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始まり No.2

多少残酷な描写が出てきます。

今後もその様な場面はありますが、注意書きは今回を最後とします。

その様な描写が苦手な方は、ここで移動してください。

この小説を読んで下さる方は、今後も上記の様な場面があることをご理解下さい。

ケイトは搭乗席から出てくるなり3人に急いで近付く。


「ッ!! 三人共怪我は?」


彼女は先程の笑顔とは違い心配そうな表情をその顔に浮かべていた。


「大丈夫だよ。怪我もない。……心配掛けてゴメン」


フレイムは心底申し訳なさそうな顔をし謝る。

するとケイトはいいのよ、無事で本当に良かったと頭を撫で微笑む。

その光景をリカとライは無言で眺めていた。

共に無理もないな、という思いが頭を過ぎた。

フレイムとケイトはフレイムがまだ幼い頃からずっと共に過ごしていた。

ましてフレイムは記憶喪失だった。

そんな彼をケイトは一人でここまで育てたのだ。

二人は血の繋がった親子や姉弟というわけではない。しかし二人には確かな絆がある。

その事を知っているリカとライだからこそ、今の二人の光景をむしろ物足りないとさえ思ってしまう。

それほどにこの二人の絆は強いのだ。


「あっ、レキシス軍だ」


ライがそう言い、全員がその方向を向く。

基地から援軍が到着したようで10機ほどがアンノウンの撃退に向かっている。

程なくしてこの騒動も鎮圧されるだろう。

そう思ったケイトは帰りましょう、と三人を促すも、しかしその後思い出したかの様に倒れているアンノウン機に近付き操縦席を開いた。

その行動に三人は誰か出てくるかも知れないと身構えるも、ケイトは躊躇する事なく中を覗き込むと、


「……やっぱり」


その中は無人だった。

彼女は険しい顔をし呟くも、それは予想通りの結果だったらしく直ぐさま頭を切り替える。


(この機体はやはり……しかし『あの時』の軍勢ではないのかしら? しかしこの現状を見る限り……)


彼女は何かを思い出すかの様に考えるも、ここに居ては危険だと思い、直ぐ様戻るため三人に駆け寄った。


しかしその時、


―――ガラガラ


「えっ……」


四人が見つめるその先には、


―――アンノウン機が一機立っていた


それは先程までいた5機とは違う機体。


(ッ!! 新手!?)


とっさに答えを導くとケイトは叫んだ。


「みんな!! 逃げて!!」


その声で三人が我に帰り回避を行うのと、アンノウン機が発砲したのはほぼ同時だった。

コンクリートが砕け散るけたたましい音がするも、何とか難を逃れた四人はそれぞれ別々に逃げ始める。

アンノウン機は少しカメラを動かした後、方向をかえフレイムを追い始めた。

それにケイトが気付きCB-05で追いかけようとするも、先程の流れ弾が当たったのか機体は動かなかった。

それを即座に理解した彼女は、操縦席の座席裏の収納スペースにある手榴弾とロケットランチャーを軽々と背負い彼を追った。




――――――――――――




フレイムは必死に逃げていた。

後ろからはアンノウン機が迫って来ている。恐らく援軍が来る事はないと考えた彼は、何とか逃げ切る為にその思考を働かせていた。

隠れるのによい場所は何処かにないか。そう考え大通りを曲がった彼の目の前は、


―――崩れた瓦礫で塞がれていた。


その事実に驚愕の表情を浮かべるも、即座に頭を切り替え冷静に状況を分析する。

この本通りは一本道だ。

先程までは裏通りへと続く畦道(あぜみち)が多少なりにもあったものの、ここでも戦闘があったのか、建物が倒れておりそういった小路はなくなっていた。

その為彼に残された道はただ一つ。


(この瓦礫の山越えられるかな?)


運悪くも近くのビルが倒れたのか、目の前の瓦礫の山はそれなりに高く、越えるにはそれなりに時間が要るだろう。

どうしたものかと周辺に目を向けてみるも何もない為、結局は素手で登ることにした。

そうなるとあとは時間との闘いだ。

アンノウン機が来るのが早いか、彼が向こうに着くのが早いか………

そう思い瓦礫に手を掛けたその時、


―――ウィーン ウィーン カチ


カメラの無機質な音とライフルを構える音が聞こえてくる。

後ろを振り返らずとも、その音だけで現実を理解するのには十分だった。


………最も彼はあまりにも酷い現実を知った為振り返る事は出来なかったのだが。


フレイムは動かない。いや、動けなかった。

それは驚きや恐怖といった感情を抱いていたからではない。

彼の心はただ純粋に申し訳なさで一杯だった。

彼にもしも何かあった時、自分の事以上に哀しんでくれる人が居ることを彼は知っている。

だからこそ『その人達』に対し申し訳ない気持ちで一杯になったのだろう。

そこまで考えてふと彼は小さく微笑んでいた。


全く、自分は何を考えているのだろうか。

普通今のような状況に陥ったら誰だって混乱するだろうし、自分の不運を呪ったりもするだろう。

しかし彼はいたって冷静だった。焦りもない。

そんな彼だからこそ分かるのだ。

もう逃げ道はないと。

焦っても仕方がないのだと。

そんな考えがあまりにも客観的過ぎた為つい笑ってしまったのだろう。

そんな時だからこそつい自分を一番大切にしてくれたケイトの事を思い出したのだろう。

彼女はいつも言っていたな、と思う。

絶対に最後まで諦めるなと。自分と自分を助けてくれる人達を信じきれと。

彼女は言っていた。


『信じることで、必ず奇跡はおきるから』


そう言って、彼女は必ず笑っていた。

だから信じるのだ。

表面上では諦めていたって、彼はどこかで信じていた。

自分の未来を。


「フレイム!! 伏せなさい」


その声に即座に反応し、フレイムはクロムの正面から離れ、頭を伏せた。


その行動を見るが早いか、ケイトは複数の手榴弾から時間差でピンを抜き投げつけた。

まず一つは足元で爆発。

流石に機体を壊す事が出来なかったが足元を崩せたため、アンノウン機のバランスが崩れライフルの照準もずれた。

その後残りの手榴弾を右肩、 左腕の接続部に投げ爆発させた。

どんなに頑丈でも関節部分は脆いものだ。

更にだめ押しとばかりにもう一度同じ部分に手榴弾を投げつけたため、完全に両腕を使用不能にし、最後はミサイルランチャーを機体頭部に向けて撃ち、完全に機能停止させた。


その一連の動作に唖然とするも、次には安堵の息をもらした。

自分は助かったのだ。

そう思った時には駆け寄って来たケイトに抱きしめられていた。

彼女は何も喋らない。

ただ無言で抱きしめ、多少肩が震えているのがわかる。

その行動に心が暖かくなるのを感じればフレイムはケイトの背中を撫でていた。

苦笑し、これではどっちが歳上かわからないな、と心のなかで呟く。

少しの間そうしていると落ち着いてきたのか、ケイトはゆっくりとフレイムから離れ、


「…怪我は、ない?」


と聞いてきた。

その質問に頷くとケイトは心底安心したのだろう。深いため息をはいた。

その様子を見てフレイムは再び申し訳ない気持ちで一杯になった。

自分はいったい何処まで心配を掛けるのだろう。

そう考えるといつも気分が落ち込んでくる。

そんな彼の様子を察してかケイトがフレイムの頭を撫でると、優しく帰りましょうと言った。


(……やっぱり、敵わないよ)


フレイムはそう心の中で呟いた。

恐らく一生彼女には敵わないかも知れない。

また、彼女に心配を掛けてしまうかも知れない。

だけどいつまでもそうはいられない。

少しずつでもいい。

自分が守られるのではなく、守る人間になる。

そうして彼女に心配をかけない人間になんだ。

それが自分に出来る、彼女への一番の恩返しだから……


そう決意し、歩き出す。


―――ウィーン ウィーン―――


その瞬間、再び空気が凍りついた気がした。

二人の足が止まる。

後ろを振り返ると、先程のクロムがこちらに銃口を向けていた。


全身ボロボロで、動いているのが奇跡な位だ。

勿論このライフルを撃ったら機体は反動で大破するだろう。そこまでのダメージを与えたのだ。

しかし止めをさしきれなかった。


「フレイム、伏せなさい!!」


ケイトが叫んだのとライフルが発砲されたのは、ほぼ同時だった。


―――ガガガッ!!


弾はフレイム達の直ぐ上を掠め、後ろの建物を破壊した。


(……? 助かった、のか?)


そう思い前を向くとアンノウン機は機能を停止していた。

助かった。

そう思い安堵した。


―――安堵してしまった

だから気付かなかった。


「フレイム、上!!」


ケイトの声に気付き上を向くと、大破した建物の瓦礫が目前に迫っていた。


―――ガラガラガラ!!


瓦礫は無情にも、彼に降り注いだ。




――――――――――――




「……ん」


意識が朦朧とする中、フレイムは意識を覚醒させる。

どうやら少しの間気絶していたようだと気付くも、何故そうなったのかを考えることが出来ない。

再び沈もうとしていた意識を起こそうと頭に手をあてると生暖かい液体に触れた。

その正体に気付くのと、頭に激しい痛みが襲ったのはほぼ同時だった。


「ッ!?」


その痛みで完全に意識を覚醒させると、多少霞む目で状況を確認する。

辺りの建物は崩れ、火災が起こったのか一面火の海だ。目の前には血の付いた瓦礫がありそれが自分の頭に当たったのだと容易に想像出来る。

そう呆然と考えながらも、彼は再び現状の判断を行い始める。

先程までアンノウン機と対峙していたハズだ。

その機体の無差別な攻撃で周辺の建物は崩壊した。

その時自身に大量の瓦礫が降ってきた。


にも関わらず自分はこの程度の怪我ですんでいる。

もっともフレイムの怪我は、その程度で済ませてよいものではなくどう見ても大怪我だろう。

にも関わらずこの程度で済ませられるあたり、先程の凄まじい状態が伺える。

冗談でもなんでもなく、先程降ってきた瓦礫の山に直撃していたら、下手をすれば命を落としていたかもしれない。

その事実に寒気を覚えるも、何故助かったか疑問で仕方がない。

大量の血が流れたせいか再び意識が朦朧としてくるも、必死に頭を働かせ先程までの事を記憶の中から探す。


(確かあの時何かに背中を押されたような……?)


そこまで考え、ふと異変に気付く。

ケイトがいない。

先程まで近くにいた人間がいない事に今更ながらに気付くと、そこまで思考がまわらなくなっている自身に苛立ちを覚える。

しかしそんな事も言っていられないと自身に叱咤すると、まだこんな事が言えるだけましだと思い直し、ケイトを探し始める。

すると左側から息づかいが聞こえてきた。

その音にケイトのそれだと理解すると、多少安堵し直ぐ確認の為にそちらを向いた。




しかし現実を目の当たりにした時、フレイムの顔は再び凍り付いた………


「……ハハッ 嘘だろ」


フレイムの顔からスッと血の気が引いていく。


「なぁ 冗談だよな、……誰か冗談って言ってよ」


誰かに対して言っている様に感じるそれも、しかし自身は誰か対して言っている訳ではない。

今の彼は、不可思議な行動をしても、自身でそれに気付かないほど混乱しているのだ。


「なぁ、冗談は止めてくれ。頼む、止めてくれ!!」


自身ではもう何を言っているのかもわからない。最早考える事も出来ない。

そこまでに現実が彼の精神を追い込んだのだ。

何故なら……


「なぁ頼む!! 頼むから!! 頼む………起きてくれ、ケイト先生!!」


―――そこには、瓦礫に押し潰されているケイトがいたのだから。



――――――――――――



崩れた建物、燃え盛る炎の中、フレイムは何故か時が止まってしまった様な感覚に囚われていた。

命の危険があった時でさえ冷静でいられた彼だったが、しかし今の彼の思考は完全に停止し、ただ一点を驚愕の表情で見つめていた。

彼の見つめる先には、彼の見知った人物がいた。

常に彼の事を第一に考え、彼をここまで守り育ててきたその人物は、自身から流れ出した大量の血の中無言で佇んでいる。

その現実に遂に耐えきれなくなったのか、又は血を流し過ぎたからなのか、彼はその場で崩れ落ちた。

ケイトを助けなければ、そう思うも、体は全く動かない。

再び意識が沈みかけるも、それを覚醒させたのは彼女の声だった。


「フ…レイ…ム」

「…先生?」


再び意識を覚醒させたフレイムが答えると、ケイトは安堵したように、その傷付いた顔でふっと小さく微笑んだ。


「よかった…貴方が…無事で」


フレイムが精一杯の力をつかい、頭を上げケイトを見ると、彼女はそう呟いた。

目は虚ろで、微笑みもとても弱々しい。

恐らく目は見えていないのだろう。

出血の量も重症である筈のフレイムの比ではない。

もしかしたら、もう助からないかも知れない……


その真実を彼女が一番よく知っているハズだ。

しかしそんな中でも、彼女はフレイムの心配をしたのだ。


「待ってて…いま…助ける…から」


フレイムが両腕に力を込めて立ち上がろうとする。

すると彼女はそれを察したのか、諭す様に話し出した。


「ううん…もう…いいの。恐らく…もう…助からない」


その言葉を聞いた瞬間、フレイムを絶望が襲った。

どこかで気付いていたのかもしれない。

認めたくはなかった。

しかし突き付けられたその現実を前にどうすることも出来ず、ただ彼は混乱するばかりだった。


「そんな…事…言うなよ。最後まで…諦めるなって。諦めなかったら…必ず…奇跡は起こるって…そう言ったのは…ケイ姉だったハズだ」


普段外では決して言わない呼び方をしていることに全く気付かないフレイム。

しかし彼は必死に自身の思いを告げた。

それはケイトから学んだ事。

そのとても大切な思いを、ケイトから学んだ思いを、今度はケイト自身に伝えたのだ。


その言葉に彼女は一瞬驚きの表情を浮かべるも、その後に出てきたのは再び微笑みだった。

彼女は嬉しかったのだ。

それはフレイムが、自身の思いをしっかりと覚えてくれていたからなのか、その言葉を自身に向けて言ってくれたからなのか、又はその両方なのかはわからない。

しかし確かな事は彼の中でケイトとはそれほど大切な人だった。

そんな彼を守る事が出来たのだ。

その事がただ嬉しくて、彼女の頬を一粒の涙が流れた。


(きっと大丈夫。きっと彼なら)


そう感じた彼女は、最後の力をつかい喋り出した。


彼に伝える最後の言葉を。


「フレイム…聞いて。私は貴方に…伝えていない…事があるの」


ケイトの言葉に、フレイムは必死に意識を集中させ、一語一句逃さぬように聞いた。


「これは…貴方に…関わる事。だけど…もう…全てを…話す時間は…私には…ない。それに…これは…貴方自身が…思い…出さなきゃ…いけない事。だから…私からは…これを」


そう言ってケイトは力を振り絞り、フレイムの目の前に投げた。

フレイムが掴むと、それはペンダントだった。


「それは…必ず…貴方を…助けてくれる。だから…必ず…持っていて。」


そう言うとケイトは再び微笑んだ。


「いい…フレイム?…この先…必ず…辛い現実が…あるわ。だけど…現実は事実。決して…夢では…ないわ。なくす事は…出来ない。だから…必ず…受け入れなさい。そして…その後から…最善の道を…選びなさい。逃げては駄目。どれだけ辛くても…正面から…立ち向かいなさい。貴方には…それが…出来るから。」


そう言うとケイトは大量の血を吐き意識を失いかけるも、何とか持ちこたえ先を続ける。


「それから…フレイム。貴方を…支えてくれる人は…必ずいる。だから…貴方は…その人を…信じ…守ってあげて。どんなに…辛くても…どんなに…苦しくても…貴方が…大切な人達を…信じ…自分を…信じ…未来を…信じて…いれば…必ず…奇跡は起こる…だから。」


そこまで言い終えると、微笑み、最後の言葉を伝えた。


「諦めず…必ず…奇跡を信じて…想いを…貫きなさい…私は…信じているわ。私の…私達の…愛しい…フレ…イ……」


―――バサッ


ケイトはもう、それ以上何も語ることはなかった。

がそれをフレイムが理解した時、彼は……


「あ…あ…アアアアアッ!!」

―――ドサッ!!


それが彼の限界だった。



――――――――――――




燃え盛る炎の中、彼はそこに立っていた。


「……遅かったな」


「……申し訳ありません」


そう答えたのはいつの間にか現れた少年だった。


「まぁいい。それで?」


「はい。辺り一面探してみましたものの、該当する物はありませんでした」


そう言うと彼は不満そうに鼻を鳴らした。


「なかっただと? チッ!! ここも外れか。しゃあない、帰るぞ。残りは?」


「2機です」


「なに? たった2機だと? ここの軍はそれほどの力があったか? まぁいい。どうも『両軍』がここに集まってきている。撤退するぞ」


「……了解」


そう言うと彼等は去っていった。

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