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§14 外来生物ってもんを考える 2(国内移入種について)


 さて、ようやくなんでメダカやフナ、希少植物なんかを買ってきて放しちゃいけないのか? また、違う場所から捕まえて持って来ちゃいけないのか? についてお話しします。

 日本にはメダカって魚は、いなくなっちゃったんです。

 いや、ホントの話。それもほんの最近。

 イヤ、ウチの近くにはいるぞって方、あわてないでもう少し話を聞いてください。これ別に絶滅したってワケじゃありません。名前が変わっちゃったんです。

 これまでひとまとめで「メダカ」もしくは「クロメダカ」「日本メダカ」と呼ばれていた生き物は、「ミナミメダカ」と「キタノメダカ」の二種に分類されちゃいました。

 これによって、標準和名メダカという生き物はいなくなり、二種のべつの生き物になりました。


 この話。新聞とかネットニュースじゃけっこう大々的に報道していたので、専門外でもご存じの方も多いかも知れませんが、この二種の違いだけじゃなく、地域ごと、あるいは河川流域ごとに、「メダカ」は遺伝的に随分と違いがある、ってのは、ご存じの方は少ないかも知れません。


 もともと、遺伝的な違い(アロザイム分析)で、メダカは「北日本集団」と「南日本集団」に分けられていて、これが上記の「ミナミメダカ」「キタノメダカ」となったわけですが、「南日本集団」はさらに「東日本型」、「東瀬戸内型」、「西瀬戸内型」、「山陰型」、「北部九州型」、「大隅型」、「有明型」、「薩摩型」、「琉球型」の9種類の地域型に細分されるとの見解が一般的なのです。

 しかも、コイツら生殖的に隔離されていない……要するに簡単に子孫を作っちゃいますから、その地域の境界線には交雑個体群が存在したりもします。

 その上、長年隔離され続けてきた池などでは、独自の進化を遂げてしまったヤツらもいて、そりゃもうちょっと移動するだけでも、違う生き物、と言っていいくらい遺伝的には違うのです。

 「んなこと言ったって、見た目一緒やろ」って人もおられるでしょう。

 いやね。じつは見た目もだいぶ違うんです。

 例えば、同じキタノメダカでも北陸あたりの「オス」は、実は他の地域より『イケメン』なのです。

 春先から夏にかけての繁殖の時期、オスはヒレが伸びてくるのですが、それが長くて美しい。あと、体側にキラキラと光を跳ね返す鱗も多数混じり、体全体の色彩もくっきりしてきます。体そのものも大きいヤツが多いです。

 これに引き替え、東北地方も北の方、青森などまで行くとオスはめちゃくちゃ地味になります。ヒレもほとんど伸びないし、鱗のキラキラも少ない。しかも体も小さいのです。


 なんでこんなことになるか? というと、どうやら夏の短さに原因があるのではないか、との説が有力です。

 繁殖可能な夏が短い東北では、急いで相手を見つけ、産卵しなくてはいけません。

 ですから、見た目や力を競っている場合ではなく、素早くコトを済ませるオスが有利。

 逆に夏の長い北陸では、時間的に余裕があるので、より優秀な遺伝子を残すために、メスはより美しいイケメンオスを選ぶ、という説です。


 この説が正しいかどうかは分かりませんが、ハッキリしているのは、同じキタノメダカでも地域によって素人でも区別が付くくらいの違いが見られる、ということですね。


 しかし、先ほども申し上げたように、微妙な違いはすぐ隣の県、あるいは隣の流域、隣の池とでも見られる場合があります。

 ですから、うかつに彼等を移動したりしてしまうと、違う遺伝形態のものを入れてしまうことになりかねません。

 まあ、それでも隣の池とか同じ水域レベルなら、たいした違いはありませんし、そもそも違うといっても、そう大きく変わるわけでもなし、遺伝子が混ざったからどうなの? 人間に関係ないじゃんって言われると、それまでです。


 ただ、イケメンオスの多い地域に、地味オスの系統を放しても、競争に負けて子孫を残せなかったりして、無駄になるかも知れませんし、運良く子孫を残せたとしてもイケメンでないオスがその子孫に増えてしまうってコトにはなるでしょう。

 

 分かっていただきたいのは、これは単に一つの特徴に過ぎず、他にもどんな違いがあるか分からないってことです。

 東北には東北独特の、北陸には北陸独特の生態系があり、その中で生き延びてきたメダカたちには、繁殖戦略だけではなく、病気への抵抗、天敵への対応、気候変化への順応など、様々な特徴を獲得してきているはずです。

 それらが複雑に絡み合って、彼等の生活を支えています。

 そこに違う特徴や戦略を持った連中が入り込むことによって、何が起こるか、は正直予測不能なのです。

 移植はその場所の遺伝子プールそのものとしては、多様性が増加するわけですから、もしかすると、『メダカ』という存在はものすごく増えて繁栄するようになるかも知れません。

 でもじゃあ、『メダカ』に食われているミジンコはどうなるのか?

 『メダカ』を食っているヤゴやタイコウチ、ヨシノボリにはどんな影響があるのか?

 『メダカ』と住処を競合しているタモロコはどうなってしまうのか? 

 これはやってみないと分からないわけです。

 で、やってみて『あかんかったわー』で済む問題でもないでしょう。

 生き物が何百年、何千年、あるいは何万年もかけて築いてきた営みを、ある人の興味だけでぶちこわして良い理屈はありません。


 要するに以上が、メダカを買ってきたり、よその地域から採ってきたりして放しちゃいけない理由です。


 無論、これはメダカに限りません。


 現在、キリギリスという和名のキリギリスはいません。ヒガシキリギリスとニシキリギリスに別れています。別種なんです。

 ヒキガエルという和名のカエルもいません。ニホンヒキガエルとアズマヒキガエルに別れているのです。

 水田にいるカエル。一見、トノサマガエルに見えても、トノサマガエルとは限りません。関東の連中はトウキョウダルマガエルですし、中間型のナゴヤダルマガエルや、もっと手足の短いダルマガエルもいます。

 ナマズは河川ごとに特徴があり、一時期、数十種類に分類した魚類学舎もいました。種類分けするほどではない、とされて今は一種に統合されましたが、その特徴が無くなったわけではありません。

 ニホンイシガメとクサガメは簡単に交雑します。日本にいるクサガメは、遺伝子解析の結果、昔中国大陸から移入された外来生物であることが分かっています。ショップで売っている『ゼニガメ』はクサガメの子供なので、在来種だと思いこんで放流する人が後を絶ちません。私の住む地域では、純血のイシガメを見ることが難しくなりつつあります。

 カワムツという魚は、十数年前まで一種とされてきましたが、今ではヌマムツとカワムツの二種に分けられています。雰囲気こそ似ていますが、よく見ると、だいぶ違う魚です。


 このように、あらゆる生き物が地域によって特徴があります。

 しかし、ビオトープを作れば、移植しなくてはならないことはままあります。水路がつながっていなくては、魚はやって来られませんから。

 ではどの程度の距離だったらOKで、どの程度ならダメなのか?

 簡単な話です。

 もし、仮に水路がつながっていたとして、泳いで来られそうな場所からなら移植OK。それ以外はNGです。

 陸上生物なら、歩いて来れそうならOK。

 つまりは自力移動を助けてやるだけ、って話です。

 すると、昆虫なんかは神経質になる必要がない場合が多くなります。

 何故なら飛んでこられるヤツが多いから。

 っていうか、いい環境を整えてやればどうせ飛んでくるので、そんなの移植する必要はないんですけど。

 でも、ホタルみたいに飛翔力の低い昆虫はそうもいきません。この場合は同じ水系、同じ山系のものを選びます。

 

 つまり『飛んでこられるような連中は、飛んで来たくなるような環境作りをするだけ』

『飛んでこられない連中は、歩いてきたり泳いできたりできるような回廊作りするだけ』

 その上で、どーーーーーしても来られない連中がいて『この地域にコイツらいないっておかしいだろ』あるいは『地域おこしのために、この種類がいて欲しいのよ』って場合にのみ、移動可能な場所から移植する。ってのが本来のビオトープの考え方になります。


 『そこまでやってられねーんだ。何にも周りにいねえ都会だけど、どーしてもオイラ、庭にメダカ放してえんだ』


 ってお方。ご安心。

 そんな時には、ヒメダカを買ってきましょう。

 前述したように、一見して買ってきたモンだと分かりますから、万が一増水で逃げたとしても、すぐ分かります。しかも、目立つので野外では生き延びにくい、という利点もあります。

 そんな都会なら、お庭に植わっている植物だって、たぶん買ってきたものばかりのはず。

 かの明治神宮の木々だって、地元の木じゃないんです。その地域本来の植物が生えている可能性なんかゼロに近い。そんなとこで、メダカだけ拘ってみても仕方ありませんから。

 絶滅危惧種の水生植物を買ってくるのもやめましょう。

 その辺に逃げ出すこともありますし、絶滅危惧種だとばかり思って育てていたら、外国産の同種もしくは亜種だったって例も多々あります。同種でも、外国産個体は性質が違います。

 逃げ出して、爆発的に増えた例もあるくらいです。

 それと、カエルやホタル、カブトムシなど移動力のある連中は、買ってきて放したりしちゃダメです。それこそ、どこに逃げて何をするか分かったもんじゃありませんから。


 『都会のご家庭ビオトープ』の場合、こうして園芸種や改良品種を買って来て、生態系らしきものを構築する楽しみがあります。

 うまくすると、都会のど真ん中でも周囲から様々な生き物がやって来るようになります。

 これが世に言う『ビオトープガーデン』ってヤツです。

 周囲に自然が少なくても、自分なりの工夫で自分なりの生態系を構築できるので、生態学的な制約の多い、田舎の庭のビオトープよりも楽しみは多いかも知れません。

 目の前の川にメダカがいるのに、ヒメダカを買ってきて放すわけにはいきませんし、逸出するのが分かっていて、強力に繁茂する園芸種を植えるわけにはいきませんからね。


 でも、都会とはいえ何でもアリってわけじゃありませんし、田舎だってビオトープガーデンは作れます。

 都会のビオトープガーデン、田舎のお庭ビオトープ、については、次項、次々項で具体的に作り方や注意点を述べます。


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