食草としても知られていますが、成長が早く、すぐ巨木になるのが難点。また、葉に揮発油成分が含まれていて、腐葉土になりにくく、枝も含めてカブトやクワガタ、コガネムシの幼虫の餌にもなりにくいです。当然、ミミズやダンゴムシも好みませんので、樹下は生物相があまり豊かになりません。

 ただ、逆に言えば木そのものに虫がつきにくく、病気も少なく丈夫、なので、スペースに余裕がある方はどうぞ。


 ミント

 ハーブの定番植物。ミントティーやポプリなどにも利用でき、ベトナム風料理には欠かせない素材ですが、いったん根付くと、強力な繁殖力でどんどん版図を広げます。地を這って株を増やし、利用が追っつかないほど増殖します。堆肥にしようと積んでおくと、勝手に根付いてそこから殖え始めることも。

 厄介なのは、変種が多く、それらと簡単に交雑することです。在来種のハッカとも交雑し、なんとも微妙な臭いの子株が出来たりします。

ミントに限らず、ハーブはもともと欧州の雑草が起源のものが多く、冬さえ越せれば簡単に野生化するので、あまりオススメしません。

 そんな外国の雑草を植えるくらいなら、在来雑草を管理した方が、よほど面倒がありません。


 タカサゴユリ

 可憐な花を咲かせる外来ユリ。

 鱗茎だけでなく、こぼれ種でどんどん殖え、歩道のすき間だろうが砂利道だろうが根付いて、あたりをこのユリだらけにしてしまいます。

 しかし、昆虫がよく来るわけでもなく、チョウの食草になるわけでもなく、鱗茎=ユリ根は苦くて食べられず、生物多様性的にはあまり役立ちません。

 比較的新しい外来種なので、日本の生き物にまだ利用されていない、という面もあるのでしょう。花期が違うので基本的には大丈夫なのですが、日本産ヤマユリとの交雑も懸念されています。


 コスモス

 太い根が生き残る多年草で、しかも種でも殖えます。休耕田に一面に咲き誇るコスモスは、観光資源にもなっていますが、これも他の植物が生えにくくなる傾向があります。

 草丈が高く成長が早く密生しやすいせいでしょう。

 これも程度問題ではありますが、あまりオススメしません。

 

 セダム(ベンケイソウ科、メキシコマンネングサ)の仲間

 乾燥にも貧栄養にも病害虫にも強く、冬も楽に越すので、屋上緑化などによく使われる植物です。

 しかし、病害虫に強いということは、裏を返せばこの植物を利用する昆虫がいないということ。乾燥に強いくせに、高湿度に弱いわけでもないので、やはり放っておくとどんどん版図を広げ、他の植物を駆逐していきます。

 ビオトープガーデン、という概念抜きにして「グランドカバー」としてなら、使える植物ではあります。


 クレソン

 水生傾向が強い、アブラナ科の植物です。

 ステーキの付け合わせくらいにしか使われませんが、焼き肉にも豚しゃぶなどにも合います。サラダとして食べても、おひたしにしてもいけます。

 水質も用土も温度も選ばず、切れた茎からでも根が出て再生する、というタフさを持ちます。

 まさにプラ舟ビオトープにうってつけ……ではあるのですが、このすぐに再生するタフさが問題です。

 とにかくよく殖え、あっという間に水面を追いつくすので、その辺に捨てようもんなら、すぐそこに根付きます。水辺でなくても、湿度が高ければばんばん殖えて野生化します。

 まかり間違って水路や溝に流してしまおうもんなら、下流でどんどん殖えて水路をふさぐほどになります。

 そういう心配が絶対にない!! という場合には、使いやすい植物の一つではありますが、できれば使わない方が良いでしょう。


 ナガバノオモダカ

 よく「ビオトープ用 水生植物」のシリーズとして売られています。

 在来種のヘラオモダカやサジオモダカに似ていますが、地下茎で殖える点が違います。

 そして、それが最大の問題点。

 地下茎で殖える分、スピードも速く、泥などに紛れて分布拡大もします。厄介な植物なので、私は最初っから買わないことをオススメします。

 抽水生植物が欲しかったら、こんなもん買わなくても、スーパーのクワイで充分。

 京都有数の心霊スポット、違う、生物多様性で有名なため池、「深泥が池」にも帰化しており、在来の水生植物であるミツガシワなどを圧迫しています。

 この種に限りませんが、水草がたくさん増えたので、その辺に放してあげよう、なんて行為は、自然破壊以外の何ものでもありませんので、絶対にやめましょう。


 キショウブ

 黄色い花を咲かせる可憐なハナショウブの一種……なんですが、それは栄養の少ない状態での話。休耕田や下水などの富栄養化した水域に、ひとたび入り込むと、草丈は一mを越え、地下茎は五センチを越える太さとなり、他のあらゆる植物を駆逐して繁殖していきます。

 自分の水盤で管理するならいいだろう、っと思っていると、たくさんの種子を付けてそれがこぼれ、いつの間にか近くに生えていたりする厄介者です。

 あ、もちろん外来種です。北米原産。

 黄色い花は確かに美しいのですが、私はオススメしません。こんなん植えるくらいなら、普通に改良型のハナショウブを買ってきて植えた方が、よほどキレイで扱いやすいです。


 アマゾンフロッグピット

 浮標性の水草なんですが、これまた、実にタフな水草です。

 低温にも高温にも強く、栄養生殖でばんばん殖えます。肥料分や日光が少なくても、葉を小さくして生き残ります。また小さな葉でも、条件がそろえば殖え始め、あっという間に水面を覆い尽くします。

 これも、もし逃げ出して周囲の池などに広がったら手が付けられませんので、オススメできない植物のひとつです。


2.放さない方がいい動物

 すべての陸生生物

 言うまでもありませんが、陸生生物は勝手にどこにでも行きます。

 昆虫、カメ、トカゲ、ヘビ、カタツムリなど、どれもすぐにいなくなってしまう可能性が高いですし、居着いたところで元々いないものなら、地元の生態系に影響を与えます。

 ですから陸生生物の放逐は、買ってきたものはもちろん、捕獲してきたものでも、オススメは出来ません。移動できるヤツらなら、環境を整えれば勝手に来ますので、忍の一字で待つことをオススメしたいです。


 カエル類

 カエル、というよりオタマジャクシですね。

 カエルになれば陸上移動できることをすっかり忘れて、オタマジャクシをビオトープ池に放す人が多いです。周囲が舗装道路などに囲まれていて、一見、カエルも移動できなさそうな場所であっても、雨天時や湿った夜には、さっさと出て行ってしまいます。もちろん、その地域の水田や、近くの水路からオタマジャクシを採ってきて、ビオトープに放すのはアリだと思います。

 しかし、川や山を越えた向こうから、となると、控えた方が良いでしょう。

 また、環境さえ整えてやれば、カエルは勝手にやって来ます。無理に放す必要はないと思います。


 絶滅危惧種・日本在来の淡水魚

 前の方で、クロメダカを買って来ない方が良い理由は述べましたね。

 同じ理由で、在来種の野生型を放流するのもやめた方が良いです。地域で捕獲して来たもの以外をプラ舟ビオトープに放したいなら、一見してわかる人工品種か、絶対に越冬不可能な熱帯魚の方が遙かにマシです。

 むろん、すぐ近くの地域内で、捕獲してくるという分には問題ありません。


 温帯産の外国産種

 すでに帰化した、いわゆる外来種ではなく、北アメリカや中国大陸産の温帯産の魚や甲殻類、貝などが売られていることがあります。

 放って置いても越冬しますし、ビオトープで生育もする種は多いですが、これらはやめておいた方が無難です。

 何故なら、増えすぎた水草を友人に渡したり、外に捨てたりしたときに、卵が付着していることもあるからです。もちろん、増水時に流されてしまうことも無いとは言えず、屋外飼育して良い生き物ではないでしょう。



 甲殻類

 カニやエビ、ザリガニなどです。彼等もカエルと同じように、雨天時に思わぬ距離を移動します。サワガニ、モクズガニ、アメリカザリガニ、テナガエビ……どれも、陸上移動が可能です。


 

3.やらない方がいい作業

 除草剤散布

 基本、目標と方向を見失わなければ、何をやってもいいわけですが、除草剤だけはよろしくありません。

 何がよろしくないかっていうと、言うまでもなく、無差別に植物を枯らしてしまうことですね。地上のすべての緑色植物が枯れてしまいますから、残したいものも枯れてしまいますし、意識していなかったコケや地衣類、藻類などにも影響があり、再び同じような土壌の状態に戻すのは、至難の業です。

 ビオトープガーデンといえども、すべての生物は構成メンバーだと考えて、どんな種でも根絶などしないように心がけましょう。


 殺虫剤散布

 これも、除草剤と同じ理由でやらない方が良いです。

 毛虫が大増殖とかした場合、目の前からいなくなって欲しい気持ちは分からないこともありません。でも、少し落ち着いて考えてみてください。彼等があなたに何をしましたか?

 ただ、木の葉を食べていただけじゃありませんか?

 たしかにイラガの幼虫は触れると刺します。ドクガやチャドクガの幼虫も、触れると痛痒くなり、皮膚はかぶれて酷いことになります。

 でも、わざわざ襲ってきて刺す毛虫なんかいません。イヤなら触れなきゃいいんです。

 庭に発生する可能性の高い、アメリカシロヒトリやマツカレハ、マイマイガなんかは、仰々しい毛を生やしてはいますが、ちょっと素手で触ったくらいじゃ、痒みもありません。

 むしろ、殺虫剤を撒くことでカマキリやクモなどが一緒に死んでしまうことの方が問題です。彼等は、蛾よりも数が少なく、一度全滅したら、なかなか増えません。

 多くの蛾は、一年に二回以上羽化しますが、カマキリもクモも、移動力が低い上に、年に一度しか卵を産みません。天敵のいなくなった葉の上に、わずかに生き残ったガの母虫が産卵すると、次の幼虫は、天敵がいないまま大増殖する結果になるわけです。

 そして毛虫が増えすぎたってんで、また殺虫剤を撒く。

これが、毎年毎年殺虫剤をやらなくては、毛虫が大増殖する庭や街路樹の仕組みです。


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