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名探偵? 雅俊君

作者: 泊波佳壱
掲載日:2025/11/24

 テレビで、ホーキング博士がインタビューに答えて宇宙の深淵について機械音声で語っている映像が流れていた。

 ここは喫茶店の奥まったテーブル席、私と彼女の七海(ななみ)は、とある相談を受けるため、ご近所の奥さんとテーブルを挟んで向かい合って座っている。

 会話に入る前に、少し私のことを書こう。私は、名を中根雅俊(なかねまさとし)という。ペンネームは当然異なるが、それなりに名の通った推理小説家だった。

 だった…と過去形にしたのは、ある事情で今はほとんど体をうまく動かせなくなってしまっている。目や耳は正常で、普通に見る事も聞く事もできるが、声帯の関係上、言葉をうまく発する事が出来ない。

 幸い、七海は私の考えをうまく読み取ってくれることが多く、とても助かっている。


 向かいに座った奥さんが、神妙な面持ちで話し始めた。

「最近、家の中の物がなくなるんです。

 家族で相談して、家中よくよく調べてみると、使っていないパソコンとか、私の大事にしてたアクセサリーとか、旦那の珍しいフィギュアとか、娘のゲーム機とか。

 それなりに価値のあるものばかりで、知らない間に泥棒が入ったのかと、家族みんなで怖がってしまって。

 でも、家の中が荒らされた様子は無いし、玄関や窓のカギはいつも掛けていて、特に壊されたようなことも無くて」

「なるほど、それは心配ですね」と七海が相づちをうつ。

「うちの亭主が、二日前に代休で休んで、昼間からゴロゴロしてた時が有って、その時コンビニに行った時に鍵をかけ忘れたのだろうと問い詰めたんですけどね、絶対にそんなことは無いと言い張るんですよ。」

 ちなみに、この奥さんの家庭は、旦那と娘が一人、あと、奥さんの母親と一緒に暮らしているはずだ。

「うちの娘は、今ちょうど受験期で寝る間も惜しんで頑張ってるので、あんまり余計な心配をさせたくないんですけどね。」

「お母さんとは、話しをされました?」

「母は、だいぶ足腰が弱って、ほぼ一日部屋でテレビを見たり、のんびり暮らしている感じなのですが、その母が「誰か知らない男性が家の中を歩いていた」と教えてくれたので、家族みんな、ますます怖くなっちゃって」


「そうですか…」

 不安そうに七海が私の方を見る。

 私が笑顔で頷いているのを見て、

「どうやらうちの雅俊さんは、わかったみたいです。」と即答する。

「えっ、ほんとうに?」奥さんが他の席にも聞こえる大きな声をあげた。


 ほんの一瞬、場を静寂が包む。


 私が両手を少し前にだして手のひらを下にしたことで、七海がその様子から

「どうやら 『驚かないで 信じて聴いて欲しい』と、そんなことを言っているようです。」

と通訳してくれた。その内容に私は満足して、七海に向って少し笑顔を向けた。


「……」奥さんは言葉を発せずに、じっとこちらを凝視している。


 以下は、私がゼスチャーや少しずつ発する声をもとに、七海が意味をつないで説明してくれた言葉の部分だけを書こう。

「犯人と言っていいのかどうか、その無くなった物を持ち出したのは、娘さんです。」

「そんなことが有るはずは・・・」と言いかけて奥さんは黙ってしまった。

「頭ごなしに怒ったりしないで、娘さんに聞いてみてください。」

「娘は本当に聞き分けのいい子で、今は勉強頑張ってくれてるし、お金とかも不自由させてないはずなのに、そんな事って・・・」

「娘さんのお部屋のどこかに、真新しい楽器が有ると思います。それをどうしたのか聞いてみてください。」


 このやり取りの数日後、その奥さんから報告を受けた。

 娘さんは実は親の反対を押し切って音楽の道に進みたくて、前から欲しかったバイオリンを内緒で買ってはみたものの、音でばれるのが心配で部屋で弾くこともできず、一人で悩んでいたとのこと。その後家族でじっくり話し合うことにしたとか。


 その一件が有ってから、名探偵さんに解決してほしいと、いろんな相談が舞い込むようになってきた。私としては、複雑な心境である。

 過去の推理作家としての経験からすれば、自らが名探偵と呼ばれるのは嬉しいのだが、この件に関しては、実はほとんど何も推理していないのだ。


 その後、いろんな相談を受ける中で、密室のトリックや、鉄道・時刻表のトリック、詐欺事件を未然に防ぐなど、ご近所からは、なんだか頼られる状態になってきたのは事実。


 ある時、こんな依頼が有った。

 息子が家出して帰ってこない、探さないでくれといった手紙が来たが、なんだか違和感があり見てほしい、というもの。その手紙の内容は、




母さん、しばらく家を空けてごめん、友達の家で楽しく過ごしてます。

近々戻るけど、元気にやってるので心配しないで。

父さん、家にいたときはあまり会話が無かったけど、

何だか今にして思えば、教わったサバイバルの極意とかが役に立ってる。

野乃花は、元気にしてますか?お兄ちゃんがいなくても寂しくないよね。

犬の大五郎は、もうずいぶん年になってるけど、散歩はよろしく。

帰ったら、お向かいのジュン君と真奈美ちゃんにも会いたい。

いずれ戻ったときには、いろいろと詳しく状況、報告します。


クリスマスに食べた本物の七面鳥

チーズが何種類も乗ってるピザ

きりたんぽ鍋

ニンニクたっぷりチャーハン

みんなと食べた、いろんなものが懐かしく思いだされるよ

ラーメン

コーラ

伊勢海老のでっかいやつ

トラフグ

落花生

なんでもかんでも懐かしいよ、帰ったら一緒に食べよう




 七海はこの文を見て、

「特に普通のメッセージみたいだけど」と言いかけて、おもわず笑い出した私の声に驚いて赤面する。

「これは確かに暗号文ですね、第三者は気が付かないでしょうが、ご家族なら違和感を感じる部分が有るでしょ、

言ってみてもらえますか?」

「はい、サバイバルの話しとかしたことなくて、あと、後半の食べ物の話しとかは、ちょっと実感が湧かなくて」

「そうでしょうね、では文の各行の先頭をひらがなにして並べてみてください。」

「ああ、ごく簡単な暗号ってやつですよね、私たちもそんなことも有るんじゃないかと思いそれは書き出してみたんですが、違うと思うんですよ、ここから並び替えとか?」


   かちとなのいかい くちきにみらこいととらな


「疑ってそこまではトライされたんですね、素晴らしいです。でも確かにこのままでは意味が通じないですよね、此処にもう一つ重要な『変換』が必要なんです。実は文章の中に、その変換のヒントが有るんです。他にはもっと違和感のある部分は無いですか?」

「そうですね、妹や犬の名前も違わなくて、あ、ただ、この、ジュン君と真奈美ちゃん、

向かいの家どころかご近所にこんな名前の子がいた記憶は無いんですよね。」

「そうです、向かい合わせに並べてみますね。」


   まなみ

   JUN


「どうです?これなら気が付きますか?」

「えーっ、まだ全然」

「雅俊さん、私にもまだ全然わからないよ」と七海も口をはさむ。

「ヒントは、キーボードです」

「あっ、カナ・キーボードの 「Jま」「Uな」「Nみ」なのね」

「そうそう、それでは先ほどの行頭のひらがなをキーボードで変換して下さい」


   かちとなのいかい くちきにみらこいととらな

   TASUKETE HAGINOBESSOU


 その後急いで、相談者の家族は警察に連絡、何とか誘拐拉致事件は無事に解決した。

 感謝されるのは嬉しいのだが、この件はずいぶんと騒ぎにも話題にもなってしまった。

 後日、警察署に招かれて感謝状を贈られるという事態になった。


 それは良く晴れた暑い日だった。七海はベビーカーを押して、赤ん坊と自分の汗を交互に拭きながら警察署に入っていく。


 報道陣のカメラが取り囲む中、署長さんが感謝状を手渡す。


「七海ではなく感謝状はどうしても雅俊に渡してほしい」という私たちの希望を、署長さんは受け入れてくれて、しっかりベビーカーの中に感謝状を差し入れている。


 私のすぐ目の前までドアップで顔を寄せた署長さんが、タバコ臭い息で

「まさとしくーん、えらいでちゅねー。はい、これお礼のミルクでちゅー」と話しかけてきて、私はおもわずイラッとしてしまう。



 人はみな、ほぼ毎日、寝れば夢を見ている というのを聞いたことはあるだろうか、

たいてい目覚めた瞬間にはきれいさっぱり忘れてしまっているものだが、時折、目覚めてすぐに意識し確認する事で「こんな夢を見た」と想起する事になる。


 私からすると、生まれ落ちて目を開けると、前世の記憶が、ありありと思いだされてしまったのだ、それが珍しいことなのかはよくわからない。

 そのあたりの様々な苦労や、楽しい話しは、いずれまた機会が有れば。


 前世の記憶に関しては、経験や知識はもとより、小説家として書いてきたストーリーやその中のトリックなど、どれもしっかりと記憶している。

 そういうことだから、様々な相談に対して、名探偵よろしく謎解きができたのは、ごく自然な事なのだ。ただ、一番最初のご近所の奥さんの相談に関してだけは、実は私は謎解きをしていない。そのことについて、ちょっとした種明かしをしておこう。


 その奥さんのお家は、我が家の窓辺のベビーベッドの位置から、とてもよく見渡せる場所に建っているのだ。

 意識は名探偵でも、身体は赤ん坊の私は、日がな一日、ただただ暇を持て余しながら窓の外を眺めている。

 当然、お隣の様子はいやがおうにも見えてしまう。

 そそくさといろんなものを持ち出す娘さんの姿、そして楽器店の包みに入った真新しいバイオリンケ─スを抱えて、うれしそうな、それでいてばつが悪そうな表情を浮かべた娘さんの姿を、実は私はこの目で見ているのだ。


 繰り返し言っておくが、それ以外の相談は、全てその場で考えて答えを出しているので、名探偵と自称しても、そこは認めてほしいところだ。


(C),2025 泊波佳壱(Kaichi Tonami).



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