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始まり No.1

多少残酷な描写が出てきます。

苦手な方はここで移動してください。

「起きなさい!! フレイム。貴方は私の歴史の授業がそんなに退屈なの?」

「……? あっ先生、おはようございます。」


そうしてフレイムは目を覚ました。


「あっ先生、おはようございます……じゃありませんっ!! 貴方はこの一時間で一体何回寝る気ですか!?」

「……5回?」

「回数を聞いているのではありません。しかも5回じゃなくて7回目です!!」

「……? 何だ、ケイト先生、知ってるじゃん。」

「なっ!! ……ハァー。」


そう言ってケイトは言い返そうとしていた言葉をため息に変えた。


「……もう良いです。それでは授業を続けます。中断してしまったのでお復習(さら)いです。リカ?もう一度大まかな歴史の流れを説明してくれる?」

「はい。」


そう言うと、フレイムの右隣にいる少女が立ち上がった。肩まで届く黒髪を持ったその少女は、中学生の様にも見える幼い顔立ちをし、どこか物静そうな空気を纏っている人物だ。

彼女はケイトに促されるままに教科書を読み始めた。


「皇世紀0001年より昔、それまで存在していた全てが存亡の危機に陥ります。後に『ラグナロク』と呼ばれる天災の発生です。それは人も例外なく呑み込んでいきました。」

「そう、しかしその『ラグナロク』で何が起こったかは未だ解明されていません。まぁ最も濃厚な説は世界的な大地震とそれによる大津波ですね。それでは続けて。」

「はい。人類は逃げ場を無くし絶望しきっていました。しかしそこで一人の人物が突如現れ、不思議な力で『ラグナロク』を押さえ付けます。」

「そう、その人物こそが後の二大国の初代の王となるジェネクスと呼ばれる人物です。彼は衰退しきっていた世界の復興に力を入れ、後に二人の双子を授かります。又、自身が持つ権力を分散させるため二大国を作り、子供をそれぞれの王にします。これが皇世紀の始まりとされています。……最も『ラグナロク』を押さえ付けたその『力』は未だ解明されていませんけど。」

「皇世紀0050年。自らの余命を悟ったジェネクスは自らの力を6つに分けました。これが後の『CROM』の基となる『CROM typeゼロ』です。この内2つずつを二大国『(あい)のレキシス』と『(こう)のオリエンス』に分け、残り二つをそれぞれ自ら封印し、息を引き取りました。」


「皇世紀0905年。当時の化学者クルージンを中心にレキシス王国支援の下、『CROM typeゼロ』の一つである『ガイア』の封印解除に成功。そしてこの『ガイア』を基に作られたのが自動駆動式機械、通称『CROM』です。後にこの『CROM』は多くの産業で活躍し、今では私たちの日常生活になくてはならない物になっています。

……先生以上でよろしいですか?」

「うん、有難う、リカ。」

そう言うとリカは席につく。

すると、同時に教室の真ん中に居る生徒が手を上げた。

「先生、質問。何で『CROM』って言うの」

「それはですね……あれ、これ以前にも説明しましたよね?」

「……えっ、そうだっけ?」

「覚えてないんですね。……それではフレイム?変わりに答えて上げて下さい。」

「……えっ、俺?え~と……それは~。……」

「……分からないんですね。全く。もう一度言いますからメモする事。当時の化学技術では『CROM』を作るどころか『ガイア』を解析する事すら難しく計画はほぼ難航。そんな時に……まぁ有り体に言えば何らかの奇跡か何かが起こったんでしょう。その後、急に解析が進み完成したそうです。当時の科学者達はその余にも素晴らしい奇跡に感動し、『creation of miracle』(奇跡の創造物)と呼び、その頭文字を取って『CROM』と名付けました。これが『CROM』の語源です。わかりましたか?」

「つまりたまたま偶然出来ちゃったみたいな?」

「……言い方に多少語弊は有りますが、まぁそう言う事ですね。」


―――キーン コーン カーン コーン


丁度会話が終わると同時に授業終了を知らせるチャイムが鳴った。


「もうこんな時間ですか。それでは残りの授業はまた今度。帰ってからしっかりと復習しておく様に。

特にフレイム!!貴方は全く聞ていなかったんですから、誰かから聞いてまとめておきなさい。いいですか!?」

「……はぁ~い。」


そう言いつつも全く聞いていない様子。


「それから、次は駆動実習ですから、分かっているとは思いますけど男子は体育館、女子は教室ですみやかに着替える事、其では歴史の授業は終ります。委員長号令を。」


「起立!!」


そんな何時(いつ)もの挨拶を流れ作業の様に(こな)していくフレイム。

彼は考えていた。先ほどの夢での出来事を。


(さっきのあの夢、何処かで……)


そう考えるも結局答えは出ず、


(……まぁ何かのテレビにでも影響されたんだろ。気になれば帰ってから先生にでも聞いて見れば良いさ。)


そう考え、教室を後にする。




――――――――――――




自動駆動式機械『CROM』。

現在、人々の生活に浸透しており、その種類は人を乗せ走る物から、人の代わりとして働く産業用の機械、軍事用のロボット等様々である。


その為全ての国民はCROMを動かす為の最低限の知識と技術を持っている事が義務となっていた。

「……故にこの駆動実習が必修科目として存在しているんだ。分かったか?」


そう説明したのは駆動実習教師ジン。

ここはこの学園のグランドで彼らは駆動実習の最中だ。

駆動実習とはCROMを動かす上での最低限の力を得る事を目的とした実習の事。

故に多種多様な機械を扱うのだが、唯一扱わない物がある。


それは軍事用のCROMだ。これだけは他の機械と違い扱いが難しく、又日常生活ではまず使わないため扱う事はない。

その為、軍事用の物は区別出来る様こう呼ばれる。


―――自動式駆動兵器

通称『クロム』と。


故にクロム使うとすれば、それは学園を卒業後、軍事学校に入学した場合のみになる。


「んで今日は産業用CROMの扱い方かよ」


そう言いながら暇そうに空を見つめるフレイム。すると上空をロボットが大きな音をたて通り過ぎて行った。


「……今日何かCB-05、多くない?」そう言ったのはリカ。

CB-05とはレキシス王国軍で一般的に使われる全長10メートルほどの二足駆動式汎用機の型番の事。ライフルとしても使用可能な短剣を二本装備し短距離ながらも飛行可能な機体である。


「さぁ? お偉いさんでも来るんじゃない? ってかリカ、よく気付いたな」

「……朝から結構頻繁に飛んでるわよ? フレイムはずっと空ばっか見てるのに気付かなかったの?」

「俺はずっと考え事してたの」

「へぇ~ フレイムでも考える事あるんだ~?」


リカは嫌みを含めた声で返してくる。


「はぁ? 言っとくけどな俺は常日頃から考え事してんだぞ」

「どんな?」

「それは……将来の事とか」

「ふぅ~ん」


聞いてきた割には興味無しと言う感じでリカは返事をし、作業を再開した。

実際フレイムが考え事をしているのは本当でそれが自分の事だというのも本当だ。


ただそれが自分の『未来』に関わる事ではなく、『過去』に関わる事だという事以外は。


フレイムには幼少期、具体的には10歳以前の記憶がない。

八年前、当時10歳だった彼は今の歴史の教師ケイトに連れられてこの学園にやって来た。

彼の両親とケイトはとても親しい仲だったらしい。

ケイトはそこでも教師をしていたが、街で突然レキシス軍とオリエンス軍の小規模なゲリラ戦が勃発(ぼっぱつ)

フレイムはケイトに連れられなんとか逃げ切るも彼の両親は行方不明に。ケイト(いわ)く生きているらしいが、何処にいるかは不明。

フレイムの両親を探して街を転々としていた時、この街にたどり着いた。この街の特色上人探しに丁度良いと、この街に住み着きケイトはこの学園で歴史の教師として働きだした。学園街(スクールシティ)と呼ばれるこの街はオリエンス王国に属しているも、近くにはレキシス領土の街もあり、又ここは学園が多いせいか実質中立の様な場所で、その関係上街には両国の人間が往き来しているからである。

当時のゲリラ戦での影響でフレイムは以前の記憶を失っているため、彼は両親がどんな人物なのかを知らない。


「フレイムはどうしてケイト先生から親の事を聞かないの?」


突然そう聞いてきたのはリカだ。

今は学園から学生寮まで帰宅中の彼ら。

学園から寮までは少し距離があり少々店が立ち並ぶ商店街を通らなければならない。

今日とて例外ではなく何時も通りフレイム、リカ、ライの三人は帰路についていた。ライは歴史の授業でケイトにCROMの語源を聞いていた少年だ。

リカとライは八年前に多数発生したゲリラ戦での孤児だった。

彼らは各街の孤児院を転々とし、この街にやって来た戦いの被害者だ。三人は歳も同じという事で意気投合し、それ以来八年間ずっと一緒にいる親友だ。


「何で?って……」


そう言いフレイムは考える。

今までにも一度彼はケイトに聞いた事がある。


「ねぇ 僕のお父さんとお母さんはどんな人?」


しかし、当時街に移り住んだばかりだった彼女はとても忙しくまともな答えをくれなかった。

ただ一言、


「とても……立派な人ですよ」


その言葉意外は。……


それ以降、彼は両親について聞いていない。


「両親の事とか、ど~せその内思い出すからい~の」


それが彼の考えだった。


「……それにこの八年間育ててくれたのはケイト先生だぜ? 八年間も息子ほったらかしで居ない親よりこっちの方が大切じゃん」


そう言って彼は笑った。


「フッ お前それケイト先生が聞いたら泣くぜ?『全くこの子はー』とか言いながら。」


ライがケイトの物真似をしながら言うと、


「アハハッ!! 確かに。」


リカも笑いながらそう言った。



楽しい時間。大切な友人。


過去に大きな傷を持つ三人だが皆、現実(いま)を楽しく生きていた。



三人は信じていた。この楽しい現実がずっと先も続いていくと……







PM5:30

三人が歩いている商店街は人で溢れていた。仕事終わりの大人達、帰宅途中の学生、タイムセールで客を集める店員の声とそれ目当てで集まる買い物客。


真っ直ぐ帰る予定だった彼らも年頃の学生達。

ついつい何かを買いたくなってしまう。


「なぁ? ちょっとそこでアイス買って帰ろうぜ?」


言うが早いか三人は早速近くの店に寄った。


「いらっしゃい」


派手な外観のそのスイーツショップで若い女性が笑顔で出迎えてくれた。


「何になさいますか?」 「俺バナナとチョコレート!!」

「じゃあ私はストロベリーと……オレンジで」


ライとリカが注文すると早速店員は作り出した。


「早くフレイムも決めたら?」

「うん、じゃあバニラとチョコミントで……あっ後これも。」


そう言って彼が指差したのは銀色のピアス。


「へぇー スイーツショップなのにアクセサリーもあるんだ」


リカが不思議そうに言うと、


「うん この店は若い子が多いからね 結構人気なんだよ?」


店員はそう言い少し苦笑いした。


「……それにしてもフレイム。お前それ誰にやるの?」

「これは先生にあげるよ。日頃の感謝だよ。感謝」


少し照れくさそうにするフレイム。


「はい 御待たせ」

「あっ 有難うございます」


そう言い三人はお金を払い店を後にする。


「さぁ、んじゃ帰りますか?」


フレイムがそう言うと三人は再び歩き出した。


その時、


―――ゾワッ!!


フレイムは突然感じた寒気に立ち止まる。


「それでね~……ん?どうしたの?」


突然立ち止まったフレイムに話を中断し不思議そうに問いかけるリカ。


しかしフレイムは答えられない。


(……何だ?)


「お~い ど~したんだよフレイム?」


何故か険しい顔をするフレイムに駆け寄る二人。

通り過ぎる人々が不思議そうな目で見てくる。


(何だ?)


フレイムは必死に考える。

一見何でもない街並み。何時もと変わらぬ日常。

しかし分かる。


(何かが?)


……そう、得体の知れない何かが。


(何かが……来る!!)


そう感じた時、彼の中のもう一人の自分が叫んだ。


(ヤバい!! 逃げろォ!!)


フレイムはとっさに二人を引っ張り路地裏に飛び込んだ。


「ッ!! ちょッ!! フレイム何を……」


訳がわからない二人。リカがそう言った瞬間、


―――ドンッ!!


頭に響くほどの轟音と共に爆発が起きた。




――――――――――――




PM5:25


ここは学園の職員室。

部屋の窓から下を覗けば、多くの生徒達が帰宅する者、部活に行く者、それぞれが目的の為に(せわ)しく動き回っているのが分かる。


そんな生徒達を見ながらケイトは教師としての仕事に追われていた。


「ケイト先生、お疲れ様です」


そう言ってやって来たのは駆動実習教師ジンだ。

彼の手には入れたてのコーヒーが二つあった。


「たまには休憩されてみては?」


そう言いコーヒーを一つ差し出す。


「あっ、有難う御座います」


ケイトは勧められるままにコーヒーを貰い、一口飲んだ。

ジンもケイトの横に座りコーヒーを飲む。


ふと、ジンは思い出した様に喋り始めた。


「そういえばケイト先生がフレイムを連れてこの学園に来てから、八年経つんですね。」

「……そうですね。」


そう言いながらケイトは思い出していた。


八年前、街に移り住んだばかりの彼女を学園は快く迎え入れてくれた。

その事に彼女はとても感謝している。

彼女はとても真面目で優しい性格のため仕事にも早く馴染み、生徒からの人気もあった。


そんな彼女だが実は一つだけ誰にも言っていない事がある。

それはフレイムに関わる事なのだが、当時まだ幼い彼には教えていなかった。

しかし彼はもう17歳で誕生日を迎えれば18歳になる。

そろそろ教えてもいい頃ではないだろうか。

そんな事を考えているといつの間にか午後5時30分を過ぎていた。

早く仕事を終らせて帰ろうと思った彼女は再び仕事に取り掛かる為、書類に目を通し始める。


その時だった。


―――ドンッ!!


大きな爆発音と共に部屋に衝撃が走った。

突然起きた爆発に職員達は慌て始める。


「いったい……何が?」


そう言いケイトは爆発が起きた場所を見る。

この学園から少し離れた商店街で起きた様だ。


その時ふとあることを思い出す。この時間は丁度あの辺をフレイム達が歩いていた筈だと。


そう思った瞬間、ケイトは既に走り出していた。

その目的はただ一つ。


フレイム達の安否を確かめる為に……




――――――――――――




「ッ!! 何だ?」


そう言い、ライは爆発が起きた場所を見た。


跡形もなく吹き飛び、黒煙が立ち上るその場所を。

そこはさっきまで三人がいた場所だ。

あの時、フレイムが引っ張ってくれなかったら彼らも爆発に巻き込まれていた筈だ。


混乱の中逃げ惑う人々。

その向こうに黒い大きな影があった。


―――それは


「えっ、あれは……クロム?」


驚いた様にリカが見詰めるその先には、クロムがいた。

数にして5機。


吹き飛んだその場所をゆっくりと歩きながらこっちに向かってくる。


(あれは……CB-05か?)


そう考えたフレイムだったが直ぐに間違いだと気付く。

確かに外観はCB-05とほぼ同じに見える。

しかしパっと見でも大きな違いは二つある。


まずはそのボディカラーだ。

本来CB-05はレキシス王国の象徴でもある青を基調としたカラーリングで統一されているのが殆どだ。

最も指揮管機や隊長機等の例外はあるが……

しかし今目の前にあるクロムは違った。黒を基調とし、所々グレーのラインが入っているその機体は、明らかにレキシス軍のクロムではない。

そして武装が明らかに違っていた。

CB-05はライフルとしても使用可能な可変式の短剣が二本とシールドのみなのに対し、目の前の黒いクロムは左手にはシールドと中距離用のライフル、腰には長剣、左肩にはミサイルも搭載しており頭には二本のセンサーが付いていた。


謎のクロム達はゆっくりと近付いてくる。

しかしライとリカはその場を動けなかった。

自らの眼から入ってくる現実の情報を脳が処理出来ず思考が止まっていたからだ。

逃げなければならないと分かっていても、ただ呆然と眺めている二人。


「何やってんだっ!! 早く逃げるぞっ!!」


そう言い引っ張るフレイムの声で二人は我に帰った。

事態が未だ呑み込めてはいないが、フレイムに連れられ逃げ始める。


(一体何が起きてんだ?)


フレイムは逃げながらも必死に考える。

彼は自分でも驚くほどに落ち着いていた。

本来人間は、予想外の事態が起こると情報を脳が処理出来ず、一瞬思考が停止してしまうものだ。

ましてそれが自らの命に関わる事になると尚更だ。

フレイムは直前に何かが来ると分かっていたからそうならなかったのかも知れないと考えた。


―――最も、

それを差し引いてもこの落ち着き様は、常人のそれと比べてもはるかに『異常』なのだが……


(……とにかく!! 早く安全な所に逃げないとっ!!)


フレイムは即座に頭を切り換えた。


今彼らは学生寮とは反対側、つまり学園に向かって逃げていた。


彼は考える。

何処に逃げれば最も安全なのかを。


と、その時、


―――ドンッ!!


遠くで再び爆発が起きた。

駆け付けたレキシス軍のCB-05と黒のクロム達が戦闘を始めたようだ。


数はほぼ同じ。しかし武装が圧倒的に強力な黒いクロム達の方が優勢な様だ。

フレイム達の上空を飛んでいたレキシス軍の一機が撃たれ学園付近に墜落した。

周辺に大きな振動が起きる。


「ッ!! こっちだ。」


フレイムはそう言い即座に方向を変えた。


学園付近は戦闘が起きている為近付けない。

その上、頼りのレキシス軍も劣勢。

彼らもそれは分かっている筈だ。

その場合、まず先に行うのは援軍を呼ぶ事だろう。

運良く近くにはレキシス軍の駐屯基地がある。

来るのは早くても後10分は掛かるだろう。だから後10分、そっちに向かって逃げきれば必ず助かる筈。

そう考えた彼は、二人を連れ基地に向かって走り出した。

商店街にいた人達は爆発が起きた後、皆蜘蛛の子を散らす様に逃げた為、周りには人はいない。

三人はただ必死に逃げた。


その時、


―――ドンッ!!


撃たれたレキシス軍の機体が目の前に墜落、彼らの進行通路を塞いでしまった。


「くっ!! 道が!!」


ライは思わず叫んだ。

ここは少し大きめの通り。

その方向に逃げる為には来た道を少し戻り、路地裏を通って多少迂回しなければならない。

そう考えた三人は再び来た道を戻ろうと方向を変え再び走り出した。



―――しかし、

方向を変えた彼らの前には『奴』がいた。


「えっ!?……」


今まで冷静だったフレイムだが、この時初めて彼の思考は停止した。


―――ウィーン ウィーン


時が止まったかの様なその場所で、カメラの無機質な音だけが聞こえくる。周りには彼ら以外は誰もいない。


真っ先に狙われるのは自分たちだと理解するのと、左手に握られたライフルの銃口を向けられたのはほぼ同時だった。


「ヤバッ!!」


そう言い三人は目を閉じる。

三人が同時に自分たちの死を悟った。


―――ドドドッ!!


ライフルが放たれた。



……しかし誰一人、弾に当たることはなかった。


そう理解し、恐る恐る目を開ける三人。

確かに銃口はこちらを向いている。


しかし謎のクロムは動かない。

よく見ると機体の頭、左腕、右腕が正確に撃ち抜かれており、機体の戦闘能力を完全に奪っていた。


(一体……何が?)


不思議に思ったフレイムは、それを行った奴を探した。するのと近くにCB-05が右膝を地面につける形で着地した。


(これをやったのは……こいつか?)


フレイムはそう考えながらその機体に近付いた。

すると機体の中心にある操縦席が開き中から人が出てきた。


最初は警戒した三人。

しかし中から出てきた『彼女』を見て彼らは信じられない物を見ているような顔をした。


「なッ!? なん…で…あんたが…それ…に?」


そう質問するフレイム。すると彼女は、


「……今は気にしないで下さい。 それよりもフレイム、リカ、ライ、あなた達が無事で良かった。」


そう言って『ケイト』は笑った。




――――――――――――




彼女は無意識の内に走っていた。

周りは爆発音や叫び声で溢れており、まるで地獄のような景色だ。


彼女は思い出す。

あの時もこんな風に走っていたと。

飛び交う悲鳴、爆発音、そして大量の血。

決して忘れる事の出来ない忌まわしい記憶を。


彼女は思い出す。

守りたかった、けれども守れなかった、とても大切な女性(ひと)を。


彼女は思い出す。

彼女が自分に託した、最後の願いを。


「あの子…を…お願い…ね?」


彼女は思い出す。

血だらけの少年を。

あの女性(ひと)の最後の希望である彼を、必ず守り抜くと決めたあの日の決意を。


その為に、彼女は走っていた。


グッ!!

突然ケイトは何かに引っ張られ立ち止まった。


「ハァ、ハァ、ケイト先生、そっちは、危ないです。」

「……ジン先生……」



ジンは驚いた。

突然街中で爆発が起きたからではない。

勿論それもある。が、一番驚いたのは彼の横にいた女性の行動だ。

爆発が起こった後、少し考え込むと急に顔面蒼白になり、慌ててどっかに走っていってしまったからだ。

彼女の一連の行動に不安を覚えた彼は、即座に彼女を追ったのだ。


「一体、どうしたんですか? 貴方らしくもない」


ジンの知るケイトと言う教師は何時も冷静だった。

少し前、駆動実習でふざけていた生徒が操作を誤り大怪我をした事があった。今までその様な事は一度もなかった為、ジンは非常に慌てた。その時、偶然通りかかったケイトは、慌てる事なく彼の代わりに指示を飛ばし、冷静に事態の収拾に当たった。

その様な経緯があり、彼の中では『ケイト先生』は冷静と言うイメージしかなかった。

最も、これはあくまでもケイト先生についての話だ。

普段のケイトという一人の女性として見れば一つだけ思い当たる事があった。


「フレイム君、ですか?」


……返事はない。

しかしそれだけで十分だった。


「貴方が行って何になるんです!? 貴方だけでは彼は救えませんよ」


一般的に見れば彼の意見は正しい。

しかし彼女も引き下がらない。


「……行かせて下さい」


彼女の目には大きな決意が宿っていた。

その目を見たジンが得体の知れない恐怖を感じる程の。


しかし彼も引き下がれない。

もう一度説得しようとしたその時だった。


―――ドンッ!!


商店街の方からクロムが墜ちてきた。

余りの衝撃にジンは倒れそうになる。

その隙にケイトは墜ちてきたクロムに駆け寄り、操縦席を開いた。

そして中で気を失っていた兵士を引っ張りだし、駆け寄って来たジンに兵士の身体を預けた。


「この人は気を失っているだけです。ジン先生、この人をお願いします」

「ッ!? ケイト先生、何を……」


ジンが言い終わらない内にケイトは操縦席に入り込んでしまった。


「……電気系統は……大丈夫。動力も……問題なし。よし、いける」

「ケイト先生!? ケイト先生!?」


必死に説得しようとするジン。


「ジン先生!! 今から動かすので、少し離れていて下さい」

「動かすって……そんな無茶な」


そう言ったジンだったが、直後本当に動き出した為、やむなく距離をとる。


「これはCB-05か? 動かしたことはないけれど、何とかいけると思う。武器は……可変式ライフルが二本……心許ないけど問題なし。むしろ問題なのは私のブランクか」


そう言い、『慣れた』手付きで動かしていく。

20秒もすれば既に機体は飛び立っていた。


「ケイト先生……貴方は一体……」


飛び立って行った機体を、ジンはただ呆然と眺めていた。




――――――――――――




ケイトは機体のカメラを駆使し、フレイム達を探していた。

この街の何処で今尚逃げている筈。

しかし大混乱の街の中から探しだすのは非常に困難だ。

今現実レキシス軍2機、アンノウン部隊5機、あからさまにレキシス軍が不利だ。

今尚アンノウン機は破壊活動をを行っている。


(早く……見付けないと!!)


焦り始めるケイト。

そこで彼女は行動にでる。

今現在、危険因子はこの5機。逆に言えばこの5機以外の場所は安全と言う事になる。


(だったら……全て潰す!!)


そう決めた彼女の目は既に、ケイト先生のそれとははるかに違っていた。と、その時、

彼女はある異変に気付く。

一機だけ止まっていた。

そしてその機体が構えた銃の先には……



彼女の動きは早かった。

予め銃に変形させていた短剣を構えたかと思えば、ろくにロックもせず発砲。

しかし彼女の撃った弾は、正確に機体の頭、右、左腕を撃ち抜いていた。


その時間、命中までに1秒弱。

それはもはや、正規の軍人のそれをもはるかに上回っていた。

誤字、脱字、不明な文章等がありましたら、御指摘下さい。

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