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第三話 無職と異世界




 「いよっしゃぁぁぁああああ!!!!」


 真夜中のアパートの一室で叫び声が聞こえる、画面には煌びやかな世界が映し出されている


 『強化に成功しました。 +15 炎龍の鎧』


 優秀なエリート部長が行った戦略(ストラテジー)はまさに諸刃の剣と言えただろう


 「うっし!うっし!うっし!」


 何故なら何年も努力してやりたい事もやらずに勉強して高度な技術を修得し、まさに、今、この世の誰よりも幸せそうな優秀な青年は


 「はぁぁぁ~、んーん?」


 大声を上げて喜びを嚙みしめた後に大きなため息をついて浸っていた達成感が冷めるのもつかのま


 『快君、ごめんね。 伊藤 快 様 この度は----』


 (・・・・え?)


 告知音が鳴り開いた画面に表示されたのは事実上の左遷、または解雇の告知であったからだ。






 「305番の方、1番の窓口にお越しください」


 番号を呼ばれて言われた窓口を見ると、初老の男性が片手をあげている


 近くに行くと目が合い深々とお辞儀をされる


 「こんにちは、初めまして職業紹介所の伊藤と申します。」


 丁寧に挨拶をして来た初老の男性は偶然にも同じ苗字の人物であった


 「こんにちは、初めまして、僕も伊藤と言う苗字です、よろしくお願いします。」


 「あっ、これは驚きました、是非よろしくお願いいたします。」


 「こちらこそよろしくお願いいたします。」


 チームで毎日行われる会議通話デイリースクラムに参加しなくなってから3ヵ月


 僕は生まれて初めて職業紹介所に来ていた


 新卒で入社していた会社は基本給は低く実績や資格、参加案件などの成果によって報酬が決まる


 左遷された僕は事実上の首となりほとんど収入が無くなっていた


 「早速ですが、伊藤さん。今回、求人に応募したいとの事でよろしかったでしょうか?」


 「えーと、それなんですが、この~---」


 窓口で相談する前に僕は事前に家で職業紹介所の求人を検索していた


 見つけた求人広告はどれも給料は30万~80万と幅が広く、専門学校で資格を多く取った自分なら40万ぐらいは貰えるであろうと思い選んだ求人であった


 「はい、はい、なるほど、えーと失礼かと思いますが、すみません、現在の年齢を教えて頂けませんか?」


 「?はい、20歳です来年の2月で21歳となります」


 「あー、なるほど、分かりました。えーと、こちらの求人には応募資格としていくつか記載がありますが何か資格は所持していますか?」


 「はい、専門学校で10個以上資格を取得しています」


 「10個!?その歳で?それは凄いですね。」


 職員の伊藤さんは、目を大きくあけて驚いてくれた


 自分の頑張った勉強が褒められた気がして凄く嬉しく感じてしまう


 「えぇ、ベンダー系(民間企業の資格)だけでなく国家資格もいくつか取得しております。」


 「ほわぁ~、凄まじいですね、それは、まずはこの求人との事ですね、少々お待ちください。」


 そういうと職員さんは慣れた手つきで電話を取り番号を入力して電話をかけた。


 「あっ、もしもし~お電話失礼致します、わたくし、職業紹介所の伊藤と申します、御社が記載されていた求人広告に付きましてですが、ええ、ええ、そうです、はい、よろしくお願いいたします。」


 (口頭なら、御社と弊社、書き言葉なら、貴社と弊社または、当社・・・だったかな?社会人ってやっぱり難しいな・・・)


 職員さんの電話相手が変わるのか?職員さんの言葉使いを聞きながらそんな事を思っていると担当に変わった様だ


 「あっ、失礼致します~、はいそうです求人広告に応募させて頂きたいとの事で、そうです。だだ第二新卒の方です。はい目の前にいらっしゃいます。変わらせて頂きます。伊藤さん、どうぞ」


 職員さんが、第二新卒と言う表現を使ったことに違和感を感じながらも、渡された電話を受け取る


 「お電話変わりました、伊藤と申します。」


 「初めまして、採用担当の谷口です。」


 「よろしくお願いいたします。」


 「こちらこそ、よろしくお願い致します、早速ですが---」


 電話越しに対話する採用担当の人は簡単な問答と説明をしてくれた


 「ーーとなっております、ただこちらの求人はキャリア採用、経験者向けの中途採用となりますので、ハイクラス転職としての実績をお持ちになってお越しいただければ幸いでございます。」


 「分かりました、失礼致します。」


 「はい、よろしくお願いいたします。」


 電話を切ると、何故第二新卒と言う言葉が出たのか理由が納得出来た


 第二新卒とは新卒で初めての会社に入社した後だいたい3年以内に別の会社に転職、または就職を希望する、主に若者を指す言葉だからだ


 職員さんは高度な技術が求められる求人広告を見て心配してくれたが、僕の資格を聞いて電話してくれたのだろう感謝の気持ちが湧いてくる


 「伊藤さん、ありがとうございました。」


 「いえいえ、伊藤さんこそ大変だと思いますが、頑張ってください。」


 お互いに同じ苗字を呼び合う、全く別の世代で赤の他人なのにそんな事が何故か面白くて自然と笑顔が浮かんでいく


 そうして僕は面接に向けて家に帰り実績であるポートフォリオを見直す事にした。






 順調とも思えた転職活動、しかし更に3か月経った頃


 ガスが止まった。


 職業紹介所からの求人には発行される紹介状が必要で


 僕は何度も何度も足を運んだ


 何社も応募して分かった事は、世間一般で騒がれているit人材の不足なんてものの現実だ。


 最初に応募した企業では、入念にポートフォリオを用意したが、会社規定?などという事を理由に提示された条件は第二新卒としての一般的な給料


 デイリースクラムに参加していた頃の半分以下の金額であった。


 「あー、どうしようかな?実家に帰ろうかな?」


 専門学校で同級生は誰も持っていない高度な資格まで修得し、DX人材として十分だと思っていたが、社会の評価は違った


 自分はDX人材、つまり、デジタルトランスフォーメーション人材として評価されると思っていたが


 パソコンに詳しく、正しく情報を集め、見極め、活用する、所謂、情報リテラシーがあったとしても


 経験の浅さや年齢から未熟だと判断されて、DX人材の卵だと、レッテルを貼られる


 「大人が言えば理屈、子供が言えば屁理屈・・・か」


 子供の頃、分からない事を聞いた時に大人に聞いて思った言葉が浮かんで来た


 大人になった今でも僕はそう思ってしまう


 「itの意味はインターネットじゃなくてインフォメーションテクノロジーだし」


 「Wi-Fiの5Gは5GHzの意味で帯域の話だから」


 「携帯の5G(ファイブジー)は第五世代のモバイル通信規格の事で全く別の意味だったんだけどなぁ~」


 そんな事をぶつぶつと呟きながら、僕は実家に戻ることにした。






 意を決して実家に戻ってから、気が付けば僕は23歳になっていた


 一般的に第二新卒として呼ばれる最後の年である社会人3年目もそろそろ終わろうとしている


 実家への引っ越しは驚くほどにスムーズに出来た


 僕の部屋は何一つ変わらず残してくれていたからだ


 今日も夕方に起きて僕にとっての朝食を食べに台所に行くと母親と出会う


 「快ちゃん~おはよう~」


 「・・・おはよう」


 実家に帰って2年以上、僕は自分の部屋でパソコンを弄って給料と言うには余りにも少ない金額、小銭を稼いで生活していた


 「母さん、コレ・・・」


 「あら!?、いつもありがとう~」


 月に1回、3万円を母に渡している


 「そういえば、快ちゃん、この前テレビで見たんだけどそろそろちゃんとした社会保険のある所に就職とかってしたりしないのかしら?福利厚生とか給料以外にも色々と良い所があるらしいわよ~」


 「・・・・」


 心の中で、またこの話か?と思う


 この2年間、定期的にこういう話をされる事があった


 僕は毎月お金も入れてるし


 自分の事は自分でやってるし


 一体何がいけないんだろうか?


 息子が無職、それともフリーター?


 子供部屋おじさんとでも近所で馬鹿にされたの?


 僕は違う、だから気にしない、自分が回りからそう見られるのが嫌なんだろう?


 そういう子供の親だと思われる事が【自分が】嫌で、だから【僕に】わざわざ言うんだろ?イライラして来る


 でも・・・


 「いい会社があればね、僕は実績は十分だし歳を取るだけで貫禄が出て給料も高くなるんだよもちろんたまにだけど求人広告はチェックしているよ」


 面倒臭くて・・・いや恥ずかしくて嘘を言ってしまった


 実績なんて2年前に何社も何社もポートフォリオを見せて、その度にボコボコに言われて全く足りてないのは自分でも分かっている


 求人広告なんて一年以上見ていない


 心が痛い、だけど、心配させたくない。


 「あら!?やっぱりそうなのね?快ちゃんはなんでも出来る子だし、いつも成績も良かったから心配はしてないのよ~ただテレビでやってた事がなんか気に成っちゃてね~」


 「それは、資格もポートフォリオも必要が無い別の業界の人の話でしょう?僕は毎日パソコンに触ってるから」


 「そうよね、毎月お金も稼いではいるものね」


 「そうだよ、何か自分がやってみたい仕事が出来る会社が見つかったら直ぐに就職するさ」


 「分かったわ~頑張ってね!」


 そして僕は僕にとっての朝食を食べ終えてから階段を上がって自分の部屋に戻った


 今日もパソコンに触りオンラインゲームをプレイする


 いつもの神殿、いつもの商店街、いつもの草原、いつもの迷宮


 そうやって2年以上、僕はこの素晴らしい世界で冒険してきた


 前にいたギルドは直ぐに抜けてしまって、今では自分がギルドマスターだ


 サーバーでも強い人はみんな知っているトップギルドに数えられる強力なギルドを運営している


 『ギルマス!見て下さいよコレ!■』


 『おっ!+18か~なかなかいいね~でも+20は欲しいな』


 『えぇ!?そんな君は浅いみたいな事言わないで下さいよ!十分強いじゃないですか!』


 そんな事は思ってはいない、ただ、僕の今のレベルだとまともに経験値が入る地域で狩りをするなら必要なだけだ


 『そういえばギルマスはサブアカウントは作らないんですか?そうしたらみんなでパーティとか組んで行けるじゃないですか~』


 『サブ垢を作って育成するほど余裕は無いから作らないよ、それにボスに行くならこのキャラクターでも一緒に行けるさ』


 『折角強いのに報酬分けて貰ったら申し訳ないですよ!それにいっぱい持ってるんでしょ?ちょっとぐらい、いいじゃないですか~?』


 また、イラっとした


 申し訳ない?だから何?それは君がでしょう?


 というかなんだその、ちょっとぐらい、って?


 僕がどれだけこのゲームをプレイしているか、知らないはずが無いのに


 どれだけ僕が努力しているか、知らないはずも無いのに


 どれだけ、どれだけ、どれだけ、レアアイテムを手に入れるのが大変だった事か、それなのにお前は


 いったい何を言っているんだ?


 僕の10分の1もプレイしてない癖に


 1000時間以上プレイしている?上級者、はぁ?


 僕は子供の頃からプレイしているんだぞ


 僕のプレイ時間は【何千日】だと思っているんだコイツは


 『まぁ、気が向いたら作るさ』


 『またまた~そう言って、あっ!そういえば聞きました?新しいGM(ゲームマスター)を募集しているって話ーー』


 今思えば、この話を聞いて興味を持ってしまった事が間違いだったのかもしれない


 なんでこんな事になってしまったのか?


 僕は好きなゲームを運営している会社に就職しようと思いついてしまっただけなのに。


 それが気が付いたら1人ぽつんと森の中だ


 ゲームの世界じゃなく、現実での話だ


 しかもそこは、本当かどうか?は分からないが面接での説明によると地球ですら無いらしい


 カータス王国アモル領の聖銀の森


 僕は今、そこで1人突っ立っている。







第四話は 2026/2/16 0:00を予定しております。

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