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霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお


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第2話 断ち切られた鎖

 蓮の言葉に、守は大きな目をパチパチと(またた)かせた。


「え……?な、なんですか?霊魂……??」

「霊魂管理局。あの世とこの世の魂を管理する機関だよ」


 金髪の男が、黒いロングコートの内ポケットをまさぐりながら守に近づく。男はポケットから黒いカードケースのような物を取り出し、慣れた手つきでカードを抜き出した。


「回収課は、君のような地縛霊を冥界に送り届ける部門。オレは蓮の相棒の鬼頭(きとう) 沙斗琉(さとる)。よろしくね」


 金髪の男、沙斗琉は優雅な所作(しょさ)でカードを差し出す。どうやらそれは名刺のようだ。黒地に赤い明朝体(みんちょうたい)の文字が浮き、骸骨(がいこつ)と炎を(かたど)ったロゴが守を睨む。守は少し怯えた様子で、中二病臭いデザインのそれを受け取った。


「えっと……。あなたたちも幽霊……ですか?地縛を解きに来たって??」


 守が落ち着かない様子で、蓮と沙斗琉を交互に見る。蓮は名刺と同じデザインの名札をパーカーの中にしまいながら、(あご)で沙斗琉を指し示した。


「俺は実体、そいつは霊体。地縛を解くってのは言葉の通り、霊と場所の(つな)がりを切ること」


 蓮の言葉に、守は自分の足元に目を向ける。足首に絡んだ太い鎖は、守が足を揺らすと同時にじゃらりと音を立てた。

 地縛霊とは、死亡した土地や建物に留まり続ける霊の総称である。突然死で自身の死を認識していない、あるいは強い執着や未練から、その場所と強く結びつき移動できなくなる。


「人口増加とストレス社会の影響で、地縛霊は世界的に増加傾向にある。霊魂管理局的に、この世に留まる魂が増え続けるのはよくないらしくてな。俺たちみたいなのを派遣して、強制的に地縛霊を減らしてんだ」

「はぁ……」


 蓮の説明に、守はわかったようなわかっていないような、曖昧な返事をした。蓮もそれ以上理解を求める気はないようで、(うなが)すように沙斗琉に視線を投げる。沙斗琉は軽くうなずき、パンと両手を打った。


「んじゃ、早速切りますか!」

「……えっ。切る??」


 守の驚きをよそに、沙斗琉は手をゆっくりと左右に開く。すると手のひらから生えるように、黒いオーラをまとった黒い棒が現れた。

 手を大きく開き、棒が一メートル以上の長さになったとき、沙斗琉は右手でそれを(つか)む。左手から引き抜くように棒を振り回すと、オーラの余韻(よいん)は刃物に変わり、棒は大鎌へと姿を変えた。


「ま、まま、待ってください!繋がりを切るって、まさか――」


 守は西洋の死神のような大鎌に(おび)え、咄嗟(とっさ)に後ずさろうとした。しかし窓際に立つ彼の足元に、下がれるほどの空間の余裕はない。

 沙斗琉は容赦なく鎌を振り下ろし、銀色の刃が守に迫る。成す(すべ)のない守は、悲鳴を上げて頭を抱えた。


「うわあああぁぁぁぁぁ!!!!!」


 ガシャン。

 無機質な重たい音が守の足元から響く。守が恐る恐る目を開けると、自分の足を縛っていたはずの鎖がだらりと転がっていた。


「……え?」


 驚いた守が沙斗琉を見上げる。沙斗琉は大鎌を杖のようにつき、揶揄(からか)うように守を見下ろした。


「殺されると思った?もう死んでるのに」


 守は恥ずかしさに顔を赤らめてうつむく。再び目に入った短い鎖に、守は少し呆気(あっけ)なさを感じた。


(この二年ってなんだったんだろ……)


 鎖に縛られていた二年間は、守にとって永遠にも感じられる時間だった。目の前で楽しそうに笑う生徒たちを、ただぼんやりと眺める日々。それが一瞬で断ち切られたことに実感がわかず、ふわふわとした心地だった。


「冥界に行く前に、やりたいことはあるか?」


 突然蓮がそんなことを言った。自分が話しかけられたと気付いた守は、少し遅れて返事をした。


「え?」

「鎖を切っただけで成仏できるなら、最初から地縛霊になんかならない。やり残したことで、俺たちにできる範囲のことがあれば手伝うけど」


 蓮からその言葉が出ることを、守は少し意外に思った。無表情で淡々と話す蓮は、ただ機械的に仕事をこなしているように見えていたからだ。

 初対面の二人を信用していいのか、まだ若干の迷いを持ちながら、守は恐る恐る口を開いた。


「えっと……。い、一緒に、カラオケに行きたい、です……」


 徐々に語尾が小さくなるが、蓮はそれを気にすることなく、再びスマートフォンを取り出した。画面を暗めにしているのか、蓮の顔を照らす光は弱い。

 沙斗琉はスマートフォンの画面を覗き込むように、蓮に近寄った。


「今の時間って、まだ受付してる?」

「池袋まで行けばやってる。歩いて三十分くらいか」


 蓮がスマートフォンを閉じるのと同時に、沙斗琉は守に向かって手を伸ばした。


「じゃあ、ちょっと歩くけど行こっか!」


 守は戸惑いながらも、その手に軽く触れる。久しぶりの他人の感触は、記憶よりもずっと温かかった。

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