始まり No.3
「……ム、…レイム」
……誰?
「フレイム、起きなさいっ!!」
ビクッ!!
少し驚き顔を上げるとそこには、
「……ケイ…姉?」
「学園では先生と呼びなさい」
そう言うケイトは少し顔をしかめるも、直ぐにふっと微笑んだ。
「全く。どうしたのよその顔は。まるで信じられないものでも見てるみたいじゃない」
そういうケイトをフレイムはまだ不思議そうな目で見ている。
……なぜだ?
だってケイトはあの時……
「そう、あの時私は死んでしまった。」
突然そう喋り出したケイトに驚き、思考を止めケイトを見上げた。
すると教室だった筈の風景が一変し、急に回りに炎が拡がった。
その真ん中で、ケイトは頭から血を流しながら立っていた。
その虚ろな目をした彼女は淡々と喋り始めた。
「あの時私は死んでしまった。何故かわかる?」
その時、フレイムは無意識に耳を塞いでいた。
もうこれ以上聞きたくない。
例えその答えをわかっていたとしても。
しかしいくら耳を塞いでも声は聞こえてくる。
いくら目を閉じても残酷な景色は脳裏に鮮明に焼き付いて離れない。
ケイトがどんな状態で何を言っているのか。
それを理解しないことは不可能だった。
やめろ!!
不可能だとわかっていても、フレイムは叫ばずにはいられなかった。
しかし現実はその口から淡々とかたられる。
「そうそれはね……」
もうこれ以上聞きたく!!
「貴方が……私をね……」
やめてくれ!!
「……殺したから」
「やめろォーー!!」
――――――――――――
――ガバッ!!
……全てが現実に戻った。
それでも、先程までのことがフレイムの体力を大きく削り取っていた。
「はぁはぁ……ッ!!」
急に走った痛みに意識を失いかけるも、彼は何とか気絶せずにすんだ。
だんだんと痛みが収まり始めるにつれ、周辺の状態も認識できるようになった。
彼は何故か何かの建物の一室にいた。
頭には包帯が巻かれている。
(確か……街中にいたような)
そんな疑問が浮かんだとき、目の端にうつる何かに気が付いた。
そこにいたのは10歳前半程であろう少女だった。
「……君は?」
その少女に問いかけた質問だったが、しかし返ってきたのは彼女からではなかった。
「すまない。恐らく彼女は答えてくれないだろうから私が答えよう。私達は商人でね。立ち寄った町が壊滅していたから驚いたよ。どうなっているかと覗いてみたら君が倒れていたのを彼女が見つけてね。介抱していたところだったのさ。」
扉の近くに立っている青年はカイトと名乗りそう喋り始めた。
「カイトだ。よろしく」
「はい。よろしくお願いします。あと助けて頂きありがとうございます。」
「気にしなくていいよ。大変な時は助け合いだからね」
人の良さそうな笑顔を向け手を差し伸べてくる。
フッと笑った彼の笑顔に何故か心が安らいでいく。
そんなことを考え無意識に手を差し伸べてきた彼に、同じく手を出す。
しかし、その時それは起きた。
―――ビシッ!!
まるで電撃が走ったような感覚に驚き、手を離してしまった。
「……? どうしたんだい?」
微笑んでいた彼の顔にも疑問の表情が表れる。
それはフレイム自身にもまったくわからない現象。
しかし先ほど現象で何故か芽生えた感情があった。
それは……
(この人……嘘を言っている気がする)
絶対的な疑問。
助けてくれた人を疑うなんて。ましてその原因はまったくの謎。
いってしまえば答えの決まっている事を、答えを無視してはなから疑っているような事。
あまりにもな理由であるのは十分理解している。
しかし、いくらそう言い聞かせても、自身の「何か」がそれを否定してしまう。
それは強いて言うなら勘のようなものだった。
どうしたものかと考えていると、ふとあることを思い付いた。
「そういえば、お二人はどちらから?」
「今はね、ガライトから帰るとこだね」
ガライトとは、オリエンス王国の首都から少しレキシス王国に近づいた町の名前である。
今レキシスとオリエンス両王国約10年前の事件をきっかけに緊張状態にある。
いわば開戦まじかというわけである。
そのため両王国では物資の総買取が行われている。
他国の物資をより多く手に入れればそれだけ自国を強くし、他国を弱くできるからだ。
そのため他国の商人が他国に商品を持っていき、高値で売りつけるなんて事も行われている。
ゆえに開戦間近、且中立のようなこの街とはいえ、他国の商人がいることはなんら問題ない。
何もおかしな事はない。
しかし、それでもフレイムの中にある疑問は払拭できない。
フレイム自身にも、まったくと言っていいほどわからないその疑問を向けずにはいられなかった。
「しかし今は国境が封鎖されているはずです。」
「ああ、だから私たちは程中立であるこの町を選んだんだ。ここなら入国は比較的しやすいからね。」
「そうは言っても他の場所と比べたらでしょう?」
「まぁいろいろとつてがあってね。」
フレイムが聞き返しても、カイルが平然と答える。
聞いていても何ら疑問なんて浮かばない答えを。
しかし、その結果がフレイムの疑問をさらに強くする。
何度もそんなやり取りをしていてさすがにカイルもおかしいと思ったのだろう。彼が初めて質問をしてきた。
「……どうしたんだい?えらく質問をしてくるんだね、君は」
先ほどまでと何ら変わらない微笑で聞いてきた。
しかし、始から疑っていたフレイムだからこそわかる。
今ほんの少しだけ目付きが……変わった。
おそらくここが限界だろう。
ここからはかけだなと、彼は少し考えしゃべり始める。
「いえ、疑うなんて。ただお二人は少しだけうそを言っておられるな~と」
「うそ?」
その時、カイルの目付きがまた一段と険しくなるのを感じた。