§13 外来生物ってもんを考える
『外来生物』というと、ブラックバスとかセアカゴケグモとか、有名どころの名が上がりますよね。
しかし、けっこう皆さんが親しんでいる生き物にも、外来生物はたくさんいます。
観察会で説明すると、「え? コイツ外来生物だったん??」 って驚かれるようなものも多々あります。
その最たるものの一つが「オカダンゴムシ」ですね。
外来生物ですよ~って言うと、大抵の人は目を丸くします。
プランターの下、街路樹の植え込み、神社の落ち葉下、公園の便所脇……皆さんご存じの通り、どこにでもいます。コイツが明治時代にヨーロッパから渡来した外来生物だなんてのは、知ってようと知ってまいと、大半の人にとってはどうでもいいことなんでしょうけどね。
もちろん、外来生物だからといって、悪名高きブラックバスみたいに「駆除しなくちゃ!!」って話にもなってはいません。
他にも植物で言えば、オオイヌノフグリだの、ヒメオドリコソウだの、ヒメジョオンだの、結構可愛らしい野草が外来生物だったりします。また、春先に土手を飾る「菜の花」アレの正式和名は「セイヨウカラシナ」で、これまた立派な外来生物だったりします。
最初の項で書かせていただいたように、国道脇の「雑草」の八~九割が外来生物って事態ですから、「外来生物をすべて無くしたビオトープ」なんてものが、どれほど不可能に近いかは、お分かりでしょう。
でも、まあ、最近はハリネズミだのアライグマだの、ガーフィッシュだのと、様々な新しい外来生物が確認されていますから、さらに日本の自然は大変なことになっていますけどね。
むろん、そういう連中をビオトープに積極的に導入したり、そいつらの住みやすい環境を整えてやったりする必要はこれっぽっちもありません。
もし、ビオトープに似たような在来種と外来種の両方が生息していて、同じような生活をしていたなら、外来種の方を選んで駆除してやればいいと思います。
ただ、外来生物とはいっても、その場所に野生化して生活しているって事は、良くも悪くも周囲の生き物に影響を与えているわけです。
たしかに、猛威をふるっている外来生物を駆除することで、代わりに在来種が勢いを盛り返すっていうことが起きるのも事実ですが、一応の安定をみている生態系の場合、中には逆効果になる事もあるのです。
こういう事例があります。
割と水生植物が豊富で、生物種が豊かなため池がありました。
豊かといっても、比較的水生昆虫が多かったようです。でも、魚やカエル、エビは少ない。
そこにはブラックバスも住みついていたんですが、小動物が少ないのはそのせいであろう、ということになり、池が干され、ブラックバスが駆除されました。
で、どうなったかというと、なんと、豊かに生えていた水生植物が壊滅状態になったのです。
水生植物が無くなると、それを隠れ家としていた水生昆虫たちも一気に減り、ついには水まで濁ってしまいました。
何でこんな事になったのか?
犯人は、なんと同じ外来生物のアメリカザリガニでした。
ここにはもともとアメリカザリガニも侵入していて、ブラックバスがいたせいで、彼等は捕食されて数を減らしながらも、細々と生活していたわけです。
ところが、その天敵をご丁寧にも人間がすべて駆除してくれました。彼等の寿命は二年ほど。でもその間に数百の卵を数回産みます。アメリカザリガニは爆発的に繁殖。
そして、彼等の主要な餌は「植物質」なのです。スルメで釣れたりしますから、あんまりピンと来ないかも知れませんが、飼育しておられる方は、試しに水槽にキュウリを一切れ入れといてください。翌日には影も形もありません。
そんなヤツらにとって水生植物は格好の餌だったわけで、壊滅するのも当たり前なわけです。
これは極端な例としても、一見バランスのとれているビオトープの生態系は、どの生物もそれなりに役割を果たしているわけです。
それを、人間の勝手な価値観で「駆除」してしまうと、場合によっては逆にバランスをくずしてしまう事もあるって例ですね。
念のため書いておきますが、だからといって、『ブラックバスの存在が生態系を救う』なんてバカな事を言い出すつもりはありません。そんなもんがいなくても、そもそもアメリカザリガニが入り込まなければ良かったわけですし、ナマズ、ウナギ、カメ、カワウソ、サギといったザリガニ大好物な日本在来の連中が減少、もしくは絶滅していなければ、こんな事にはならなかったわけですから。
大事なのは、新しい外来生物を入れないようにすることと、今いる生き物の種類をきちんと把握しておくこと、そして、何かを駆除、あるいは逆に放流した場合、予測不能な影響が出る可能性を考えて、常に様子を見ておく事、なんです。
今いる生き物が何であれ、ちゃんと把握しておきさえすれば、その影響は予測できます。
そして、大きくバランスを崩しているなら、どのようにすればバランスが取れるのか、よく考えることです。
この場合、種間相関図を書いてみるとある程度の予測が立ちます。
矢印でコレがコレを食って、コレがコレに食われてって感じですね。
それもしょせん、人間による観察と予測に過ぎませんから、落書き程度で充分。でも、それをやっておきさえすれば、前述のため池は、これほど酷い状態にはならなかったでしょうね。
このため池の事例の場合、あとでアメリカザリガニも駆除することによって、水生植物はある程度回復した、との話でした。
ただし、泥を掘って潜む上に、雨天時には水路沿いに陸上を歩いて移動するアメリカザリガニを、ため池から完全駆除するのは、事実上不可能。
捕食者を完全駆除してしまった、ため池の水生植物を維持し続けるためには、人間が永遠にアメリカザリガニを駆除し続けなくてはならないわけです。
コレを完全に正常化するためには、いったん、完全に池を干してすべての水生生物が住めない状態にしてからリセットする、とか、ブラックバスに代わる在来種の天敵を放流する、とか、そうした天敵が入り込みやすいように魚道を設置する、とか、様々な方策は考えられます。
が、そんなことをして何が起きるか予測がつきにくいのも事実ですね。
いったん池を干したら、二度と現れない水草や水生昆虫があるかも知れません。
放流した天敵がザリガニを食べずに、他の水生昆虫などだけを、食い散らかすかも知れません。
魚道によって、天敵だけでなくさらに厄介な、水草や水生昆虫を食べる生き物が侵入してくるかも知れません。
ですから、うかつにそうした処置を行えないのです。
最初のブラックバス駆除と同じですね。
ちなみに、天敵放流の場合、このため池で一番生態系に対する影響が少ないと考えられるのは『ウナギ』ですかね。
ウナギは甲殻類が大好物で、どんな隙間にも潜り込んでアメリカザリガニを食います。日本在来種でもありますから、ウナギに対する防御方法を、日本の生き物はある程度知っています。
そして、もっとも良いのは『ウナギはため池で勝手に殖えない』ことです。なにしろ、海に下って太平洋のど真ん中まで行かなくては繁殖できないのですから。
で、こりゃまずい、となったら餌の罠で捕獲でき、捕獲したら人間が食べればいい、と、一石三鳥の天敵導入ですが、そううまくザリガニだけを食べてくれるかどうかは分かりません。
もしかすると、イモリやオタマジャクシ、タニシが壊滅したり、思いも寄らない影響があったりするかも知れません。
まあ、そういう試行錯誤や過程もビオトープ運営の楽しさの一つではあります。取り返しがつく状況ならば、やってみるのも良いと思います。
でも無責任に楽しめる状況ならいいんですが、天然記念物とか絶滅危惧種の存亡がかかっているとなると、絶対に失敗は許されませんからね。
私がここで言いたいのは、外来生物を目の敵にして駆除したからと言って、必ずしも良い結果には結びつかない、ということ。そして、新しい外来生物が侵入しないように、気をつけること。だけですね。
それと『外来生物だらけだから』といって、日本の自然などもうどうでもいい、などとは思わないで下さい。人間が関わって作り上げてきた、それも含めて日本の自然なのですから。




