033 酔っ払いの愛は重たい
「おはようございます」
「えぇ。ところで、サーシャちゃん。肌質が良いわね。なにか良いことでもあったの?」
「三大欲求のひとつを満たしたんですよ。キャメルさんが用意してくれたハーブティで」
「へ?」
「え?」
キャメルは間抜けな声を漏らす。まるで意図していなかったかのごとく。
「ちょ、ちょっと。リオくん。私は確かにティーバッグを渡したのよね? 良く眠れる成分が入ってるから、慣れない場所でも寝られるように」
「……はい。それがどうかしましたか?」
「サーシャちゃん、貴方なんの欲求を満たしたの?」
「宗教国家には似合わない欲望ですね」
笑みを交えながら、サーシャは答えた。キャメルは途端に血相を変え、呆然としながらその場にへたり込みそうになる。
「……どうしたんですか?」
「アークに飲ませるはずだったのに……。あれ、高かった上になかなか手に入らないのに」
「……どういう意味━━「リオにはこのカルマは重たすぎる。もう少し業を背負ってから出直してきたまえ」
「……なに言っているんだ? サーシャ」
サーシャとキャメルはなにが起きたのか良く分かっているものの、リオの頭の上には疑問符が現れるだけだった。
「しかし、効果てきめんだと思いますよ。きっとキャメルさんの好きな男のヒトが飲んだら、ケダモノみたいに━━」
「サーシャちゃん、貴方8歳よね? なんでそういうことを知っているのかしら?」
「インターネットの魔法ですよ」
サーシャがそう煙に巻くと、意気消沈しながらキャメルは椅子に座る。項垂れ、今にも崩れ落ちそうだった。
「まぁまぁ。キャメルさんは美人だから、あんな劇薬使わなくても男のヒトは振り向いてくれますよ」
「……、」
「(……おい、キャメルさん黙ってシリアルにビールかけ始めたぞ?)」
「(アンゲルスは18歳から飲酒OKだろ? ならなにか問題あるか?)」
キャメルはシリアル入りビールを流し込み、顔を真っ赤にさせながら、
「さて! 行くわよ! リオくん! サーシャちゃん!!」
突然宣言し始めた。一体どこへ連れて行くというのか。
「……分かりました。行くぞ、サーシャ」
「どこへ?」
「〝魔術師ライセンス〟を取りに行くのよ! いくらスナイパーに狙われたとはいえ、魔術で狙撃手の頭吹き飛ばしたのはサーシャちゃんでしょ!?」
「えぇ、まぁ」
「ライセンスがあれば過剰防衛で済むけど、なかったら女子刑務所送り! 捕まりたくないなら、私のつてでライセンスを取るしかない! 分かった!?」
サーシャはニヤッと口角を上げる。「キャメルさん、お酒弱いんですね」
「えぇ! おかげでお酒の力を使ってアークを口説けないのよ!」
「まぁ良いや。捕まるのも嫌だし、行くなら行きましょうか」
サーシャとリオは立ち上がり、千鳥足になったキャメルを支えながら玄関へと向かっていく。
「タクシー使うわよ! 飲酒運転もできないしぃ!!」
「(……大丈夫か、このヒト)」
「(歪んだ愛は、この世で一番重たい物体だからな)」
サーシャは今にも吹き出しそうだし、リオは心底心配げ……いや、憐れむような目つきでキャメルを見ている。当のキャメルは、靴紐も結べていなければ寝巻きから着替えてすらいない。まぁ、寝巻きで外へ出ても死ぬわけじゃないから大丈夫だろう。
「うぃー……」
「ほら、キャメルさん。お水飲みますか?」
「水商売の男なんて買わないわよ!!」
「(……水商売ってなに?)」
もう放置してリオの指示に従ったほうが早い気もする。が、酔っ払った人間というものは面白い。
その後もワチャワチャしながら、キャメルが寝巻きを捨ててゴミ箱に突っ込み始めたところで、さしものサーシャも彼女に水を飲ませるのだった。




