第4話 空のベッド
爽やかな風が白いカーテンを揺らす。大きな窓から覗く青い空は、数日続いた曇り空が嘘のような五月晴れだった。
午後の日差しに照らされる真っ白な部屋は、掃除したてのように塵一つ落ちていない。清潔感あふれるその部屋に、コンコンと扉を叩く音が響いた。
「郷間さーん。入りますね」
カラカラと引き戸が開かれる。現れた白いシャツ姿の女性は、ガランとした部屋を見て小さくため息をついた。
「また抜け出してる……」
本来患者がいるはずのベッドは空っぽで、めくられた掛け布団が寂しげに口を開いている。人の形に凹んだマットレスは、太陽の光に照らされ、寝そべりたくなるほど温かい。しかし日の当たらない枕に触れると、じんわりと冷たさが伝わってくる。この部屋にいるはずの人物は、もう随分と前にどこかへ出かけたらしい。
この病室の患者はいつもこうだ。昼食のときは確かにいるのに、いつの間にかいなくなり、夕食前には何事もなかったかのようにベッドで本を読んでいる。監視カメラの映像を見ると、窓から出ていき、また同じように窓から戻ってきている。
「ここ五階なんだけど、どうやって出てってるのかな……」
女性は開かれた引き違い窓から下を見下ろす。足を乗せられるような場所はなく、飛び降りても無事でいられる高さではない。
あの華奢な体で、こんなところを上り下りできるわけがない。けれど実際に、患者はここから外に出ている。
女性は患者を探しに行くことも誰かに伝えることもせず、シーツを直す。最初は警察に相談していたが、いつしか慣れてしまい、誰も患者を心配しなくなった。
ベッドを整えた女性は、窓を閉めることなく部屋を出る。きっと今日も、誰も見ていないうちに堂々と戻ってくるのだろう。




