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第一話 現実とゲーム



 「ーーもう別れましょ。」


 「え?」


 夏の暑さも薄れて、肌寒さを感じ始めた11月の夜


 月明かりに照らされた最愛の彼女に言われた言葉


 それは、寒気よりもずっと冷く心が凍るような気がした。


 「私-は----ってた-思-、でも、貴-は-----が---しょ?」


 ーーあぁ・・・ショックと言えばその通りだけど、何となくそんな気はしていた。


 「…さようなら。」


 「・・・うん?」


 そう言って彼女はひとり夜の街に消えて行った。




 人も車も少なくなった繁華街で男が1人立っている


 男の名前は伊藤 快、道の真ん中でなにをするわけでも無く只々ぽつんと立っているその姿は


 余りにも微動だにしない為まるで鮮明な彫刻の様でもあった


 時刻は深夜1時、デジタルサイネージとネオンが薄っすらと照らすその男を、通りすがりの人は無言で距離を取って横切る----誰も声をかけない、誰も近づかない。


 (え?、今振られたの?)


 まるでそこだけ時間が止まったような、そんな空間で彫刻は動き出す。


 (・・・そうだ!携帯!)


 男がポケットから端末を取り出す、折り畳み式のその携帯は液晶画面では無く有機EL画面で出来ていて開くと一つの大きな画面になる様に設計されている


 携帯を開くと男はすぐにVoIPアプリを起動して電話を掛ける


 (・・・繋がらないか)


 掛けても、掛けても繋がらない電話に諦めてポケットに携帯を仕舞おうとするとメッセージの通知音が鳴った


 『貴方、追いかけて来る度胸も無いのね』


 表示されたメッセージを見ると悲しいはずなのに何故かクスりと笑いが起きて来る


 それは連絡が取れた安堵から来るのか?それともいつもの冗談を言い合っている時の気持ちに成ったからか?


 「えーと・・『今から行こうか?』っと!よし!帰ろう!」


 きっと彼女は『もう遅いからまた今度』とか『眠いから明日ね』なんて返して来るだろう


 そんな風に判断して今日のデートの事を思い出しながら、男はひとり夜の街に消えて行く----そんな甘い考えを抱えて家に帰り幸せそうに今日も寝るのであった。




 専門学校を卒業して社会人になったばかりの今の生活は学生時代に悩んで悩んで理想を絵描きやっと手に入れた生活


 ようやく慣れて来た理想の社会人生活


 日常になったその生活が今日も始まる


 しかし、今日は朝起きるといつもと違った


 (なんで・・・既読が付いてるのに返信が無いんだろ?)


 既読が付いているという事は送ったメッセージを読んだと言う事


 それなのに返信が来ない。


 今まで一度もそんな事は無かった初めての現象に朝から頭を悩ませながらも歯を磨く


 (なんで?、怒ってるのかな?)


 友達や家族、職場の人などではそういう事もあるか?と思ったりもする


 だが学生の頃に付き合い始めてから初めて見る彼女の行動に違和感を感じつつも昨日の話を思い出してギフトを送る


 (かわいい?は良く分からないんだよなぁ~・・・)


 なんとなく覚えている昨日の会話で彼女が嬉しそうに笑いながら話していた人気キャラクターの話


 そのキャラクターをモチーフにしたスタンプを選び購入して送ろうとする、しかし画面に表示されるメッセージは送信完了では無かった


 『既に所持しているユーザーの為、ギフトは送れません。』


 (あ~流石に持ってるか?あんなに楽しそうに話してたもんな、結構好きだろうし)


 ところが同じキャラクターの別のスタンプを選んで送ろうとすると、それも所持していると出て送れない


 今日は在宅勤務、所謂リモートワークの日だ、外に出る必要は無いしフレックスタイム制で柔軟に働く事が出来る


 つまり会社が決めた昼過ぎからある2時間のコアタイムに仕事をしていれば残りの前後はフレシキブルタイムとして自分で決められる


 昼過ぎから仕事をしても早朝から仕事をしても良いのだ


 (もしかして、全部持ってるって事もあるかな?)


 自分の時間で遊ぶのなら午前より夜の方がネットの友達もいるし、その方がタイムパフォーマンス略してタイパが良いと考えて


 いつも起きてから歯を磨いて珈琲をゆっくり飲みながら、目が覚めたら仕事をする


 そんな生活の中で今日は珈琲をいれている時も携帯を片手に別のスタンプを探して送ろうとする


(これも持ってるのか~やっぱ好きなんだな~)

(あれ?コレもあるんか~?やっぱ別のキャラクターがいいかな?)

(これなんてどうかな?あっ!コレも知ってるんだ・・・)

(おっ?コレとか好きそう~いや!絶対好きだろ!)


 7時に起きて歯を磨いて、珈琲を入れて、仕事用のパソコンを開いたのに


 気が付けば時刻は昼になっていた


 (う~ん....流石にこれは----あっ!)


 告知音が鳴って時間に気が付く、コアタイムになったので今日の報告会であるデイリースクラムをする為に会議通話が掛かって来た


 我に返って通話に出る


 「おはようございます~チーフの~いや、正直に言います昨日パチンコで8万スッたみんなの兄貴たっくんで~す!」


 「・・・きーちくん、それは言わない約束でしょう?あと、そのたっくんって言うのはマジで辞めてくれそっちの方が傷に響く。」


 「あれはヤバかったっすね!?マジ男見せて貰いました!よっ!男の中の男~!」


 通話に出ると製品の責任者であるプロダクトオーナーをチーム運営のリーダーであるスクラムマスターが早速弄っていた。


「おはようございます~」

「おはようございます~」

「おはよ~」

「たっくんさん、きーちくんさん、おはようございます。」

「おはようございます~」

「本日もよろしくお願い致します。」

「うーい」

「よろしくお願いします~」


 続々とチームのメンバーが通話に参加してきて挨拶をする、・・・うん?って?おい!だれだ!1人おかしい奴がいるぞ!な~んてことは無く新人の自分でも話しやすく働きやすいフラットな良いチームだと思う


 いつもの様に会話のノリを読んで挨拶をする


 「たっ,きーちくんさん、おはようございます~」


 「うーい、うーいういうーい!」


 「快くん!おはよう!くんさんは確かに変だけどプログラミングみたいに一回書けば呼び出して使えるみたいな再利用性があって一回しか言わないでも定義したから良いとかそういうの無いからね!ちゃんと敬称は1人づつ別々につけてね!一応上司だから!僕ら!」


 「えっ?コレ良くないですか?DRY原則(同じことを繰り返すなという意味)でも、それだと一人2回...はぁ~朝から概念押し付け上司命令ですか?わかりました、たっくんさんきーちくんさん。かっこパワハラかっことじおはようございます~」


 「うん、ソレやめても一人2回ついてるね、君のね?考えね?それね?正しいよごめんね。でもパワハラは間違ってるからねお願いね?本当にこういう毎日の通話見る人はいないと思うけど会社の記録には残るからね?首飛ぶからね?僕がね?お願いね。」


 「ね,ね,ね,ね,ねって嫌だね~もっと落ち着いて乾いてドライな原則でいこうね~首になったら8万どうするんだろうね~」


 「嫁に土下座するに決まってんだろ!」


 「マジ、男っすね!!」


 掴みおっけ~よろしくソコソコな感じのノリで仕事とは思えない程に楽しみを感じる会議が始まる


 うちの会社でのデイリースクラムではフレームワークとして枠組みが決められており、基本的に全員が3つの事を話す必要がある


 昨日の事、今日の事、困ってる事の3つだ、その為チームの空気が悪いと文句や責任の押し付け合いの様な事が毎日起きる、そんな地獄の様なチームもあるらしい。


 「じゃ~そろそろ一人ずつ聞いていこうかな?え~改めましておはようございます、「「「「「「「おはようございます。」」」」」」」本日のデイリースクラムを開始させて頂きます、順番に昨日の進捗をお願いします。」


 ある程度チームメンバーの力が抜けたタイミングでアップデート(状況共有)が始まり一人一人が答えて行く、順番に話が進み僕の出番が回って来る


 「ーーです。」


 「分かりました、次は伊藤さんお願いします。」


 「はい、え~昨日進めたタスク(作業)と致しましてはーー」


 2年制の専門学校を卒業して、新卒で入社しまだ20歳の僕は、いつも最後に話を聞かれる


 経験が浅い為、もしも会話で詰まってしまった場合に後の人がプレッシャーを感じない様にする為なのかもしれないが


 入社した当時はチームで話す事に抵抗があって上手く内容を伝えられなかったけれども


 半年以上経った今では慣れて来て、会話に詰まる事も無くなっていた


 新卒が任されるタスクは毎回似たような内容で大きな違いもほとんど無く、報告する時の前後の言葉はほとんど同じである事も要因だとは思っている


 「ーーの所まで確認致しました。」


 「ありがとうございます、続きましてはーー」


 全員の昨日の報告が終わり、今日の報告がまた一人ずつ始まる、そしてまた最後に僕の番が来る


 「ーーを予定しております。」


 「分かりました、所で伊藤さんが夜型なんて珍しいですね初めてですかね?入社した時のポートフォリオとして自作ゲームを見せて頂きましたが、夜中などにまだ続けてらっしゃるんですか?最近、クライアント(顧客)からそういうご要望もありまして・・・その様な案件も可能ですか?」


 「えと、はい!ポートフォリオは全部自分で作成致しましたのでその程度の物であれば。」


 「それは心強いですね、ありがとうございます。続きまして現在、ブロックされている事についてみなさんにお伺いさせて頂きます。」


 そしてそれが終わればタスクの障害となっている困った事があるか?を問われる


 珍しい?そういえば初めてコアタイムから就労開始した気もする、夜中にゲーム作成に夢中になって夜更かししていたと思われていたのか?現在、ブロックされている事を聞かれる前にーーーーック・・・?ーロック、ブロック!?まさか・・・


 「ーーの状況でありまして特に問題は無いと判断しております。」


 「ありがとうございます、最後に伊藤さん、ブロックされている事はありますか?」


 そんなはずは・・・無いと思う。


 「伊藤さん~聞こえますか~?」


 いや、もう出会ってから5年お互いの両親も知っているしご飯も行ってるんだから・・・


 「伊藤さん?もしもし?」


 あんな・・・あんないきなりあっさりと分かれるなんて?まさか?ね?


 「伊藤 快 君!!!」


 「は、はい!!!」


 「ブロックされている事はありますか?」


 「・・・多分・・いや、もしかしたらですが・・・」


 「はい?今日は珍しい事が多いですね?伊藤さんほどの優しゅーー」


 「彼女にブロックされていると思います。」


 「「「「「「「・・・」」」」」」」


20年生きて来て、生まれて初めて頭の中が真っ白になった。







快くんを一緒に見守って下さり、ありがとうございます。

第二話は 2026/2/2 0:00を予定しております。

ーーなぁ~んて、見てくれる人.....いるわけが....

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