表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

第二話 ゲームと無職





 暗く明りの付いてない部屋でパソコンの画面だけが光っている。


 その光に照らされているのは成人年齢になり2年以上も経過している完全な大人


 しかし、その青年の見た目は歳若く一見で感情が露顕しているその様からは、精神の未熟さが感じられる


 社会が認めた大人・・・。


 『今日も会議では話せ無いかい?』


 (・・・)


 ゴミが散らばる静かな部屋の中でカタカタとキーボードを打つ音だけが響く


 『はい、すみません。今は少し環境的にVCが難しい状況ですが、会議の内容にはしっかりと参加しています。何か意見があれば、後ほどでもお伝えできればと思っています。』


 『え?ちょww快くん、何そのAIみたいな回答?まさか僕のメッセージAIに流してないよね?』


 『たぶんないです』


 『多分って!?何ッ!?』


 世の中にはそういう人もいるらしい


 でも僕はこの会社・・・いや特にこの人プロダクトオーナーにはとても感謝している


 子供の頃からプレイして今もたまにやっているゲームの中でとてもお世話になった人だからだ


 レベルの低い始めたばかりの頃に知り合って、レベル上げも狩りもスキルもステータスも全て助言してくれて、この人のおかげで僕は強くなれた


 今の仕事もこの人の紹介で就職出来たと思っている。


 『あっ!そうだ!快くん、アップデート来たの知ってる?新しい地域、新MAPだよ!』


 『セドニア奮闘記オンラインの話ですか?』


 『そうそう!僕も忙しくてちょっっっとしか出来てないけど。経験値凄く美味しいから行ってみると良いかも!それじゃあ、またコアタイムに~またね!』


 『分かりました、後ほど、よろしくお願いいたします。』


 上司とのメッセージが終わると、自然と軽い溜息が出た


 自分はまだ必要として貰えている


 なのになんて情けないんだろう


 (でも・・・)


 悲しいとは少し違う不思議な感情を感じながら上司との話を思い出す。


 「はぁ~・・・やるかぁ~。」


 仕事用のパソコンに向き合いリズミカルなダブルクリックの音が部屋に響く


 プログラムが起動される


 ーーーー僕はゲームを起動した。




 神秘的な神殿に中世の少女騎士が空から舞い降りる


 しかし、そのキャラクターの傍には時代背景に似合わないかわいらしいペットがいる


 セドニア奮闘記オンライン、僕が中学生の頃に初めてプレイしてから続いているMMORPG、ロールプレイングゲームだ。


 『あれ?珍しいですね、KAIちゃんがこの時間にログインしてくるって?』


 『来ちゃった☆』


 『来ちゃったってwいつも仕事終わりに来るのに今日は休みとかですか?』


 ゲームにログインすると早速ギルドの仲間が声をかけてくれる


 僕の職業は騎士王、近接範囲連撃型の最強クラスのキャラクターだ


 ステータス画面を開くとSTRに極振りした後に数々のレアアイテム装備で底上げされた数値が表示される


 特に武器には+17 名工 氷巨匠の槍の文字が紅く表示されている、僕のお気に入りでありこのキャラクターの軸・・・全てとも言えるレアアイテムだ


 『そういえば、KAIちゃん!見て下さいよコレ!→ ■ ←ヤバくないですか?』


 『えっ!?何それ!凄い!!』


 ギルドの仲間がチャット欄に張り付けた装備にマウスを当てる


 そこには+14 炎龍の刀の文字が表示されていた


 『まだ、アプデからログインしたばかりで新MAP行ってないけどそこでドロップするアイテム?』


 『ですです!強化し始めたばかりですけど攻撃力の伸びエグくないですか?』


 セドニア奮闘記オンラインでは、武器を強化して強く出来るSystem(システム)がある


 0から始まり+10からは装備品が消滅する可能性もありリスクがあるが


 その強力な強化方法は挑戦するだけの価値がある


 『+14って事は15%ぐらい?それこそ10本ぐらいは叩いたって事かい?』


 『いやいや、20本は折れましたよ!』


 『マジかよ!』


 炎龍の刀の能力を見てみると流石は新武器文句なしの強力な基礎ステータスが付いている


 入手方法は分からないが、今までの相場で考えると強化していなくても1本800万ゴールドは硬いだろう


 NFTゲーム化されたセドニア奮闘記オンラインではゲーム内通貨は仮想通貨と固定レートが存在する


 政府の認めている暗号資産と同等の物だか認められて無い為、主に海外の取引所で海外の通貨と取引されていた


 つまり日本円に出来なくもない、今の相場は100万ゴールドで千円前後


 ギルドメンバーは8000円の価値がある炎龍の刀をぽこぽこと叩き、強力な明らかなレアアイテムの武器を20本も破壊し続け手に入れたと言う事となる


 強化費用の事も考えるとコイツ・・・正気か?と思ってしまう


 『いやぁ~KAIちゃんみたいに意味の分からない狂った挑戦は出来ないけど、これならカータス王国の迷宮ダンジョンも行けちゃうんじゃないかと思ってますよ!』


 『わんちゃん、リベルタース共和国の草原もイケそうだね~』


 正直、めちゃめちゃ羨ましい


 確かに僕は初心者の頃に運良く氷巨匠の槍を手に入れた


 初級の地域を抜け出して初めて行った中級クラスのダンジョンボスが偶然落とした低確率ドロップのレアアイテムを


 とりあえず押せると言う理由だけで強化ボタンを連打して良く分かりもせずに+17が出来てしまった


 +18に成らなかったのは+17で僕のアイテムバックのゴールドが尽きたからだ


 当時は倉庫や銀行なんてものは知らなかったので全ての資産を所持していた


 コツコツと貯めて来た全財産が気が付いたら消滅していた時には、酷く悲しんだりもした


 (新MAP・・・早速行ってみるか・・・)


 暗く無造作に散らかるゴミだらけの部屋で


 ただ一人画面に向かい青年は冒険の世界へ旅立つ


 知らない人、他人から見ればそれは良い大人がやるには酷く滑稽で馬鹿げているかもしれない


 それでも青年の顔には先ほどまでとは違い笑顔が溢れていた。





 渋沢 喜一という男がいる。


 彼の事を軽く紹介すると、年齢は38歳、職業はシステムエンジニア、仕事では数年前から製品部の部長をしている


 その年齢からはかなり優秀で出世スピードが早いエリートである事が見て取れる。


 「----となっております。」


 「なるほど、分かりました、それでは本日のデイリースクラムは以上となります、お疲れ様でした。」


 「あっ!たっくんちょっと伊藤君の事で報告があるから、つーわしよう!」


 「?分かりました、では解散とさせていただきます。」


 毎日行われるデイリースクラムの締めで事実上チームのリーダー的存在の人がもう一人の責任者に話しがあると言う


 チームメンバーのデベロッパー(開発者)達は一人、また一人と締めの挨拶をしながら消えて行く


 ついにこの時が来たか・・・と、1カ月会議通話に参加しない優秀な新入社員の事を思いながら自分の仕事に取り掛かるのであった。




 コンコンとリズムカルに2回、扉を叩く音が鳴る


 「失礼します。」


 「どうぞ~」


 入室するのは開発部の製品課の課長でプロダクトオーナーを任されている人物


 「喜一先輩、お疲れ様です」


 「あぁ、拓か?直接来たのか?」


 対面するのは開発部の部長 渋沢 喜一その人だ


 「喜一先輩、今日は、あの----」


 「あぁ、待て待て、説教じゃないから。楽にしていいぞ、普通に部長で良いから可愛い後輩感を出すんじゃない、まぁとりあえず座りなさい。」


 「はい、恐れ入ります。」


 普段、デイリースクラムでチーム運営の責任者であるスクラムマスターとして、対等より少し上の立場にある、開発している製品価値の責任者であるプロダクトオーナーに


 ギリギリの敬語で絡む二人の関係とは裏腹に明確な上下関係が見て取れる状況であった


 お互いに向き合い無言の時が少し過ぎた頃、大学時代からの先輩である部長が話を切り出す


 「まぁ、その、なんだ?伊藤君の事なんだが~分かるよな?」


 「はい」


 部長として仕事をしている渋沢 喜一は元々は第一線を張る優秀なプログラマーからその地位に上り詰めた


 また、高度な技術を有するエンジニアであると同時に部長と言う立場からチーム運営にインピディメント(障害)が起きた際に他部署との調整をする時にもとても強い権限を持っていた


 「彼は、君の紹介と推薦で入社した人材だったよな?」


 「はい」


 部長は今回、会社としてはとても重要な案件の為、異例の措置としてデイリースクラムの会議通話に会社での通称を変え声だけで参加しスクラムマスターとして係長業務も兼任していた


 プロジェクトマネージャーと言う案件の責任者が認可されていない珍しいプロジェクトである理由がそこにある


 そもそも報告を受ける側の部長クラスが直接関わっている事で、実際に決裁権と突破力は恐ろしい程に高くスピーディーで、社内でも最強クラスのチームとして運営されていたのだ


 いかにこの案件が会社にとって重要であるか?を物語っている措置であった


 「何が言いたいか分かるならそれで良い、君の事はよく知っているしある程度の事ならば私も力になろう、だが一ヵ月はダメだ、限界はココだ」


 「分かりました。」


 「もう一度言うが、分かっているならそれで良い、彼は学歴も経歴もとても優秀なのは私も十分知っている、しかし、彼の参加する次の案件はだいぶ先にする方針とする。」


 自分の戦友とも言える仲間であり、ずっと可愛がってきたつもりの後輩が、出世街道から落ちた事を聞かされた男は


 悲しそうな顔をしつつ小さく了解しましたと返事をして退室して行くのであった


 座っていた席からは見えないパソコンの画面には、+14 炎龍の刀が表示されている事も知らずに。







第三話は 2026/2/9 0:00を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ