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-EP.01-始まりは自称魔王様?

―――始まりは、一月ほど前にさかのぼる…。







「お兄ちゃん、そろそろ出ないと学校遅刻するよ!」

「お前こそ弁当を忘れんじゃないっての…」


GWも過ぎた5月の頭。先月引っ越してきたばかりの柊灯里とその妹の由希。

両親と共に引っ越してきたのだが、両親共働きでしかも海外への出張とかで引越し早々に家へ帰ってこなくなった。


仕方なしに2人暮らしも始まったのだが、世の中はよく起きる嬉しいシチュエーションというものは簡単に起きるものではない。

一月経った今では2人暮らしにもそれなりに慣れ、家事の分担をしながらの生活を過ごしていた。


「お兄ちゃん、今日の晩御飯はなに?」

「おい、コラ。今日はお前の担当だろうが」

「あれ?そうだった?」

「ごまかしても無駄だ。ちゃんと確認してから家を出てきてんだからな」


そうこうしているうちに由希はアップテールになった髪を揺らしながら坂道を駆け上がりだす。


「じゃあ、遅れた方が晩御飯の当番ってことに――」

「するか。アホ」


遅刻することなく学園に到着すると由希は上履きに履き替えて駆けていく。


「じゃあ、お兄ちゃん。晩御飯、楽しみにしといてね!!」

「……まともな料理を頼む」




◇◇◆◇◇




その日1日もいつも通り何事もなく終わろうとしていた頃。


「お兄ちゃん、そろそろお風呂沸くから先に入っちゃって。皿洗い、まだ終わってないから」

「了解。じゃあ――」


灯里が言い切る前に洗面所の向こうにある風呂場に何かが飛び込んだ音が響いた。


「……お兄ちゃん、何の音だと思う?」

「風呂に誰かが飛び込んだ音じゃないか?まったく…。不審者なんかいる所にはいるみたいだな」


ソファから立ち上がるといざというときに使うために入口脇に置いてあった消火器を掴んで風呂場へと向かう。

風呂場では浴槽の辺りでパニックになっているだろう不審者の姿がすりガラス越しに見えている。


「………」


すりガラスの扉を開けて消火器を構える。はたして、そこにいたのは―――


「……あぁ?」

「うぶぶぶ……ブッハァ!?ハァハァ…。し、死ぬかと思った…」


浴槽に立っていたのは緋色の腰まである髪からお湯を垂らし、蒼の瞳を灯里に向けた――目算での身長は150cmぐらいの美少女がいた。


「ムッ?貴様、何者だ?面妖な服装をしておるが…」

「いや、服装に関してはお前みたいな不審者に言われたくない」


美少女が着ているのはへそが見え、胸元も開いた黒い服に深い紫色の膝上のスカートをはいている。

問題点としては浴槽に飛び込んでいるせいで服がやや透けている点だろう。


「とりあえず、お前。適当に服は貸してやるからそこから出ろ。俺はさっさと風呂に入りたいんだ」

「貴様…、我に命令するとはいい度胸をしておるな。我はレン・アカシャ。世界を統べる魔王なるぞ!!」

「そうかい。じゃあ、とりあえず出てけ」

「………貴様…」

「魔王だかなんだか知らんが邪魔だ。俺はとにかく風呂に入りたいんだよ」


浴槽で動かない自称魔王を引っ張りだすと、リビングにいた妹に預けて風呂へと入る。

20分ほどして風呂からあがると、妹のジャージを借りた自称魔王がソファに座っていた。


「着替えたようだな」

「貴様といいあの小娘といい、我を誰だと心得ている?」

「『頭のイタイ自称魔王様』だろ?」

「誰が『頭のイタイ自称魔王様』だ!!」


ソファに座ったまま両手を振り上げて怒る自称魔王に軽く手を振りながら冷蔵庫へと水を取りにいく。

すると、先ほどからいなかった妹がリビングの扉を開けて入ってきた。


「お兄ちゃん、あの子が着てた服。とりあえず洗濯機に放り込んで洗濯しちゃってるけど、それでよかった?」

「あぁ。さて、由希。お前も風呂には入りたいだろうが、まずはそこにいる自称魔王の処遇を決めてしまってからだ」


指さした先には不機嫌そうに頬を膨らましている自称魔王の姿がある。


「……オッケー、だよ。にしても、相変わらず理不尽っていきなりやってくるね」

「まったく…。いい迷惑だ…」


水の入ったコップを自称魔王の前に置き、隣のソファに兄妹並んで座る。


「――で、自称魔王様はどうして家の風呂の浴槽にダイブしやがった……っていうか、どうやって入った?風呂場の窓は鍵がかかっていたし、よしんば何らかの方法で入れたとしても浴槽に飛び込んだ理由は俺達にとっては訳がわからん」

「だから…。貴様、『自称』をつけるのは止めよ!我はレン・アカシャ。『アスガルツ』を統べる魔王なるぞ!!」

「よし。とりあえず『自称』云々はあとで聞いてやる。だからまずは俺の質問に答えろ」

「ムッ?別に我は飛び込みたくて飛び込んだわけでもないのだが…」

「いいから理由を答えろよ」

「……不遜なやつめ…」


文句を言いつつもようやく話し始めた。長ったらしい話を根気強く聞き終えると、一息つくために水を飲み干す。


「つまり、お前は勇者に倒されかけて死なばもろともな気持ちで転移魔法とやらを使ったら浴槽にはまった、と?」

「まぁ、まとめればそうだ」

「……zzZ」


話が長すぎたせいか由希は耐えきれずに夢の世界へと旅立っていた。


「由希、起きろ。まだ話は終わってない」

「……んゅ…。ごめんなさい。あまりにもつまらない話を長々とされたから…」

「言うな。俺も苦痛だったんだ」

「貴様等、ほんに失礼な人間だな」

「お前がもっと簡潔に話せばこうはならん」

「貴様の質問には答えたな?では、我からも質問したい」

「断る」

「なぜっ?!」

「理由はわかった。しかし、結果からみればお前は俺達のところへ厄介事を運んできた疫病神だ。面倒なやつには関わらないに限る」

「ま、待て!我としては自分のいる場所が知りたいだけなのだ!それ以上の要求はない!!」

「いる場所、ねぇ…」

「どう説明したらいいんだろうねぇ…?」

「ムッ?」


自分のいる場所を知りたいと言ったはずなのに、目の前の兄妹はしかめっ面で顔を見合わせる。


「なにか、問題でもあるのか?」

「えっと、ね…。問題があるというか問題しかないというか…」

「伝えたところでお前が納得するとは思えん」

「いいから言わんか。アスガルツの地名は昔に暇つぶしに覚えたから、さして問題はない」

「そういうこっちゃないんだがな…」


とはいっても説明しないことには納得しそうにないので、家の中にある地図等を使いながら説明していく。

最初こそすまし顔で説明を聞いていたレンも説明が進むにつれて表情が無くなり、徐々に血の気が引いていく。


「―――というわけで、今お前のいる国は地図でいう日本で、そこの紅月市にある一軒家にいる」

「………」

「返事がない。ただの屍のようだ」


由希の言葉の通り、魔王たるレンは口から魂でも抜けてしまったように動かない。顔は血の気が引きすぎているのは黒い。


「まぁ、こうなるだろうとは思ったが…」

「予想通りだけどなんだか可哀想だね…」

「だがまぁ…。さっきの話を聞く限りは自業自得な気がするな」

「……アスガルツではない、別の世界…」


小さなつぶやきとともに血色が回復し始めた。


「……そうか。勇者から逃げはできたが新たな問題を抱えてしまったわけか」

「言っておくが家に置く気はないからな」

「ムッ…。先ほどから思うが貴様、なぜそんなに非協力的なのだ?」

「厄介事に巻き込まれるのは面倒だからだ」

「でもさ、お兄ちゃん。服は洗濯しちゃってるよ?」

「あぁ。そういえばそうだったな。仕方ないから明日の朝には乾くだろうから、今日のところは居させてやる。……さて、これで話は終われるな」


ソファから立ち上がりテーブルに載っている3つのコップを持つと流し台へと置く。


「由希。そいつはお前に任せる」

「はぁい。レンちゃん、2階に私の部屋はあるから一緒に行こう」

「おい、ちょっと待て!レンちゃんというのは……って、ちょっ…手を引っ張るな!!」


意気揚々とレンを連れてリビングを出ていく由希。2人分の階段を上がる音を聞きながら、コップを洗う灯里は小さなため息をついていた。


急に現れた少女にして別世界の魔王――レン・アカシャ。


その存在を忌々しく思いつつも無理矢理追い出せなかった灯里自身としては、自分の感情がいまいちよくわからなかった…。



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