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-EP.04-新しい住人


雨の日から2日…。晴天の空は見上げるほどに澄んでいて、心地よい風が外を吹き抜けており、絶好の洗濯日和といえる。


「――と、いうわけで!レンちゃん、今日は洗濯について教えるよ!!」

「うむ。よろしく頼む。……ところで洗濯するというが井戸も川も無い洗面所でどうやって洗濯するというのだ?」

「まさかの手洗い宣言っ?!」

「ムッ?洗濯とは手洗いだと聞いていたが…、この世界では違うのか?」

「お兄ちゃ~ん。レンちゃんの知識は役に立ちそうにないよ~…」

「だったら一からきちんと洗濯機の使い方を教えろ。横着しようとするな」

「はぁ~い」


2日前に連れて帰ってきたレンは次の日から家事の内容を由希からレクチャーを受けている。

ちなみに、なぜ灯里ではなく由希なのかというと――




◆◆◇◆◆




――2日前――


「お兄ちゃん。レンちゃん、お風呂に入れたからしばらくしたら出てくると思うよ」

「朝にあんなことしておいて悪いな…」


バスタオルで雨に濡れた髪を拭きながら、キッチンで茹でられているパスタを時折かき混ぜる。


「ううん。むしろ、お兄ちゃんが変わりないようで安心しました」

「うるさい。……で、だ。あの自称魔王ことレンをとりあえず住まわせてやることにしたわけだが、問題点は2つある」

「2つ?1つは家事のお手伝いをしてもらうために教えなきゃいけないってことだよね?」

「もう1つは更に切実な問題だ」

「そんなのあるの?」

「あいつの分の当面の生活費、だ」

「……あぁ」


茹で上がったパスタをザルにあげて湯切りをして皿に盛っていく。


「少なくとも次の生活費が入るまでには父さんに連絡して今の状況を伝え、生活費を増やしてもらうのが一番いいんだが…。それにしたってあと半月は今ある生活費でもたせる必要がある」

「うーん、それは確かに切実な問題だね…」

「ここで万が一に赤字になれば来月の小遣いは俺もお前も半額程度に――」

「ちょっ、ちょっと待って!!」

「うん?」

「私、さっき小遣いの減額を言い渡された気がするんだけど…」

「あぁ、そうだな。つまり、赤字になると来月のお前の小遣いは…、……まぁ、そういうことだ」

「ごまかすほどに少ない!!?」

「…という事態は回避したいんだよな?」

「いきなり何かの交渉が始まるの…?」

「お前に悪い話じゃないから。まぁ、とりあえずレンが出てきたら飯食いながら話す。どちらかというと、あいつに関係があるからな」


盛り付け終わったスパゲティの皿をテーブルに並べ終えるとレンが出てくるまでしばらく待つ。

由希のパジャマを借りたレンがリビングに入ってくると――


「なんだ、その皿に盛られた謎の物体は…?」

「スパゲティを知らないの?」

「すぱげてい?」

「スパゲティ、だ。とりあえず座れ」


イスに座ると置かれていたフォークを掴む。が、そこで首を傾げる。


「で、これはどうやって使うのだ?」

「食べ方は俺や由希のを真似するといい」

「むぅ…」

「「いただきます」」


手を合わせ、2人はスパゲティを食べ始める。その様子をしばし観察していたレンも、ゆっくりとスパゲティを口に入れる。


「ムッ!!うむ。これはなかなかに…」


はむはむと次々にスパゲティをほおばっていく。


「もう少し落ち着いて食え」

「ムグ…?」

「焦って食うと喉に詰めるぞ」

「ムグムグ…。……っ、確かにそうだ。すまぬな。このような美味しいものを食べるのは久方ぶりなのだ」

「そういえば朝ごはんのトーストにも少し驚いてたよね?」

「あぁ。パンはアスガルツでは主食なのだが、あのパンに載っていた赤い甘いものはなかったのだ。あれもなかなかにうまかった」

「ジャムもないのか」

「じゃむ、というのか…。あの赤い甘いものは」

「そうだよ」

「ふむふむ。こちらの世界では食の道はずいぶんと先に行っておるようだな。街並みはアヴァロンに近いが――」

「アヴァロンって、なに?」

「ふむ。今日より世話になるのだし、少しは我の世界についても話しておく必要はあるか。よいか、灯里?」

「構わないぞ。飯を食いながら聞くとは思うが…」

「ふん。その程度で機嫌を悪くしたりはせん。……ふむ、では何から話すべきか…」


フォークを置き、腕を組んでしばし悩む。


「まずは世界にある国々から話をするべきか」

「お前の住んでいたアスガルツや今出てきたアヴァロンというのは国の名前なのか?」

「察しがよいな灯里。その通りだ。昨日にこちらの世界地図とやらを見せてもらったが、あれを例に使うと――アスガルツのあるのは大体、日本という国の場所辺りだ。無論、あのように細長い島国ではなく広大な円のような大陸だがな」


テーブルの上に手で大陸の形を指で描く。


「そうやって聞くと少しは似通ったところもあるのかもな」

「さて、な。他の国は先ほど言ったアヴァロン。ただ、こちらの国は大洋の反対側に存在している国でな。舟の技術力はアスガルツは大して高くはないので国の中は昔に描かれた書物でしか知らんのだ」

「大洋っていうと、私達の世界でいう太平洋みたいな?」

「そうだな。縮尺としては近い」

「まだ国はあるのか?」

「うむ。あとはアヴァロンとは逆に数kmほどある海を越えた先にある国――ウォートリンデ。我々は城塞都市と呼んでおる」


大陸のサイズを描くとちょうどユーラシア大陸のような形を描く。


「なんていうか、あれだな。こちらの中国やアメリカと同じようなものか」

「ふむ。確かに近いやもしれぬな。あとはウォートリンデとアスガルツの間に深海都市のフォーレストという国がある。有名な国はこの4つぐらいだ」

「有名なのはっていうことは他にもあるの?」

「他はいわゆる小国と言われる大きな政治体系を持たぬ国々だ。基本的には多数の部族が集まって出来上がっていることが多いと聞く」


食事を一番早く終えた灯里は皿を流し台へと持って行く。


「まぁ、国の名前が出たから少し話を聞いてはいたが、地理もこちらとは大して変わらないとかいう知識も入ったな。使えんが…」

「それはそうだな。灯里や由希が我の世界へ行く機会もなかろう」

「あっても行かん。とにかくだ。話が横道にそれたから元に戻すぞ」


お茶の入ったコップを持って改めて席に座る。由希とレンは再びスパゲティを食べ始める。


「まずはレンが家に住むにあたっては両親に連絡を取ってきちんと許可をもらってから部屋をあてがう。それまでは由希の部屋での同居だ」

「ムグ…。我は構わぬが由希はよいのか?」

「断る理由は無いから異義無し」

「よし。じゃあ次だが、家の家事は基本的に俺と由希の2人でローテーションを組んで行なってきたが、ここにレンを順次加えていく。まずは洗濯から」

「なんで洗濯から?」


灯里の説明には2人はいまいち理解できないのか、小首を傾げる。


「理由はいくつかあるが、料理に関しては休日にでも一度作ってもらってから判断する。由希みたいに朝食にいきなり炭が出てくると困る」

「あ、あれは!!」

「あぁ、言わなくてもわかってる」

「ホント?」

「俺だってまさかトースト作るためにコンロで直火焼きするとは思わなかった」


ゴツン…とテーブルに額をついて由希は動かなくなる。レンは心配そうに肩を揺するが反応はない。


「洗濯は洗濯機の手順を覚えればあとは干すだけだ。さすがに干すぐらいはわかるだろ?」

「そこまでバカにしてくれるな。洗濯物を干すぐらいはできる」

「なら、洗濯機の使い方を覚えれば大丈夫だな。由希、お前に教育係を命じる」

「えぇ…。私がするの…?」


顎をテーブルにつくように顔をあげる。その頭を軽く撫でながら――


「レンがきちんとできるよう教育できた場合はお前の小遣いの減額を考え直して――」

「やりますっ!!!」


先ほどまでのやる気のなさはどこへやら…。急に元気になる由希。


「じゃあ、そういうことで頼むぞ?」

「わかったよ~。レンちゃん、頑張って教えるから頑張って覚えてね!!」

「う、うむ。努力しよう…」




◆◆◇◆◆




――というような契機があって2日。


「えっと、由希よ。これでよいのか?」

「えっとね…。そうそう。あとはそこの洗剤を入れて――」

「うむ。それで柔軟剤とやらを入れるのだな?」

「そうだよレンちゃん!!覚えてくれてるようでなによりだよ!!」


テンションの高い由希の声を聞きながら、灯里は昼御飯の準備をしている。


「まぁ、これで少しは家事が楽にはなるだろう」


皿の準備をしながら洗面所から聞こえる2人の声に灯里は微笑みがこぼれる。


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