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キンレンカ-幼女転生の殺し屋の成り上がり-  作者: 東山ルイ
第一幕 キラー・クイーン

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005 ルール・オブ・ロー

(ハッ……。こりゃあ、神の存在を信じたくもなるわな)


 さながら、神のいたずらのように雰囲気が一変した。サーシャはなんらかの異能力を手にした、と考えるのが妥当だ。


 他方、神父は目を見開きうろたえていた。おそらくこの光景を、見たこともなかったのだろう。そのまま彼は声を震わせながら、なにかを呟き始めた。それは祈りか、恐怖の現れか。


 とはいえ、サーシャからすれば異能力さえ手に入ればそれで良い。これで8歳くらいの幼女の身体でも、仕事のひとつやふたつくらいこなせるのだから。


「神父様、ありがとうございました」 サーシャは女優顔負けの無垢な笑みを浮かべる。「神様が、わたしに力を貸してくれました!」


 神父はだんだん状況を把握し始めたのか、サーシャに顔を近づけ忠告するように言った。


「子羊よ、その力は私の理解の範疇を越えています。この力━━〝ルール・オブ・ロー〟をどのように使うかは自由ですが、決して呑み込まれないように。良いですね?」

「はい!」楽しそうに返事してみる。


 神父は真剣に心配しているようだが、サーシャにそんなことを言っても、馬の耳に念仏を唱えるようなものだ。


 *


 教会を出たサーシャは、早速新しく得た能力を試してみることにした。ひと気のない路地裏で、手のひらを下に向ける。


(ルール・オブ・ローか。物理法則操作系って感じだな)


 近くの水たまりを凝視し、サーシャは指を忙しなく動かしてみる。

 そうすれば、水たまりが意思を持ったかのように波になって動いた。試しに近くの壁に当ててみると、まるでライフル弾が着弾したかのように穴が空く。「こりゃあ良いね」とサーシャは、心底楽しそうに笑みを浮かべた。


「さて、まずクライアントを見つけないと」


 なにも殺しにこだわる必要はない。必要ならば殺し屋の道に戻っても良いが、8歳の子どもに暗殺を依頼するヤツもいないだろう。となれば……、


 サーシャは一旦家に戻らず、アンゲルス連邦共和国の東街の一角を歩いていた。イーストAsという飾り気のない都市には、サーシャの家があるため、帰ろうと思えばすぐ帰れる。


 けれども、このイーストAs市は治安がよろしくないようだった。基本的に住宅街だが、薬物取引や発砲音、クスリに呑まれて地べたに這いつくばる連中……なかなかのスラム街である。


 当然、サーシャは子どもなので売人に絡まれることもない。時折薬物依存者が、「嬢ちゃん! おれとゲット・ダウン・メイク・ラブしねぇか!?」と、警察に聞かれたら一発で捕まるような寝言を叫んでくるくらいか。


(ふーむ。まずハンドガンとナイフがないと落ち着かないな)


 サーシャは生粋の殺し屋気質の所為で、ハンドガンとナイフがないとなぜか落ち着かない。どこかに落ちていないか、少女はなんとなく下を向きながら歩いていく。


 そのとき、


 近くで銃撃戦が始まった。ギャング同士の抗争のようだ。拳銃やらサブマシンガンで撃ち合っている。まともな市民が一斉に逃げ出す中、サーシャはなに食わぬ顔で銃弾の方向へ向かっていく。


「ここは〝クール・ファミリー〟のシマだぞ!?」

「テメェらみてぇなボスとアンダーボスのツーマンチームに、このシマを守れるわけねぇだろうが!!」


 怒号と発砲音が鳴り響く中、サーシャは手をサッと軽く曲げた。

 すると、


「……ッ!?」

「身体が、動かねぇ……!?」


 十数人いたギャングたちが、一斉に糸で縛られたかのように動けなくなった。サーシャはそのまま指を曲げる。

 そうすれば、ギャングたちは地べたへ這いつくばる羽目になった。あたかも重力波をかけられたかのように。それと同時に、サーシャは彼らから発音の機会すら奪う。


「んじゃ、コイツは没収していくぞ」


 そう言い放ち、サーシャは小さめのハンドガンを奪い、また歩いていくのだった。


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